梅雨もとっくに終わり、夏休みまで暑いだけの土曜日の昼下がり。
獄寺は綱吉の家から自分のアパートまでを、
炭酸飲料の入った、蓋のないペットボトルを持ってだらだらと歩いている。
すると、いきなり胸のあたりに どんっ という音と共に衝撃が走った。
「!!はひっ!すみませんです!!」
その声に聞き覚えがある気はしたが、暑さのせいで声が頭に入らない。
「何だテメ、ェ…?」
「あー!獄寺さん!!」
「げ、アホ女かよ」
ぶつかったのは、自分が慕う綱吉を同じように慕うハルだった。
「うわーん何でいるんですかー!
ハルにとって今日は最悪の1日です!」
「うっせー、俺も最悪だよ!
さっき10代目のお宅に行ったけど誰もいらっしゃらなかったんだよ!」
「えっ、もしかしてツナさんいないんですか!?
ハルも今行こうと思ってたのにー!」
「つーかお前うるせーよ黙れ!!」
「あーっ、言いましたね!?獄寺さんの方がうるさいです!」
「うあーもう、うるさいって言う方がうる、せ…」
獄寺は言葉に詰まった。
さっきまで目の前にいたはずのハルが、自分の胸にしがみついていたからである
「だーっ何だお前!暑いんだからしがみついてくんなよ!!」
「獄寺さん 大変です」
ハルは先程までよりも少し冷静な話しぶりだった。
つられて獄寺の声も落ち着きを取り戻す。
「な、何だよ」
「獄寺さんのジュースがハルの制服にかかっちゃいました」
「……?」
獄寺が制服に目を落とすと、白いブラウスの下にうっすらと水色の影が見えた。
「きゃー!はひー!見ないでください!!」
「え、あっ…見てねーよ!」
「着替えます!このままハルん家来てください!」
「は?何で俺が」
「お願いですー!このままじゃハル痴女みたいです!!」
獄寺はこいつの思考回路はどうなってるんだろうと思いつつ、
今日は特に急ぐ用事はないのでハルの家に行くことにした。
「大丈夫です、今日誰もいませんから!
獄寺さんが彼氏とか思われたりしませんから!」
「思われたくもねーよ!じゃあ俺帰るぞ」
獄寺がドアに手をかけると、ハルの声が聞こえた。
「ちょっと待ってください、ジュースでも出します」
「いらねーよ別に」
「ハルはよくないです!獄寺さんに借りを作りたくないですから!!」
上がってください、と獄寺の手を強引に引っ張るハル。
獄寺はよろけながら靴を脱ごうとしたが、
ハルのきれいに揃えられた靴を見て、自分の靴もきちんと踵をそろえた。
バスタオルを抱きしめて獄寺の手を引くハルは、
階段を上がって左にある部屋に獄寺を押し込んで強引に座らせると、
「ここで待っててください、すぐ着替えてきますからっ」
慣れた手つきで引出しを開け、今着ているものと同じブラウスを出す。
「…なー」
獄寺が扉を開けて外に出ようとするハルを呼び止めた。
「?何ですか?」
「オマエ、10代目の何なんだよ」
「ハルですか?ハルはツナさんの将来のお嫁さんです!」
「…けっ」
「はひー!何ですか獄寺さん!何ですか!?」
「オマエ全然相手にされてないだろがアホ女」
「そんなことないです!
ていうか獄寺さんの方が相手にされてないと思います!」
「!なっ!もっぺん言ってみやがれアホ!!」
「ハルの方がカワイイ女の子だし有利です!」
「うっせーよお前どうせ処女だろが!?」
言ってしまってから、しまったというような顔で口を塞ぐ獄寺。
しかしハルはそんなことには構わず続ける。
「中学生なんだから別にいいじゃないですか!
そういう獄寺さんはどうなんですか!?」
「おっ…俺は関係ねーよ!知るか!」
「獄寺さんも同じじゃないですかー!
したことないのに何でハルだけけなすんですかっ!」
「うるせー!俺はハーフだから日本人よりうめーんだよ多分!」
「意味わかんないですよ!
証拠もないじゃないですか!」
「あぁ!?じゃぁ試してみるか?」
「望むところです!!」
開け放たれた窓からは遠くで走るバイクの音がする。
2人は向かい合って、ベッドの上に正座していた。
「ご
「お
「「……」」
こめかみから顎にかけてぬるい汗が流れる。
「…クーラーないのかよ」
「…ないです」
「そうか…」
獄寺の目線は、ハルが枕元に準備したティッシュの箱に向いていた。
ほのかにただよう甘い香りは部屋の匂いか、
外から漂ってくるのか、
獄寺がこぼした炭酸飲料の匂いか、
それをかけられた少女のものなのか。
再び訪れた沈黙を破ったのはハルだった。
「で、電気は…」
「あ?」
「消した方がい、いいんでしょうか」
「…つーか、つけてねーし」
「は、はひ じゃあカーテンだけ」
「…暑いし2階だし、いーだろ」
「そ、そそそうですねね」
ハルは目をそらすが、腕は獄寺に掴まれた。
獄寺は強張るハルのボタンに手をかけるが、
緊張で震える手のせいか上手く外すことができない。
「手伝います」
「いらねーよ、外せる」
「でも、まだ1個しか」
「うるせー、普段逆だから外せねーだけだ」
「う…わかりました」
普段着替える時より大分時間はかかったが、
なんとか下までボタンを外すことができた。
恥ずかしくて広げることのできない隙間からは
白地に水色の小さな花が描かれた下着がのぞく。
獄寺の中心には、さらに熱が集まった。
大事なものに触れるように、獄寺の手がハルの発育途上の胸を包む。
それは愛撫というよりは初めて触るそれを確認するようなものだった
行為自体に快感は少ないが、自分の胸を異性に触られているということがハルの羞恥心をあおる。
「なぁ」
「…はい」
「何ていうか、その…
コンドーム、持ってるか?」
「こ、こんどー、む …ですか」
ハルはそれを見たことがないわけではなかった。
同級生には経験者こそ少なかったが、耳年間な友人は溢れるほどいた。
『ハルにもあげようか?』と言われることも数回あったが、恥ずかしくて付き返してしまっていた
「持ってない、…っです」
「…えーと、じゃぁなんつーか…
…俺、帰るぞ!」
獄寺は熱を持った自身を隠すように立ちあがりかけた
「やです」
驚いた獄寺が目を見開く。
ハルも同じような目をしていた。
「え、えっと、生は無理だと思うのですがっ、
…くく、くちとか、手とか…っ」
ハルは真っ赤な顔であたふたと慌てている。
獄寺の顔も真っ赤だった。