記憶というものは厄介だ。  
どんなに楽しい現在でも、過去の記憶がすべてを壊してしまう。  
 
 
 
目を開けてすぐに、ほの暗い廃墟の天井が骸の瞳に映った。  
しんと静まり返ったその建物は、湿った空気と月明かりで満たされている。  
少しだけと体をベッドに横たえたはずなのに、いつの間にか深い眠りについていた。  
 
疲れているのでしょうか。  
骸は小さくため息をついて、開けた目をまたゆっくりと閉じる。  
と、そのときにどこからか、くぐもった声が聞こえて骸は目を開けた。  
上半身だけを起こして、声のした方を見やる。  
となりの部屋、凪のいる部屋から聞こえたような気がした。  
 
「・・・・・・凪?」  
独り言のように彼女の名前を呼んでみるが、聞こえるはずはない。  
ざわざわと不安に近い胸騒ぎ。  
彼女が自分を呼んでいるような気がして、骸は足音を立てないようにそっと部屋から出た。  
 
となりの部屋は小さな部屋だった。  
「どこでも好きな部屋を使ってください」と骸が言ったとき、凪は真っ先にこの部屋を選んだ。  
 
「おや。そんな小さな部屋で大丈夫ですか?」  
「・・・・・・この方が、落ち着くから」  
骸の質問に凪はそれだけ言った。  
「いいのですか?もし、敵の襲撃にあったとき隠れる場所がありませんよ」  
「・・・・・・」  
何故そんな考えが浮かぶのか、凪には分からなかった。何かの冗談だと思った。  
が、骸の表情は笑顔ではあるものの、真剣そのものだった。  
「大丈夫です。・・・・・・多分」  
ぼそぼそと答える凪を見て、骸はくつくつと笑った。  
「では、僕は君のとなりの部屋にしましょう。何かあったら気軽に呼んでくださいね」  
 
それでも凪が骸の部屋を尋ねることはなかった。  
遠慮なのか何なのか。  
それはきっと彼女にしか分からない。  
 
そんなことを思いながら骸は、凪の部屋の前に立ち、ドアを軽くノックする。  
ドアと言っても、随分と前に放置されてしまったこの建物では、在って無いようなものだった。  
「凪?」  
ベッドの上で毛布に包まっていた凪は、骸の声に気付くと俯いていた顔を上げた。  
彼女の顔は涙でぬれている。  
骸は凪のとなりに腰を下ろすと、どうしました?と優しく訊ねた。  
「怖い夢でも見ましたか?」  
骸の問いに凪は首を横に振った。  
「・・・・・・忘れられないんです」  
「何を?」  
「忘れたいことを」  
 
凪のことを骸は詳しくは聞かなかった。聞く必要もなかった。  
彼女のことは彼女の身体を借りたときに何となく知れたからだ。  
悲しいだとか、辛いだとか。  
そんな感情ばかりが流れ込んできて、骸は自我を保つのに少し苦労した。  
そして彼女に同情した。  
今までなら決して生まれない感情。なぜこの娘にはそんな感情が生まれたのか、骸は今でも分からない。  
それでも、骸は凪のことを大切にしなければいけないと思うのだった。  
 
「安心してください凪。僕がそばにいます。僕のことだけを考えてください」  
そうささやいてから骸は凪の身体を抱きしめる。  
二人で触れ合っているところから、お互いの温度を感じる。  
ひんやりとしたこの空気の中ではそのぬくもりが心地よかった。  
「・・・・・・骸様」  
「なんですか?」  
「骸様、なんだかお父さんみたい」  
「・・・・・・え?」  
凪の一言に骸は目を見開いた。  
「私、家族とはあまり仲良くないけど・・・・・・だからよく分からないけど、なんとなく」  
「・・・・・・凪は僕のことをそんな風に思ってたんですね」  
表情は変わらないが、骸の声は明らかに落胆していた。  
実年齢よりも年上に思われたことにではない。  
「凪」  
「はい?」  
「僕は男としての魅力がないですか?」  
「・・・・・・?」  
骸の言葉に凪は首をかしげる。  
そんなことないですと凪は言うけれど、父親みたいだと言われてしまっては、  
一人の男として意識していないと言っているようなものだと骸は思った。  
 
「あまり傍にいてあげられなかったからでしょうか」  
骸はため息をついた。  
凪は骸の言っていることにやっと気付くと慌てて訂正する。  
「あ、あの、違うんです!」  
「凪?」  
「む、骸様はとても素敵・・・・・・私・・・骸様のことが・・・・・・」  
そのあとの言葉はとても小さくて、こんなに近い距離でなければ聞こえていなかっただろう。  
それでも骸の耳にはしっかりと届いた。  
「クフフ、ありがとうございます。僕も好きですよ」  
「!」  
その言葉に凪の胸がどきんと高鳴る。  
急に恥ずかしくなったのか、凪はうつむいた。  
「か、からかわないでください・・・・・・そんな、私なんか」  
「からかってなんかいませんよ」  
更に顔を近づけて骸は言った。  
「や、やだ・・・・・・」  
月明かりに透ける凪の耳が赤くなっている。  
骸は凪の身体をベッドに押し倒すと、真剣な表情で言った。  
「本当です。僕は凪とキスしたいと思ってます」  
「・・・・・・」  
「そしてそれ以上のことも。凪が嫌でなければ」  
「・・・・・・嫌じゃ、ないです」  
か細い声で凪は言った。  
薄暗い部屋でも分かるくらいに、凪の頬は紅潮している。  
「いいんですか?・・・・・・怖くないですか?」  
「・・・は、はい」  
「本当に?」  
「・・・・・・ほんとは、ちょっとだけ・・・・・・」  
遠慮がちに答える凪。骸はくすりと笑って彼女の前髪をあげ、額にそっと口付ける。  
近い距離で目が合うと、今度はお互いの唇を合わせた。  
ちゅ、と軽く何度も口付けた。小鳥が餌をついばむようなキスだった。  
凪が嫌がっている様子はなかったので、骸は深く口付ける。  
舌を絡ませると凪が苦しそうに声を漏らすので、骸は口を離した。  
 
「・・・・・・息は止めなくてもいいですよ」  
「え、あ・・・はい」  
一生懸命に息を止めていたのかと思うと、それを想像して骸は小さく笑った。  
凪は笑われたことに恥ずかしくなったのか、顔を両手で覆った。  
「大丈夫ですよ」  
骸はそう言って凪の頭をなでる。  
少し冷たく、さらさらとしたその髪が指を通るのが気持ちよかった。  
え、とつぶやいて凪は覆った両手を顔から離した。  
「僕がリードしますから」  
骸はもう一度凪の唇にキスをすると、今度は首筋に軽く口付けた。  
 
「あっ・・・む、骸様・・・」  
凪の身体がびくりと振るえ、声が漏れる。  
その間にも骸はゆっくりと凪のパジャマのボタンを外していく。  
本当は乱暴に引きちぎってしまいたい。  
凪が嫌がったとしても、構わずにその身体に貪りついてしまいたい。  
そんな欲望に駆られてしまうが、それはどうしても出来なかった。  
 
凪をうしなうのが怖かった。  
 
ボタンをすべて外すと、二つの丸いふくらみが露わになる。  
月明かりの下に、そのしなやかな肢体は白く美しく、とてもなまめかしい。  
骸がまじまじとそれを見つめていると、それに気付いた凪は両手で体を隠す。  
 
「隠さなくたっていいじゃないですか」  
拗ねたようにそう言って、骸は凪の手をそこから離す。凪は顔を更に赤くして、  
「・・・あ、だ、だって・・・恥ずかしい・・・・・・」  
と言って視線をそらした。  
その仕草がとてもかわいらしくて、骸はふっと笑った。  
「かわいいですよ、凪」  
「そ・・・・・・んっ」  
何かを言いかけた凪の口を骸はキスで塞いだ。自分を卑下する凪の言葉を、これ以上は聞きたくなかった。  
 
骸の手が凪の白いふくらみに触れる。柔らかいそれは、骸の手にすっぽりと収まった。  
親指で頂点の突起に触れると、ビクンと身体が跳ね、今にも泣きだしそうな声を上げる。  
骸は片方の桃色の突起に吸い付いた。  
「あ・・・・・・っ!」  
ぎゅっと固く目をつぶり、凪は声を漏らした。  
ドキドキと鼓動が早まる。  
舌でコロコロとそれが弄ばれるたびに、凪の身体は逃げるようにびくびくと跳ねる。  
 
「ひゃ・・・っ」  
骸の指が凪の秘密に触れると、凪は驚いたような声を上げる。  
ツ・・・・・・と割れ目の部分を骸の指がなぞった。そこはもう凪のもので濡れていて、骸の指に液体が絡みつく。  
そのまま割れ目の中へ骸は指を進めた。容易く受け入れたそこは、もう熱を帯びている。  
「凪・・・濡れてますよ」  
グチュと水音が部屋に響く。  
少し意地悪く言うと、凪の長い髪からのぞく耳が赤くなる。  
「ゃ・・・あ・・・・・・」  
耳元でささやかれ、凪の瞳には涙が浮かぶ。  
「む、むく、ろ様ぁ・・・・・・」  
「どうしました?」  
「私っ・・・ヘンなの・・・」  
潤んだ瞳で骸を見つめ、凪は言った。  
シーツを握る小さな手が、少し震えているのに気付く。  
「恥ずかしいはずなのに・・・骸様にもっと・・・・・・さわってほしい・・・」  
そこに触れたのは骸が初めてだった。  
自分でもさわったことはなかったし、もちろん他の人間に触れさせたことはない。  
その部分がどうなっているのかさえ、凪は知らなかった。  
自分でさえも知らない自分を、骸にもっと知って欲しいと凪は思う。  
「・・・・・・ありがとうございます、凪」  
「?」  
何故そこで感謝の言葉が出てくるのか、凪には分からなかったが、  
頬をなでてくれる骸の手がとても心地よかったので、もうどうでもよかった。  
骸の手の平に、凪は自分の手の平を重ねる。  
 
「・・・・・・そろそろ、いいですか?」  
骸の言うところの意味を理解した凪は、小さくうなずいた。  
カチャカチャとベルトを外す音が聞こえ、凪の脚が大きく開かれると、胸の鼓動は更に速くなる。  
骸は自身の先を凪の秘所にあてる。  
凪の身体がびくりと跳ねた。  
「凪、そんなにかたくならないで」  
「・・・ゃあ、ん・・・・・・痛っ」  
「力を抜いてくれないと入りませんよ」  
そうは言われても、凪はどうしたらいいのか分からなかった。  
骸のことは愛しているし、受け入れたい。  
恥ずかしい。気持ちいい。切ない。  
怖い。痛い。  
様々な感情が一気に押し寄せて、凪は押しつぶされそうだった。  
ぼろぼろと大粒の涙を流す。  
いつものように「無理」と言ってすべてを放棄してしまいたかった。  
 
それでも凪はそうしなかった。  
今ここでこの行為を受け入れなければ、また一人になってしまうと思ったからだ。  
一人になることには慣れていたし、また以前の状態に戻ると思えば怖くはないが、  
骸を失うことは恐ろしくてならなかった。  
「むっ・・・骸、様ぁ・・・ご、ごめんっ、なさい・・・っ」  
途切れ途切れに凪が謝る。  
骸は柔らかく笑って、凪の目からあふれる涙を拭った。  
「・・・泣かなくてもいいんですよ。本当はとても怖かったんでしょう?」  
骸はそう言って凪の頭をなでると、ベッドの上から降りた。  
身形を整える骸の姿を凪は目で追う。  
骸様?とその背中に声をかけると、骸はゆっくりと振り向いた。  
 
「・・・・・・もう止めましょう」  
「え」  
「おやすみ、凪」  
骸はにっこりと笑う。その笑顔が少し寂しそうで、凪の胸がきゅんと痛んだ。  
あの、と声をかけるが、聞こえなかったのか骸はくるりと背を向け、部屋を出ていく。  
その直前。  
「ま、待ってください」  
ドアに手をかけた骸は立ち止まり、凪の方を振り返る。  
月明かりの下。逆光の所為で、凪がどんな顔をしていたのかは分からない。  
「あ、あの・・・私・・・」  
「凪?」  
「・・・い、行かないでください・・・私・・・一人に、なりたくない・・・・・・」  
声を絞り出すように、凪はそう言った。  
骸は目を丸くする。今更になって初めて、凪の本心を聞いたような気がした。  
 
元々、あまり多くは語らない彼女だった。  
骸の前ではそれなりに話すものの、それでも本心に触れようとすると、触れるその前に扉を閉じられてしまう。  
「話したくないのならそれでも構いませんよ」  
そのたびに骸はそう言うのだが、心の奥では寂しさを覚えていた。  
時間が解決してくれるだろう。そう自分に言い聞かせる。  
 
骸は凪の元まで歩み寄ると、膝をついて凪の高さに視線を合わせる。  
そして俯いた凪の顔をのぞきこんだ。  
「僕はどこにも行きませんよ。ずっと君の傍にいて、君を守ります」  
そう言って微笑むと、つられて凪も笑った。  
またお互いの唇を合わせる。  
さっきよりも深く、荒々しく口付ける。  
「んんっ・・・・・・ふ、ぁ・・・っ」  
凪が艶っぽい声を出す。  
やっと唇を離すと、骸が言った。  
「すみません、凪」  
「・・・?」  
「・・・歯止めが利かないようです」  
少し照れたように骸が言うと、凪はくすりと笑った。  
「・・・骸様だから・・・大丈夫です。怖くありません」  
まっすぐに骸を見て凪が言う。  
それからどちらからともなく瞳を閉じて、今度は軽く触れるだけのキスをした。  
チュッと小さな音がした。  
 
骸は凪の脚を大きく開かせると、秘所を舌でなぞり中へ割りいれる。  
「や、ぁっ・・・!」  
凪が声を上げる。  
骸がわざとらしくクチュクチュと音を立てると、そこからは凪のものがあふれ出す。  
「んっ!・・・だ・・・ダメ・・・そこ・・・・・・」  
シーツを強く掴み、凪は嫌々をするように頭を横に振るが、骸はそれを止めない。  
中から溢れる液を全て絡めとるように、丹念に丁寧に秘所に舌で触れる。  
割れ目の上の小さな突起を甘噛みすると、凪は甲高い声をあげた。  
潤んだ瞳で骸を見つめる。  
骸は自身を取り出すと、秘所へあてがった。  
丁寧に愛撫してもやはり初めての為か、凪の身体はそれだけで強張る。  
 
「凪、腕はここですよ」  
そう言って骸は凪の腕を自分の肩に回す。  
自分のものよりも広いその背中にぎゅっと凪はしがみつく。  
「そう。それからここの力を抜くんです」  
まるで子供をあやすように、骸が凪の温かな腹部をなでると、ゆっくりと息を吐いて力を抜く。  
その従順な姿にいつもの骸なら失笑する所だが、相手が凪だというだけでいとおしく思える。  
そうして少しずつ、ゆっくりと自身を中へと進めた。  
「いっ・・・ん・・・」  
「凪、もう少し我慢してください」  
「は・・・っ・・・ああっ!」  
凪がぎゅっと目をつぶると、涙がぽろりとこぼれる。  
骸はそれを舐めるように瞼にキスをすると、額にもキスを落とす。  
 
凪の中は狭く、そして熱かった。  
少しずつ奥へ奥へと進めるたびに、肉壁がまとわりつく。  
「あっ・・・痛・・・っ!」  
凪がひときわ大きな声を上げると、秘所からは赤い血液がつつ・・・と伝った。  
固く閉じた目をゆっくりと開くと骸と目が合う。  
にっこりと骸が微笑む。  
「・・・・・・入りましたよ。頑張りましたね」  
「・・・骸様・・・」  
凪の目からはまた涙がこぼれた。  
痛いから泣いているのではなく、苦しいから泣いているのでもない。  
ただ、純粋に嬉しかったのだった。  
 
「動いても良いですか?」  
骸が訊ねると凪はこくりとうなずいた。  
初めての凪にとってそれは酷だと分かってはいるものの、どうにも歯止めが利かなかった。  
それでも骸は出来るだけ負担をかけないようにとゆっくりと動かす。  
「・・・ふ、あ・・・・・・っ」  
「凪・・・・・・」  
凪の肉壁が骸の自身をがっちりとくわえ込んでいて、動くのはなかなかに困難だった。  
苦痛なのか、凪の表情が苦しそうにゆがむ。  
けれどもう止めることは出来なかった。  
「凪・・・」  
「骸様・・・っ」  
「凪・・・愛してます」  
ぽつりと骸がつぶやいた。  
言ってから骸は、今の言葉が聞こえていなければいいと思った。  
それは伝えてはいけない言葉だと知っている。  
 
「む、骸さま・・・っ」  
凪が骸の名前を呼んだ。  
荒い息とともに、繋がっているそこからはジュブジュブとぬれた音がする。  
骸は動きを速める。  
「あ・・・ぁ、骸、様ッ・・・!」  
「凪・・・ッ」  
「あっ、や、・・・・・・やだ、いっちゃ・・・ん・・・・っ!」  
その言葉のあとに骸は何度か凪の中を突くと自身を引き抜いた。  
凪はぶるりと身を振るわせる。  
骸は凪の腹部に射精した。  
 
「大丈夫ですか?凪」  
骸は凪の頭をなでる。  
上がった息を整えながら凪は骸の方を見上げた。  
そのあとに何かを思い出したようにはっとして、凪は勢いよく身体を起こした。  
「骸様・・・ご、ごめんなさいっ!」  
「凪?」  
凪の口から出たのは謝罪の言葉だった。  
骸はきょとんとして俯いてしまった凪の顔をのぞきこむ。  
凪が泣きそうな顔でいたので、骸は少しだけたじろいだ。  
「わ、私・・・骸様のことが、好きです」  
不意に告白されて、骸は目を丸くした。  
「すみません・・・私みたいなのがこんなこと・・・で、でもどうしても伝えたかった・・・」  
「・・・・・・」  
「骸様・・・迷惑だってわかってますけど・・・あの、私、骸様のことがもっと知りたい・・・」  
「ありがとうございます。凪」  
骸が静かに答える。  
凪は「え」とつぶやいて顔を上げた。  
「凪、僕も君とまったく同じ気持ちですよ。君が好きだし君のことが知りたい」  
「骸様・・・」  
「これからたくさん教えてくれますか?」  
骸の手が凪の髪に触れる。  
柔らかいその髪をなでると、凪の瞳からはまた涙がこぼれた。  
「う、うそ・・・」  
「本当ですよ」  
「ほんとに・・・?」  
凪はまだ信じられないようで、何度も同じことを訊ねる。  
骸はくつくつと笑って凪の涙を指ですくった。  
「・・・君は泣いてばかりですね」  
そう言って骸は凪の身体を抱きしめる。  
凪は骸の胸に身を任せてつぶやいた。  
「骸様が・・・」  
「僕が?」  
「骸様が・・・嬉しいことばかり言ってくれるから・・・」  
嬉し涙です、と凪が言った。  
その言葉に骸は一瞬目を見開いて、それからにっこりと笑った。  
 
記憶というものは厄介だ。  
どんなに楽しい現在でも、過去の記憶がすべてを壊してしまう。  
それでも、これから生まれる記憶は素晴らしい記憶に違いない。  
 

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