「……っくそ、あの女…」
苛々とした口調で思わず呟き、睨むように見つめる獄寺の視線の先には笹川京子。
授業の合間の休み時間、楽しそうにツナと談笑している。
しかしそんな彼女を見て、やはり獄寺は不機嫌そうに眉間に皺を寄せる。
(最近は見るたび10代目と楽しそうに話してやがって…、何か分かんねーけどすげームカつく…)
暗い感情を紛らわそうと懐の煙草に手を伸ばすも、いつの間に吸い終わったのか箱は空になっており
小さく舌打ちをして新しいものを買いに行こうと立ち上がる。
教室を出る寸前に、少しだけ振り返って何となく京子を盗み見るが、
話すことに没頭していたのであろう彼女と目が合うことは無かった。
「獄寺君っ!さっき急に教室からいなくなっちゃったでしょ?心配してたんだよー」
獄寺が昼休みにようやく学校に戻って来ると、購買で鉢合わせた京子が笑顔で話し掛けてきた。
(…オレが教室出んのを見たワケでもねーのに。よく言うぜ)
しかしいちいち女に喧嘩を吹っ掛けるのも面倒なので、曖昧に「そりゃどうも」とだけ答えておく。
「ツナ君と山本君、お昼食べるのに獄寺君待ってたみたいだから、早く教室戻ってあげてね?」
(…10代目が自分を待ってて下さっただなんて!)
その事実は涙が出そうな程に嬉しいのだが、京子の口から聞いたという事が何故か許せない。
何だか悔しくて無性に苛々して、胃袋辺りがぐるぐると気持ち悪くなって吐き気がしてきた。
「お前が心配してたのはオレじゃなくて!…オレを待って、まだ昼飯食ってねー10代目なんだろ!?」
気が付くと獄寺は怒鳴りつけるような大声をあげ、京子の手首を乱暴に引っ掴んでいた。
「痛っ……違うよ獄寺君、私は…」
なんだなんだと集まってきた野次馬に獄寺は舌打ちだけすると、京子の言葉が聞こえていないのか
「ちょっとこっち来い」
手首を掴む力を緩めもせずにグイと引き、野次馬を睨みつけて威嚇しながらずんずんと歩いて行く。
特に目的地は無かったのだが、人気の無い方を選んで進んで行くと化学準備室に辿り着いた。
乱暴にドアを開けて狭い部屋に京子を放り込むように腕を引く。
思わず小さく悲鳴をあげた彼女に、獄寺は再び言いようの無い苛立ちを覚えて眉間の皺を深くした。
自分を落ち着かせようと深呼吸のように息を吐き、買ってきたばかりの煙草に火を点ける。
同じ部屋にいる京子の存在を無視するようにして煙を深く深く吸い込んだ。
「あっ…、ひょっとして何か相談とか?…私でよければどんな話でも聞くよ?」
沈黙に耐えかねたのか、しかしニコニコと笑って京子が切り出す。
(テメーに相談する事なんざ何ひとつねーよ、偽善者め)
心の中では京子を口汚く罵りながら、吸っていた煙草を無言で床に落として爪先で揉み消す。
何も言わない獄寺に、段々と困ったような笑顔になる京子。
「何も言わなくちゃ分かんないよ?…あ、すごく言い難いコトなのかな…、ごめんね?」
獄寺は思う。彼女はあくまでも優しく、怖がらずに接してくれるのに。
どうしてこんなに苛々するのだろう。
「お前見てるとイラつくんだけど。…本当に、すげームカつく。」
一歩詰め寄りながら吐き捨てるように呟く。瞬間、彼女の表情は笑みを失って強張る。
一瞬にして色を失ったその顔を見て、獄寺は胸が締め付けられるような気がした。
あんな事を言えば傷付くであろうことなんて分かりきっていたのに。
(馬鹿じゃねーの、オレ)
ムカつく、ムカつくムカつく!!
その感情が自分に対してなのか、彼女に対してなのか分からないままに
獄寺は京子に射抜くような鋭い視線を向け、両手首を無理矢理掴んで冷たい壁に押し付けていた。