<バニー>はカップを持ってバルコニイに立っていた。
カップからかすかにのぼる湯気を透かして、はるかに高く広がる、夏の昼下がりの蒼穹を見つめる。
背後のテーブルには先ほど食べ終えた昼食のトレイが乗っている。
自由が、空が、恋しくてならなかった。
彼女が囚われの身となってから既に二週間が過ぎなんとしていた。
E&E訓練などでは過酷な尋問に耐える方法を叩き込まれたが、幸か不幸かそれを使うことはなかった。
サバイバル課程では、大戦中の抵抗活動中に捕まり、ドイツ兵に強姦され、さんざんに嬲られた女性の
話をじかに聞いていたので捕まったときに覚悟は決めていたが、肩透かしを食ったような形である。
彼女はクレトフ少佐に、自分を尋問しないのかと聞いたことがあった。
彼は笑って答えたものである。
「君がミサイル艇基地や、陸上防衛配置を知ってるのかい?F-16のことや飛行隊の配置なら知っていた
だろうが、それは聞いても意味がないよ。ノルウェー空軍はほとんど全滅した。残りはスコットランド
に脱出している。それにF-16のことは聞いても意味はないしね」
そう、確かに意味はないだろう。4日目、双眼鏡で窓から眺めていた彼女は、衝撃を受けた。
ほぼ無傷のF-16がトレーラーに乗せられて運ばれていった。機体番号からすると「ノース・ギース」小
隊長のものである。
クレトフ少佐によると無線機の損傷から基地が占領下にあることを知らずに不時着した機体を捕獲した
ということだった。
操縦士は銃撃戦で戦死したらしい。その操縦士、ヨハンセン少佐のことを思うと、胸が痛んだ。
彼は全滅した第332飛行隊の唯一の生き残りだった。北部で12時間に渡って繰り広げられた激戦を生き延
び、7機を撃墜したエースだった。
それが空で死ねず、陸で死ぬことになるとはどういうことだろう。彼女はその夜、彼のために祈った。
スーザンはソヴィエト軍が司令部として使っているホテルの一室に軟禁されていた。
本当はソ連本国の収容所に送られるはずだったが、収容所がノルウェーやデンマークの操縦士たちで満
杯になってしまったので、彼女はこのホテルに残ることとなった。
しかし、待遇はよかった。
脱走や味方との連絡を試みないという条件を受け入れたので、ホテルのなかで一部の区画を除いては自
由に動き回ることができる。
また一日に一時間のみ外出できるほか、隣の部屋にいるクレトフ少佐が誘ってくれたおかげで毎朝ホテ
ルの周りをジョギングできる。
しかし、そのように少し外の空気を吸うだけでは、彼女の寂寥感は満たしようがなかった。
彼女は元々、ひどく活動的な女性である。余暇の趣味がオフロードバイク――と料理――であることか
らも推察できよう。
人懐っこい空挺隊員たちは、彼女が彼らの戦友を殺したことを忘れたかのように接し、おかげで彼女の
寂しさは多少はまぎれていた。
シマコフは中年の士官だが、その年を感じさせるのは銀髪とその顔に刻まれた皺だけだ。
彼は連隊司令部に敵の戦車が肉薄した際に自らRPG-7で一両を屠っている。しかしその戦闘で、彼は
左眼を失っていた。
火傷で多少引きつった顔と左眼の眼帯は、彼の第一印象をひどく恐ろしいものにしている。
しかし、右目の優しい表情は、その印象を一変させるに十分だった。彼はスーザンが彼の亡妻によく似
ているといってしばしばやってきた。
彼女は司令部の人間模様を観察していて、シマコフがC・S・ルイスの「ナルニア国物語」のアスラン
にちょっぴり似ていると思った。
このライオンは圧倒的な存在感を持ち、物語のここぞという場面であらゆる登場人物を追い立てまくる
のだが、ときどきどちらの勢力のものか分からなくなる。
クレトフは隣という気安さからしょっちゅう遊びに来る。彼は抜けるように青い瞳に無骨な部品を寄せ
集めたような顔で、ハリウッド的基準から言えば美男とは言いがたい。しかしその率直な顔立ちと、空
挺隊員にしては珍しい長身は、妙に彼女の心をひきつけた。
上陸作戦中に右足に被弾し、今もかすかに足を引きずっている。
ボルノフ大尉は痩せぎすの小柄な男で、その顔は一見すると骸骨のようにも見える。しかしその笑いは
妙に愛嬌があり、そして彼が笑みを絶やすことはほとんどなかった。よく国元に手紙を書いており、ま
もなく4才を迎える愛娘について相談してきたこともある。
プーカン中尉は、赤が混じった茶色の髪に、大きなはしばみ色の瞳が魅力的な女性である。
プーカンとは唯一の女性の話し相手として、双方共に深い友情を築いていた。彼女は師団の自転車レー
スでここ数年トップを維持しつづけており、スーザンも学ぶところが多かった。
ソ連軍は、西側軍隊とは異なり、戦闘部隊に女性を配置することがままあるが、不幸なことに同団の女
性はプーカン中尉のみであった。
また初日などは、口実を設けては美貌のノルウェー空軍操縦士を一目見ようと空挺隊員たちが押しかけ
てきた。
彼女にとっては不幸にも、ソ連の空挺隊員たちは敵地浸透訓練の一環として英語教育を受けていた。そ
して彼らがもっとも熱を入れて勉強したのが女性に声を掛ける方法だった。彼らは勉強しながら、西側
の奔放な――そして美しく日焼けした――女性を夢見ていたというわけだ。
ノルウェー空軍を含む友軍パイロットのF-16への転換訓練はテキサス州のフォートワース空軍基地で行
われたが、スーザンは極秘でカリフォルニア州のチャイナ・レイク海軍兵器センターで行われていた
AMRAAM評価試験に参加しており、たまの余暇にはレンタカーを駆って海に行っていた。
そんなわけで、スーザンは空挺隊員たちの考える「西側の女性」像に――少なくとも外見は――ぴった
り当てはまっていた。
いちおう見張りとしてカービン銃を持って同室していたクレトフは、歴戦の古参兵たちが彼女の前でま
るで思春期の少年のように振舞うのを見ておかしがった。
しかしあまりにも多くが訪れたために一日で彼女は疲れきってしまった。
彼女の部屋の両隣にクレトフと政治士官のボルノフ大尉が入ることで、事態はようやく収拾を見た。
さらに、中隊以上の全指揮官の総意として、彼女には炊事兵の教育という「任務」が依頼された。
アンダヤ島各所に分屯する中隊の炊事兵が順繰りに教えを乞いに送られてきた。
彼女はもともと料理の趣味もあり、また渡米中にチャイナ・レイクで同宿だった米海兵隊の女性操縦士
にアメリカの料理を教わっていたので、わりとレパートリーは広かった。最もそのルイス大尉からは海
兵隊流の罵詈雑言も教わってしまい、原隊復帰したとき皆彼女の口の悪さに驚いたものである。
適当な目標があるというのは、単調になりがちな虜囚生活に程よいアクセントを与えてくれた。
しかし炊事兵連中は妙に覚えがよく、スーザンは覚えた悪態を使えないことを密かに残念がっていた。
もっとも、研修が終わるとどこから探してきたのか山のような色紙を差し出してサインを頼むのには参
った――これはロシアの風習ではなく、西側のものを聞き覚えていたらしい。
実のところ、ソヴィエトの空挺隊員たちを好きにならずにいるのは難しかった。
最初のうち、彼女はときおり「露助には2種類いる。悪い露助と死んだ露助だ」とつぶやいていた。
しかし1週間たったころには「露助には3種類いる。悪い露助と死んだ露助、それと飛び降りる露助だ」
に変わっていた。
彼らの哲学によれば、空の敵機は引きずりおろすべき目標,陸の敵機は爆破すべき目標,陸の友軍機は
地獄への片道切符で空の友軍機は救いの悪魔だった。が、敵味方問わず撃墜された操縦士は不運な隣人
だった。
彼らとの交流は、「ワイルドギース」の戦友を失った彼女の悲しみを薄めるのに役立った。
また、彼女はそれをいつまでも悩むほど内向的な性格ではなかった。
<ペイ><マック>の仇は討ったし、<ホワイト>はうまくすれば生き延びたかもしれない。彼女が撃
墜された時点で彼は南東に向かって飛んでいた。海上に降下すれば、逃げ延びるチャンスはある。
第一、今更悩んで何になる?
悲しみは戦争が終わってからゆっくりとかみしめればよい――――無論、この第三次大戦に終わりがあ
れば、の話だが。
彼女はこの戦争をのんきにやり過ごすつもりであった。
幸いにも、彼女の愉快で楽しい捕虜生活を邪魔する最大の要因となりえた政治士官はかなり融通の利く
人物である。
何しろボルノフ大尉は政治士官でありながらひどく闊達な、優秀な空挺隊員である。
彼女ははっきりと自覚してはいなかったが、大隊の連中はみな彼女のことが大好きだった。
捕虜がマスコットになる、というのも妙な話だが。
クレトフは、ボールペンをくわえて天井を見ていた。
あのノルウェー女性、スーザン・パーカーのことを考える。
彼は、出征する前に恋人と別れてきたばかりだった。
彼にとっての優先順位は部隊のほうが高かったのだ。
しかし、ここ数日は、自分の死を心から悲しんでくれる女性がいないことが無性にさびしかった。
彼は一回結婚したが、3ヶ月で破局を迎えた。
これまでの結婚がうまくいかなかったのは、彼が軍隊に入れこみすぎていたからだ。
だが、今は軍の仕事と、永続的な男女の関係の両方をきちんとやっていくすべを知っている。
彼女となら、うまくやっていけるかもしれない。
不幸にも敵味方という関係だが、お互いに敵意は無い――というか、そのように思える。
戦争が終わったら、彼女をどこかに誘ってみよう――――二人とも無事だったなら。
彼は彼女の隣の部屋でため息をつき、つい左側の壁に目が行ってしまうのを押し戻しながら、ボールペ
ンを机に落とすと、書類に無理やり意識を集中させる。そしてこの2週間で何千回目か何万回目か分か
らないが、シマコフに悪態をつく。
(書類仕事がイヤなら副長に押し付けろってんだ…)
しかしその副長は、実のところクレトフなのである。
本来は政治士官がナンバー2なのだが、クレトフ少佐がボルノフ大尉よりも先任であるうえに、ボルノフ
がクレトフに喜んで仕事を押し付けているので、結局クレトフが副長と言ってよいだろう。
今現在の彼の頭痛のタネは、第25独立戦車中隊だ。
『いまどき機甲火力無くして機動無しですよ。空挺さんの悪口言いたくないけど、今までやってきたよ
うな機動訓練と突撃だけではダメなんですよ』
中隊長のイワノフ大尉の言だ。
(空挺に機甲火力だと? 知った風な口聞きやがって テメエは空挺を自動車化狙撃にしたいのかと小
一時間ry)
もっとも、この場合歩戦共同の必要性はクレトフも痛いほどわかっている。ソ連空挺部隊は致命的に戦
車との共同作戦を苦手としている。
何しろ、彼らが拠れる機甲部隊は、大抵はBMD-1か-2、良くてPT-76だった。彼らの装甲は、正面で
すら50口径の重機に貫通される。
T-80のように、敵の主力戦車に十分に対抗できる戦車との共同作戦は、まったく未知の分野なのだ。
幸運にも、現在は全部隊がBMD-2で機械化されている。というのも、敵前上陸という性質上、抽出さ
れた6個大隊のうち4個大隊が機械化空挺大隊だったうえに、トラック装備の軽空挺部隊はあの激戦を
生き延びられなかったのだ。軽空挺の数少ない生存者は、70%の損害を出して事実上全滅した偵察隊に
編入されている。
今かれがにらんでいる書類もまさにそれについてである――ノルウェー軍の演習場を使っての機甲演習
だ。
しかしこれは、ある意味では幸運だった。
精鋭の空挺隊員たちが守備に使われている。これはしばしば士気の低下をもたらす――しかしイワノフ
を少し煽って中隊長クラスにまで論争させれば、活発な戦術談義がはじまるだろう。それが収まるころ
には陣地構築が完了しているだろうから、防衛訓練を始めることができる。
アンダヤ守備隊は准旅団にあたる編成であるから本部管理中隊があり、書類仕事も多少は楽なのだが、
本管中隊を含む司令部メンバーはかつての第14親衛空中突撃連隊のそれがそのまま移ってきている。し
かし上陸作戦時に副連隊長が戦死、後任が見つからずボルノフが巧みに逃げ回るままクレトフが副長格
になってしまっていた。
幸いにも第25独立戦車中隊を除く同戦闘団の部隊は全てが空挺部隊であり、少数派の元35連隊である彼
もわりあいやりやすかった。
そして25独戦中を越えるトラブルメーカーが、KGBの保安中隊である。
イワノフ大尉は優秀な戦車兵であり、彼との摩擦は結局単なる意見の相違だが、彼に言わせればKGB
保安中隊長のロマノフ中尉などゴロツキである。
もっとも、このKGB保安中隊は指揮系統としては政治士官のボルノフ大尉の下に入ることとなるから、
ゴロツキだろうが何だろうが本来は彼の知ったことではない。本当ならば専任のKGB保安士官が配属
されるのだが、ノルウェーの大隊戦闘団に配属できるほどのKGB士官はいなかった。彼らはドイツで
相当に殺られていた。
空挺隊員とKGB保安隊員の間には軋轢が絶えず、ボルノフとクレトフはあちこち走り回るはめになっ
ていた。
もっともそのおかげでボルノフとは深い友情を築くことができた。今や、まるで百年の知己といった具
合である。
全島避難でノルウェーの民間人がいないことだけが救いだった。
何しろ無人の家屋に押し入ろうとしたKGB巡察隊と空挺部隊が銃撃戦寸前に行ったことまであるのだ。
彼はひとり笑った。KGBの連中を本当の兵士に仕立てなおすのはさぞかし楽しいことだろう。KGB
隊員たちにとってはあいにくだが、これはボルノフ大尉以下司令部メンバーの総意である。空挺部隊と
一緒に配置されたのが運の尽きというものだ。
そのとき、通信班の伍長が通信用紙を持って入ってきた。
彼はそれを受け取り、伍長を下がらせると目を走らせた。そして時計を一瞥すると書類を机の上に置き、
立ち上がった。
ソ連空挺部隊の淡いブルーのベレーを取り上げると粋にかぶり、ドアを開いた。
ソロヴィヨフ伍長は、背後でドアが開き、クレトフ少佐が例のノルウェー人の部屋のドアをノックする
のを聞き、ほくそえんだ。
クレトフは笑っているより顔をしかめているほうがずっと多く、ソロヴィヨフのような部下たちに言わ
せれば、
”隊長のうれしそうな顔なんか見たこともない。いつもより怒っていないってだけだ”
とのことであった。しかし例のノルウェー人が隣に来てからはだいぶ角が取れ、人並みに笑うこともあ
るようになった。
本人は隠そうとしているが。
スーザンはため息をついた。水っぽい北欧の陽光が降り注いでいる。
昼寝には最適な陽気なのだが、あいにくと彼女にはシェスタの習慣はなかった。
夕方などは医務室のサイフォンで沸かしたコーヒーを飲みながらプーカン中尉としゃべるのが楽しみで
あったが、まだ勤務中だ。
現在、アンダヤの混成准旅団の将兵たちの間でコーヒーが流行しているのは、もっぱら彼女の責任であ
る。
そして彼らが塩しか入れていないのは、明らかに彼女の責任である。
ここで、現在アンダヤの准旅団司令部で繰り広げられている「第二次飲料紛争」の状況を説明しておこ
う。
発端は、地下の厨房で発見されたサイフォンがプーカン中尉とスーザンの手に渡ったことだった。
二人はそそくさとサイフォンを医務室に運び込み、クレトフやシマコフ、ニチーキンなどそこに居合わ
せた士官連中にコーヒーを振舞った。
スーザンは米国でのF-16転換訓練中に、ボルチモアの米沿岸警備隊員から米軍秘伝の旨いコーヒーの
入れ方を伝授されていたのだ。
この猛攻の前にたちまち脱落者が続出し、紅茶派の筆頭であるボルノフが気づいたときには彼らは少数
派となっていた。
さらに紅茶派を内部分裂が襲う。
砲兵中隊長のデミヤン大尉と第1空挺中隊長のセルギエンコ大尉はミルク・ティー支持の少数派を旗揚
げしたが、スーザンとクレトフの(説得)工作を受けてコーヒー派に転向。
政治将校のボルノフ大尉は通信隊と輸送隊の支援を受け、秘伝のロシアン・ティーの入れ方をもって反
攻作戦を試みたが、スーザンとシマコフ大佐やクレトフ少佐、本管中隊の反撃を受け頓挫。
ちなみに第一次では、ノルウェービール支持のスーザン、クレトフ以下がウォッカ派に惨敗を喫してい
る。
そんな「A級戦犯」である張本人は米軍流の「塩一つまみ」、沸かしたてのコーヒーをすすっていた。
コーヒーを飲み終わったころには1400時、外出時間だ。
常に武装兵が警備しているホテルのなかの一部フロア以外ならば、町の中ならどこに行ってもよいこと
になっている。
もっとも、アンダヤ島自体がある意味牢獄だったので、脱走の可能性はなかった。
彼女がアンダヤ島に着任したのは捕虜になる二日前、しかもデフコン1の全面戦争状態では散策などし
ている余裕はなかった。
彼女のお気に入りはホテルから15分ほどの所にある湖沼であった。内陸の山にも行ってみたかったが、
一時間では無理だ。
ドアを誰かがノックした。
「開いてます、どうぞ」
ドアが開き、クレトフが入ってきた。
「食べ終わったかな?」
彼の英語はどういうわけかひどく古風な言い回しであったが、この2週間で急速な改善を見せている。
「ええ。ありがとう」
彼は右手で器用にトレイを取り上げた。
「ところで、おめでとうを言っておこう。君は本日付で昇進した」
彼は通信用紙を差し出した。
そこには、彼女がノルウェー空軍少佐となったこと、そしてあの空戦で彼女が6機を撃墜したことが確
認されたことが簡潔に記されていた。
彼女はエースなのだ!
「妙な気分ね。あなたからおめでとうを言われるなんて。いちおう敵なんだけど」
彼は照れくさそうに顔の前で手を振った。
「任務を果たしていただけなんだから、君に文句をいうことは無いさ」
「これで年増の大尉なんてもう言わせないわよ」彼女は呵呵と笑った。
彼もきまり悪そうに笑い、しばし躊躇してから言った。
「ところで、車で少し遠出しないか?一時間じゃ大したところに行けないだろうし、昇進祝いだと思っ
てくれればいい」
彼女はしばし考えた。彼女の顔から表情が消えるのを見て、彼はその胸中がおおよそ読めた。
アンダヤ島の防衛配置を知っておくことは有益だ――NATO軍がアンダヤ島を襲撃する可能性は高い。
彼女が赤十字の捕虜交換などで開放される公算も無いわけではないし――しかし彼と二人きりになるこ
とには危険も――
――その時彼女は、自分がとにかく彼とドライブに行きたがっていることを知った。彼女は顔を崩し、
笑って言った。
「いいわね!行きましょう。ただし装甲車はいやよ」彼女はカップをテーブルに置き、上衣を羽織った。
クレトフは地下の厨房に向けて歩き出し、ドアをくぐる直前に言った。「戦車ならいいの?」
「ばか」ドアに向けてつぶやいた。
幸いにも接収した民間車だった。
「ところで、マリナーズってどう?」
「うーん、あまり詳しくないけど、強くはないけど弱くもないって聞いたな。なんで?」
「ボルトフと、マリナーズが今期レンジャーズにあと2敗はするって賭けたんだけど」
彼女は笑った。
「あなたの負けね」
クレトフは憤ったように言った。「なんでさ?」
「私がここに来た時点であと1試合しかなかったからよ」
クレトフはいらだたしげにハンドルを叩いた。「やられた!」
「でもなんでそんなのに賭ける気になったの?あなたたちはホッケーに賭けるものだと思ってたけど」
「昨日衛星アンテナの修理が終わったんで、二人で見てたらやってたのさ。ところで帰ったらウォッカ
を半分進呈するよ」
「ウォッカはいいけど、アンテナの修理が終わったなんて初めて聞いたわよ」
彼はにやりと笑った。「驚かせようと思ったんでね」
突然彼はブレーキを踏み、彼女は前に投げ出されてシートベルトに引き戻され、うめいた。
鹿のカップルがとことこと道を横切っていた。
深緑のあいだから差し込む光が、目を細めて見守る二人の顔を照らしていた。
鹿が茂みの中に消え、二人は詰めていた息を吐き出すと、顔を見合わせて笑った。
彼は、彼女の澄んだブルーグレイの瞳を魅せられたように見つめた。頬から笑いが薄れてゆき、彼女は
頬を赤らめ、体をよせた。
その時、手に何かがあたった。
「――ねえ…私とのデートにライフルが必要なわけ?」
彼は傷ついたような顔をした。「武人のたしなみってやつさ。騎士のサーベルみたいなものだと思って
くれたまえ」
「私がこれを奪おうとしたらどうするの?」彼女はいたずらっぽく聞いた。
「僕が空挺だってことを忘れてもらっちゃ困るね」
「どうかしら…私は危険な女よ」彼女は笑った。
風に木の葉が揺れ、一瞬の木漏れ日が彼女の瞳を妖しく光らせる。
「試してみる?」そう笑うと彼は腕を回して運転席側に抱き寄せ、唇を重ねた。
軽く唇を重ね強弱をつけて唇同士を触れあわせる。
「んっ…」
女が逆らわないのを見て取り、少し唇があいた瞬間を見逃さずに、舌をスーザンの口腔に進入させた。
そして、舌の裏側や歯茎・上顎などを刺激する。
「…あっ…」小さな吐息を漏らす。
彼女も手を彼の頭に回し、唾液をあごに伝わせながら唇を愛撫しあい、舌を絡め合って、熱い吐息が互
いの喉の奥に流し込まれる。
男はつと唇を離し、小麦色のうなじにむしゃぶりついた。
女の半開きの唇から、深く荒い息が漏れる。
さらに鎖骨の窪みから胸元へと小刻みに口付けを繰り返す。
女の吐息が深く、大きくなる。
男がふと唇を離し、女の顔をのぞきこんだ。
「あー、えー…と…」
言葉に詰まる彼に、女は微笑んだ。
「……いいわよ……」
それを聞いて男はかすかに笑い、唇を合わせた。
そして唇での戯れを重ねながら、上衣を器用に脱がせる。
支給品の男物の黒いTシャツの下から、窮屈そうに膨らみがその存在を主張していた。
それをたくし上げると、たわわな乳房がこぼれ出た。
空軍士官が好んで着けるスポーツタイプの下着は、脱がせるのが楽しい種類のものではなかったが、そ
れが包む中身の素晴らしさを損なうものではなかった。
男がブラジャーを外すと、つんと上向いた、黄金色の形の良い双球と淡い赤の蕾があらわになった。
男は静かに唇を離した。二人の間が透明な糸で結ばれている。
彼は手を伸ばして左の乳房を包んだ。たっぷりとした質感と素晴らしい弾力、そしてやわらかさが伝わ
ってくる。
男は左の乳房を堪能しながら、右の乳房に舌を這わせた。円をえがきながら、すでにつんと立ち上がっ
た頂をめざす。
女は、心臓の鼓動が早まるのを感じた。半開きの口から、切ない喘ぎ声が漏れるのを抑えることはでき
ない。
彼がついにその蕾を口に含んで舌で転がし、甘噛みしたとき、女の喘ぎ声がいっそう高まった。
男はOD色のズボンをずり下げ、すでに染みを形作っているパンティを丸め込むように下にずらした。
女の太ももをなぞりながら、彼はそれを少し開かせ、すでに潤っている秘所をあらわにした。
彼の指がかすめ、女の喘ぎ声が一瞬高まる。とろっとした液体が指に絡む。
濡れそぼった、柔らかい金の毛並みに指が分け入る。
男が女の秘裂を軽くなぞりあげると、それだけで女は軽い絶頂を迎えた。
女の背中がびくびくと震える。
男は笑い、人差し指を中に掻き分けた。一番感じやすい肉芽の周囲をゆっくりと撫でる。
我慢できないかのように、女が深い吐息を漏らす。
薬指も挿入され、膣壁が横に広げられる。指をくいっと曲げ、中をかき回し、蕩けきった芽を弄ぶと、
とめどもなく中から熱い蜜があふれてくる。
男はわざと乱暴に音を立てて抽送し、淫猥な水っぽい音が車に反響する。
女が快感の波に身を任せようとしたとき、突然水面が穏やかになった。
見上げると、男が薄く笑いながら見下ろしていた。
女の潤んだ青灰色の瞳が懇願するように男を見つめる。男がかすかに顔を動かした。
女はうなずき、器用に躰を反転させると男に覆い被さり口づけをした。
その間に、男は座席をリクライニングさせ、自分のズボンと下着をずり下げた。もう準備ができている
陽物が姿を現した。
顔を染め、ゆっくりと焦らすかのように、女は腰を下げていく。
「はぁぁっ……んぁ……」
入り口に到達した肉棒は軽い抵抗を受けつつ女の秘所に入り込んでいく。
男はきゅっと締まる秘貝に放出しそうになるが、どうにかこらえた。
「ああ…」
根元まで入り、息をついた。からだの中を男が満たしているのが分かる。
男が女の腰をつかみ、反応する暇を与えずに、猛烈に下から突き上げる。
「あああぁっ!」
彼女は不意をうたれて思わず叫んでしまう。その瞬間、彼女は軽く絶頂を迎え、頭の中が白熱した。
しなやかな身体が弓なりに反りかえる。
しかし彼は頓着せずに、スプリングを使って猛然と突き上げる。彼女の上体が大きく揺れた。
誘うように大きく揺れる胸を鷲づかみにし、荒々しく揉みしだくと、彼女が息を荒げるのを感じた。
男が下から突き上げるように抽送するたび、花弁からは淫らな液が溢れ出て、ジュブジュブと音をたて
た。
彼女もいっそうの快感を求め、円を描くように腰を振り始める。
半開きの口の端からたらりと一筋唾液が垂れた。
女は
「はあっ・・・あ・・・ああっ・・・い・・・いいの・・・いいのぉ・・・」
うわごとのようにつぶやいている。
しかし、熱くたぎって蠢く柔襞が陽物に絡みつき、男も既に限界に近づいていた。突き上げがさらに激
しくなり、亀頭を子宮にゴリゴリとこすりつける。
女はまるで呼吸困難のように口を開いている。失神寸前だ。
彼女の目はうつろに開いてこそいるが何も見えなくなっていた。
男は腕に力を入れ、彼女を大きく持ち上げると、ストロークを深くとり、叩きつけるような力強い突き
こみをする。
突き上げられるたびに女は嬌声を上げる。
そのストロークがだんだん短くなり、加速がついてくる。
「ひうっ! ひくっ! ひくっ! ひくぅ!」
女は叫んでいるが、脳がなかばスパークしているせいで、明瞭な言葉として発声されない。
しなやかな体は限界まで反り返り、頭はいやいやをするように振られている。
彼が全身に力を込め、彼女を大きく持ち上げると、引き下ろした。
抜けかけたところで一気にうちこまれ、快感の受領限界を超過し、頭の中が完全にスパークした。
彼女が達すると同時に膣がきゅうっと締め付け、彼は雄たけびを上げ、中で果てた。
彼女は強烈な快感に理性を失い、見当識を喪失した。
彼女はそのまま男の胸に倒れこんだ。
二人はしばらく余韻にひたり、快い疲労と沈黙の中にいた。
「スタンバイ、スタンバイ――」
クチカロフ軍曹は双眼鏡を下ろし、無線機を取り上げた。
「――オーケイ、イワシよりマグロ、対象者1が放出したものと判断する。繰り返す。放出した」
『マグロ了解』セルギエンコ大尉が押し殺した声で笑い、それがクチカロフ軍曹の耳にも届いた。
「周囲に脅威の兆候無し。後退を進言する」
『マグロ了解。対象者2の状況知らせ』
「対象者1の上に覆い被さっている。寝ていると思う」
『マグロ了解。状況の終了を宣言する。可及的かつ速やかに撤収せよ』
「イワシ了解。交信終了」
『交信終了』
クチカロフ軍曹は迷彩を施した顔をゆがめて笑い、彼がいた痕跡を消し、手榴弾のトラップを解除して
AKS-74のグリップを握りなおすと静かに這い戻り始めた。
「私たちがこんなことしてると知ったら、少佐はどう思うかしらね!」プーカン中尉が笑った。
「少佐ってどっちの少佐?」
「両方よ!」二人は大口を開けて笑った。
「さて、諸君」
その声に二人は凍りついた。
シマコフ大佐がにやにや笑いながら医務室のドアにもたれていた。
「そのテープを渡してもらおうか」
「ハテ、テープとは何のことやら」プーカンがとぼける。
しかしシマコフは大股に歩み寄ると、通信隊から拝借してきた短距離通信機に接続されたテープデッキ
からカセット・テープを抜き出した。
「貴重な通信機と人材を、出歯亀に使ってもらっちゃ困るんだがナ…」
大佐はぼやいて頭を振り振り通信機を担いでドアを開け、歩いていった。
二人は顔を見合わせ、舌を出した。そして、同時に吹き出した。
スーザンが静かな寝息を立て始めたとき、クレトフは薄目を開けて去っていくクチカロフを見た。
(おいおい、トラップをひとつ解除し忘れてるぞ)
軍曹は二人の秘め事をのぞき見したという後ろめたさから多少不注意になっていた。
英SASなどはアイルランドでの監視任務中にこのような状況に遭遇することはしばしばあるが、ソ連
の空挺部隊はあまり慣れていない。
クレトフは頭の中に、帰ったらすぐニチーキン大尉に言ってトラップを回収させるようにメモした。
不用意な隊員がひっかかるようなことがあったら困る。
その際は、セルギエンコ大尉と――おそらくは、そして望むらくは――プーカン中尉に知られないよう
にすること。
「もう行った?」そのとき、スーザンがひそひそと笑っているのに気付いた。
「おいおい…気付いてたのか?」
「お互い様でしょ?あなただって気付いてたんだから。でもソ連の空挺もたいしたことないわね。私で
ももっと上手に隠れられるわよ」
クレトフは笑った。
「クチカロフをあまり責めんでくれよ。君の痴態を見れば誰でも落ち着かなくなるだろうさ」
彼女は彼の胸に預けていた頭をもたげ、鼻を彼の鼻にくっつけて、目をのぞきこんだ。
「セリョージャ、悪いひと。私の罪」
二人はしずかにくちづけた。
「ありがとう。いずれまた」
「ええ、いずれまた」彼女は微笑んだ。
その夕方のコーヒータイムは、妙にぎこちなかった。
プーカンとセルギエンコは黙ってもじもじしているし、スーザンはひとことちくりと言ってやりたい欲
求を抑えるのに精一杯だった。
シマコフとクレトフはペーパーワークのため早々に引き上げていた。
おまけにソロキン大尉とイワノフ大尉が論争を始め、おさめようとしたデミヤン大尉とニチーキン大尉
も熱くなり始めていた。
「戦車なんてうるさくて隠密行動もへったくれもあったもんじゃ――」
「確かに隠密行動は歩兵に劣るかもしれないが、戦車こそ最高の対歩兵対戦車兵器であり――」
「――砲兵は対砲兵戦と後方の攻撃だけ考えていればいいのであって歩兵の直接支援は迫砲中隊に――」
「戦車なんて対戦車ミサイルでいちころじゃないか」
「対戦車ミサイルで戦車に対抗できるもんか――」
「アンデネスでは対抗できたぞ」
「ありゃ偶然と幸運だろ。だいいち――」
「指揮官の能力と言ってもらいたいね」ソロキンの反論に、
セルギエンコがぼそりと突っ込む。「指揮官はクレトフ少佐だったでしょうが」
しかしヒートアップしている四人は聞いていない。
「――ミサイルを撃つためには頭を上げなければいけないだろうが」
「――砲兵は歩戦共同を阻止するために――」
「歩兵の支援が無ければ戦車なんて鉄の棺桶だ――」
「――なら榴弾砲なんか捨てて迫撃砲でも使ってろ――」
「だからこそ歩戦共同が重要なのであって、戦車を越える打撃力機動力を備えるものは存在しない!」
一人だけ紅茶をすすっていたボルノフ大尉は微笑み、立ち上がった。
クレトフは、再び机に向かっていた。頭をかきむしりたくなるのを抑えて意識を集中する。
演習計画よりも退屈な、事務備品の消費計画の承認が、今の彼の課題だ。
しかもふとしたことから、スーザンのことを思い出してしまう。
髪の匂い、唇のやわらかさ、肌の手触り、そのやわらかさ、しっとりと湿ったその部分の感触――――
ああくそ、本当にやられちまった、彼は思った。なんてこった、肩まではまり込んじまった。
そのとき、ドアを開けてボルノフが入ってきた。
「よう、アンドレーエヴィッチ。退屈してないか?」
「この白い悪魔を半分引き受けてくれたら退屈してやるよ、この腰抜けめ。用件はなんだ?とっとと言
いやーれ」
「陰謀、暴力、戦争、セックス、なんでもござれの本を見つけたんだが。読んでみないか?」
「それは 実 に 面白そうだな。暇があったら読んでみよう。置いてけ」
ボルノフはにやりと笑い、机の上に投げ出した。
クレトフは笑い出した。聖書だった。
「おいおい、政治士官にあるまじき行為だぞ、同志政治士官」
雲が太陽を隠し、さっと部屋がかげった。
「実に面白い本だぞ――まあ如何なるものにも欠陥は伴うのさ。
さらに言えば、いちおうは敵である捕虜と寝るのとどっこいどっこいだと思うがね、同志大隊長」
クレトフは表情を変えないのに、渾身の精神力を要した。彼は低い声で聞いた。
「どうして分かった?」
「諸般の情報を総合し、かくあらざるべからずと信じたるにすぎず」
薄暮の中でボルノフの口が裂け、チェシャー・キャットのように笑った。
「まあ、実は今の今まで確信は無かったがね」
クレトフは頭をかきむしり、天を仰いだ。
「ああ、あとプーカンとセルギエンコは気付いてるようだから気をつけろよ」
「それは知ってる。あと第1中隊のクチカロフ軍曹もな。二人が奴に偵察させてた」
「お盛んなことで」彼は肩をすくめた。「君たちが一線を越えたことを気付いてるのはその三人と俺だ
けだろうが、准旅団の兵員のうち、半分は君と張り合う方法を考えて夜も眠れないんだぜ」
「ああくそ、君の意見が聞きたい」
「政治士官としての意見かい?それとも友人として?」
「両方頼む。政治士官の方からな」
「キサマは反動主義者だ!営倉入りだ!階級を剥奪する!同志ロマノフKGB中尉、同志クレトフを連
行しろ!」
ボルノフはにやりと笑った。「これが政治士官の方だ」
「言うと思ったよ―――分かってはいたはずなんだがな。なんというか…自然に…その、そうなってし
まったんだ」
ボルノフが同情するように笑った。
「分かるよ。そういうものなんだ。俺もベラに会ったときはそんな感じだったよ。貴様はこれまで軍務
にうちこみすぎて、そういう機会が 無かったんだろうがな」
「ありがとう。で、友人としての方は?」
「まあ、祝福するよ。彼女は実に聡明で明るい女性だし、君のことを愛していることは疑いようが無い。
それに――」
彼はしばしためらった。微笑んでいた顔が、急に真剣になった。
「どうした?」
ボルノフは机の前を歩き回りはじめた。
「これから先は他言無用だが、たぶん今回の戦争は我々の負けだ。それほど長くは続かんだろう」
「何だと?そんなに悪いのか?」
「相当に悪い。我々の奇襲作戦は失敗し、強襲と化した。突破作戦はことごとく失敗している。48時間
で到達するはずのライン川には――」
「知っている。開戦から二ヶ月、いまだにライン川目指して進撃中だ――初日からずっと進撃中ではな
いか!しかしそんなに悪いとは…」
「ああ。これ以上遅滞すると、危険だ。例えば今は参戦していない日本や中国がNATO側に付き、東
側から侵攻してきたら、我々は多正面作戦を強いられることになる――そして我々にはそんな余力は無
い!何しろ、日本との国境など、KGBの国境警備大隊しか残ってないし、中露国境のカテゴリーC部
隊まで引き抜いてドイツに回している状況なんだからな」
「日本は、少ないとはいえNATO並みの装備と錬度を持つし、中国は錬度と装備はともかく我々以上
の兵力を持つからな。その通りだ。続けたまえ」
「だが、問題は終わり方だ。停戦協定が結ばれればいいんだが、どちらかの指導者がトチ狂って核戦争
に発展したら――」
部屋の温度が、数度下がったような気がした。
ボルノフは肩をすくめて両手を広げ、突き上げた。そしてドアに向けて歩きながら言った。
「まあ、それは我々が心配してもしょうがないことだ。せいぜい楽しむことだね。安心しろ。ここに核
兵器が使用される可能性は高くないし、死の灰はここまで飛んでこないよ。戦後に二人で楽しくやれる
だろう」
「そう願うよ、同志セルゲーエヴィッチ」
彼はドアを開け、去った。クレトフは白壁に独白する。
「しかし、そう思うなら、なんで君の手は震えていたんだい?」