「ツナ君話って?」  
そう言って首を傾げる京子を前にしてツナはぎゅっと拳を握り締めた。  
ついに京子に告白しようと決意し放課後屋上に呼び出したはいいが、  
肝心の言葉が上手く出てこない。  
緊張で喉が渇いて手は汗でぐっしょりだ。  
「うん。…京子ちゃんに言いたいことがあって」  
「何かな?」  
夕日が京子の茶色い髪をオレンジに染めている。  
大きな瞳で見つめられて頭の中がかーっと熱くなる。  
「えっと、あの…お守りホントにありがとね!  
 お陰で勝てたからちゃんとお礼言いたくて!」  
違うだろ何言ってんだよオレ、と心の中でツッコミを入れるツナ。  
そんな彼の葛藤も知らず京子は穏やかに微笑む。  
「勝てたのはツナ君の力だよ。でもお守りが少しでも役に立てたなら嬉しいな」  
ツナはへへ、と力のない笑みを向けながらがっくりと肩を落とした。  
骸やザンザスに立ち向かっていくことはできたのに、  
好きな女の子に告白できないなんてつくづく情けない。  
でもこの想いを拒絶されてしまったらと思うとやはり怖いのだ。  
 
「やっぱりオレはダメツナだ〜…」  
思わず声に出して呟くと  
「そんなことないよ!」  
京子が大声で叫んだ。  
驚いて京子を見ると彼女自身も自分の声に驚いた様子だ。  
「京子ちゃん…?」  
「…ツナ君はダメなんかじゃないよ。私ツナ君の全部を知ってるわけじゃないけど、  
 でも私が見てきたツナ君はいつだって頑張ってたもの」  
言いながらかぁぁっと頬を赤らめ京子は目を伏せた。  
(でも京子ちゃんが見てきた頑張ってるオレってほとんど死ぬ気のオレなんだよな…)  
京子の言葉を嬉しいとは思いつつ素直に喜べない。  
結局自分は死ぬ気弾や小言弾がなければ何をやってもダメな弱気な少年なのだから。  
(でも京子ちゃんはオレがリボーンに会う前から優しくしてくれたんだよなぁ)  
クラス中から馬鹿にされ友達が1人もいなかったあの頃を思い出す。  
自分は誰にも相手にされなくても仕方ないと諦めていた。  
だが京子はそんなツナにも他の人間に対するのと変わらない態度で接してくれた。  
憂鬱な学校生活も京子がいるだけで輝いた。  
いつだって彼女の存在が救いだった。  
 
「…ありがとう京子ちゃん」  
ツナは微笑んだ。  
「オレ京子ちゃんが好きだよ」  
弾かれたように京子が顔を上げる。  
見つめられてまた怯む体を叱咤する。  
想いを受け入れてもらえなくてもいい。  
ただ伝えたい、この愛しさを。  
「京子ちゃんの笑顔を見ると落ち込んでる時でも元気になれた。  
 学校なんて大嫌いだけど京子ちゃんがいるからさぼらないで来てた。  
 嫌なことがあった時だって京子ちゃんのことを考えると癒されて―。  
 オレにとって京子ちゃんはパワーの源なんだ」  
「ツナ君…」  
「オレ京子ちゃんがいれば何があっても頑張れる。これからもずっと京子ちゃんと一緒にいたい。  
 …オレと付き合ってほしいんだ」  
ツナは言葉を切り、京子の返事を待った。  
言いたいことは全て言った。  
断られても後悔はしない―。  
 
「私…」  
長い沈黙の後京子が口を開いた。  
「最近ツナ君を見る度変な気持ちになってたの」  
言葉を探すように、ゆっくりと話し出す。  
「胸がドキドキして、ほっぺが熱くなって…。  
 どうしてだろう、この気持ちは何だろうってずっと考えてた。…今、分かった」  
はにかんだ笑みでツナを見上げる。  
「私もツナ君が好き」  
「!!」  
ツナは目を見開いて京子を見つめた。  
「ほ、本当…?」  
信じられなかった。  
嬉しすぎて、都合のいい夢なのではないかと疑ってしまう。  
「本当だよ」  
そっと京子がツナの手を取る。  
その温かさが、これが夢ではないことを伝えてくれる。  
「私もツナ君と一緒にいたい。私が力になれるなら、いつだって私はツナ君の側にいるよ」  
「京子ちゃん…」  
感極まってツナは京子を抱きしめた。  
「オレ京子ちゃんのこと大切にする。何があっても京子ちゃんのこと守るよ」  
「ツナ君…」  
ツナは京子の体を離すとじっと顔を見つめた。  
意図を悟り京子は目を閉じる。  
緊張で睫毛が震えているのを可愛いと思いながら、  
彼女以上に緊張している自分の唇をそっと京子の唇に合わせる。  
触れ合うだけの口付けは一瞬で終わった。  
しかしその時間はツナにとっても京子にとってもかけがえのない一瞬だった。  
顔を見合わせ、照れたように微笑み合う。  
夕日に照らされ2人の影はもう一度重なった。  
 
 
ツナと京子2人の交際は周りに温かく受け入れられた。  
いつも厳しいリボーンも「お前にしては上出来だ」と褒めてくれたし、  
了平も「オレが見込んだ男なら安心だな!」とツナを妹の恋人として認めてくれた。  
さすがにハルはショックを受けていたが「ツナさんが京子ちゃんを選んだんだから文句は言えません。  
お2人ともいつまでも仲良くしないとダメですよ!」と笑ってくれた。  
ツナは幸せだった。  
放課後は毎日肩を並べて帰り、日曜日には遊園地や買い物に出かける。  
ずっと遠くから見ているだけだった憧れの女の子が今は自分の隣で笑っている。  
それだけで次の日が来るのが待ち遠しく、生きていることがより楽しくなる。  
ツナは本当に幸せだった。  
 
そうして付き合ってから一ヶ月過ぎたある日、  
学校から帰って漫画を読んでいる最中リボーンから  
「お前いい加減キスからセックスに進まねーと愛想つかされるぞ」  
と言われたツナは、飲んでいたジュースを漫画に吹いてしまった。  
「何言ってんだよ赤ん坊のくせに!つーか何でキスしたこと知ってんだよ!!」  
リボーンはニヤリとニヒルな笑みを浮かべた。  
「オレは読心術を習得している。最初会った日に言っただろう。  
 お前が京子とキスしたことなんてお見通しだ」  
(そーいやそうだったー!!すっかり忘れてた)  
「そうやって大切なことを忘れるからお前は暗記もののテストで赤点ばかり取るんだ」  
「早速読んでるし!そう言うけどお前が読心術使えることが何かの役に立ったか!?」  
「ところで話を元に戻すが」  
(痛いところ突かれてスルーしたー!!)  
ツナの心の叫びもスルーしてリボーンはベッドに仁王立ちし、床に座っているツナを見やった。  
「お前と京子が付き合ってもう一ヶ月だ。それなのにキスから進めないでいる」  
「それのどこが悪いんだよ!オレ達まだ中学生なんだからキスまでで十分だろー!?」  
「甘いぞツナ。お前は将来ボンゴレのボスになる男。  
 そしてこのまま京子と付き合っていくなら京子はボスの妻だ。  
 跡継ぎのことも考えなくてはいけないんだぞ」  
「ザンザス倒したけどオレはボスになる気ないって!  
 京子ちゃんと日本で平凡な家庭を築ければオレは幸せだから!」  
冗談ではない。  
あの純粋な京子をマフィアのボスの妻になどと。  
 
「まあボス云々は置いておいてもだ。ツナは京子とセックスしたいとは思わないのか?」  
「えっ」  
赤ん坊の大きな黒目に見つめられてツナはたじろいだ。  
(そりゃあしたいけどさ…)  
ツナだって男だ。  
あんな可愛い女の子を抱きたくないはずがない。  
「でもまだ早いって!オレ達まだ子どもだし…」  
「中学生でセックスしている奴らは大勢いるぞ。  
 もちろん妊娠やら性病やらといったトラブルを起こすのは愚の骨頂だけどな」  
「さりげなくすごいこと言うなよー!!」  
そういった話に疎いツナには中学生の妊娠や性病など生々しすぎる。  
しかしリボーンは真面目な顔だ(いつもと変わらないように見えるが真面目な顔なのだ)。  
「要するにオレが言いたいのはちゃんと知識を持って避妊をし責任を持ってセックスをしろってことだ」  
「話は分かるけどやっぱまだ早いって。特に京子ちゃんはオレよりずっと純粋でこういうことには…」  
「いいかツナ」  
リボーンはぽんとベッドから降りるとツナにトコトコと歩み寄った。  
そして言った。  
「女にだって性欲はある」  
 
一方京子は家で花を迎え入れていた。  
京子がツナと付き合うことになってから、いろいろと話を聞いてくれているのだ。  
「沢田も1年の頃と比べれば成長したと思うよ。  
 京子に告白する勇気があったのが何よりもの証拠だね」  
「ツナ君は前からやる時はやる人だったよ」  
「何それ惚気―?」  
頬をピンクに染め微笑む京子を見て花は心の中で安堵した。  
正直2人が付き合うと聞いた時は、この友人をツナに任せて本当によいものかと思った。  
京子とは長い付き合いになるが、無邪気で子どもっぽい京子を可愛いと思う反面  
心配になることも多々あり、京子の恋人には彼女を任せられるだけの度量が必要だと常々感じていたからだ。  
だがツナは勉強や運動はダメだが京子を想う気持ちは人一倍のようで、  
彼女を大切にしようという心意気が感じられた。  
だから花も2人の交際を祝福した。  
そして今、京子はとても幸せそうだ。  
本当によかったと思う。  
 
(…だから無粋だとは思うんだけどね)  
そう思いつつ花はバッグから紙袋を取り出した。  
「京子これを読んで」  
「何?雑誌?」  
「そう雑誌…それと」  
花は少し顔を赤らめつつもう一つの小さな紙袋に包まれた箱を出した。  
「これは?」  
「…コンドーム」  
京子が花が発した言葉の意味を理解するのには時間を要した。  
理解すると京子は顔を真っ赤にして箱を凝視した。  
「な、何で花がこんなのを…?」  
「ほらあんた達付き合ってもう一ヶ月だし、いつそうなるか分かんないでしょ。  
 でも沢田だって初めてだろうしあいつに全部任せられるとは思えないから、  
 あんたも勉強しといた方がいいと思ってそういう雑誌買ってきたの。  
 で、コンドームは沢田が持ってなかったらちゃんとこれ渡して着けてもらいなよ」  
早口でまくしたてると花は立ち上がった。  
大人びてはいるが彼女も中学生。  
照れくさいのだ。  
「それじゃあまた明日学校でね」  
そう言ってまだ真っ赤になって硬直している京子をそのままにして花は帰っていった。  
 
残された京子はようやく硬直から解けると恐る恐る雑誌を取り出した。  
表紙は着飾った女の子が3人で写っている一見普通のファッション雑誌だが中身は  
『読者100人に聞きました!初エッチの思い出は?』  
『エッチ中にしてあげると彼が喜ぶことは…』  
『一番興奮したシチュエーションは?』  
などといった過激な記事ばかりだった。  
(こ、こんなことするの?無理だよ花…)  
しかし花の「いつそうなるか分かんない」「あんたも勉強しといた方がいい」という言葉を思い出す。  
自分とツナもいつかはこの雑誌に載っているようなことをするのだ。  
その時自分が何も知らない状態だとツナが困るのではないだろうか。  
(恋人同士だもん…。そういうことだって恥ずかしがらないで覚悟しないといけないんだよね)  
京子は自分に言い聞かせながら雑誌をめくっては閉じめくっては閉じを繰り返すのだった。  
 
 
日曜日、ツナは京子の家の前で立ち尽くしていた。  
今日は前々から約束していた京子の家で一緒に作文の課題をやる日なのだ。  
もう約束の1時はすでに過ぎている。  
しかしツナはチャイムを押せないでいた。  
京子の家に上がるのが初めてだという緊張もある。  
しかしそれ以上にツナを躊躇させているのは出かける時のリボーンの言葉だ。  
 
「今日はまたとないチャンスだぞツナ。お前らは中学生だからホテルは無理。  
 ツナの部屋は家族以外の人間すら勝手に入ってくるというプライバシーの無さ。  
 それに比べて京子の家なら家族さえ外に出せばお前ら2人きりで過ごせる。今日こそ決めてこい」  
そう言って渡されたコンドームをツナは真っ赤になって床に叩きつけた。  
「何言ってんだよ!今日は課題やるだけだから!そんなやましいこと考えてないから!」  
「安心しろ手回しはしてある。京子の両親は昨日の朝から出かけている。  
 懸賞に当たったことにしてオレが偽のチケットを送った。南の島マフィアランドにな」  
「よりにもよってマフィアランドー!!?何て所に京子ちゃんのご両親招待してんだよー!!」  
「そして了平にはパオパオ師匠としてタイへ行かせている。今頃強豪と戦っているはずだ」  
「タイー!?何それ京子ちゃんとオレを2人きりにするためそこまで大掛かりなことを…」  
ツナは頭を抱えた。リボーンの黒い瞳が光る。  
「そうだぞ。これだけ大掛かりな仕掛けをしたんだ。京子と何の進展もなく帰ってきたら…」  
懐から銃を取り出す。  
「そんな不甲斐ない奴には実弾をお見舞いだ」  
「メチャクチャだー!!」  
「まあ頑張れよ」  
へたへたと床に崩れるツナのズボンのポケットにコンドームを押し込み、  
リボーンは颯爽と部屋から出て行った。  
 
そうして今ツナはこうして京子の家の前で迷っているわけなのだが…。  
(そんな急にセックスしてこいなんて言われてできるわけないだろー!?  
 今まで京子ちゃんとそういう雰囲気になったことすらないのに…)  
キスだって触れるだけの可愛いものだ。  
自分がいきなり迫ったら京子だってびっくりするだろう。  
拒絶されて嫌われてしまったら一生立ち直れない。  
(ああ〜どうしたらいいんだ)  
 
「ツナ君?」  
「うわっ!!」  
ドアから京子が顔を出しツナは飛び上がった。  
「遅いから電話しようと思ったら窓から見えたから…どうしたの?」  
「い、いや京子ちゃんの家の門柱があんまり見事だから見とれちゃって!!」  
咄嗟に右腕(自称)が以前使っていた言い訳をする。  
案の定京子はきょとんとし、くすりと笑った。  
「おかしなツナ君。どうぞ上がって」  
「う、うん。お邪魔しま〜す…」  
「今日は私一人だけなの。お父さんとお母さんは懸賞で南の島で、  
 お兄ちゃんは強い人と戦うためにタイに行ってるから」  
「そっか〜。すごいね…」  
乾いた笑みを浮かべながらツナは京子に案内されるままに階段を上り彼女の部屋に入った。  
「今飲み物持って来るね。温かいのと冷たいのどっちがいい?」  
「うーん。冷たいのもらえるかな」  
外は寒かったが京子の部屋は暖房が効いていて温かいし、何より緊張で喉がひどく渇いていた。  
「じゃあ座って待ってて」  
にこっと微笑み京子は部屋を出て行く。  
1人きりになるとツナははーっと息をついた。  
(やっぱ無理だよ…。京子ちゃんはオレがこんなこと考えてるなんて夢にも思ってないんだから)  
やはり今日は何事もなく帰ろう。  
リボーンにどんな目に遭わされようが京子に嫌われるよりは数倍ましだ。  
そう考えると急に気持ちが楽になり、  
ツナはようやく落ち着いて京子の部屋を見る余裕ができた。  
真ん中に置かれた小さな丸いテーブル。  
ピンクと赤のビーズ入りクッション。  
棚に飾られたぬいぐるみ。  
(やっぱ女の子の部屋だなぁ可愛いや。オレの部屋みたいに散らかってないし)  
ベッドは枕カバーと毛布がピンクで統一されている。  
(ここで毎日京子ちゃん寝てるんだ…)  
そう考えると胸がドキドキする。  
ふと枕元に置かれた雑誌に目が留まった。  
女の子3人の表紙で、皆可愛らしい服装をしている。  
(ファッション雑誌かぁ。京子ちゃんいつも可愛い服着てるもんなー。  
 こういうの読んで参考にしてるんだ)  
あまり服装に構わないツナは興味を持って雑誌を取り上げた。  
何気なくページをめくったツナはそこに書かれた  
『初エッチは中1で先輩と部室で…』という文字に目を見開いた。  
(え?え?えぇ〜!?)  
ページをめくっていくと『私の彼はマゾなのでエッチ中は私の奴隷』  
『一番ドキドキしたのはデパートのトイレでした時』など過激な体験談が赤裸々に書かれている。  
(な、何これ!?え、京子ちゃんこれ読んでるの!?)  
パニックになりながらリボーンの言葉を思い出す。  
―女にだって性欲はある。  
 
その頃京子はキッチンでツナに出すクッキーを皿に盛りながら、  
テーブルに置かれたある物を見つめていた。  
階段の途中に落ちていたそれ―コンドームである。  
自分が花にもらったのは箱から出さないまま机の引き出しの奥にしまってあるし  
第一ツナが家に入る前にはこんな物落ちていなかった。  
つまりツナが落としたとしか考えられない。  
京子の推察どおりそれはツナのポケットから落ちた物だった。  
しかし彼女はそれがリボーンがポケットに入れたのだとは知らない。  
ツナが自分で持ってきた物だと思っている。  
(だとするとツナ君今日はそのつもりで来たってことになるのかな…。  
 どうしよう、まだ心の準備が…)  
花にもらった雑誌は読んではみたものの余りに生々しすぎてまだ数ページしか読んでいない。  
正直セックスに対して恐怖感を感じてしまったほどである。  
だから今日ツナが来るというのに突然家族全員が出かけることになって京子は動揺した。  
挙句このコンドームである。  
もし部屋に戻ってツナが求めてきたらどうしよう。  
受け入れるか、拒むか。  
京子は迷ったままトレイにグラスと皿を載せ部屋へ向かった。  
 
「お待たせ」  
京子がドアを開けるとカーペットの上で正座していたツナはそのままの姿勢で飛び上がった。  
「ぜ、全然待ってないよ。京子ちゃんの部屋可愛いよね!」  
「ありがとう。ジュースとクッキーどうぞ」  
「う、うん。いただきます」  
2人はしばし無言でジュースを飲んだ。  
(ああいう雑誌を読むってことは興味あるのかな京子ちゃん…)  
(いつ言い出すか考えてるのかなツナ君…)  
そんなことを互いに考えているうちにグラスも皿も空になった。  
「お代わり持ってくるね」  
立ち上がった京子は床にあの雑誌が落ちているのに気がついた。  
(やだ、片付けるの忘れてた…。あれ?でもこれ確か枕元に置いてたはず…)  
ある予感に京子は背筋を凍らせた。  
「つ、ツナ君」  
「?どうしたの京子ちゃん」  
「…あれ読んだ?」  
京子が指差した方を見てツナはぎょっとした。  
京子が階段を上ってくる音に慌てて枕元に戻したはずの雑誌が床に落ちている。  
「え、えっと」  
読んでいないとすぐに答えない時点で答えを言っているようなものだ。  
京子は恥ずかしさに可哀相なくらいかぁーっと顔を赤くしてしゃがみ込んだ。  
 
「ごめん、オレただのファッション雑誌だと思って」  
「ううん、置きっぱなしにした私が悪いの…」  
京子は一息吐いて話し出した。  
「…私あれを読んで勉強しようとしたの。  
 ツナ君といつかそういうことになる時何も知らないままじゃいけないと思って…」  
(そういうことか…)  
ツナは納得した。  
同時に清純な京子が自分と結ばれる時のために  
わざわざ雑誌を読んでまで勉強しようとしてくれたことを嬉しく思う。  
純粋で、健気で、愛しい。  
 
「京子ちゃん、オレの正直な気持ちを言うね。  
 オレは京子ちゃんとキス以上のこともしたいとは思ってる」  
「……」  
「でも焦ることないと思うんだ。オレ達にはオレ達のペースがあるんだから。  
 京子ちゃんの心の準備ができるまでオレ待つから、無理しなくていいんだよ」  
「ツナ君…」  
「ね、だからそんな顔しないで。オレ京子ちゃんにはいつも笑っててほしいんだ」  
ツナはそう言って京子の頬を優しく撫でた。  
京子はツナの手のひらに自分の手のひらを重ね、甘えるように頬を寄せる。  
その仕草が可愛らしくて、ツナは吸い寄せられるようにキスをした。  
離れると、今度は京子の方から唇を合わせてきた。  
離れてはまた触れ合う唇。  
自然と重なり合う手。  
甘く漏れる吐息。  
しかしツナは京子の体を引き離した。  
「どうしたの…?」  
「いや、これ以上続けると…オレもっと京子ちゃんに触りたくなっちゃうから」  
そう言って照れくさそうに下を向く。  
「…いいよ、触って」  
「え」  
驚いて顔を上げると、京子が腕を首に回して抱きついてきた。  
「きょ、京子ちゃん…」  
「大丈夫…心の準備できたから」  
焦るツナの声を聞きながら京子は微笑した。  
何も怖がることなどなかったのだ。  
ツナは自分を何よりも大切に想ってくれている。  
そして自分はそんなツナを誰よりも愛している。  
ツナにもっと触れられたい、もっと深くまで愛されたいと、体が心が訴えている。  
自然なことなのだ。  
愛する人と結ばれるということは。  
大好き、と耳元で囁くとぎゅうっと強い力で抱きしめられた。  
 
そっと耳たぶを甘噛みすると京子がピクッと震える。  
(何だか小動物みたいで可愛い)  
ツナはそっと微笑みちゅっ、ちゅっと軽いキスを耳元から首筋に落としていく。  
「ふぅ…ん」  
キスされる度に小さな電流が走るようで京子は身を捩った。  
無意識のうちに甘い声が出て、体の力が抜けてツナにしがみついてしまう。  
ツナはそんな京子を支え、唇を重ねた。  
今までの触れるだけのキスではなく、唇の間から舌を割りいれる大胆なキス。  
最初京子は体を強張らせたが、すぐ同じように舌を絡ませた。  
柔らかく濡れた感触を互いに味わう。  
「んぅっ、ふ…はぁっ…ん」  
しばらくキスを交し合った後、ツナは京子のニットに手をかけた。  
「えっと…手上げてもらえる?」  
「あ、うん…」  
ぎこちない手つきでニットとスカートを脱がせると  
京子が身につけている物は淡いピンク色の下着だけになった。  
中学生にしては大きな胸、ほっそりとした腰、しなやかな太股。  
少女から女性へと成長途中の体は服の上からでは分からない色香を醸し出していた。  
ツナはそっと京子をベッドの上に寝かせると、  
白く瑞々しい肌に夢中になってキスをする。  
時折強く吸い付くと白い肌に赤い花びらが咲いた。  
 
「ブ、ブラジャーも外すね…」  
掠れた声で告げ、京子の背に手を回す。  
しかし指が震えてブラジャーのホックがなかなか外れない。  
焦っていると京子が自分で外してくれた。  
(カッコ悪いなオレ…)  
そんな思いもブラジャーが京子の肌から滑り落ちた瞬間どこかへ飛んでいった。  
ふっくらとした白い乳房とその上で可愛らしく主張する桜色の乳首に一気に熱が上がる。  
熱に浮かされるように手を伸ばし手のひらで乳房を包む。  
母親以外で初めて触れる女性の胸はしっとりと滑らかで柔らかかった。  
指先でちょん、と乳首をつつくと京子の唇から吐息が漏れる。  
表情を窺うと京子は目をぎゅっと瞑っている。  
その目元は赤く染まっていた。  
ツナは京子の顔を見つめながら乳首を摘んだり押しつぶしてみたりした。  
「んぅ…、あっ、ふぁ…」  
刺激を与える度に京子の瞼がピクピクと動き、唇から艶かしい声が漏れる。  
(京子ちゃん感じてるんだ…オレに触られて)  
その事実がますますツナの体の熱を上げた。  
刺激を受けて赤く色づいていく乳首に吸いつき、舌先でちろちろと舐め上げる。  
「やっ、あぁっ!あん、んぅ…ん!」  
 
京子は自分の口から溢れる声をどこか遠くのもののように感じていた。  
とても恥ずかしいのにそんなことがどうでもよいと思えるほど気持ちがいい。  
もっとツナに触れてほしいと体が訴えている。  
(私って自分で思っていたよりエッチなのかな…。  
 ううん、きっと相手がツナ君だから…。好きな人だからそう思うんだ…)  
そっと目を開いてツナを見る。  
自分の胸を愛撫するツナはドキリとするほど男の顔をしている。  
ふと未だ下着に隠された場所に違和感を感じる。  
とろとろと何かが溢れ下着を濡らしていく感触。  
それが雑誌で読んだ感じて濡れるということだと悟って京子は顔を火照らせた。  
無意識のうちにもじもじと太股を擦り合わせる。  
 
胸を愛撫するのに夢中だったツナもそれに気付いた。  
濡れてうっすらと透けた下着をゆっくりと脱がしていくと、  
秘部と下着の間をねっとりとした糸が引いた。  
(わ…)  
薄い茂みの奥からは蜜がとろとろと溢れ桃色の襞を濡らしている。  
指先で触れると蜜が絡み付いた。  
傷つけないように注意しながらそっとそこを割り開くと、  
京子の女性の部分が眼前に曝け出された。  
初めて見る光景にツナの目は釘付けになった。  
(ここにオレのを入れるんだ…)  
ごくりと唾を飲み込み、充血したクリトリスを指先で弄る。  
「やぁっ、あっ!ひぁっ、ああん!」  
京子はシーツを固く握り締め喘ぐ。  
ツナは秘部に顔を寄せぺチャぺチャと舌を這わせた。  
「あぁっ、あん、ひゃんっ!」  
(すごい、どんどん溢れてくる…)  
ジーパンの中で痛いほどに勃ち上がっている自身の限界を感じてツナは顔を上げた。  
瞳を潤ませはぁはぁと息を弾ませている京子。  
白い肌は上気してピンク色に染まり、ふるふると小刻みに震えている。  
普段と違う淫らな姿が美しい。  
 
「京子ちゃん…」  
ツナは京子の目元や頬にキスを落とした。  
「くすぐったい…」  
ふふ、と笑いながら京子も首を上げてツナの頬に口付ける。  
「京子ちゃんオレもう我慢できないみたい…」  
ツナはそう言ってジーパンのポケットを探ったがそこには何もなかった。  
(あれ?リボーンに渡されたコンドームが…)  
「どうしたの…?」  
「あ、いや…」  
この状況で持ってきたコンドームを落としたというのも気まずくて  
うろたえるツナを見て京子は思い当たった。  
「もしかして探してるのこれ…?」  
ベッドの下に落ちているスカートのポケットから拾ったコンドームを  
取り出して見せるとツナはあんぐりと口を開いた。  
「ひ、拾ってくれてたんだ…」  
「階段に落ちてたから。はい」  
「ありがと…」  
無事コンドームを受け取り、はは、と力なく笑う。  
「肝心なところでダメだよねオレ。ムードぶち壊しだしみっともないなぁ」  
京子は首を横に振った。  
「そんなことないよ。今ので私緊張が解けたもの」  
そう言って笑う京子を見てツナも笑った。  
こんな時でさえも自分の失敗を良い方へと考えてくれる京子の心遣いが嬉しい。  
絶対にこの娘を傷つけたくない、大切にしたい。そう思った。  
 
ツナはトレーナーとジーパンを脱ぎ、炎柄のトランクスも脱ぎ捨てた。  
固く勃ち上がるペニスに京子は息を呑む。  
いよいよこの時が来たのだ。  
好きな人と結ばれるこの瞬間が―。  
もう恐怖も羞恥心もなかった。  
ただ早くツナと一つになりたかった。  
「ツナ君、来て…」  
ツナは頷くとコンドームを被せたペニスを濡れた京子の秘部に押し当てた。  
「行くよ…」  
ぐっと先端を入れると京子の顔が痛みに歪む。  
「ううっ…」  
「痛い?」  
「うん…。でも大丈夫、続けて…」  
「少しずつ入れるから…」  
ツナは京子の体を気遣ってゆっくりと腰を進めていく。  
破瓜の血がゆっくりと結合部から流れる。  
京子は初めて男を受け入れる痛みと圧迫感に耐えながら何とか全てを飲み込んだ。  
「ふぅ…」  
互いに息をつき、顔を見合わせて微笑む。  
「全部入ったよ…」  
「私達今一つなんだね…」  
「うん。―もう動いて大丈夫?」  
こくりと頷く京子にキスをし、ツナは腰を前後に動かした。  
「あんっ、やあ、あぁ!!」  
じゅぷ、ずぶ、ずぷっ。  
内部を掻き回されて京子は甘い声を上げた。  
ツナの背に腕を回しぎゅっとしがみつく。  
(京子ちゃんの中気持ちいい…)  
ツナは自身を包み込むとろけそうな感触と締め付けに  
すぐにでも射精してしまいそうだった。  
 
いつまでもこうして繋がっていたい。  
もっと互いの熱を、感触を、想いを感じていたい。  
 
ずぶ、ぐちゅ、じゅぷっ。  
肌がぶつかり合い、粘膜が擦れ合って淫らな音を奏でる。  
そうしている間にも絶頂の瞬間は近づいていた。  
「ツナ君、もうダメェっ…」  
「京子ちゃんっ…」  
ツナは京子の体をぐいっと抱き寄せた。  
より深くペニスが奥に入る。  
「あぁーっ!!」  
達する瞬間、より強く締め付けられツナも精を吐き出した。  
 
互いに荒い息を吐きながら抱きしめ合う。  
京子はぐったりとツナの胸にもたれかかった。  
「大丈夫…?」  
「うん…」  
「とりあえず抜くね…」  
ずるりとペニスを抜き出すと京子はベッドに倒れこんだ。  
「京子ちゃんすごく色っぽかった」  
ちゅっと額にキスすると京子は恥ずかしそうに頬を染める。  
「ツナ君だってカッコよかった…」  
「オレが?そんなことないよー」  
「ホントだよ。…ドキドキしちゃった」  
そう言うと京子はさらに顔を赤くして毛布にくるまってしまった。  
(ああ、もう本当に可愛い)  
ツナは自分も毛布の中に潜り込んだ。  
 
「ツナ君」  
「ん?」  
「ずっと一緒にいてね…」  
「京子ちゃんがオレを嫌いにならない限り、  
 オレはずっと京子ちゃんの側にいるよ」  
「嫌いになんて絶対ならない。私もずっとツナ君の側にいる」  
「うん…。ありがとう、京子ちゃん」  
 
窓から差し込むオレンジの光が、互いの温もりを感じながら眠りにつく恋人達を朱色に染めていた。  
 
 
END  
 

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