「ったく沢田、何回遅刻すれば気がすむんだ!?」
ここは並盛中職員室。遅刻常習犯の沢田綱吉ことツナは今日も例外なく寝坊し、
生徒指導の教員に叱られている。
「……すみません」
うなだれているツナをにらんでいた教員は、急にひらめいたような顔をした。
「まあ、今日は特別に罰は許してやろう」
「え、本当ですか?」
ぱっと顔を上げ喜ぶツナ。遅刻者は罰としてトイレ掃除が定番だったのだが、それを免れるとあって
ツナは満面の笑みだ。
「ああ。そのかわり…」
ごそごそと黒い表紙の日誌を取り出し、ツナに手渡す。
「この日誌を応接室にいる風紀委員長に渡してくれ、頼んだ!」
「―――え゛え゛え゛え゛え゛!?」
重い足取りで応接室に向かうツナははぁ〜〜盛大なため息をつく。
「先生、いくらヒバリさんが苦手だからって押し付けんなよな〜」
牛歩作戦をとりちょっとでも応接室への到着を遅らせていたが、ついに着いてしまったツナ。
(あ〜緊張する…ヒバリさんいないといいな…)
不在なら応接室の机の上に置いていけばいい、一縷の望みをたくしてツナは応接室の様子を伺うように
かがんでドアに耳をくっつけてみた。
『――ヒバリさん』
中からは大人イーピンの声が聞こえてきた。
(イーピンいるんだ…じゃあヒバリさんもいるのかな)
耳をくっつけたままツナは考えをめぐらせていると……
『んっ…かたい…』
『だから言ったのに』
『だ、大丈夫ですあたし…』
『無理しないでいいよ』
『っくぅ… あ、ぁ…』
『―――』
『やっ、あふれちゃう!』
『ゆっくり、徐々に…そう』
(〜〜〜〜〜!!??)
ツナは耳をくっつけた姿勢のまま固まってしまった。
(何いまの!何してんのあの二人―――!?)
そこに、たまたま通りかかった獄寺。親愛なる我がボスの姿を発見し、ダッシュでツナに駆け寄る。
「十代目、おはよーございます!…何してんスか?」
「わあぁ!ご、獄寺くん…」
「?どうしたんですか?顔真っ赤っスよ」
体育座りの姿勢のまま動けなくなっているツナ、不振に思った獄寺はツナの隣に同じように座り、ドアに耳をつけてみた。
『きゃ、やだぁ…』
『ああ、溢れてるじゃない』
『だってヒバリさんがいじるから…ぁ』
「〜〜〜〜〜!!??」
ツナと同じく獄寺も顔を真っ赤にしてあわててツナに小声で話しかけた。
(じゅ、十代目あいつら何してんスか!?)
(知らないよ――!!聞いちゃいけない事聞いちゃったよー!!)
(とにかくここから離れましょう!)
と二人がそっと立ち去ろうとした瞬間、その背後に山本が姿を現した。
「よっ、何してんだこんなとこで」
((うわぁぁぁぁあ!!!))
口から心臓が飛び出る勢いで驚く二人。
「部活で使う備品発注の書類を風紀委員長から貰ってきてくれって先生に言われてさー」
はっはっはと笑いながらナチュラルにドアを開けようとする山本。
「ヒバリー、入るぞー」
「うわわ山本ちょっと!!」
「待て野球バカ!!」
ガチャッと開かれるドア。しゃがんで足がしびれていたツナは獄寺を巻き込んで応接室の中に転がり込んでしまった。
どた―――――!!!!!
「?」
「あ、沢田さんに獄寺さんに山本さん」
そこにはソファに座ってなにやら作業をしているヒバリとイーピンがいた。その様子から、いかがわしさは見受けられない。
頭を抑えて立ち上がるツナは、しどろもどろになりながら質問する。
「え、と…二人はいま何を…?」
「万年筆にインクを補充してたんです」
というイーピンの手にはキャップを開けた万年筆が握られている。ヒバリの手にはインクのボトルがあった。
「ボトルの蓋が固くてなかなか開かないし、ゆっくり入れないといけないのにヒバリさんが一気に
入れちゃうからこぼれちゃってー」
ほら、とインクだらけの自分の手をツナに見せるイーピン。
「あ、そ、そう…」
「ったく人騒がせな!」
ぱんぱんと服についたほこりを払う獄寺。
「ところで君たちはドアの外で何してたの」
((―――――!!!!!))
勝手に勘違いしていたツナと獄寺に本日最大の試練が待ち構えていたのだった。
終わり