※ツナ髑髏シリーズからの続編ですが、今までとはちょっと違う雰囲気になりそうです  
 
 
 
 
とあるマフィアの日本支部で、一つの計画が練られていた。  
世界最高峰のファミリー・ボンゴレの次期10代目沢田綱吉暗殺計画である。  
ボンゴレの首を取ったとあれば、一気に地位と名誉を手に入れることが出来るとあって  
かなり綿密に打ち合わせがされていた。  
「沢田綱吉には女がいるらしい。こいつを人質にとれば簡単におびきだせます」  
「特定はできていないが女ってのは中学生らしい、拉致るのは簡単だ」  
「放課後はいつもその女と一緒らしい」  
「よし、準備は整った。明日決行する」  
 
 
 
最近ツナには気になっていることがある。それはクラスメイトの女の子・笹川京子のこと。  
京子はツナのことをよく見ていて、そのくせ目が合うとぱっと視線をそらすのだ。  
何の用だろうと気になって京子に話しかけようとすると、ツナを避けるように  
逃げてしまう。  
(うーん、オレなにか怒らせるようなことしたかな?)  
考えてみてもらちがあかないので、ツナは思い切って京子に尋ねてみることにした。  
髑髏に[今日は用事があるので護衛はいい]とメールを送る。  
 
キーンコーンカーンコーン…  
放課後、交差点で京子とその友人の黒川花が別れたのを見計らってツナは京子に声をかけた。  
「あの、京子ちゃん」  
びくりと京子の肩がふるえ、振り返る。  
「あ、ツナ君…」  
「えと、聞きたいことがあるんだけど、ちょっと時間いい?」  
「あ…うん」  
2人はすぐ近くの森林公園へと入っていく。  
 
 
「はい」  
「ありがとう」  
ツナは京子にミルクティーの缶を渡す。お互い缶を開け、飲む。少しの間があく。  
「あのさ」  
切り出したのはツナ。  
「オレ、京子ちゃんを怒らせるようなことしたかな?」  
「え?」  
思ってもいない言葉に驚く京子。  
「勘違いかもしれないんだけど、最近よく京子ちゃんと目が合うなーって思うんだ。でも  
話しかけたら避けられちゃうし、オレ気づかないうちに京子ちゃん怒らせちゃったのかと思って」  
ちら、と京子を見ると、下をむいて缶を両手で握り締めている。  
(え、ほんとに怒ってる!?)  
焦るツナはしどろもどろになりながら続ける。  
「オレ馬鹿だからいくら考えてもわかんなくて、怒らせちゃったのなら謝らなきゃって!」  
「違うの!」  
「え!?」  
「違うの、そんなんじゃないの…」  
京子はまだ下を向いたままだ。  
「京子ちゃん?」  
ツナが京子の表情を伺うように覗き込む。その瞬間、京子の唇がツナのそれに重ねられた。  
 
「…!」  
 
カコン、コロロ…  
2つの缶が地面に落ち、緩やかにミルクティーがこぼれ出ていく。  
 
突然の京子からのキスに慌てふためくツナ。  
京子の両肩をつかみ離そうとするがこの華奢な体のどこにそんな力があるのか、  
京子は両腕をツナの背中にまわし抱きついて離れない。  
「きょ、きょ、京子ちゃん!?」  
真っ赤な顔でなんとか京子から離れようとするツナだったが、京子は腕の力をゆるめない。  
「好きなの!」  
「…え?」  
「ツナ君が好き!」  
顔をあげ、ツナを潤んだ目で見つめる京子。  
「突然ごめんね…私も今気づいたんだ、ツナ君が好きってことに…」  
「京子ちゃ…」  
「いつも一緒に登下校してる子、いるでしょ?ツナ君があの子と仲良くしてるの  
見てて、胸がチリチリして…お弟子さんのあの子にヤキモチ妬いてたんだ、私…」  
ためていた自分の気持ちを吐き出す京子。  
 
ずっと黙って京子の台詞を聞いていたツナがようやく口を開いた。  
「ごめん、京子ちゃん」  
「え?」  
「好きって言ってくれて嬉しいよ、でもオレ京子ちゃんの気持ちにこたえられない」  
「……」  
「オレ、好きな人 がいるんだ」  
 
「……あ、はは、なんだそっかー」  
「京子ちゃん…」  
「ごめんねツナ君、急に変なこと言っちゃって!私一人先走っちゃって  
ほんと迷惑だったよね、」  
そこで言葉が途切れ、京子の瞳からはぽろっと大粒の涙がこぼれた。  
「あれ、変だな…」  
ごしごしと手の甲で目をこすり、  
「ごめんねツナ君、今日のことは忘れてね!じゃまた明日!」  
とツナに背をむけ駆けていく京子。ツナはそんな彼女を追うことはできなかった。  
中途半端な行動はかえって彼女を傷つけてしまうからだ。  
「ごめん、京子ちゃん…オレにはもう…」  
 
ぽろぽろと涙をこぼしながら走る京子。どんと誰かにぶつかった。  
「あ、すみませ…」  
「京子ちゃん!?」  
ぶつかった相手は友達の三浦ハル。  
「京子ちゃん、泣いてるんですか!?」  
「あ、違うの、これは…」  
「どこの誰ですか京子ちゃん泣かせたのは――!!ハルがやっつけてあげます!!」  
「は、ハルちゃん落ち着いて…」  
そんな青筋たてて怒るハルと京子に怪しい影が近づき、薬をしみこませた布を2人の顔に押し付ける。  
「むぐ!?んむむ!! …」  
 
がくりと意識を失った2人を男達は急いで車に乗せ、急発進でスタートする。  
 
 
「ただいま〜」  
すっきりしない表情で自宅に戻ったツナは、着替えようと自室にむかう。  
ガチャっとドアを開けるとそこには銃をかまえたリボーンとバットを抱えた山本とダイナマイトを装備した獄寺がいる。  
「え!?なんで2人がうちにいるの!?」  
「事件だ」  
リボーンが言う。  
「お前の命を狙うマフィアに京子とハルが拉致られたぞ」   
 
「なぁ!?うそだろ、オレ今さっきまで京子ちゃんと一緒だったんだぞ!?」  
悪い冗談はよせよ、というツナ。  
「お前と別れた直後、偶然会ったハルと一緒に拉致られたんだ」  
と秋の子分であるトンボを周りに漂わせているリボーンは、  
「オレをなめるなよ、非常時に対応できるよう常にネットワークを張り巡らしてんだ、  
今クロームに奴らの後を追わせてる」  
と携帯に化けたレオンを手に取りボタンを押す。  
 
「……ああ、わかった」  
携帯を切るとリボーンは  
「敵はソルニオーネファミリー日本支部の奴らだ。ボンゴレの足元にも及ばねーカス共だが、  
姑息な手段を使って一旗あげようとしてんだろう。アジトは隣の隣の白銀町にある  
ボス邸だそうだ」  
「っしゃ!アジトさえわかればそんなチンケなファミリーすぐに潰せます!」  
「殴りこみってやつか」  
と獄寺と山本が部屋から出て行こうとするのでツナは  
「待って、オレも行くよ!」  
と後を追うがリボーンがそれを制止した。  
「奴らの狙いはお前だ、のこのこ出て行かずここで待機してろ」  
「オレだけこんなとこで待ってらんないよ!オレのせいであの2人が危ない目に遭ってんだ!」  
 
リボーンに掴みかかろうとするツナの前にすっと山本が割って入り、  
無言でツナのみぞおちに右拳を一発入れた。  
「ぐっ!や、まも…」  
どさっと床に崩れ落ちるツナ。  
「わりーな、ツナ」  
「十代目を危険な目に遭わせる訳にはいかねーからな、行くぞ山本」  
 
と2人は沢田家の前で待機していたディーノの部下が運転する車で白銀町へと向かう。  
玄関で2人を見送ったリボーンは髑髏に再度連絡を入れる。  
「今獄寺と山本がそっちに向かった、15分くらいで到着する」  
[わかりました]  
「…クローム、お前ツナと京子がキスしたとこ見たろ」  
[……]  
「私情は入れるな、任務を遂行しろ」  
[…わかっています]  
プツッと電話が切れる。  
ふうとため息をつき、リボーンは2階にあるツナの部屋に戻るがそこにはツナの姿はなかった。  
ガラッと引き出しを開けてみると、いつもそこに片付けてあるはずのXグローブがない。  
「ツナの奴…」  
 
白銀町のはずれにあるソルニオーネファミリーのアジトは日本家屋風の豪邸だ。  
少し離れたところにある大木の上から中の様子をオペラグラスで探る髑髏。  
今のところ大きな動きはないようだ。  
髑髏は先ほどリボーンに言われた事を思い出した。  
『私情は入れるな』  
わかっている、わかっているけれどツナと京子がキスしているところを見てしまった、  
髑髏は言いようのないもやもやした感情を捨てることができない。  
(やだな…)  
はっと我に返り、もやもやを吹き飛ばすかのように頭を振る髑髏。  
(今は任務遂行のため集中しなくちゃ…!)  
 
 
「う…ん」  
ゆっくりまぶたを持ち上げると、そこは見たことのない場所。  
次第に意識がはっきりとしてきた京子はあたりを見回す。  
「ここは…?」  
起き上がろうとしたがうまく動けない。両手が後ろで縛られていることに気づく。  
「お目覚めかいお嬢さん」  
男の声がした。顔をあげると正面のソファには20代前半ぐらいの黒いスーツを着た  
今時のホスト風の風体をした男が座っていた。  
京子には今の自分が置かれている状況がさっぱり理解できないらしく、  
「ハルちゃんは?ハルちゃんはどこにいるの?」  
ときょろきょろしている。  
ふっと笑い、男はもっともらしく口を開いた。  
「別にあの子に用はないからね、別室で眠ってもらってる。オレが用があるのは  
ボンゴレの女のあんただ」  
「???」  
「沢田綱吉の女を人質にとれば向こうも下手な手出しできないだろうからな」  
「わ、私がツナ君の女!?違います、人違いですよ!」  
ツナの名前に反応する京子。だが男はとぼけるな、と一言。  
「一緒に登下校している女子中学生が沢田綱吉の女だってことはわかってるんだ」  
「や、今日はたまたま一緒になっただけであって、  …え?」  
「は!?」  
京子と男の話はかみ合っていなかったが、京子は気づいてしまった。  
 
(いつも一緒に登下校してる子がツナ君の彼女…?それって…凪さん…)  
胸がぎゅううっとしめつけられる。  
「うそ…」  
急に黙り込む京子をよそに、男は焦ったような口調になる。  
「マジでか、せっかく拉致ってきたのに意味ねーじゃねーか!」  
ガンッとソファを蹴り苛立ちを隠せない男は京子を振り返り、ぺろりと舌なめずりをして  
京子に近づく。  
「ま、人質にはなんねーけどおもちゃにはなるかぁ〜」  
といって京子の制服の襟元をぐっと掴み、一気に裂く。  
 
ビリビリビリ!!!  
はじけとんだボタンが床に転がり、京子の胸元があらわになる。  
「……え?」  
 
一瞬何が起こったかわからなかった。そうっと自分の胸元に視線を落とせば、  
制服のシャツが破れピンク色のブラが丸見えになっていた。  
「きゃあああ!」  
「うるせえ」  
男はナイフを京子につきつけた。  
「ケガしたくなかったらおとなしくしてろ、かわいがってやるからよ」  
と、息を呑む京子の胸の谷間にナイフの刃を当てる。ヒヤリとした感触に  
体中が総毛立つ。  
男はナイフを手前に引き、ブラを切り裂いた。はらりとはだけ、  
薄桃色の乳首までもがさらされてしまった。  
「い‥や…」  
涙をこぼしながらガタガタと震えている京子を楽しげに眺め、男は  
「へー案外女の体してんじゃん」  
とぐっと京子の左胸を掴む。  
「痛っ!」  
乱暴なその行いに京子の肌に赤く痕がつく。  
「そのうちヨクなってくるからさー」  
と京子のひざを無理やり開かせ、その奥へと手をのばしてくる。  
「いやああ!やめて――!!」  
脚をバタつかせ抵抗する京子に苛立った男は京子の頬を力任せに殴りつけた。  
「きゃ!」  
その衝撃で京子は意識を失う。  
「気ぃ失ったか、まあいい」  
男は京子の体を支えるようにしてソファに運ぶとその白い首筋をべろりと舐めあげる。  
「へへ…」  
胸をわしづかみにし充分に感触を楽しんだ後、手を京子のスカートの中に  
手をいれる。薄布に指がかかる…  
 
ドンドンドン!  
「若!いらっしゃいますか!?」  
「んだよいい所で…どうした!?」  
チッっと舌打ちをし、ドアを開ける。  
「敵襲です!正門の見張りがやられました!」  
「なんだと!」  
と言った瞬間、窓の外が光り爆音がとどろいた。  
 
ドガン!!ドオォン!!  
 
重々しい造りの正門を爆破し、獄寺・山本・髑髏が敷地内へと入っていく。  
「オレと獄寺は兵隊相手に暴れて引き付けておくからクロームは  
笹川とハルを頼むぜ」  
「ええ」  
「てめーが指図すんな、指揮をとるのは右腕であるこのオレだ!」  
「はいはい」  
 
騒ぎを聞きつけた手下達がエモノを持って次々とむかってくる。  
「ほんじゃまー、いっちょやりますか」  
ヒュッとバットを一振りし、刀を構える山本。  
「ボンゴレの力を思い知らせてやんぜ!!」  
先制攻撃とばかりに獄寺はダイナマイトを放った。  
 
 
正門のほうに敵の目が集まったすきに髑髏は裏口にまわり屋敷内へと侵入する。  
人一人を軟禁できるようなスペースを探っていくと、1階の角部屋のドアが  
ドン!ドン!と内側から叩かれている。  
髑髏は手に持っている三叉槍でドアノブを壊しドアを開けた。  
と同時に両手足を縛られ目隠しで口もふさがれたハルが中から転がり出てくる。  
「ふが――!ふがふが!!」  
 
髑髏はとりあえず口に張られているテープをはずしてやる。  
「三浦ハルさん?」  
「ぷはっ!どこのどなたか存じませんがありがとうございます!ところで  
制服を着たショートカットの女の子見ませんでした!?早く助けてあげないと!!」  
「これから救出にむかうところ」  
興奮しているハルを連れて走るのは難しいと判断した髑髏は、両手足を  
縛られたままのハルを肩に担ぎ  
「まずはあなたから」  
と屋敷の外に出て行く。  
「ぎゃー!ハルなんだかこの担がれ方ばっかりされてる気がします――!!」  
「…できるだけ黙ってて」  
と髑髏はハルを担いだまま、とん、と外塀に登り、敷地外へと移動する。  
「はひー!?あなたくノ一ですか――!?」  
目を回すハルをよそに獄寺達が乗ってきた車に乗せるとディーノの部下に  
「この人お願いね」  
と伝え、髑髏は再度屋敷の中へと消えていった。  
 
一方獄寺と山本は後から後からわいてくる手下達に苦戦していた。  
ソルニオーネファミリーもそれなりの戦力を用意していたようだ。  
「くっそー、ゴキブリみてーにわいてきやがって!」  
「キリねーなー、っと囲まれたか?」  
2人はいつの間にか四方をぐるりと囲まれていた。  
「ガキ共が調子に乗るんじゃねーぞ」  
若と呼ばれていた男が2人の前に姿を現す。  
「オレがソルニオーネファミリーの三代目だ、てめーら無事に帰れると思うなよ」  
 
「けっ、たまたま三代続いただけのチンピラが吠えてんじゃねーよ」  
「たいした事ねーのなココ」  
全くビビッた様子を見せない獄寺と山本に怒りをあらわにする三代目の男。  
「骨も残らねぇくらいにしちまえ!!」  
と命令を下す。  
 
 
その刹那、2人を囲っていた手下達が端から次々と吹っ飛ばされていく。  
「ぐわっ!」  
「ぎゃ!」  
「な、なんだ!?」  
獄寺と山本からは、人垣の間からゆらぐ大きな炎が見えていた。  
山本はやっぱ来たか、とニカッと笑い、獄寺は尻尾があればブンブン振るであろう  
勢いで目を輝かせている。  
「お、助っ人とーじょー?」  
「十代目!!」  
 
そこには炎をまとったXグローブを携え、圧倒的な強さと存在感を持つツナがいた。  
周りの手下達はそれにたじろぎ、身動きがとれなくなっている。  
 
ザッと三代目の前に立つツナ。  
「て、てめえは…!」  
「ボンゴレ十代目沢田綱吉。お前の首をとる者の名だ、覚えておけ」  
「うるせーー!!」  
懐から取り出した銃を構え、ツナにむけて発砲する。  
ドン!ドン!  
ツナはその弾をよけながら進み、一瞬で男の背後をとり右のハイキックを首元に叩き込む。  
男は一撃であっさり地に伏した。  
 
「やったなツナ」  
「さすが十代目ッス!!」  
ツナに走り寄る2人。そんな3人の後方で派手に火柱が上がり始めた。  
「うわぁぁあ、ガソリンに引火したぞ!!」  
先ほど男が発砲した弾が車のエンジンに当たり炎上したのだ。  
その炎は風にあおられ勢いを増し、屋敷にも飛び火していく。  
手下達は火を消そうともせず蜘蛛の子を散らすように次々と逃げ出していった。  
「もうツブしたも同然スね」  
そう言う獄寺にツナは  
「獄寺、クロームはどうした?」  
と問う。  
獄寺が口を開くより先に、正門に移動してきた車の中からハルの声が響いた。  
「ツナさーん!眼帯をしたくノ一さんと京子ちゃん、まだ建物の中にいます――!!  
くノ一さん、ハルだけ先に助け出してくれて、また中に戻ったっきりなんです!!」  
「なあ!?」  
「マジかよ」  
屋敷を見やれば、かなり火が回ってきている。ツナは  
「リボーンに連絡を頼む」  
と言い屋敷の中へと飛び込んでいった。  
 
 
少し時間をさかのぼり…  
ハルを外に出し、また屋敷内に戻ってきた髑髏は京子を探していた。  
2階にあがるとドアが開きっぱなしの部屋があり、中をのぞくと縛られて  
気を失っている京子を発見する。  
髑髏は京子に近寄り、少し体をゆすって  
「笹川さん?」  
と声をかけると、京子は少し動いた。シャツは破かれ、頬は殴られたのか赤くなって  
口の端が少し切れて血が出ているが大きなケガはないようだ。縄をほどき、  
自分の着ていた丈の長いジャケットをかけてやり担ごうとしたとき、京子の意識が戻る。  
「う…」  
まぶたを上げると、そこには髑髏の姿がある。  
「え…凪、さん…?どうしてここに‥」  
「話は後で、今はまず脱出を」  
「あ、ごめんなさい‥自分で歩けます」  
と京子は立とうとするが、先ほど襲われた恐怖と緊張からかうまく立てず、ふらっとよろける。  
体を支えようとした髑髏だが、その手を京子はぱしっと振り払う。  
「いいです!」  
普段あまり感情をみせない髑髏だが、さすがに不快感を表に出す。  
京子はぎゅっと唇をかみ、声をあらげた。  
「あなたに、ツナ君の彼女なんかに頼りたくない!」  
 
気持ちを吐き出してしまった後で京子ははっとする。  
「あ、ごめ…」  
「そう、じゃそのジャケット返してくれる?私のなの」  
と髑髏は先ほど着せてやったジャケットを指差して言う。  
京子は無言でジャケットを脱ぎ、髑髏に渡す。  
「とりあえず脱出するから着いてきて」  
髑髏はスタスタとドアに向かって歩き出す。京子は後を追おうとするが  
やはり力が入らないらしく足元がおぼつかない。  
 
「早くしてくれない?」  
振り返り髑髏は言う。  
「わかってます!」  
むっとした表情で京子は言い返す。その言葉にカチンときた髑髏は  
トン、と一瞬で京子の前に立ち、片手で京子の両手首を握り頭の上にもっていく。  
「な!?」  
そのまま壁に京子の体を押し付ける。ギリ、と手首が締め付けられた。  
「何、を」  
「こんなことで腰が抜けるような子はボスにはふさわしくない」  
 
髑髏の目には今までにはない負の感情が宿っていた。  
「あなたにそんな事言われる筋合いは…」  
つ、と髑髏の指が京子の胸についた痣にふれる。  
「……汚された?」  
とひどく冷たい声で言う。  
ドクン、と京子の心臓が跳ねた。先ほど乱暴された記憶がよみがえる。  
途中からは覚えていないが、裂かれた服、胸の痣、そして何より体中に触れられた  
感触が生々しく残っている。  
「……っ」  
京子の額には冷や汗が浮かび、血の気がひいてくる。  
髑髏は胸に触れた指をつつつ、とそのまま下に伝わせ、京子の腰まで下げていくと  
下着に指をかけ、太ももあたりまで引き下げた。  
「きゃ!?」  
京子はあわてて脚を閉じようとするが、それより先に髑髏がパン、と自身の片足を  
京子の両足の間に入れ閉じられないように固定する。  
 
「何するの!」  
「……」  
髑髏は答えず、すっと顔を京子の胸元に持っていき、薄桃色の小さな果実をカリッと甘噛みした。  
「っ!?」  
刺激を与えられたその部分は赤く熟れ尖る。  
 
その様をじっと見つめる髑髏。中学生にしては大きめの胸、白い肌、程よく肉付きのいい脚…  
そのどれもが髑髏の嫉妬心をあおる。  
わきに持っていた三叉槍で京子の両手首を壁に固定する。ガッという音を立てて槍が壁に刺さる。  
両手を高々と頭の上にあげられたまま自由を奪われ、胸をかくすこともできない、  
太ももあたりまで下げられた下着を元に戻すこともできない。京子は恥ずかしさと悔しさで  
表情をゆがめた。  
 
「とても扇情的で屈辱的ね」  
「離して!どういうつもりなの!?」  
髑髏は京子の足元に身をかがめると、京子のスカートを少し持ち上げて舌を出し  
目の前にあるクリトリスをペロリと舐めた。  
「きゃあ!な、なにを…!」  
そのまま尖らせた舌でクリトリスを中心に愛撫してゆく。クリュクリュと上下に、時には  
口に含みきゅううっと吸い上げる。  
「や‥ひ、ぃ…」  
オナニーすら未経験の京子は初めて与えられる刺激に困惑しながらも湧き上がってくる  
快感に感じ始めているようだ。  
「んっ、は…ァ」  
「気持ちいい…?」  
「や、めて…お願い…」  
「こうやっていつもボスは私を愛してくれる」  
「…!」  
半分閉じかけた京子の目に強さが戻る。  
「優しく抱きしめて、キスしてくれて」  
「…やめて」  
「髪をなでてくれて、一緒に眠って一緒に朝を迎えるの」  
「やめて――!!!」  
 
ドガアアアアン!!!!  
 
京子の叫びと同時に爆発音が響いた。外を見ると、どうやら車が爆発炎上したようだ。  
髑髏はぎゅっと歯噛みし、立ち上がると京子の首元にトンッと手刀を入れ気絶させる。  
三叉槍を抜き、ジャケットを京子に着せて背負い、右手でぐいっと口元をぬぐうと  
部屋から廊下に出た。  
 
屋敷にも飛び火したようで古い木造の建物はあっという間に炎と煙で包まれた。  
長い廊下を急いで走りぬけようとするが、天井から落ちてきた瓦礫に前をふさがれた。  
後ろを振り返ってもすでに火がまわってきている。  
(まずい…)  
自分のくだらない嫉妬心から時間をつぶしてしまった。任務遂行のために私情は入れるな、  
そう言われていたのに。髑髏はそんな自分に吐き気がした。  
(こうなったら後ろの炎を突破して部屋の窓から出るしかない)  
 
そう決心して後ろを振り返ると、瓦礫の向こうから声がした。  
「クローム、ふせていろ!」  
「ボス!?」  
その瞬間、瓦礫が大きな光り輝く炎に包まれて一瞬にして粉々に砕け散った。  
その中からツナが駆け寄ってくるのが見えた。  
「2人とも無事か」  
髑髏と京子の様子を確かめる。  
「大丈夫」  
そうか、と息をつくツナ。いよいよ屋敷がくずれ落ちていく気配を察したツナは、  
「急ぐぞ。彼女はオレが運ぶ」  
と髑髏の背中の京子に手をのばそうとするが、髑髏はそれを拒否した。  
「私が運ぶから」  
「…わかった」  
何か言いたげな表情のツナだったが、今は脱出が先なので黙って任せておく。  
 
 
間一髪のところで2人は屋敷から脱出した。  
「十代目!よくぞご無事で!」  
獄寺が駆け寄る。そこには連絡を受けたリボーンも来ていた。  
「とりあえずお前達全員車に乗れ。ずらかるぞ」  
遠くで消防車のサイレンが聞こえる。事が公けになるのはまずいのだ。  
 
 
ディーノがかつて手配していた今は無人の中山外科医院に一向はむかった。  
ひとまず気を失っている京子の治療を済ませ、ベッドに寝かせる。  
「京子ちゃん…かわいそうに」  
ハルが横についてガーゼを貼られた頬をなでている。  
その隣の部屋でツナ、獄寺、山本、髑髏、リボーンは話をしていた。  
 
「どーします?あいつらにバレましたよね」  
「もーさすがに相撲大会じゃごまかせねーよな」  
素に戻ったツナは黙ったままだ。髑髏も片手で自分の腕を握りしめ黙りこくっている。  
リボーンはそんな黙った2人の様子を伺っていたが、  
「心配すんな、手はある」  
と冷静に言葉を放つ。  
リボーンは髑髏の前に立つと、  
「クローム、骸を呼んでくれ」  
と言う。  
「骸!?あいつなんて来ても余計収拾がつかなくなるんじゃ!?」  
わめく獄寺をよそに、髑髏はうなずいた。  
「わかりました。   ……」  
髑髏は目を閉じ、意識を集中させる。  
 
 
……シュウウウウウ…  
 
 
霧が髑髏の体を包み、少しずつその姿を消していく。霧が晴れていくとそこには  
黒い服を着た骸の姿が在った。  
「クフフフ、この僕を呼ぶなんて余程せっぱつまっているようですね」  
骸はツナに話しかけるがツナの反応はない。  
「骸、頼みたいことがある」  
リボーンが骸にむかって口を開くと、  
「クロームを通してすべて把握していますよ」  
と意味ありげな笑みを浮かべる骸。  
「笹川京子と三浦ハルの記憶を消せばいいのでしょう」  
 
簡単ですよ、と言う骸に獄寺は驚きを隠せない。  
「そんな事ができんのか!?」  
「君と違って僕には出来ないことはありません」  
ブチッと切れた獄寺を  
「まーまー」  
と抑える山本。  
「んじゃ早速頼むわ。2人は隣の部屋にいんだ」  
「ええ、わかりました。 …その前に…」  
骸はうつむいたままのツナの前に立ち、無言で拳をツナの頬に一発叩き込んだ。  
ガターーン!!  
飛ばされたツナの体が机にぶつかり、派手な音がする。  
「っのヤロー!十代目に何しやがる!!」  
獄寺が骸の胸元に掴みかかるが、  
「いいんだ!!」  
と当人のツナが止めに入る。  
「おや、殴られた理由はわかっているようですね」  
獄寺の手をほどきながら骸はおだやかに、しかし静かに怒りを含ませて言う。  
「きちんとアフターフォローはしてあげてくださいね」  
「…わかってる」  
 
ならば構いませんと骸は隣の部屋へと向かっていった。数分後、また戻ってくる骸。  
「マインドコントロールの応用で、今回に関する記憶のみ消しました。今は眠って  
いただいているので、その間に各々の自宅に」  
「ああ、すまねーな」  
「では僕はこれで失礼しますよ」  
と骸は目を閉じる。ふっと姿は消え、髑髏の姿に戻る。  
 
 
数日後…  
「京子ちゃーん、今日は新しく見つけたケーキ屋さんに行く日ですよー!」  
「うん!楽しみだねー!」  
2人はいつも通りの日常を取り戻していた。京子の頬のケガは階段から落ちたことが  
原因となっている。  
 
「あの2人は大丈夫みてーだな」  
影から見ているリボーンが息をつく。  
「さて、あの2人はこれからどうなることか…」  
小さな家庭教師は一人ごちてエスプレッソを買いに街に消えていったのだった。  
 
 
 
事件編END  

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