なんて過ぎた冗談だろう。  
獄寺は震えていた。震えている自分を隠したいとも思わない。  
むしろ震えていることに気付いて欲しかった。  
自分がこの上なく怒っていて呆れていることを目の前にいる恐ろしい人間に知らせたかった。  
六道骸本人はすぐそこで息をしながらもどこか別の世界に居るような、  
それを言葉にするならば(無欲、)(無表情…)(無関心?)どれもちがう。  
とにかく、六道の瞳の色がそう語っていた。どんなに笑おうとも満足していない六道の色。  
写真で見た六道骸は、心の深いところは波風ひとつ立てずしんとしているのを獄寺は感じていた。  
しかし今は満ち足りたような顔をしているのを見た。が、何も嬉しくない。  
獄寺は扉の前で固まったままどんどん冷えていく体を無理矢理動かそうとした。  
ギシリと骨の軋む音がする。  
「早くドア閉めないと風邪引いてしまいますよ、ビアンキさんが。」  
六道は笑って言った。  
六道骸の他に数名、写真で見た男も居た。  
顔の情報が獄寺の頭にうまく入ってこない。  
ビアンキの手足をしっかりと束縛し、六道に捧げるように持ち上げている。  
六道はポケットの中から一本サインペンを取り出した。  
「弟の君には見られたくなかったなァあんまり…」  
と照れたようにはにかみ、キュポ、とペンの蓋をとる。  
そうひとり呟きながらも既に六道の神経はビアンキに傾ききっていて、  
衣服を取り払われ剥き出しになった腹を撫でながら次第にとろんと目の色が溶けはじめた。  
ビアンキの阿婆擦れた格好を見て、六道の心が満たされている。  
姉貴はどうしているのだろう。  
獄寺から背けた顔からは何も読み取ることはできないが、ドアを閉めても尚冷えるのか、  
それとも別の意味があるのか、体は小さく震えていた。  
「ビアンキさん、さ、ギャラリーですよ。」  
六道がなだめるようにそうビアンキに囁いて、ただ一つビアンキの纏っている下着までつうと指を下ろした。  
ビアンキの体が明らかにはねる。  
外気に晒された乳首はくっきりと形を浮かばせて、六道の指が下着の上をなぞったかと思えばおもむろにサインペンを走らせた。  
ビアンキがようやく息を吐いたが、その熱さに獄寺は驚いて、  
驚いてというより、すでに獄寺にとってこの光景は異常で恐怖で、  
ただひたすら体が外に飛び出してくれるように命令し続けた。しかし動かなかった。  
「うまく書けましたよ。」  
と恋人同士のようにビアンキに囁きかける六道の無邪気さに、  
思わず悪いと思いながらも獄寺はビアンキの股間に目線をすべらせてしまった。  
そこにははっきりと六道の文字で、売女、と書かれていた。  
「本当はこのペンの先とかでいじってあげるとすごく喜ぶんだけど、  
 ビアンキさんが君には見られたくないみたいだからやめときます。」  
六道の楽しそうな声が、獄寺の頭でガンガン響いた。  
「ビアンキさん、泣かないで、よしよし、弟は嫌だったんですよね、ごめんね。」  
六道の左手が優しくビアンキの股間を撫でる。  
なんだ、最後まで見せてくれるって言ったじゃん骸さん、途端に周りが囃し立てる。  
六道は悪いね、続きはまた、と笑顔で言った後、獄寺の方に視線を送らせた。  
「片付けなきゃいけないことが先に出来ました。」  
 
そうして獄寺の気持ちは遠くの遠くに取り残された。  

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