今日もツナの家に遊びに来てこたつで寝ていたディーノに、急に部屋に入ってきたビアンキは、  
ディーノを起こそうとしたのか、乱暴にその背中に蹴りを入れた。  
そんなに派手な音はしなかったから、力は籠もってなかったのだとは思う。  
けれどまるで不機嫌であるようなその態度を見て、ツナとリボーンは一瞬しんと静まりかえった。  
「……なに」  
寝ている時に無理矢理(しかも蹴りで)起こされたので、  
ディーノは不機嫌な顔で寝ていたこたつから置き上がる。  
けれど振り返って見たビアンキの顔の方がもっと不機嫌だった。  
ディーノはそんなビアンキの顔をまじまじと見て、もう一度「なに、」と声に出した。  
「なに、じゃないわよ」  
ディーノを見下ろすビアンキの顔は厳しい。ディーノは少し口を尖らせて、「痛ぇ」とつぶやいた。  
それを見ていたツナとリボーンが、  
「ビアンキのやつ、なんであんなに機嫌悪いの」とこそこそ話をしている。  
その二人も、小さな声を聞きつけたビアンキに睨まれて口を閉じた。  
「二人とも、ちょっと外に出てくれる?」  
「はあ!?なんで、めんどくさい」  
「オレは別にかまわない。行くぞ、ツナ」  
「ちょ、何いってんだリボーン!ここ俺の家…ああもう、分かったから銃こっちに向けるなって!」  
「ありがとう、リボーン」  
「気にするな」  
ぶつぶつと文句をいいながら部屋を出るツナと、  
何故かにやにやと笑いながらリボーンは出て行った。  
二人きりになった部屋に、重い空気が流れる。  
ドアの前に立っていたビアンキはこたつに近づく。  
「……こっち来るなよ…」  
少し焦ったような口調で、ディーノは言う。  
ディーノの言葉に、むっとしたような声で返事が返ってくる。  
「アンタ、私を避けてるでしょう」  
「そりゃあ、昔何度か殺されかけたんだ。避けるさ」  
「違う、ここ数日からよ。アンタの部下に聞いたわ。ボスはなんだか落ち込んでるって」  
 
「あいつら…くそ、人の不幸喜びやがって」  
「アンタに何の不幸があったか知らないけど、私を避ける必要ないんじゃない?」  
「お前、……この前、リボーンと何してた?」  
初めて覚えた言葉みたいに、それは言いにくそうに口に出された。  
言ってしまった後、すぐにディーノは顔をむこうに向けてしまった。  
ビアンキは、ディーノがどうしてそんな顔をしてそんな事を言い出すのか分からなくて、  
あまり回転の速くない頭で考える。  
最近の出来事を振り返って、特に記憶に残る事を思いだした。  
「そういえば、リボーンとキスしたわ」  
それはたまにやっている事で、リボーンもキスくらいならしてくれる。  
ディーノにどこかでそれを見られていたのだ。  
「嫉妬してるの?」  
「……」  
「アンタもして欲しい?」  
「……いらねえよ」  
「本当は私のこと、気になってしょうがないくせに」  
ね?って、にこりと笑ってみせると、  
ディーノはビアンキの事をさも嫌なモノをみる目つきでじろりと睨んだ。  
「……なんかオレばっか好きで、むかつく」  
「ふふ」  
ビアンキは、ディーノが自分を避ける理由が分かり、機嫌が良くなったようだ。  
そっと手を伸ばしてとなりのディーノの手に触れた。  
びくっと一瞬力の籠もった手は、咄嗟に逃げようとして動いたけれど、  
ビアンキはそれを逃がさなかった。  
不貞腐れるようにディーノが手を払いのけると、今度は頬に手を当てられる。  
瞬間、頬を掠めた唇の感触。柔らかいものを感じた頬に指先をあてて、ディーノは目を見開く。  
「っ!」  
「これで満足?」  
ディーノが思わず言葉を出すと、ビアンキは楽しそうに笑い声を出す。  
 
「…子供扱いすんなよ」  
ビアンキがにこにこして上機嫌なのを見て、ディーノはそっぽを向く。  
まるで「お前の笑顔には騙されないぞ!」と言わんばかりに。  
あからさまに不機嫌な声を出して、ビアンキを睨む。  
「こんなんじゃ、足りない」  
「我侭ね。じゃあこたつから出なさい」  
背中を丸めてこたつに入ったままだったディーノは、ゆっくりと足をこたつから出す。  
その膝にビアンキは飛び乗り、ぎゅうとディーノに抱きついた。  
ディーノはビアンキの肩に腕を回して、自分のほうに引き寄せる。  
そうすると、ビアンキは何の疑問も持たずにディーノの肩に頭を乗せた。  
「ディーノ」  
と、耳元で囁かれて、ディーノは頭を振った。  
 
---ビアンキは絶対におかしい。オレがビアンキの事好きなのを知っててリボーンとキスをする。  
そうして、喜んでいる。そんな事をされても、ビアンキを嫌いにはなれない。  
  …オレってマゾなのか?それは違うと思いたい。オレはキャバッローネのボスなんだぞ。  
そんなことを考えながら太股に乗っかったビアンキを、呆れた顔をしてディーノが見た。  
視線に気づき、顔を上げディーノと目線を合わせたビアンキは、猫みたいに目を細め言う。  
「私、アンタの迷惑そうな顔とか、ため息とか、すごいすきなんだもの」  
「ほんとお前……趣味悪い。……さすが毒マムシ」  
ビアンキの頭の中は今ディーノの事でいっぱい。もちろん、ディーノも。  
何だかんだ言ってもディーノはそれが嬉しくて、嬉しくて堪らなくて、  
ビアンキに気づかれないように下を向いて少しだけ笑った。  
「……ディーノ、」  
「何?」  
「…オレばっか、なんて言わないで」  
「え…?」  
「困らせるのは好きだけど、アンタに避けられて嬉しいわけないじゃない」  
「…ビアンキ」  
「可愛いから、苛めちゃうの」  
「…うん」  
 
「でもリボーンとキスしたの、見られてたなんて気づかなかったわ」  
「もうするなよ、お願いだから」  
「それは、分からないわ」  
「おい…(なんだそれ…)」  
「もういいでしょ、お喋りは」  
ディーノは耳を甘噛みされ、吐息を吹きかけられると 、背筋にぞくりと身震いを感じた。  
明らかに、自分の顔が頬擦りしてくるビアンキの体温よりも高いのを感じる。  
首筋をちろちろといやらしく這う舌。思わず身が縮む。  
あれこれ言っている間にもビアンキの手によって体中を弄られる。  
どきどきして、ディーノの下半身が反応しているのがビアンキにばれた。  
ビアンキはディーノの太股をズボンの上から撫でる。  
綺麗に筋肉がついていて、少し堅い。  
「ぅあ…っ、やめ、やめろ、ビアンキ」  
その反応にふふ、と笑うとビアンキは黙って目を伏せる。  
そんなビアンキを見て、ディーノは観念したようにため息を吐いた後何も言わなくなった。  
ジッパーに手を這わせゆっくり下ろすと、すでに半分立ち上がりかけたディーノのモノを出す。  
ビアンキはそれに顔を近づけ、小さくキスを繰り返し、舐め上げる。  
「……はぁ」  
漏れてきた声に、ディーノは唇を噛んだ。  
息を吐くのと同じに、咥え込まれたモノの硬度が増していくのを感じる。  
「…んっ、く…」  
ビアンキの唾液と、ディーノの溢れ出すものの水音が、くちゅりと部屋に響く。  
訴えかけるような視線をビアンキに浴びせて、掠れた声で言った。  
「ああ、……もう、」  
ビアンキ、ともう一度名前を呼んで、長い髪を掴みながらディーノは白い欲望の塊を吐き出した。  
それを全てごくん、と飲んだ後、ビアンキは口元を拭い満足げな顔をしていた。  
ディーノが腕を伸ばしてビアンキの腰に絡ませる。  
ぐっと近付いた距離の分だけ、相手の体温も一段と高く感じられた。  
ディーノの首のところに腕を巻き付けたビアンキが、上目遣いでディーノを見る。  
 
「ディーノ」  
「何…?」  
「…くち、あけて」  
それは少し頭を動かすだけで、簡単に実行できた。  
生ぬるい唇を合わせて、暫くそのままにする。  
触れている唇はこんなに柔らかくて、優しい。  
少し開いた口許に舌を滑り込ませて、そこからさっきの行為のせいで苦味のある唾液を吸う。  
身体がじわりと熱くなる。  
その温度に比例するみたいに、また下半身に熱は集中していく。  
重ねた唇が離れると、ビアンキはにやりと口許を歪め、  
「苦いでしょう」  
と、小さく赤い舌を出した。  
その瞬間、生暖かい感触が、ビアンキの首筋にはしる。  
「ふ…っ、あ」  
喉の奥から小さな声が出てきた。  
ディーノの、少し温度の低い手が、長くて骨張っている指が、すぐに分かる。  
肌の露出している部分に触れる度に、そこからぞわぞわと総毛立つ。  
ビアンキの身体が、震えてくる。  
「ビアンキ、かわいい。」  
はっきりと聞こえるように口にして、耳たぶを口に含む。  
くすぐったそうにまたビアンキが笑った。  
ディーノは短いスカートの中に手を滑り込ませようとした。が、ビアンキがその手を抑える。  
「ちゃんと、服を脱がせたいわ」  
からかっているみたいな声が、響く。  
真っ直ぐ見つめ合って、ビアンキの手がディーノの着ているシャツのボタンをひとつづつ外す。  
「どこに行くわけでもないのに、どうしてこんな服着てるの」  
くすりと笑ったビアンキの呼吸が、ディーノの裸の胸の辺りに当たる。  
呼びかけると、返ってくる視線は「何か文句あるのかよ」とでも言いたげな顔だ。  
ビアンキの手はディーノのシャツを肩から抜く。  
ぱさりと小さな音を立ててシャツは床の上に落ちた。  
 
それを確認したビアンキは、自分の来ていたセーターも脱ごうとする。  
「オレも脱がせたい」  
と、言いながらディーノはビアンキの手首を掴む。  
一瞬だけ異質のものが触れる温度が手から伝わって、そのあとに捕まれた手首は凄く熱くなった。  
器用にセーターをたくし上げ、ブラのホックを外す。それからスカートとショーツにも手を掛ける。  
外気に晒された真っ白な胸や腹が露わになって、ディーノは思わずそこを凝視してしまった。  
「なんか言う事あるでしょう」  
すっと伸ばした指が、ディーノの額にこつんと当たる。  
「……いただきます」  
そうしたら、またビアンキに笑われた。  
「ばかじゃないの、違うでしょ。こんな時は、すきですとか、あいしてるとか、言うのよ」  
そんな可愛いことを言われたら、顔が、緩んでしまって困る。とディーノは思った。  
とん、とビアンキの肩を押し、横たわらせる。  
「寒くねーか?」  
「すごく、熱いわ」  
ディーノの長い腕がビアンキの身体をつつみこんで、  
その大きな身体を折り曲げるようにして、柔らかい唇と唇がゆっくりと重なってくる。  
啄ばむように二、三度触れてから、優しくつつみこむように接吻ける。  
唇に触れる温かい感触に緩く口を開くと、  
するり、と忍び込んできた舌がビアンキの前歯をゆっくりとなぞった。  
ビアンキの歯並びを確かめるように幾度も幾度も歯の表面をなぞっていたディーノの舌が、  
やがて徐に歯の隙間から奥へと割り入ってくる。  
そこでビアンキの舌を捕らえると、絡め取るようにして優しく吸い上げる。  
「ん……」  
次第に深くなる接吻けに、ビアンキの口から鼻にかかったような声が洩れると、  
抱き締めるディーノの腕に力がこめられる。  
それに応えるように、ビアンキもディーノの身体に腕を回して広い背中に掌をあてた。  
「は……」  
長い長い接吻けが終わって離れた唇と唇の間を透明な糸が繋ぐのが目を閉じていてもわかる。  
目を開くと、ディーノが今までに見たこともないような優しい表情でビアンキを見つめていた。  
 
「やっぱオレ、お前に弱いよなぁ……。リボーンとこんなキス、するなよ?」  
「こんなキスするのは、アンタとだけよ」  
この期に及んでもまだリボーンの事を気にするディーノに、  
もどかしいような気分になってそう言うと、ディーノは長い睫毛を伏せるようにして微笑んで、  
ビアンキの背に回していた右腕を持ち上げ、ゆっくりと髪を撫でる。  
それからその手を左頬に滑らせて、顔の形を確かめるみたいに優しくさする。  
親指でビアンキの唇をなぞるディーノの唇の隙間から、  
聞き逃してしまいそうなほど小さな声が聴こえた。  
「 ……全部、オレのもんだから、…誰にも渡さない」  
「…アナタも私のものよ」  
「ああ」  
そう言うとディーノは身をかがめてビアンキの左肩に額をこすりつけた。  
ディーノの柔らかな毛がビアンキの頬や首筋に触れて、心地よさそうに微笑む。  
二人の身体の間にあるディーノの熱がさっきからビアンキの太腿を押していた。  
背中から身体の上を滑ってきた大きな左手に胸を包み込まれる。  
左手の指で乳首をつまむのと同時に、  
ビアンキの足の間に忍び込ませた右手の指の背で割れ目を優しく撫で上げた。  
「すげー濡れてる……」  
幾度もキスを落としながら、奥まで届きそうなほど長い指に中をかき回されて、  
ビアンキの口から声が洩れる。  
「あっ、あ、んぅ…」  
「ビアンキ 、もういいか……?」  
「ん……我慢できないの?」  
ビアンキのその言葉にディーノは少しためらうような素振りを見せたけれど、  
急ぐようにズボンを脱ぎ捨て、自分のモノに手をやりビアンキの入口にあてがった。  
くちゅり、と卑猥な音を立てて先がビアンキの中にわずかにめり込むと、そのまま腰を進めてくる。  
内壁がこすられる感触に、鳥肌が立ちそうなほどの快感を覚えた。  
「……あっ、はぁ、んっ…」  
ディーノの額や身体にうっすらと浮いてきた汗が、  
その身体の動きに合わせてビアンキの顔や身体に降り注いだ。  
強い快感のせいなのか、ビアンキの両眼からは涙が溢れ出してきて、  
目尻を伝ってこめかみへと流れていく。  
 
ディーノが顔を近づけてきて、涙の跡を辿るように目尻に舌を這わせた。  
腰を打ちつけられる速度が早くなって、  
ビアンキの中でディーノのモノがますます硬く大きくなっていくのが感触でわかる。  
「ん、やぁ…ディーノ…!」  
「……くっ……」  
絶頂を伝えようとするその表情に、途切れ途切れに呟いた。  
「ビアンキ…!」  
ディーノは艶っぽい声でビアンキの名前を呼ぶと、  
一瞬その身体を強張らせるようにしてビアンキの中に射精した。  
残滓を搾るように二、三度腰を揺すったものの、まだビアンキの中に分身を収めたままで、  
ディーノは、ちゅ、と音を立ててビアンキの額に接吻ける。  
「…ビアンキ、本当に好きだから」  
「私もよ」  
耳もとで「好きだ」と何度も繰り返して、ビアンキの中から分身を抜き取った。  
その動きに合わせて、中に放たれたものがとろとろと床の上に溢れ出す。  
「やべ、ツナの家なのに、汚しちまった」  
それを見て思わずそんな感想を洩らしてしまう。  
「まあ、いいんじゃない?リボーンも私達が何をするか、気づいてたみたいだし」  
そう言って、ビアンキは意地悪そうに笑った。  
どうしたらいいんだろう、目眩がするほど可愛い。  
そんなことを考えながら、ビアンキの身体の精液で汚れた部分をディーノがティッシュで拭う。  
軽く後始末をして、こたつにもたれるように座り満ち足りた幸せな気分にしばらく浸っていたが、  
ディーノは心地よい疲労感に、無性に腹が減ってきた。  
「何か食いたいな〜」  
「そういえば、バレンタインのチョコ渡して無かったわね。少し遅くなったけど、どうぞ」  
と、どこからか差し出した物は、もちろん毒々しい匂いを放つチョコレートらしからぬ物だった。  
「そ、それは勘弁してくれ………」  
「愛があれば、食べれるでしょう。ほら、アーン」  
「や、やめろっ!うわあああー!!!」  
しばらくの間、沢田家から悲痛な叫びが漏れていた。  
 

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