なんでこんなにいらいらするのか自分でも分からない
ただあの笑顔が 自分にも欲しかっただけ
「ひっ!」
1歩ずつ、近づいて来る影
ハルは無意識に後ずさった
「別に―――」
ヒバリは、ハルに笑いかける。
「―――逃げなくていいんだよ?」
だが、ハルの目に映るのは、ただ純粋な恐怖。
「来ないで、くださっ・・・」
涙が溜まった目で、それでも気丈にヒバリを睨みつけるハル。
しかし、その表情は、確実に怯えている。
「!」
背に壁がぶつかって、とうとう逃げ場がなくなり、ハルは戦慄した。
「・・・・・・・・っ」
構わずヒバリはハルに近づいて、あと1歩で密着、という所で止まる。
ハルはぎゅっと目をつぶった。
とん、
ハルの肩に、軽い衝撃。
恐る恐る目を開けると、すぐ隣にヒバリの頭があった。
「・・・・・・?え・・」
ハルは不思議そうに、自分の肩に額を寄せているヒバリを見た。
「・・・怖がらせて、ごめんね」
少しだけ、悲痛そうな声。
「ただ、君が、あんまり―――」
あの子の事大好きだから。
沈黙。
ハルはどうしていいかわからず、何も言えずにただ、
表情の分からないヒバリを見つめる。
こんなに近くにヒバリがいるのは初めてだ。
あまり喋る事もない。
最初は怖かったけど 今は
「ヒバリ、さん・・・?」
名前を呼ぶのは、初めてだ。
返事は、なし。すわ寝てるかと思うが、やはり違うようで。
「だいじょぶ、ですか・・・?」
「・・・うん」
その声が、さっきまでの威圧感たっぷりの
恐怖感煽るような感じが全然なくて
ハルは、何か純粋に、
愛しい、と思えて。
ヒバリの頭にそっと手をやった。
「あの・・・ハル、何か・・・悪い事、しましたか?」
初めは、凄く怖かった。
だけど、今はそんな事ない。
何か理由があるから、怖くしてたんだろうと、思ったのだ。
「・・・君は結構、鈍感だよね」
「はひ?」
ヒバリは顔をあげる。
「なんでもないよ。またね」
「え!?」
言っていきなり身を翻し、去ってしまう。
「なんだったのでしょう・・・」
またね、と言った時のヒバリの優しい微笑が
ハルの頭の中に、ずっと残っていた。