・バジル×オレガノ
・純愛切ならぶ未満
・前スレの話から過去になります
・純情少年、大人のお姉さん
「オレガノ殿は綺麗でござるな」
バジルがある日何気なく呟いた一言に、オレガノはきょとんと停止した。
世辞や下心込みで言われる事は多々あれど、こんなあっさりと、
こんな純粋に、その言葉を言われた事などなかった。
「……有難うバジル。でも、私そんなに綺麗じゃないわよ?」
にこ、と当たり障りの無い笑みを浮かべ、常套句をオレガノは返す。
その笑顔にかぁと頬を紅くするバジルが黙り込むのを見て、
オレガノはまとめていた書類を抱えてそのまま部屋を出ようとした。
「…でも、拙者はオレガノ殿を本当に、綺麗と思うでござるよ…?」
悲しそうな、少し泣きそうなバジルの声。
きゅう、とオレガノの胸が、締め付けられるように痛んだ。
貴方に綺麗と言ってもらえる程、私は綺麗な人間じゃないのよ――。
いっそそう言ってしまえば、この胸の痛みはどんなに楽だったろうか。
一日の仕事が終わり私室へ帰り着き、シャワーを浴び終わったオレガノは
温もった体からまだ雫を滴らせたまま、小さなソファに座り込んでいた。
綺麗。バジルに言われた一言が、頭の中でぐるぐると巡る。
物憂げに首を傾げると、普段結っている片方結びのお団子を解いた髪が、肩口に張り付いた。
『オレガノ殿は綺麗でござるな』
純情な瞳の少年の純粋な一言が、胸の中にわだかまりとなって残っていた。
「私は……」
ぽつりと、呟きかけた言葉は途中で止まった。
カチャリ、とサイドボードに愛用の黒縁の眼鏡が置かれる。
下着のままの身体をソファに預けると、ゆるゆると脚を開き、肘掛に足首を乗せて。
そのまま、まるで辱められるように脚を開く体制になると、
オレガノはその白く細い指先を足の中心に寄せ、僅かに膨らんだ突起を、くりっと押した。
「っ、ん…」
びくっと身体が小さく跳ね、淫靡な声が毀れた。
意識ではどう思っていようと、快楽に慣らされた身体は快感を欲しがり、
一度火がついてしまえば欲望は収まることなく、身体の芯が疼く。
くりくりと淫核を執拗に攻め立てるて硬く膨らませると、ぴんっと爪先で強めに弾く。
はぁ、と溜息のような甘い吐息が唇からこぼれ、やがて脚がびくびくと震えだした。
胸の中に残る甘い痛みをかき消すように、オレガノは自慰に耽っていく。
目を閉じ、何もかもを拭い去るように、噛み締めた唇から声を零して。
女性でマフィアに身を置くことの一番の武器を、オレガノは勿論知っていた。
その手解きは受けているし、そういう意味の『仕事』を、幾度も請けたことがある。
親方様の為ならと、同盟マフィアや敵対マフィアのボスの夜伽に向かったことも一度や二度ではない。
身体への快楽に従順に従う彼女は、ある意味家光の手札のひとつだった。
だからこそ、バジルの純粋なたった一言に、オレガノは心を乱した。
好きでもない男に抱かれる仕事を請け、あまつさえそれに快楽を見出して
男達の望むように啼き善がる自分が、彼の言う『綺麗』なはずがない、と。
「は、んんっ、ぁ…」
大きく開いた脚の中心からは濡れた蜜が溢れ出し、
ソファをびっしゃりと濡らしながら、止まることなく次から次へと穴から毀れる。
淫核のみを責め立てるも、快楽は容赦無くオレガノを包み込み、
あっという間に絶頂への入り口へと彼女を誘っていた。
硬く立ち上がった淫核の皮をくいと引っ張り上げ、露になった赤い突起へ
直に指を触れると、まるで幼子の頭を撫でるように、幾度も撫で上げる。
「あッ、ダメ、私、ぅう…!」
身体の奥底から湧き上がる絶頂の真っ白い快楽に、オレガノは瞳をきつく閉じた。
声を忍ばせ、唇をぎゅっと強く噛んだ瞬間、びくん!と身体が一際大きく跳ね、
痙攣を繰り返しながら、彼女はオルガズムを感じていた。
「ふ……ぁ、っ…はぁ……は、ぁ…」
とろっと溢れ出た白い蜜を指で絡め取り、目の前へ持ってくる。
指を開くとその間をねちゃ、と橋渡しした白い蜜の、酸味の強い香りがした。
(……だから私は…)
恍惚の中、粘度の高い白い蜜を頬になすりつけ、
オレガノは表情を曇らせた。息は上がって次の快感を欲している筈なのに。
(…綺麗なんかじゃ、ないわ)
何故だか気分が乗らず、オレガノはだるい身体を動かしてソファから降りると、
快楽の熱を持った体を洗い流すように、先程上がったばかりのシャワールームへ向かった。
『オレガノ殿は綺麗でござるな』
「…どうして……?」
熱いシャワーを頭から勢いよく浴びながら、オレガノは呟いた。
あの一言を拭い去る為に、自らを快楽の絶頂へ追いやって、貶めたはずなのに。
ずるずると力なくバスタブに座り込み、困ったように眉を寄せる。
迸る湯は、頭の先から足先へと流れ落ち、排水溝に飲み込まれていく。
僅かに渦を巻くその流れを見詰めるオレガノの視界が、じわりと滲んだ。
「…ッ、どうして………」
シャワーに混じって流れていくそれが、シャワーのように痛くなければどれだけ良かっただろう。
だが、理由も解らず溢れ出てくる涙は、オレガノの涙腺を痛めつけ、
じんと目頭を熱くさせながら、次から次へ溢れて止まらなかった。
(どうして、あの一言が消えてくれないの…?)
(つづく)