真っ暗にした部屋の中で、ハルが呆れながら俺の顔をちらちら見ている。
なんだよ、テレビに集中しろよって言いたいけど、そう言う俺も実は全然集中してない。
っつーか、だって、怖いんだもん。
「ディーノさん、怖いんだったら見るのやめません?」
「……だって、折角借りてきたのに、」
ビデオのリモコンを取り上げるハルの腕を、横から掴む。
キッと睨み付けた俺の視線にハルはもう何も文句を言わなかった。
テレビでは緊張のシーンが続いている。
あ〜、だけど俺、怖いの苦手!
どきどきして心臓が持ちそうにないから、ぎゅっと目を閉じて頭から布団を被った。
日本のホラー映画が前から気になってたんだ、って近所のレンタルビデオを借りてきて、
怖いの苦手だから一緒に見ようぜ!ってハルの部屋に押しかける作戦。
安直だって思ってるだろ。俺だって思ってる。
だけどハルはフツーに付き合いますよって言ったんだ。
よっしゃ!と思ったのもつかの間。誤算だったのは俺が本当に怖いのダメってところ。
なんてかっこ悪い。マフィアのファミリーをまとめるボスなのに。
始まって少しも経たないうちにハルのベッドに潜り込んで頭から布団を被った俺を、
ハルはただただ呆れた目で見てくれるのでした。おわり。
部屋の電気を消して暗くしてあるから、
あわよくばハルに手ぇ出してやろう…と思っていた俺の作戦は水の泡か…。
いやいや、まだ機会はあるはず。諦めねえ!
それより、怖い怖いとは聞いてたけど、邦画のホラー映画って本当に怖いんだ。
俺は布団の中でしょーもない事に感心してみたりする。
「ディーノさん」
やっぱり見てないでしょう、ってハルが目で訴える。
「…見てるよ」
もう、拗ねた声しか出てこない。こんちくしょう!俺だって本当はこんな事したくねえんだよ。
「…ハル、こーゆうの平気なんだ?」
「…べつに好きでもないですけど…」
俺はベッドから手を伸ばして、一段低いところに座っているハルの腕を掴む。
「はひっ?!」
「お前もこっちこいよ」
ぐっと引き寄せると、ハルはゆっくりと立ち上がった。
こうゆうの、思惑と全然違うんだけど二人でベッドの中からテレビ見て、なんか変な感じだ。
いっつも必要以上にくっつくと怒るくせに、今はハルも何も言わない。
「やっぱり、びびってたんじゃん」
「ディーノさんほどじゃないです」
さっきひっぱった腕はそのまま俺が今、両腕でホールドしてる。
どんだけぎゅってしても、ハルは文句を言わない。
あ〜、俺が考えてた「色々」とは違うんだけど、これもちょっとシアワセ。
「…あの、ちゃんと見てますか?」
「見てるよ」
ちらりと、俺の顔を見たハルと目があった。
ばれた。ちゃんと見てたのはテレビじゃない。ハルの顔だ。
ふう、って呆れた溜息が聞こえる。
ああ、そんな風にしなくてもいいじゃないか。
だって俺は、借りてきたビデオよりもお前が好きなんだから。
お前の方が、気になるんだから。
「…ディーノさん、」
「なんだよ」
「……。」
なんでもない。だけどもう少しこのままにしてても良いよな?
俺はもう少し強い力でハルの腕をぎゅっとした。
ハルは何も言わなかった。なんか、これ男女の立場逆じゃないか…?
テレビではホラー映画も佳境に入っている。
ああ、どきどきするなあ。横を向けば鼻先にあるハルの髪から香るシャンプーの匂いとか。
きつく抱きしめてても柔らかく弾力のある二の腕とか。
「…ハル、もうちょっとこっちきて」
「えっ?あのっ、引っ張らないでください、分かりましたから!」
「そのままもうちょっともうちょっと」
「ひゃあっ」
ずるずるとハルの体を俺の両足の間に滑り込ませる。
すっぽりと両腕の中に収まってしまうハルは抱き枕のようだった。
「ハルちいさいなー」
「くすぐったいですよ〜!映画に集中できないです…!」
ビデオなんか、もうどうでもいいんだけどなあ。
なんで女の子ってこんな温かいんだろ。
しばらくはぼんやりとそんな事を考えていたが、ハルが映画の場面に驚く度、
形の良い尻が、じりじりと寄ってきて俺の下半身にぴったり密着してくる。
神経が完全にそこに集中する。やばい…勃つなよ、我慢しろ、俺。
甲高い叫び声と共にハルの体がびくっと震えた。
テレビの中で引きつった顔の女優と、唸り声を発する幽霊らしきモノ。
無意識のうちにハルは俺のトレーナーを握り締めていた。
ここは、付け入るチャンス、だよな?うん。
「ハルちゃん、こんなつまらんビデオ、消しましょう」
ぽつん、と吐き出してテレビを消した。
ビデオデッキの電源は入ったままで、静かな部屋の中で電子音だけ耳につく。
「はひ!?何するんですかー!途中なのにっ!」
「ごめん。でもさ、恋人同士がベットの上にいるんだ。する事はひとつだろ?」
「ディーノさんが見たいって言ったんじゃないですかー!もう!って、…え?」
ハルは目をきつくつり上げて怒鳴るが、途中で俺の言った事の意味に気づいたらしく、
真っ白な肌をリンゴのように赤くして黙ってしまった。
「可愛いな、ハルは」
「…〜誤魔化さないでくださいっ!下には親がいるんですよ!?」
「ハルの親父さんには、ハルと付き合ってますって挨拶してるから大丈夫!」
「そんな問題じゃ、ないです!」
「それに、さっき夕方からご両親共出かけるって、ハル言ってただろ?」
「………そうですけど、」
「家には二人っきり。な?完璧!」
「…………うぅ」
ハルは自分の部屋を使う事に抵抗があるようだ。
だからと言って今からホテルに行くのも面倒だし。止める気なんて、さらさら無い。
難しい顔をして悩んでいる彼女も可愛いけど、いつまでも待っている訳にもいかない。
「ハル、キスしていい?」
「!…………はひ、」
熱っぽい視線で俺を見て、恥ずかしそうに頷く。
イタリアの女と付き合っていた頃は、こんな野暮な事いちいち聞いたりしなかった。
けど許可を得てからしないと、ハルはすぐ怒るから。それも可愛いけど。
ハルは、キスをするのも、セックスをするのも、俺が初めてだった。
軽く唇を重ねると、きつく閉じられていたのが徐々にゆるゆるとほだされていく感じ。
ついばむように、何回も唇を落とす。それから、深く。
口内を味わうように舌を掻き混ぜると、俺より小さな舌が吸い付くように絡まる。
最近上手くなったなあ、って考える。
最初、ハルはそれに応える事もできずにただ呆然と俺のする事を受けとめていたのに。
ぬるっとした感触に反応して、ハルは口内に溢れてきた唾液を飲み込んだ。
こくっと音がして、それが喉を通る感覚が妙にリアルに感じられる。
(…エロくさい。)
その、喉が上下する様とかが。
ぎゅうっと肩を掴んで放さないハルの手が緩んだのは、それから暫くしてからの事だった。
唇を離して、ハア、と大きく息をする。
唇の端から垂れた透明の唾液を手の甲で拭ったのを見て、俺も親指で拭ってやった。
酸素が上手く吸えなかったのか、頭の芯がぼーっとしたようにハルは惚ける。
少しとろん、とした目を向けられて、ますます気持ちが昂ぶった。
ゆっくりと、ハルの腰と肩を支えて、ベットに押し倒す。
「ひゃあっ」
何回体を重ねても、初々しい反応をするハルを相手していたら、いざキス以上に進もうとすると、
情けないけど、俺はすごく緊張する。
こんな姿、部下になんて絶対見せられないだろうな。
汗ばんだ拳でそっとシーツを掴む。
ひんやりした感触が指先から伝わってきて、だけどすぐにそこも熱くなる。
どきどき、どきどき、してくる。
耳元にそっと吐かれた熱い息が、すごく生々しい。
はあ、って呼吸がかかる度に、下半身にぎゅっと血が溜まる。
なんかもう一生懸命すぎて、組み敷いてるハルの顔を見るのも忘れてて、
ふと目を開けるといつも見てる真っ白な肌が目に入った。
頬に手をあてるとそこに汗が滲んで、じんわりと浮かんだ俺の手の汗とそれが混じった。
(ヤベー…)
俺の下でぎゅっと目を閉じて震えてるのが可愛くて、そんでもう頭が大混乱する。
(好きだ……)
胸の中、その言葉ばっかりに支配されて、下半身はまるでそれと別みたいに、
目の前のこいつの中に入りたくて、入りたくて、仕方なくなる。
「……ディーノさん…すき、だいすきです」
頬をピンクに染め呟くハルが愛しくてたまらなくなって、優しく撫でる。
そうすると、ハルはくすぐったそうに目を細めて、猫のように身を捩って笑う。
あー…今なら俺シアワセ過ぎて死ねる…。
鼻を掠めるハルの香りと俺を包む温かい体温。そして、触れる柔らかい唇。
ハルのニットとブラを一気にたくし上げ、
我慢出来ないように指先で探り当てた乳房の先端の周辺を、
触れるか触れないかというぎりぎりの箇所で、指で縁を描くようにくるくるとなぞり、
時折り先端を掠める爪の刺激をハルは面白いように反応した。
戯れに俺がそれを指先で摘んでみると、全身に電流が走ったようにハルは背中を仰け反らせる。
ハルの唇からは、弱々しい呟きが洩れた。
「ディーノさん……意地悪。」
「…そうか?」
意地悪してる余裕なんか、全然ないんだけどな。
手なんかめちゃくちゃ震えてるし。
自分と目を合わせないようにしているハルの先端を何の前触れもなく 、
俺がぺろり、と舌で舐めると、予期せぬ刺激にハルは思わず声を洩らす。
そのままねっとりと舐め上げたり、硬く尖らせた舌の先でつついたりして楽しんでいるうちに、
ハルの先端はすっかり勃ち上がってしまっていた。
「…やだぁ…ディーノ、さん…っ!」
見上げてくるハルの眼には生理的な涙が浮かんでいて、俺の劣情をいっそう煽った。
唇にちゅ、と音を立てて接吻けると、スカートに手を滑り込ませた。
内腿を撫でさすり、下着の上からすでに少し湿った部分を擦る。
「はぁ、ん…!」
ハルが耐え切れず切ない声を上げると、そのたびに俺の分身は先端から零を滴らせた。
下着をずらし指を第一関節まで入れると、俺は浅い抜き差しを繰り返す。
哀願するようなハルの声は、行為の中断を望んでいるのか
それともより強い刺激を求めているものか、俺自身にもわからない。
敏感な粘膜を温い指で丁寧に刺激されてハルはベットが軋むほど、快感に身をよじって悶えた。
スムーズに出し入れできるようになるとゆっくりと二本目の指を押し込み、
根元まで埋めたところで折り曲げて腹側の腸壁を強く押し上げる。
ハルの一番感じる所を外側から内側にかけてゆっくりと、八の字を描くように優しく押すと、
ハルの口からは悲鳴に似た喘ぎ声が洩れた。
もう片方の手で乳房を揉みしだくうちに、次第にハルの身体から力が抜けていく。
「…ディーノさん、もう―――」
「俺も、限界…」
お互いまだ服を着たままだったけれど、脱ぎかけっていうのも、ソソる。
ベルトを外しズボンを膝辺りまで下ろしてから、ハルの下着だけ剥ぎ取る。
外気に晒されて妖しく光るハルのそこは充分すぎるほどに濡れて、
なんの抵抗も感じさせず根元まで俺を受け容れた。
ハルの中にいる間、俺はずっとハルを抱き締め続けていた。
もう離さないと言わんばかりに。
「ふぁ…っ、ん、ああっ…」
ゆっくりと腰を動かすと粘着質な音が部屋に響いた。
浅く速い呼吸を繰する身体を抱き締めていると、
まるでお互いの心臓が一つになったような錯覚が胸に生まれる。
お互いの顔を見ることもできないほどの息苦しい位の締め付けは、
この上なく俺を幸福にしてくれた。
ぎりぎりまで抜いて激しく腰を打ち付ける動作を繰り返す。
もはや自らの意志では止められなくなってしまった腰の動きに、
自分の限界が近づいていることを悟る俺へ、
その腰の動きに合わせて揺れていたハルが 途切れ途切れに囁いた。
「……ディ、ノさぁ…ん…ハル、いっちゃい、ます…!」
「…くっ…」
その言葉を耳にしたとたん、俺はハルの中に 熱い迸りを放ってしまっていた。
ハルの中で分身が萎えていくのを感じながら、ハルの胸の上に倒れ込む。
呼吸が整うまで暫くそのままの状態でいたら、下になっているハルが苦しそうに言う。
「ディーノさん、重いです〜!」
「あっ、悪い、ごめんな」
「…もう、ビデオ見たいって言うから、付き合ったのに…」
「最初はちゃんと見るつもりだったんだよ。でもハルが可愛いからさー」
「はひっ!?い、言い訳になってません!」
「ははっ、照れない照れない」
「うぅー…〜じゃあ今度はハルとケーキ食べるの付き合ってくださいね!」
「おう、いいよ」
「絶対ですよ!」
「うん」
ああもう、そんな可愛いお願いなら、なんでも付き合ってやるよ。
ケーキの事を楽しそうに話すハルを抱きしめて、俺はこの幸せに浸った。