体を少し捻ると、ザラリ、と乾いた感触が京子の頬を撫でた。横に転が
された体と密着するそれは、普段自分が眠るベッドでもソファーでもない、
石畳のそれだった。
いったいどうして自分はここにいるのだろう――寝ころんだ京子の目線
から2メートルほど離れた位置にある小さな長方形の窓は、並盛中の体育
倉庫のものだった。暗がりに目を凝らすと体育で使う用具がそこかしこに
見える。
石畳の床は、時期を問わず冷たいものではないから、それはありがたか
ったが、代わりに些細な振動でも即座に砂煙があがる。
今この時も京子の動きに反応して、ごく微量ではあるが砂煙がまいあが
った。
「けほっ……、」
小さく、むせる。
顔についた砂も目に入る砂も、手で払えれば楽なのだが、なぜか手足が
縛られているのでそうすることも出来なかった。
……そう――――京子の手足は、何者かに荒縄か何かで硬くキツく縛ら
れていた。ほどこうとして多少暴れると、それが逆に手首を痛めるほどに。
俗に言う、監禁という奴で間違いはないだろう。
(いったい、なんでこうなっちゃったんだろ……)
帰宅途中、友人二人と別れてからの記憶が抜けている。
京子は頭をひねって(無論、この状況下でひねられるわけがないので、
いわゆる“喩え”であるが)考えてみたが、なにも思い出せなかった。
校庭の外れにある体育用具倉庫はテスト前の部活禁止期間になると、放
課後近寄る人間がほとんどいなくなる。
放課後に倉庫の用具を使用するのが運動部だけであるためだ。
そして今は、そのテスト前――部活禁止期間――
京子を監禁したのが誰であるにしろ、それを狙ったのは間違いないだろう。
ということは、犯人はおそらく並盛中の生徒なのだが――
(……身代金、うちがだせる金額だと良いなぁ)
人より少しずれたところのある並盛中のマドンナ、こと京子が考えたの
はそんな事だった。