「今日もよく頑張ったなっと♪」
部活が終わった山本武は大きなスポーツバッグを抱え校門をくぐる。
今日のメシは何かな、と歩いていると、
「山本くん」
と背後から呼び止められた。振り返るとそこには同じクラスの笹川京子がいた。
「お〜笹川、お前も今帰り?」
にこやかに話し掛ける。山本は彼女の兄・了平と例の指輪の件で面識があり、
京子とも以前よりは話す機会が増えていた。だが、京子から話し掛けられたのは
今回が初めてだったので、「どした?」
と頭をかしげる。
「あの、山本くんに聞きたいことがあるんだけど時間いい?ごはんおごるから」
と京子は遠慮がちに問う。
部活帰りで腹ペコの山本はおごりと聞いて即OKしたのだった。
近くのファーストフード店に入る。店内はさほど混雑しておらず、
二人は奥の席についた。
「んで、聞きたい事って何?」
ビッグサイズのバーガーを頬張りながら(このサイズでも山本にとっては夕食前の前菜程度だ)
と話をうながす。
「あのね、ツナ君の事なんだけど…」
「ツナ?」
「最近、登下校の時間にいつも来てる女の子、いるでしょ?黒曜中の…」
「ああ、クロー…凪な」
クローム、という二つ名を言いかけて訂正する山本。
「凪さん、っていうんだ…」
ぽそっと京子はつぶやく。
「いつもツナ君と一緒に登下校してるでしょ?けっこう仲良さげだし、
や、ほら、他校の子なのになんでウチの中学まで来てるのかなぁって、それで
気になっただけなんだ!」
焦ったように話す京子。
「ツナ君の友達の山本くんなら知ってるかなって思って聞いてみたの」
そう言われてちょっと悩む山本。了平からは今回の指輪の件に関する出来事は
京子には内緒にしてほしいと強く言われていたからだ。
クローム髑髏が何者なのかを明かしてしまえば自然とばれてしまう。
(うーーん…)
「…山本くん?」
「あのさ、笹川はツナのことどう思ってんの?」
「え!?」
唐突に聞かれ、カアァァと赤くなる京子。
山本はツナが以前京子に惚れていたことを知っている。そして今現在、
ツナが髑髏と恋人同士になっていることも知っている。京子がツナを
どう思っているのかが重要になってくる、結果次第で話す内容が
変わってくるのだ。
「前までは少し頼りない感じもあったけど、最近のツナ君ちょっと雰囲気が
変わった気がするんだよね、なんか大変なことがあって、それをちゃんと
乗り越えられたっていうか…それで少し気になってきた存在っていうか…
うまく言えないんだけど」
(へー鋭いじゃん)
妙に感心する山本。
(まー、ツナに惚れてるってわけじゃねーみてーだな)
少しほっとする。頬杖をつきながら、うまく真実を回避し尚且つ彼女を納得させる事ができる言葉を捜す。
「ハイブリッド相撲大会、あっただろ?お前の兄貴も参加したヤツ」
「え、うん」
「その大会に凪も参加しててツナと試合したんだ、んでツナが圧勝したんだけど
凪がツナのその男気に惚れちゃったみたいで弟子にしてくれって言ってきてるみたいなんだと」
ちょっと苦しい内容だが、京子はそれを信じたようで
「そーなんだ…弟子に…」
と納得している。
くしゃっとバーガーの包み紙を丸めトレーを持ち上げ、山本は
「相撲の世界って、上下関係が絶対だろ?だから凪も付き従ってるらしいぜ」
と言いながら席を立ち、外に出て行こうとする。
京子も席を立ちながら、山本の後を追った。
薄暗くなった帰り道をいきながら、山本は真実を隠しながら今までの経緯を
京子にうまく伝えていた。
京子はすっかり信じたようだ。
「あ、ウチこっちだから」
「おう、じゃあな」
と交差点で2人は別れることとなった。
歩き出す京子の後姿を見つめながら、山本はそれでも一言伝えてやりたかった。
「ささがわー!」
くるりと京子が振り返る。
「がんばれよー!」
「?」
ぶんぶんと京子にむかって手を振り、駆け足で家に向かう山本。
(がんばれとはいったけど、笹川の逆転サヨナラ勝ちは難しいだろうなー、
ツナとクローム、どう考えてもヤっちゃってんだろうし)
ツナからは直接聞いてはいないが、山本は2人の関係を見抜いている。
そして、京子のこれからの心の揺れ動きも…
(ツナもてもてなのなー)
天然の直感、あなどりがたし。
END