必死の勉強の甲斐あって私はこの春第一志望の大学に入学することができた。
最初の1ヶ月は大学での生活に慣れることと友達づくりに専念していたから
GWに入ってやっと一息つけるようになった。
そして心のゆとりができて―
ずっと忙しさに紛らわしていた寂しさと向き合うことになった。
ランボにずっと会っていない。
ランボはイタリアに渡ってからもよく日本に来ていた。
けれど突然それが変わったのは今から2年前の冬のこと。
「オレ本格的に修行することにしたから今までみたいに日本に来れなくなる」
いつもと違って真剣な目をしたランボに私は驚いてしまった。
私より…ううん、そこらへんにいる不良より弱くって臆病で泣き虫なランボが―。
でもランボはマフィアなんだから強くなろうとするのは当たり前だ。
殺し屋をやめ、普通の女の子として生きることを選んだ私と違って。
頑張ってとか、無理しないでねとか励ましの言葉を掛けるべきだったのに
なぜだか何も言えなくて。
ランボはそんな私に苦笑いして、それじゃあ受験頑張ってと
言い残してイタリアに帰っていった。
それから今の今まで、ずっと会っていない。
言葉通り修行を頑張っていて、私に会いに来る時間なんてないのだろう。
それでいいのだ。彼はマフィアとして生きる道を選んだのだから。
私とは別の世界を、彼は生きているのだから。
「……」
けれどどうしても考えてしまう。
もしランボがマフィアをやめて普通の男の子として生きることを選んでいたら。
逆に私が沢田さんかリボーンに頼んでボンゴレに入っていたら。
私とランボは――。
私はバイトや友達と遊ぶことで連休を過ごしていた。
何かしていればランボのことあれこれ考えなくて済む。
連休最後の今日は友達と映画に行き、早めの夕飯を食べて別れた。
もう7時だから外は暗いけれど住宅街だし怖くはない。
「あり?」
アパートの前に誰か立っていた。どこかの部屋の人を訪ねてきたのかな…。
「イーピン」
「へっ?」
思わず間抜けな声を出してその人を改めて見て―驚いた。
「えっ、ランボ?」
「そんなに驚くことかな。そりゃ突然だったけど」
もちろんずっと会っていなかったランボがいきなりアパートの前にいたことにも
驚いているけど、私の驚きはそれだけじゃない。
2年前に会った時と比べて、ランボは背がずっと高くなっている。
視線を合わせようとすると首が痛くなるくらいに。
それに肩幅もがっしりしていてすごくたくましい。
前は男の人の中でも細身の方だったのに。
これが修行の成果なのだろう。
「ランボすごく変わったね…」
「鍛えたからね」
得意そうに笑うランボ。でも私は一緒に笑ってあげることができなかった。
会えなくてずっと寂しかったのに、今こうして会えて嬉しいはずなのに。
変わってしまったランボを目の当たりにして、私の寂しさはずっと濃くなっている。
様子のおかしい私に気付いたのか、ランボは困ったように癖のある頭に手をやった。
「イーピン、少し歩こうか」
「…うん」
ランボについていく形で歩き出す。
意図しているのか偶然なのか、ランボの足は沢田さんの家があった方向へ進んでいく。
でも沢田さんの家はもう別の人が住んでいる。
沢田さんがボンゴレのボスになる時にママンも一緒にイタリアに渡ってしまったから。
「沢田さん達は元気にしている?」
何気なく尋ねた質問だったのだけれど、ランボは困った顔になった。
「うーん…。皆今は元気だけど」
「今は?」
「ちょっと前まで大変だったんだ。内部で反乱起きちゃってさ。
実はオレもこの間まで入院してたんだ」
私は思わず足を止めた。ランボも立ち止まって苦笑しながら話を続ける。
「鎮圧の最中敵の投げた手榴弾の爆発に巻き込まれたんだ。
オレが意識取り戻した時には全て片付いてたからよかったけど」
「…怪我はもう大丈夫なの?」
「ボンゴレの医療チームは優秀だから。
他の守護者の人達も何人か怪我したけど今は皆回復したし」
「そう…よかった」
怪我が大したことなくてよかった。心からそう思った。
でもまた不安が押し寄せてくる。
マフィアを続けていく限りランボはまた危険な目に遭う。
特に今は沢田さん―ボンゴレファミリーのボスを守る守護者の1人なのだから。
「そんなことがあったから、イーピンに会いに来るのもこんなに遅れちゃって。
…あ、そうだ。入学おめでとうイーピン」
「なんか今思い出したような言い方だなぁ。そういうのは会ってすぐに言ってくれなくちゃ」
私の気持ちも知らずにのん気にそんなことを言うランボがちょっと憎らしくて、
つい意地悪なことを言ってしまう。
ランボは小さくため息をついた。
「仕方ないだろ?だってイーピンすっかり変わってて驚いちゃったから忘れてたんだよ」
「変わった?私が?」
「そう。髪、おさげじゃなくなってるし」
確かに。高校まではずっと三つ編みだったけど大学に入ってからは下ろしてる。
「すごく大人っぽくなってるし」
それは自分では分からないけど…。久しぶりに会ったせいじゃないかな。
「前より綺麗になってるし」
「何言ってるの、もう」
恥ずかしくて私は背を向けた。
本当にキザなんだから…。
でもいつからこんなキザなこと言うようになったんだっけ。
子どもの頃はヘンテコ頭だのしっぽ頭だの、人が気にしてること散々言ってくれたくせに
「本当にそう思ってるのにな」
前より高い位置から降ってくるランボの声は低く甘い。
彼の声が変わったのはいつ頃だっただろう。
「嘘」
「本当だよ。こっち向きなよイーピン」
いつまでも背を向けている私の肩にランボの手が触れる。
子どもの頃は同じくらいだった手が、今はこんなにも大きい。
「イーピン」
「……」
私はゆっくりと振り向いたけれど、ランボと目が合わせられない。
「あのさオレ、爆発に巻き込まれて病院で意識を取り戻した時は
心底ほっとした。よかったオレ生きてる。またイーピンに会えるって」
思わず顔を思い切り上げてしまい、ランボの真剣な瞳とぶつかった。
視線が離せない。
「その時になってオレ分かったんだ。何でオレがイタリアに戻ってからもすぐ日本に行きたくなるのかが。
何で必ず日本に来た時はわざわざイーピンに会いに行くのか。
分かったらすぐにこの気持ちをイーピンに伝えなくちゃって思ったんだ」
そこでランボは言葉を切ってしまったけれど、
彼が伝えたい気持ちが何なのかは彼の瞳が十分に語っている。
胸が熱かった。さっきランボが私が変わったと言った時は、
あまり自分では分からなかったけど確かに私も変わっている。
もう子どもの頃とは違う。
幼なじみの男の子を、今とても大事に想っている。
それを伝えようとしたけれど、喉が異様に渇いていて声が出なかった。
でもランボにはちゃんと伝わったらしい。
嬉しそうに笑んで私の頬に手をやると、ゆっくりと顔を近づけてくる。
キスだ、と分かった。
顔がかぁっと熱くなる。
誰か通りがかったらどうしようとか、目を閉じた方がいいのかなとか
短い間に余計なことを考えてしまったけれど、
ランボの唇が私の唇に触れた瞬間頭の中は真っ白になった。
何度も何度も離れては触れるのを繰り返した後、
私の唇の間に舌先を入れてくる。
ぬるっとした柔らかい感触に一瞬怖気づいた私を、ランボの腕ががっちりと抱きしめる。
舌はどんどん大胆に私の口の中を動き回り、唾液の混ざり合う音が激しくなる。
私はただされるがままで、合間に息をするので精一杯。
恥ずかしくてたまらないのに、ぼうっとするくらい気持ち良い。
やっとランボが唇を離した時には足に力が入らずよろめいてしまったけれど
ランボはそんな私を力強く支えてくれた。
彼の胸にもたれかかると心臓の音が聞こえて、私はゆっくりと息を落ち着かせた。
「イーピン、オレ明日の朝の飛行機でまたイタリアに戻らなきゃいけないんだ。そしたらまた当分会いに来れなくなる」
「…そう、なの?」
頭が急激に冷えていくような気がした。
「うん。だから――」
急に私を抱きしめるランボの腕の力が強くなった。
「せめて朝までずっと一緒にいたいんだ」
15分後私達はホテルの部屋の中にいた。
ランボの言葉に頷き一緒にホテルに入ったはいいが、
部屋の中央に置かれた大きなベッドを見た途端体が強張ってしまった。
朝まで一緒に…すなわちキス以上のことをするということが
現実味を帯びて目の前に現れて。
「じゃあイーピン、先にシャワー浴びておいでよ」
「えっ!?…あ、うんシャワーね…」
ホテルに入ってからまともにランボの顔を見られない。
緊張のためぎこちない足取りになりながらバスルームに向かう。
パタンとドアを閉じ、もたもたと服を脱いだ。
バスルームには大きな鏡が設置されている。
下着まで脱いだ私は鏡に自分の裸体を映した。
そっと自分の手のひらであまり大きくない胸を包んでみる。
初めて分かったけれど、胸ってそんなに温かくない。
感触はそれなりに柔らかいけれど。
…男の人って何で女の子の胸に興味を示すのかな。
自分のと違って女の子の胸は膨らんでて柔らかいから?
私には分からないな。
でも…今からランボにこの身体を見せるのだ。
見せるだけじゃない。触ったり、もっと…。
考えただけで頬が熱くなる。
私は慌てて浴槽に入るとシャワーをひねった。
全身磨き終わり用意してあるバスローブに身を包むとバスルームを出た。
ベッドに腰掛けているランボに気恥ずかしさで目線を合わせられなくて、
私は下を向いて
「お待たせ…」
と蚊の鳴くような声で呟いた。
「じゃあオレ浴びてくるから待ってて」
ランボが私の横を通り過ぎていく。
彼の姿がバスルームに消えると私は盛大にため息をついてベッドに腰掛けた。
始める前からこんな調子で大丈夫なのかな…。
しばらく待っているとバスローブ姿のランボが髪を拭きながら出てきた。
癖のある髪の毛がまだ湿っていて、いつもと違って見える。
そんな些細なことにドキドキして私はまた目を逸らしてしまう。
ランボがベッドに腰掛けている私の前に膝をついた。
「イーピン」
優しい声で私の顔を覗き込んでくる。
「恥ずかしがらないで、オレのことちゃんと見て」
「う、うん。でも…」
「大丈夫だから」
ランボの大きな手が私の手に重なる。
その温かさが、その感触が何よりも私の心を安堵させる。
「ランボ…」
私がゆっくりと顔を上げようとした、その時
「見てくれないとキスするよ」
そう言うなり彼は私の頬に派手な音を立ててキスした。
びっくりしている私に向けていたずらっ子のような笑みを浮かべる。
「やっとオレを見た」
「…もう!」
変わってない。遊んでほしくて、私の気を引こうとしていたあの頃の顔と。
愛しさが胸の中に溢れてくる。
ランボが好き。大好き―。
私は笑っている彼の唇に自分の唇を重ねた。
突然の私からのキスにランボは一瞬驚いたようだったけれど、
すぐに嬉しそうに笑む気配が伝わってきた。
離れようとした私の肩を掴んで更に深く重ねる。
唇の柔らかさと舌の熱さが私を翻弄する。
「ふぁ…」
時折声が漏れてしまいその度に恥ずかしくなるけれど、
ランボはより激しく口付けてくる。
「ん…」
私の唇の間から漏れた唾液を舌で拭うと、ランボはようやく解放してくれた。
そっと触れると唇は熱を持って濡れていた。
「イーピンすごく色っぽい」
ランボがうっとりしたような口調でそんなことを言う。
ランボだって今すごく男の人の顔してるのに。
そんなことを思っていると急にランボが立ち上がり、
私を引っ張ってベッドの上へ横たえ自分は私の上に跨った。
そうして真剣な瞳で私を見下ろしてくる。
「…っ」
そうだ、キスだけでうっとりしてられない。
これからそれ以上のことするんだから…。
私は棒のように寝転んだまま、身体の下ではシーツの感触を、
上ではランボの視線を痛いほど感じていた。
ランボがバスローブの前をゆっくりと肌蹴て、私の肌がだんだんと露わになっていく。
羞恥と緊張で自然と体が震えてしまうけれど、
ランボは手を止めることなく私のバスローブを全て脱がせた。
生まれたままの姿がランボの眼前に晒される。
それだけで私は恥ずかしくてたまらないのに、
ランボは右手を伸ばして私の左の乳房を包み込んだ。
手触りを確かめるように一回り撫でると、柔らかく揉み始める。
「あっ」
さっき自分で触った時は何も感じなかったのに
今はランボの手の感触、指の動き方が私を刺激する。
そしてランボはもう片方の乳房に顔を近づけ、ちゅっと乳首に吸い付いた。
「あ、やぁ…っ!」
ベッドの上で体が跳ね、ランボに胸を突き出すような格好になってしまう。
時折乳首に歯を立てられて、その度ちりっとした感触が走る。
「ふぁっ、あぁっ、ん…」
私の体の奥で新しい感覚が生まれていく。
くすぐったいような、むず痒いような。
初めてのその感覚に私は混乱した。
「ラ、ランボ、何か変…」
私の訴えにランボが顔を上げた。
彼の唇と私の胸の先端が糸を引くのが目に入り、かぁっと顔が赤くなる。
ランボは心配そうに私に顔を寄せた。
「変て?」
「上手く言えないけど…。ランボに触られて私の体どうにかなっちゃったみたい」
自分でも下手な説明だと思ったけれどランボは理解したようでほっとした顔をした。
「大丈夫、それは変なことじゃないよ」
「本当に?」
「本当。それはイーピンが快感を感じてるって証拠だからオレは嬉しいよ」
「か、感じて…?」
そうか、これが「感じる」ってことなんだ。
今まで恋愛ドラマで耳にはしていたけど私にとっては初めてのことだ。
でもランボはどうなんだろう?
「ランボは、その…感じてる…?」
「えっ」
「だって私ランボに全部任せきりで自分はただベッドで寝てるだけで何もしてないでしょ。
ランボはそれでいいのかなって…。私にしてほしいことあったら言って」
「心配しなくたって、オレはイーピンとこうしてるだけで感じてるよ」
ランボは私の髪を撫でると、言葉を続けた。
「イーピン、無理することないよ。
オレ、イーピンが心の準備も何もできないままここに連れてきちゃっただろ。
でもオレはイーピンがオレの気持ちに応えてくれたこと、
オレのわがまま聞いてくれたことがすごく嬉しい。それだけで十分だよ」
私を思いやる優しい言葉に胸の奥がきゅっとする。だけど。
「私無理なんかしてないよ。ランボが明日イタリアに帰っちゃうって聞いて
このまま離れたくない、朝までずっと一緒にいたいって思った。
ホテルに来てからは情けないくらい緊張してたけど、
ランボが大丈夫って言ってくれたから安心できた。
ランボに触られて、すごく…感じた…から。
だからランボにももっと感じてほしいし、そのために何かしたいって思う。
無理なんかじゃない。それが私の気持ちなの」
「イーピン…。君って本当に」
そう言うなりランボは私をがばっと抱きしめた。
「きゃっ!!」
「オレ本当にイーピンが好き。前から好きだけどすごくもっと好き」
「おかしな日本語」
笑うとランボも本当だね、と笑った。
ランボがバスローブを脱いだ。
鍛えられた腹筋と厚い胸板に彼の修行の成果を改めて実感する。
―本当にたくましくなったなぁ…。何かドキドキする…。
しかしそんなときめきはさらにその下の男性器を目にした瞬間驚きに変わった。
―うそ…。こんな大きいのを入れるの?
どう考えても不可能だと思う。入れたら壊れちゃうんじゃないだろうか。
それに保健体育の教科書に図で載っていたのってこんな色だったっけ…?
「イーピン大丈夫?」
ランボが心配そうに声を掛けてきて私ははっと我に返った。
彼のリクエストがこれを口でしてほしい、というもの。
私が硬直しているのを見て怯んだと思ったのだろう。
「大丈夫」
私はランボに向かって答えると、そっと手を伸ばしそれに触れた。
確かに怯んだしびっくりした。正直言ってかなりグロテスクだ。
それでも抵抗感なく触れることができるのは
これがランボの…好きな人のものだからだと思う。
触れてみたそれは硬く先端からは液が滲み出ている。
私に触れて感じていたという言葉は本当だったようで安心した。
先端に唇を当て、舌を出して軽く舐める。
舌の上に何とも言えない苦味が広がった。
一度唇を離し、思い切って口の中に咥え込んだ。
息苦しいのを我慢してそれを舌で舐める。
ランボの吐息が耳に届いたと思うと、口の中でそれが大きくなるのが分かった。
感じてくれてるのだと嬉しくなりさらに激しく舌を動かす。
もっと気持ちよくなってもらいたい―。
「…っ。イーピン、もういいよ」
制止され、口の中から抜き出される。
見上げたランボは顔を赤く染め苦しそうにしていた。
「私ダメだった…?」
不安になってそう尋ねる私にランボは首を横に振る。
「その逆。気持ちよすぎて危なかった」
照れたように笑ってランボはベッド脇に備え付けてあった避妊具を手に取り装着した。
そのままゆっくりとベッドに押し倒される。
ランボの指が、誰にも見せたことのない場所へと触れる。
柔らかなその部分を撫でられると体が電流が走ったように跳ねた。
「あぁっ…!」
もうすでに濡れているそこをランボが吸い付いてくる。
目をぎゅっと閉じても余計に熱い舌の感触とそこから溢れる生々しい音を感じてしまう。
「は、やぁぁ…!」
何かが中に入ってきた。指だ。中をぐりぐりと刺激される。
胸への刺激とは比べ物にならないほどの快感に私は身を捩らせた。
「ランボ…もう…」
「イーピン…」
ランボが指を抜き、抱きしめてくる。
私は自分から唇を合わせ舌を絡めた。
「力抜いて…」
ランボのものがぐっと押し入ってきた。圧迫感に苦しくなる。
ランボにしがみついて必死で耐える。
ゆっくりと時間を掛けて最後まで入った時は大きく息をついた。
「大丈夫?痛くない?」
「うん、大丈夫…。すごい、本当に全部入るんだ…」
本当に不思議。絶対不可能だと思ったのに。
私とランボは別々の人間なのに、今私とランボは繋がっている。
そのことがとても不思議で、とても幸せだった。
「じゃあ、動くよ…」
「んっ…」
ランボが腰を激しく動かす度に体の奥を突かれる。
繋がっている部分からぐちゅぐちゅと音がする。
何も考えられなくなるくらい気持ちがいい。
「あぁっ!あっ、ん、はぁ…!」
思わずランボの背に回した腕に力が入る。
「つぅ…っ」
一瞬ランボが痛みを堪えるように顔をしかめた。
え、と思ったと同時にランボの動きが激しくなった。
「や、あぁー!!」
私は大きく体を震わせた。
ランボが小さく息を漏らし、体の奥に一際熱い感覚が走った。
ぐったりと身を投げ出した私の体からランボが出ていく。
余韻にぼんやりとしながら息を整えていた私は、
避妊具を外しゴミ箱に捨てるランボの背中を見て目を見開いた。
彼の広い背中には無残な火傷の跡があった。
手榴弾の爆発に巻き込まれて最近まで入院していたという言葉がよみがえる。
―こんなにひどかったなんて…。
私が見ているのに気付いたランボは一瞬強張った顔をしたかと思うとすぐに微笑んだ。
「まだ最近の傷だから強く触られるとまだ痛いんだ。でも心配しないで。
ボンゴレの医療チームに頼めばこれくらいの火傷跡形もなく消せるから」
「そう…。イタリアに戻ったら早く治してもらってね」
「うん」
沈黙が落ちる。私もランボも分かってる。
その場で命を落としてしまったら優秀なお医者さんでもどうすることもできないことを。
ランボはそんな危険と隣り合わせの生活を送っている。
マフィアなんて危険なことやめて日本に帰ってきて。
これからは普通の男の子として生きて。
そう言いたい。でも言わない。
彼はマフィアとして生きる道を選んだのだから。
私とは別の世界を、彼は生きているのだから。
私はランボに向かって笑いかけた。
「朝まで一緒にいるんでしょ?ほら隣に来て」
腕を引っ張って隣に寝かせる。
「こうして並んで寝てると子どもの頃みたいじゃない?」
「うん。…懐かしいな。あの頃は今と違っていつも一緒にいられたのに」
「ねえランボ。明日ランボはイタリアに帰って私は日本で。
子どもの頃みたいに一緒じゃない、私達の距離はすごく離れてる。
子どもの頃とは違う。いろんなことが変わった。
これからもいろんなことが変わると思う。
でも私達次第でそれをいい方向へ変えることってできるんじゃないかな。
ううん、きっといい方向へ変えていけるよ。
ただの幼なじみから変わったみたいに。私はそう信じてる」
ランボの手に自分の手を重ねる。
「ランボのこと信じてるよ」
「イーピン…!」
痛いくらいに手を握られた。
「オレも、オレも信じる…!」
真剣な瞳に、力強い言葉に、温かな手のひらに涙が溢れ出てくる。
私はもう一方の手で頬を拭うと、ランボの瞳を見つめた。
「ランボ、好き。大好き…」
後は言葉もなく抱きしめられた。
私達は別の世界を生きている。
明日にはまた離ればなれになってしまう。
でも、きっと大丈夫。
今はお互いを信じ合うことができるから。
終わり