「これが獄寺さんなんですかっ!?」
獄寺が小さくなり、沢田の家に住むようになってからそれは三日目の事。
改造した十年バズーカの効力はいまだ衰えることなく、獄寺は小さいままだった。
そこに現れた少女、三浦ハル。
沢田から一通りの説明を聞く前から、見慣れぬ同居人の姿にちらちらと視線を向けてはいたのだが、それが獄寺と知るや否やキラキラと瞳を輝かせた。
覗き込むように顔を近付けてくる。
その体格差は、獄寺のゆうに四倍。
「はひー、信じられないです……」
「ははは、だーよねー。けど本当だよ。態度とかそっくりでしょ?」
「おい……アホ女、あんま近づくな……!!」
その表情に尋常でないものを感じ、獄寺は身を守るように手を広げ、体を退ける。
しかし、獄寺のそんな動作も、どうやら少女を煽っただけらしかった。
「…っ!! かーわーいーいーですー!!」
そう、叫ぶや否や。
「てめっ!!アホ女!放せ!!」
獄寺は少女の両腕に軽々と抱えあげられ、すっぽりと、その腕の中に収められた。
「はひーvvこんなに可愛い子が、あーんなアウトローの暴力男だったなんて…!! ハルはどうしてこの魅力に気付かなかったんでしょう! 最高です獄寺さん!」
「意味わかんねー事いってんじゃねー!! 放せ!」
獄寺は逃れようと必死で暴れるが土台差が差である。叶う筈がない。
「このぷにぷにしたほっぺたとか…vちっちゃい手足とか〜vv ああもう、すっごく可愛いです!! 元が獄寺さんだと思うと、尚更v」
「おい! 顔近付けんな! 気色わりぃ!!」
「はひ〜……v」(←構わずほお擦り)
少女もそれを分かっているらしく、好き放題勝手なことを言っていた。
しかし。その瞬間。
果たしてこれはグッドタイミングというべきなのか。
「!!」
獄寺の体が大きく震えたかと思うと、彼は元の姿に戻っていた。
そして、元の大きさに戻った彼をハルに支えられる筈もなく。
「はひ!!!」
「うわっ……!!」
(――――ドダダッ!!――――)
派手な悲鳴と転倒音。
「ちょっ……! 獄寺くん、ハル、大丈夫!!?」
沢田が慌てて駆け寄った時、縺れて転倒した二人の姿がそこにはあった。
どうやら転倒のさい頭を撃ったらしい獄寺は、手で頭を押さえながらハルを怒鳴りつけた。
「いってー!! おい、アホ女、てめえのせいだぞ!!」
「はひっ……そ、そうですね。ごめんなさい……」
ハルはそんな獄寺の剣幕にしどろもどろになりながら答える。
(あ?)
ここで、獄寺はほんの少し違和感を感じた。
(んだよ、やけに大人しいなアホ女のくせに――)
と。
しかしそれはハルの次の言葉で獄寺にもすぐ分かった。
「あ、あの……獄寺さんっ……、どけてもらえませんか……?」
「? 何をだよ?」
「っ……手、です……」
(手?)
獄寺は首を傾げながら自分の手を確認する。
そこにあったのは―――
「っ!!!?」
彼女の、胸。
慌てて獄寺は手を、体を、ハルから離す。
「わ……わりぃ……」
「いえ…………だいじょぶ、です」
ハルは俯いたまま(心なしか顔が赤い)ゆっくりと立ち上がると
「……ごめんなさい」
と、もう一度頭を下げた。
何と返せばいいかわからなくて沈黙した獄寺をよそに、ハルはツナに挨拶をすると帰ってしまった。
「……」
そのまま呆然としたままの獄寺にツナが声をかける。
「……獄寺くん」
「! あ、じゅ、十代目、なんすか?」
「……今の、悪いのはハルだけど……もう一回ちゃんと、謝った方がいいと思うよ」
「……!」
「その……、ハルだって女の子なんだし、さ。」