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静かな時間が延々続いている。
元は何だったのか想像もできないほど朽ちた建物の中で、二つの影が息を潜めていた。
誰にも見つからぬように、待ち人をひたすらに待って。
一人はタイトなワンピースに身を包んだショートボブの女。
一人はカーキ色の制服のようなものに華奢な体を包んだ少女。
ショートボブの方の女、MMは普段こんなふうに黙り込むことなどなかったが、相手がこの少女となれば別だ。
生理的に受け付けない、というのがしっくりくる。
もしクライアントである六道骸と何の関係もない小娘なら即座にくびり殺してやるのにと、何度も何度も思った。
そんな心中に気づいているのかいないのか、ソファに座らずベッドにも腰を下ろさず汚い床に三角座りをしてぼんやりとしている姿にますます苛立ちが募る。
何なんだろう?この苛立ちは。
ああもう早く帰ってきてよ骸ちゃん…
心の中でそう願った。
そうでなければ、今すぐにでもこの少女を蹴り飛ばしてしまいそうだった。
なんでこんなどんくさいメス豚が
骸ちゃんの…
「あの、」
そんなピリピリとした見えない膜を破ったのは、他でもない眼帯をつけた少女の方だった。
虫の鳴くようなか細い声、何も悪いことなどしていない(はず)なのに申し訳なさそうに泳がせる視線。
「なによ」
事実上、この部屋には二人しかいないために無視などできなかったので仕方なく生返事を返す。
もし面倒なことや勘に触ることを言ったなら、その時こそは_
私は静かにソファから身体を起こし、少女の腰を下ろす傍まで歩み寄った。
「うまく、言えないんだけど…」
「だからなに?」
「あの、私達、仲間…だから、もう少しは、MMとも話したりとか…したい」
言葉がでなかった。
自分が毛嫌いされていることさえ理解していないのだろうか?
あの時あの森で思い切り頬を叩いてやったことを忘れたとでも??
少女のすぐ横に置かれた蝋燭の炎が夜風になぶられふわりと踊った。
その灯りで少女の伏せ目がちな表情が浮かび上がる。
ムカつくほど整った、いかにも男受けしそうなあどけない顔立ち。
「いいわよ、仲良くしましょう」
「…ほんと?」
ぱっと顔を上げた少女に、出来る限りのやさしい微笑みというものを作ってやった。
分かってるわよ骸ちゃん、殺したりしないわ。
ちょーっとだけ、仲 良 く する だけよ。
「んっ、や、め」
「やめてあげなーい。だってムカつくんだもん」
「…!!」
「あ、カワイイんだもん、の間違いだったかしら?ふふふ」
灰色のベッドの上で馬乗りになり、手足をがむしゃらに振り回されるたびに埃が舞う。
始めはその追いかけっこのようなやりとりにさえ気分が高揚していたのだが、それに飽きてきたのか再び苛立ちが首をもたげ始めた。
「あんたってウルサイ。いつもは陰気なくせに…これでも咥えといてよ」
「…っ!」
細く折れそうな身体に乗っかったまま、ワンピースのポケットに入れていたハンカチを咥内にねじ込む。
吐き出そうとするものだから頬を軽く引っぱたいた。
乾いた音と同時に、やけにきれいな涙がぽろりと零れた。
いつからだろう、もう私が流さなくなった涙を。
「どんなの履いてんの?見せてよ、女同士なんだし」
「うっ、ウ…〜〜」
腰を下ろしていた場所を若干後退し、短いプリーツスカートを遠慮なしにめくり挙げる。
想像通り、処女が身につけていたのは粗末…いや、ここはあえてシンプルと言っておこう、白い無地の下着だった。
もしこれで黒や紫の下着を着けていようものなら誰の趣味だと罵ってやろうと思ったのに残念でもある。
小さくため息をついた。
「うふふ、レイプ魔になった気分。これビデオに撮ったら高くつきそうね」
「っ、っ…」
もし自分が男ならじらしたりするのかもしれないが、わたしは完全にレズビアンではない。
その証拠に、今夜ここに来るまでも割のよかったクライアントとベッドをともにして来た。
暗闇で妙に浮き立っている白い下着を太ももまで下ろすと、薄すぎて割れ目を隠しきれていない幼い恥部が露となった。
ぷ、と小さく笑うと、少女は口に咥えたままのハンカチのせいで反論もできず静かに涙を流している。
_つまんない。
そもそもレズビアンってどうやってセックスするんだっけ?
あーディルドとかいるんだっけ…でもそんなのないし、気持ちよさそうにも思えないし。
まーいっか、適当におもちゃにしちゃえば。
私はベッドシーツの上に膝立ちになると、自分の履いていたレースのショーツを太ももまで下ろした。
その行為に少女が目を丸くする。
これから何が起こるのか想像したのか、想像もできていないのだろうか?
つい口端が吊り上るのを押さえられず、小さく小さく嘲るように笑った。
所詮あんたは誰かの道具にしかなれないのよ
膝立ちのままゆっくりゆっくりと少女の顔に近づき、スカートをめくり挙げた。
私も少女のと同じように、毛は上部にしか生やしていない…奉仕しやすくするために。
それを見た少女の顔に、ここにきてようやく性的な高まりを覚えた。
じゅん。と入り口が締まるのを感じる。
ばかね、入れるものなんて相手には付いてないわよ、と冷静なほうの自分が叱咤した。
そのままゆっくりと両太ももで少女の頬を挟む。
このまま腰を下ろせば、否応なしに奉仕させる格好となる。
「ねえ、舐めて」
「…っ、え、MM、どうし」
べっと吐き出されたハンカチ。
高級なものなのに涎でぐしょぐしょになってしまっているけれど、もうそんなものはどうでもいい。
目の前のこの女を汚したい汚したい汚したい!
同じ殺し屋としてのポジションに収まっているくせにあんただけ綺麗なままだなんて許さない!!
「舐めてよ、おともだち、でしょう?」
「…ん、っ…」
返事を待たずに腰を下ろした。
窒息させないように、恥部が唇に触れるくらいにそうっと。
数秒待っても少女は戸惑ったような視線を送るだけで何かをしようとする動きはなかったので、仕方なくこちらから動くしかなかった。
両手を壁に当て、体重を壁に預けたままで、腰をゆっくりとグラウンドさせる。
やわらかな唇にクリトリスが当たり、思わずびくりと震えてしまった。
さんざん奉仕されることに慣れた場所なのにそれだけで反応してしまうことより、すでにクリトリスが熱を帯びていたことに自身で驚き、そして興奮する。
「ねえ、お願い…凪」
「…!!」
かつて骸ちゃんから聞いた本名をつぶやき、やさしく黒髪を撫でる。
するとそれが頑なに拒絶している彼女を解放する呪文だったかのように、口を開き、突き出した舌で熱を持った恥部に這わせ始めた。
にちゃにちゃと音を立てながら、丁寧に、丁寧に、溝をなぞっていく。
その度に熱い息が漏れ、恥部が収縮するたびにとろりとした愛液が太ももと少女の頬を塗らした。
褒めてやるようにもう一度髪を撫でてやると、股下の少女はうれしそうにはにかんだ…気がした。
「ここも、もっと…っ、ね?」
「…ここ、?」
いいところをピンポイントに奉仕してほしくなり、自分でクリトリスの皮を軽く引っ張り、つんと上向きになったそれを唇にあてがう。
そしてそのまま小刻みに腰を揺らし、自ら刺激を作った。
少女の愛撫は丁寧だが、あまりにも稚拙なものだった。
_自身に経験がないから?
それに気づくやいなや、私は後ろに手を伸ばし、彼女の割れ目に這わせる。
くちゃ、と粘着音がして指の腹にねっとりとした愛液が絡んだ。
なんだ、あんたも興奮してるんじゃない。
ふふふ、と意地悪く笑ってやれば、恥ずかしそうに目を閉じた。
割れ目の上にあった小粒な芯を捕らえ、濡れた指先でこすり合わせるようにすると、クリトリスはぴょこんと顔を出した。
そのまま追い詰めるようにしごき立ててやれば、少女は奉仕していた舌を垂らしたまま、あられもない声を上げた。
「ふぁっ、あっ、あっ…!!だめ…え…MM…っ」
「どうして?悪いことじゃないわ」
「だめ、だめ、ぁ、あ…」
普段からは想像もできないような卑猥な声。
それをもっともっと聞きたくて、くるりと身体を反転させると、自身の舌でその芯を包み込んだ。
極限まで興奮しているのだろうか、こんな女のものを_と思いながらもほとんど躊躇はしなかった。
甘酸っぱい芳香が咥内に広がる。
舌腹で包み込んだそれはこりこりに勃起していて、華奢な身体のくせにそれなりの大きさをしているのが感覚で分かった。
_骸ちゃんを想像して一人で慰めたりもしたのだろうか?
そう思うと、自分が入り込めない二人の関係を思うと、悔しくてやりきれなくなる。
「…っふ、ん!アッ…!!」
少女がいっそう甲高い声を上げ、背を仰け反らせた。
早いところ惨めな姿を晒してやろうと、クリトリスに舌を添わせたまま、根元にしゃぶりついたのだ。
快感から逃れようとするように閉じようとする太ももとは裏腹に、絶頂を求めるようにゆっくりと揺すられている腰。
おそらく性経験もないだろうに生意気に腰を振る様をふんと鼻で笑い一蹴する。
少女はそれにすら気づかず、あ、あ、と途切れ途切れの歓喜の声を上げて小さな秘穴から愛液をとろりと溢れさせている。
想い人ではなく、仲間の…それも同性の、人殺しの、私の目前で。
「…凪、すぐに楽にしてあげるわ」
「はぁっ、はぁっ、らく…に…?」
言葉を言い切ればこれ以上ないほど張り詰めたクリトリスにちゅ、と口付けをくれてやった。
ちょっと刺激が強すぎるだろうかと思ったが、涎をたっぷりと含ませた舌でころころ転がしながら、唇でしゃぶってやる。
ちゅばちゅばと、想像以上のいやらしい音が響き、相手を追い詰めるはずが、自らの欲求さえ昂ぶってしまう。
「あッ、ぁあ、あー…〜〜!!」
「ん…ん…っ」
清く正しい少女とはかけはなれた言葉ですらない声を上げながら、動物のようにひたすらに喘いでいる。
この姿を誰かにみせてやりたかった。
骸ちゃん、犬、千種、ああ、あんたの言うボスって奴でもいいし、それこそ道行く誰かにでもいい。
咥内でぴくぴくと頼りなげに震えるそれを一際強く吸い、今まで触れていなかった恥穴に中指をにゅるりと滑り込ませて上壁をぐりぐりと擦ると、少女は、ア、と小さく呻き、そして。
身体の力を失ったようにかくりとベッドに身を預けた。
「あんたなんかね、」
もう返事を返さなくなった少女の黒髪を引っ張り挙げる。
意識を手放してなお、愛らしい顔だった。
「だーいきらい、よ」
吐き捨てざまに半開きになった小さな唇にキスをくれてやる。
特に情もなにもない。
単なるアフターサービスってことで。
私自身、無垢な少女を汚してやった、自分と同じにしてやったという征服感で満足していた。
それを認めたとたん強烈な眠気を感じ、周囲に散らばった下着を手繰り寄せて身につけると部屋を出た。
こんな少女と一夜を共にするなんて、ごめんだ。
_華奢な身体。
悪人か善人かさえ区別がつかない愚かな少女。
自らの持つ清さを妬まれるなんて夢にも思わなくて。
非力で無能で誰かに依存し助けを乞うしかない。
その誰かをなくしたとき、力になるのは「金」だと気づく。
無知で無力な黒髪の少女は、
骸と知り合う前の自分自身のようにみえた。
*終*