その夜ディーノは本拠地のイタリアではなく、日本の沢田家で夕飯を食べていた。
最初は弟分であるツナの様子を少し見るだけのつもりだった。
しかしツナやランボ達と遊んでいるとついつい時間を忘れて遅くなってしまい
「せっかくだから泊まっていったら?」
という奈々の申し出をありがたく受けることにしたのだ。
「ああ、ディーノさんまたこぼしてますよ」
ツナの声にテーブルを見ると確かにご飯粒や野菜炒めがボロボロこぼれている。
「あちゃー」
「本当部下がいないとダメね」
コロッケを一口サイズに分けながらビアンキが呟く。
「毒サソリ…。オレは箸が使えねーだけだよ」
「どうかしら?はいリボーンどうぞ」
小さく分けたコロッケをリボーンの皿に載せる姿に、ディーノは文句を飲み込んだ。
風呂に入った後はツナの部屋でランボとイーピンの4人でテレビゲームで遊んでいたが、
9時になって子ども達が寝たのでそれも終わりになった。
リボーンもいつの間にやらハンモックに揺られながら鼻ちょうちんを出している。
「何か急に静かになっちまったな」
「チビ達が騒がしかったですからね」
「あいつらはどこで寝てるんだ?」
「母さんの部屋で一緒に寝てますよ。ビアンキも」
「ふーん」
1時間ほど前に見た風呂上りに淡い水色のナイトドレスに身を包んだビアンキを思い出す。
体のラインがはっきり浮き出ていてあの時は目のやり場に困った。
(性格と料理の腕は最悪だけど色っぽいよな…)
「あの、チビ達も寝たことだしディーノさんに聞きたいことがあるんですけど」
ツナが照れくさそうに話しかけてくる。
「おう何でも聞いてくれ」
「ディーノさんが初めて女の人としたのっていつですか?」
「んー?15歳だったかな」
「やっぱそれくらいですか」
「ああ。年上の女だったんだけど食事連れて行ってくれてその後に行ったホテルで…」
「ぶっ!!」
ツナは飲みかけていたオレンジジュースを勢い良く吹き出した。
「ホ、ホテル!?」
「ああ、それがオレの初めてのセックスだけど。
もっと詳しいこと聞きたいのか?ツナも年頃だな〜」
はははと快活に笑うディーノにツナは真っ赤になって叫んだ。
「オレが聞いたのは初めてキスしたのはいつかってことですよ!!」
「何だキスか。キスなら12歳だな」
「は、早いですね」
「そうかー?こんなもんだろ」
「オレはまだですよ…。ディーノさんはオレと違ってもてるからなー」
床にこぼしたジュースをティッシュで拭くツナは、
ディーノの表情が一瞬暗くなったことに気付かなかった。
「オレもディーノさんみたいにカッコよかったらいいのに」
「ツナは大人になったらカッコよくなりそうだけどな。きっとオレよりもてるぞ」
「そんなことあるわけないですよ〜」
ツナが苦笑しながら顔を上げた時にはディーノは笑顔に戻っていた。
「それにオレ、大勢の女の人にもてるより好きな子と両思いになりたいんです。
その子すごく可愛くてオレじゃ釣り合わないけど」
「ツナは一途なんだな」
ディーノはウブな弟分を見つめて微笑んだ。
「ツナのそういうところすごくいいと思うぞ。自信持てよ」
「ディーノさんにそう言ってもらえると勇気出ます」
ツナは嬉しそうに笑った。
その後は他愛もない話を続け、気がつくとツナはテーブルに突っ伏して寝ていた。
ベッドに運んで布団を掛けてやる。
あどけない寝顔に自分の少年時代を思い出す。
ディーノもツナと同じ年頃の時は自分がマフィアのボスになるなどと考えもしていなかった。
たくさん恋をした。数は多くとも常に本気だった。
しかしディーノと付き合う女性は自分のステータスのために
端整な容姿の彼を利用していただけだった。
ボスになってからは彼の地位と金目当てで近づいてくるようになった。
最悪だったのは本気で愛した女がライバルファミリーの密偵だった事だ。
それ以来ディーノは本気で人を愛することがなかった。
女を抱くのは性欲処理の時だけ。
そうすれば裏切られて傷つくこともない。
それでもツナやビアンキのように純粋に誰かに恋している人間を見ると、
自分がどうにも空しくなってしまう。
ディーノはため息をつきツナの部屋を出た。
一階に降りるともう奈々も寝室で寝ているらしく物音一つしない。
ディーノは足音を忍ばせながら奈々が布団を敷いてくれている客室のドアを開けた。
「!?」
ディーノは目を見開いた。
部屋の真ん中に敷かれた布団の上にナイトドレス姿の
ビアンキが寝そべって雑誌を読んでいたのだ。
「ああ、やっと来たの。ツナは寝た?」
ビアンキは雑誌を閉じ立ち上がった。
「寝たけど…。何でお前がここにいるんだ?」
ビアンキは何も言わず、ドアの前で立ったままのディーノに歩み寄った。
じっと彼を見上げる。
彼女の真意が分からずディーノは困惑しながらもビアンキの顔を見つめた。
灰色がかった茶色の髪、白い肌にピンク色の唇は陶器人形のように美しい。
つい見惚れているとビアンキの腕が首に回され、
唇に柔らかな感触が押し付けられた。
「!?」
ディーノはすぐにビアンキの腕を振り解いた。
「毒サソリ一体どういうつもりだ?」
ビアンキはしれっとした顔で答える。
「女がわざわざ男の布団で待っている理由なんて一つでしょう?」
ディーノの瞳が細められる。
「…オレに相手しろってことか?」
「分かってるじゃない」
「お前が好きなのはリボーンだろ」
「そうよ私はリボーンを愛してる。だけどリボーンじゃ私のこと
抱けないでしょ。最近熱を持て余してるの」
「だから代わりにオレか」
ディーノは唇を歪めて笑った。
夕食時にリボーンのためにコロッケを食べやすく分けていたビアンキと、
性欲を満たすために今こうして愛してもいない自分に抱かれようとしているビアンキ。
どちらも偽りのないビアンキなのだ。
(心と体は別物、か…。何だ毒サソリもオレと大して変わらないな)
ディーノはビアンキの腰を抱いて引き寄せ、耳元で低く囁いた。
「オレも溜まってたんだ。毒サソリが相手してくれるなら願ってもないぜ」
首筋に唇を寄せると長い髪からふわりとシトラスの香がした。
風呂場に置いてあったピンク色のボトルを思い出す。
シャワーを浴びていた時には彼女はすでにこうすることを決めていたのだろうか。
そう思うと甘く爽やかなこの香も淫靡なものに感じられた。
痕をつけない程度に首から鎖骨にかけて甘噛みしていくと、
ビアンキの唇からふっと息が漏れた。
そのままゆっくりと体を布団の上に寝かせ、改めてビアンキの全身を眺める。
光沢のあるサテン生地はビアンキのほっそりとした体に
フィットして、腰や足のラインを美しく際立たせている。
それはいいのだが―。
「…お前ってツナの前でもこんな格好でいるのか?」
「それがどうかした?」
「あいつも思春期だからよ…。目の毒だと思うんだよな」
ディーノが懸念するのも無理はない。
ビアンキは下着をつけていないため乳首の形が透けて見えているのだ。
「下着つけて寝るのって嫌いなの。それに気にしなくたって
初めてツナの前でこの格好してからはツナの方から目を逸らしてるわよ」
「お前もっと慎み持てよな…」
ため息をつくディーノの首に再びビアンキの腕が絡みつき、
色香を含んだ瞳で見上げられる。
「今はそんなことどうでもいいでしょう?」
「…それもそうだな」
今は目の前のビアンキを抱くことだけを考えていればいい。
肩のストラップを外し胸元を寛げる。
白くふっくらとした乳房の上で赤く主張する乳首に
やんわりと噛み付くとビアンキは「あんっ!」と甘い声を出した。
「静かにしろよ。奈々さんやチビ達は一階にいるんだろ?」
寝ているのだからまず大丈夫とは思うが用心に越したことはない。
うっかりランボやイーピンが起きて見にでも来たら
幼少期にトラウマを作ってしまう。
「ん…」
ビアンキは頷いて自分の手で唇を押さえた。
それを確認してディーノは胸の果実を舌と歯を駆使しながら愛撫しもう片方の胸を揉みしだく。
ずっと抱かれていないと言っていたとおり久しぶりに
与えられる刺激にビアンキは激しく反応を示した。
「あぅっ、あぁ…」
白い頬を薄く染めて必死に声を押し殺す姿が
普段の彼女を知っているだけにより扇情的に見える。
手を胸から下へと滑らせしっとりとした太股に触れる。
そのままドレスの裾をめくり上げ、白い内股に強く吸い付いた。
「ちょっと、痕はつけないでよ…」
息を乱しながら抗議してくるビアンキにディーノはふっと笑った。
「大丈夫だって。こんなところ見る奴いねーだろ?」
だから自分を誘ったのではないかと言外に含ませ、
キスマークの上をねっとりと舐め上げる。
「んぅっ…」
ビアンキは悔しそうに唇を噛むと顔を背けた。
そんな彼女を見てふとあることを思いつく。
ディーノはそっと腕を伸ばし、眠っているエンツィオの隣に
置いてあるバッグを取った。
中から取り出したのはハンカチと愛用の鞭。
「!? 何…」
気付いた時にはビアンキはあっという間にハンカチで目隠しをされてしまった。
「ちょっと、どういうつもり?」
「少し趣向を凝らそうと思ってな」
そう言いながら鞭で両腕までも後ろ手に縛り上げてしまう。
「何考えてるの、外しなさいよ!」
「何で?こうした方がより刺激的で楽しめるじゃん」
「ふざけないで早く外して!」
「だから大声出すなっつーの。オレの顔見えない方が好きな相手
想像できるしいいじゃねーか」
「……」
(そこで黙るか)
結局相手は誰でもいいということなのかと気分が下降する。
が、すぐに自分も性欲処理のためにビアンキを抱くだけなのだと思い直す。
誰だっていいのだ。
自分も、ビアンキも。
「ああ、手も縛っちまったから声抑えられねーな。口も縛るか」
もう一枚ハンカチを取り出してビアンキの口を縛る。
抵抗も反論もないのを物足りなく思いながら耳を舐め上げると
ぴくりと体を跳ねさせる。
視界が遮られていることで敏感になっているようだ。
手をドレスの裾の奥へ入れ、すでに濡れている秘所へと触れる。
割れ目をなぞるように指を動かすと、くぐもった喘ぎが聞こえてくる。
「んん…、ふぅっ…」
ディーノは口元だけで笑うと愛液で濡れた指をつぷ、と中へ進めた。
「んっ」
ゆるゆると中で指を動かすと蜜がくちゅり、と溢れた。
一度指を抜き裾を割って、男を迎え入れる期待に震えているそこを見つめる。
「なあ、相手がいない間ずっとこんなふうに1人でしてたのか?」
「っ!……」
「図星みたいだな。してる時どんなこと考えてた?」
一番敏感な突起を指先で転がす。
「ふぅっ!はぁんっ…」
「リボーンが大人になってからやるときの事想像しながら?
それとも前の男とやった時のこと思い出しながら?」
再び指を突き入れ抜き差しを繰り返す。
「ん、んん、ふぁっ」
「そんなに欲求不満ならそこらへんの男捕まえてやればよかっただろ。
それとも愛するリボーンがいるから我慢してたのか?」
「はぅっ!」
中でぐりっと指を捻るとビアンキは体を震わせて達した。
布団の上ではあはあと肩で息をする女を冷静な瞳で見下ろす。
(それなら何で今オレとこんなことしてるんだよ)
矛盾している。
ビアンキの美貌なら相手に不自由はしないだろう。
誰でもいいなら行きずりの男の方が後腐れなく済む。
リボーンに操立てしているのならこうしてディーノに体を開くはずもない。
矛盾、している。
(オレもか…)
女なら誰だろうとよいはずなのにこんなにも
ビアンキのことを気にするのはおかしい。
欲望の捌け口でしかない女が何を考えていようとどうでもいいはずなのに。
思考を吹っ切るようにディーノはバッグから常備しているコンドームを出し、
すでに勃ち上がった自身に装着すると一気にビアンキを貫いた。
「―っ!!」
息を整えている最中いきなり挿入されたビアンキは
声にならない悲鳴を上げてのけぞった。
顔が布で隠れていても苦痛の表情をしているのが見てとれる。
それを無視してビアンキの腰を掴みぐいぐいと深く進入していく。
最後まで入れると女のとろけるような熱さと柔らかさにディーノもはぁ、と息を漏らした。
目と口をハンカチで覆われたビアンキの顔から目を逸らし、無言で動き始める。
「んっ!はぁ…!」
最初は痛みを訴えていた声がだんだんと色づいていくのを感じながら
ディーノは腰の動きを激しくした。
繋がった部分からは肌のぶつかり合う音と粘液の絡む淫らな音が響く。
男と女は夢中で互いの体を貪り合った。
「は、うぅっ、ふうっ、んぅーっ!!」
ビアンキの体がビクンと跳ね二度目の絶頂を迎える。
「く…っ」
強い締め付けにディーノも続いて果てた。
「……」
ぐったりと横になったビアンキを見つめる。
先ほどまで自身を銜えていた秘所はひくひくと震えていて、
それを見ているだけでまた自身に熱が集まる。
「…ディーノ」
呼ばれて顔を上げると、口元のハンカチがずれて赤い唇が覗いていた。
「何だ」
「もういいでしょ、ハンカチと鞭」
「…そうだな」
白い腕を縛り上げていた鞭を外すと赤く痕がついていて、
やりすぎたかと少し後悔する。
腕が自由になるとビアンキは体を起こし、自分でハンカチを外し
畳の上に放り投げた。
「どうだった?やっぱ見えない方が感じただろ」
罪悪感を振り払うように揶揄するとじろりと睨まれた。
ポイズンクッキングが来るかと身構えたディーノだったが、
彼の唇に押し当てられたのは毒々しい料理ではなく
ビアンキのふっくらとした唇だった。
「やっぱり見えた方がいいわ」
唇を離してぽつりと呟く。
「毒サソリ…?」
「こんな時くらい名前で呼んだら」
不機嫌そうな声でビアンキが言う。
「…ビアンキ」
名前を呼ぶとふっと肩の力を抜くのが分かった。
「ディーノ、私だって誰でもいいってわけじゃないのよ」
「え?」
「愛のないセックスなら相手を選ぶ必要はないわ。だけど私はあんたを選んだ」
「それって…」
ディーノは目を瞬かせた。
「リボーンへの愛はもっと大きいけどね」
きっぱりと言われて苦笑する。
「分かってるよ」
それでも素直に嬉しいと感じてしまう。
「…悪かったな」
ビアンキの腕をとり鞭の痕をそっと撫でる。
「分かればいいのよ。これくらいすぐに治るし気にしないわ」
「悪いついでにもう一つ。…もう一回いいか」
「…目隠しは無しよ」
衣類を全て脱ぎ捨て布団の上で全裸で絡み合う。
ビアンキはまじまじとディーノの分身を見つめる。
「…道理で久々とはいえ痛かったはずだわ。あんたへタレのくせに大きすぎ」
「そうか?」
「そうよ今までの男の中で一番の大きいわ」
「それって褒めてくれてるんだよな」
「事実を述べたまでよ。調子に乗らないで」
口調は素っ気ないが口元は綻んでいる。
今まで美人だとは認めていたが可愛いと感じたのはこれが初めてだった。
「でももっと大きくなるわよね」
そう言ってビアンキは手を伸ばした。
白い指がディーノの性器を上下に滑る。
「っ…」
それだけで手の中のディーノ自身がびくりと勢いを増す。
そのままビアンキは両手で包み込み強弱をつけながら擦り上げていく。
先端から溢れる汁が彼女の手を汚しても気に留めない。
裏筋を撫で上げ、先端を爪でつつく。
「どんどん大きくなってきてる」
見上げる視線の艶っぽさにディーノはごくりと唾を飲んだ。
「ああ。早くビアンキに挿れたくて仕方ねーんだよ」
正直に告げるとビアンキはふふ、と笑った。
「いいわよ。私をもっと満たしてちょうだい」
「行くぞ」
声を掛けて自身をゆっくりと挿入していく。
二回目だったせいもあって一回目よりだいぶ楽に奥まで入れることができた。
「動いていいか?」
「ええ…」
首に腕を回して頷くビアンキの頬にちゅっと軽くキスして腰を動かす。
熱い塊が出入りする感覚にビアンキは「あぁっ!」と甘い声を出した。
慌てて口を押さえようとするのを制し深く口付ける。
「んっ。ふ…、あふ…」
お互いに舌を絡ませ合い、上からも下からも粘着質な音が生まれる。
ビアンキの白い脚がディーノの腰に密着し、
料理のために短く切り揃えてある爪が彼の背中に赤い線を引いていく。
快楽に切なげに顔を歪める彼女を強く抱き寄せながら、ディーノは思った。
せめてこの一晩は胸の中のビアンキを離したくないと。
翌日。
「ふぁ〜…」
沢田家を出て部下達が泊まっているホテルへと向かいながら
ディーノはあくびをかみ殺した。
結局もう一回どころかあの後何度も体を重ね、
眠りについたのは夜明け近くだったのだから無理もない。
何も知らずに「日本に来たらまた寄ってくださいね」と言ってくれた
ツナの顔がやけに眩しく見えた。
あの純粋で初心な弟分がこれから先マフィアのボスになっても、
男女間の醜い部分は知らないままで愛する女性と幸せになることを願う。
ビアンキはディーノが起きた時にはすでに出かけていたため別れの言葉も言えずじまいだ。
彼女もそんな言葉は不要だと思っているから彼が起きる前に家を出たのだろう。
それでいいのだと思う。
激しく抱き合いながらもお互い割り切っていた。
ビアンキにはリボーンがいるし、ディーノには守るべき
ファミリーのため今は1人の女に夢中になっている場合ではない。
次に会う時はお互い何事もなかったかのように振舞うのだろう。
それが一番いいのだと自分に言い聞かし、
自分を待っている部下達の下へと足を速める。
彼が遠くから自分の背中を見送るビアンキに気付くことはなかった。