その後大人イーピンはしばしばヒバリの前に姿を現した。
受験前で緊張が解けないから抱きしめてください!
お守りにしたいからヒバリさんのシャーペンください!
暇だから遊びに来ました!
最早願掛けでもなんでもない理由で来ることもあって、さすがの
ヒバリもぐったりしているのであった――――
ここは並盛中学2年A組の教室。そのドアがガラッと開くと、
教室にいた生徒は全員固まった。
ドアを開けたのは最強の風紀委員長雲雀恭弥。そんな固まった空気など
お構いなしにヒバリは目的の人物を発見し、すたすたと歩み寄る。
教室の真ん中で弁当を広げていたツナ・獄寺・山本は驚きを隠せない様子で
箸が止まっている。
「あ、ヒバリさん…」
「てめー何の用だ!」
「ちょっと来て」
「へ!?」
とヒバリはツナの襟首を掴み引きずるように教室を出て行った。
「十代目を離しやがれ!」
ダイナマイトを構える獄寺にツナは必死で制止する。
「お、落ち着いて!すぐ戻るから!」
結局ツナは応接室まで引きずられていき、
「そこ座って」
とソファを促された。
黙って座るツナ。一体何事なのかとその顔面は蒼白になっている。
(お、オレ生きてここから出れるのかな…)
ヒバリはツナの向かい側に腰を下ろすと口を開いた。
「君んちの子供、一体何者なの?」
「…え?子供??えーと…何人かいるんですけど」
訳が分からないと首をひねるツナ。
「三つ編みしてる子だよ、チャイナ服を着てる」
「ああ、イーピンですか!はい、いますけどそれが何か…」
ヒバリは眉間にしわを寄せながら事の経緯を説明する。
「―――という訳」
「はぁ…なるほど……」
だらだらと冷や汗が滝のように流れているツナ。
(ヤバイ…)
「10年バズーカだかなんだか知らないけど、身の回りをうろちょろされると
目障りなんだよね」
「は…ぃ」
「君んちはどういう教育してるの。大体…」
「ヒバリさ――ん!!」
ガラッと応接室の窓が開き、そこから大人イーピンがよっこいしょ、と入ってくる。
「…こうやって土足で入って来られると迷惑なんだけど」
「い、イーピン!」
「あ、沢田さんだ!こんちは!」
にこにこと笑っているイーピン。ヒバリに向き直ると、ぱっと風呂敷包みを取り出した。
「お昼ごはん一緒に食べようと思ってお弁当作ってきました!」
「いらない」
「そんなこと言わずに!」
とイーピンはいそいそと包みをほどき、テーブルに弁当を並べ始めた。
お重に詰められた弁当は中華風でどれも美味しそうだ。だがヒバリはますます眉間のしわが
深くなり不機嫌になっている。慌てたツナがイーピンに耳打ちをした。
『まずいよイーピン!ヒバリさん怒ってるよ!』
とばっちりを受ける可能性が高いのでツナも必死なようだ。
『気位の高いヒバリさんがそんな簡単に手作り弁当なんて食べないって!!』
ふんふんとツナの言うことを聞いていたイーピンは、
「そうだ!」
と頭の上に電球を光らせた。
(古っ!)
どんな時でもツッコミは忘れないツナである。
「じゃあヒバリさんあたしと手合わせしてください!ヒバリさんの第一手を
しのげたらお弁当食べてほしいです」
ヒバリの目がぴくっと動く。さらに青くなるツナをよそにヒバリはトンファーを構えた。
「いいよ」
構えをとる2人。じり、じり、と間合いをとっている。
ヒバリは床を蹴り、イーピンの首元を狙ってトンファーを振り下ろす。しかし
イーピンはしっかりと目で追い左手刀でトンファーの軌道をいなし、避ける。
ほんの一瞬の攻防だったが、2人の動きが止まったのをみてツナは
「かわした!」
と叫んだ。その声をきっかけにイーピンはほっとしたような顔で構えをとく。
ヒバリは無言でトンファーを懐にしまっている。
「結構やるんだね… !」
先ほどの攻防で、トンファーの風圧でイーピンの左胸元の服が裂け下着が見えてしまって
いるのを発見したヒバリは心なしか耳を赤くし、自分の着ていた学ランをイーピンに放った。
「…これ着て」
「えー別に寒くないですよ」
「いいから着て!じゃなきゃ食べない」
「それはダメです!着ます!」
と急いで学ランに袖を通すイーピンだった。
その間にホウホウの体で応接室を抜け出したツナはダッシュで教室に戻っていた。
「ひ〜助かった〜! …でもヒバリさん、手加減したような気がしたんだけど…」
自分に歯向かう相手はたとえ女子供でも容赦しないイメージがあったのだが、
(女の子には案外優しいのかも…)
と意外な一面を発見したツナであった。
「約束ですよー!」
とイーピンは嬉しそうにいそいそと弁当をテーブルに並べていく。お重の中には
中華風の豪華なおかずが入っていた。
約束は約束、特に戦闘が絡んだ事は反故に出来ないという主義なのか、ヒバリは
諦めたのかソファに座って食事の準備を待っている。
「はいお茶ですー」
ヒバリはお重の中の肉団子の甘酢あんかけを一つ箸に取り口に入れた。
それは程よく酸味と甘みが絡んでとてもジューシーで、思わず
「……美味しい」
と言葉が出てしまうほどだった。誉められたイーピンは顔を真っ赤にして喜んでいる。
にこにことヒバリが食べるところを見ていたイーピンは、ヒバリの口元にソースがついているのを
見つけると自分の顔を近づけぺろりと舌で舐め取った。
「…!」
ふふ、と笑うとイーピンは
「そろそろ時間なんで行きますね。お弁当食べてくれてありがとうございました」
と窓から出て行った。
「何なのあの子…」
とヒバリは一旦箸を置いて広げられた弁当を見つめていたが、再度箸を取り食べ始めたのだった。
「……美味しいな…」
END