スーザンとボルノフは、海岸を歩いていた。クレトフは、南部の部隊の督励に出てしまい、彼女は少し
さびしかった。
それを見たのか、ボルノフがこの散歩に誘ったのだ。
彼らのはるか後方には、彼らが乗ってきたソ連版ジープ、GAZ-67が停めてある。
ボルノフは、車上ではミステリ小説などについて、流暢な英語で彼女との会話を交わしていた。
しかし、海岸に足を踏み入れた瞬間から、彼は全く口を開いていない。
海面にきらきらと日光が反射し、ボルノフの浅黒い顔を仮面のように見せていた。
ボルノフがふと足を止めた。そして、回れ右をすると、車に向かって歩きはじめた。
スーザンは、うっかり何歩か行きすぎて、慌てて引き返した。早足で歩き、どうにかボルノフに追いつ
いた。
そして、歩きながら言った。
「ちょっとは、しゃべったら、どうなんです?」
ボルノフが足を止め、彼女の方を向いた。
その謎めいた黒い瞳には、不可解で名状しがたい表情が浮かんでいた。
耳にこころよい潮騒が、突然遠くなる。
彼女の背筋に寒気が走り、彼女はコートの襟を立て、前をかきあわせた。
背筋の寒気は、冷たい風のせいだ。彼女はそう思おうとした。
荘厳とすら言える沈黙がしばし続き、やがて彼は口を開いた。
「ここは特別なんですよ、ミス・パーカー」
彼は微笑んだ。いつも通りの、魅力的な笑みだった。呪縛がとけた。
しかし、その微笑みには奇妙な影が過ぎり、彼女を落ち着かなくさせた。そこには何かしら不気味なも
のがあった。
「私は、来たと思えばすぐに行ってしまうんです――――しかし、私はここにしばらくはとどまるでし
ょう。
そして、忘れないでしょう。ここは、そして彼らは、特別なんですよ、ね」
彼女には、「彼ら」が誰なのか、はっきりとは分からなかった。しかし聞き返す気には、決してなれな
かった。
その日、プーカンとコーヒーを飲んでいると、彼女がなにやらビンを持ち出してきた。
「これ、何だと思う?」
彼女はそれを手にとった。
半透明の液体が入っている。傾けると、どろりとしているのが分かった。
「・・・糊?」
プーカンが呆れ顔をした。
「糊をこんなのに入れておくわけ無いでしょうが」
彼女は肩をすくめ、降参のしぐさをした。
「これはね、たぶん麻薬よ。正確には、セックス用のローションに麻薬とその他アヤシいシロモノを混
ぜたみたいだから、
媚薬と言ったほうがいいかもしれないけどね」
「ソ連では、軍医が媚薬を持ち歩いてるわけ?だから熊は困るのよ」
スーザンがからかった。
「アンデネスの薬屋の隠し戸棚に隠してあるのを見つけたのよ。ノルウェーでは麻薬って違法だっけ?」
「もちろん」
「んじゃ、告発できるわね。でも、私たちが集めた証拠って法廷で通用するのかしら?」
考えれば妙な話だ。
たぶんその薬屋は、犯罪の証拠は戦争で消滅してしまったとほくそえんでいただろう。
そのころソ連兵たちがそのビンを眺めて、これはなんだろう、と言い騒いでいたことも知らずに。
ただし、プーカンは、それを発見した軍曹がそれを糊だと思っていたことはスーザンに話さなかった。
そして、彼女が同じ台詞を軍曹に言ったことも。
夜になると、寂しさが募った。
これまで毎晩愛を交わしていただけに、日々の生活にぽっかりと穴が開いたような感じであった。
ベットに横たわり、天井をにらむ。
月光が斜めにさしこみ、幻想的な光の道を作っている。
彼女は起き上がり、サイドテーブルの上のピル・ケースと、米空軍謹製の野球帽の向きを直した。
独身女性の宿舎が焼け残ったのは奇跡だったが、おかげで手荷物を持ち出すことができた。
いま硝煙の中にいるか、あるいはもうこの世にいないであろう、友人たちの思い出も。
ガラス戸を開いて南を向いたバルコニイに出る。
心地よく冷たい夜風が頬をなぶり、広がった金髪が月明かりに幻想的に光った。
潤んだ青灰色の瞳が、月光にきらめく。
寝巻き代わりに使っている大きなTシャツがかすかに風にはためき、風を受けて押し付けられた黒いT
シャツに乳首の輪郭がぽつりぽつりと浮き上がる。
彼女は、顔にかかった髪を指で払った。
そして彼女の視界を閉ざす闇を梳かして見るかのように目を細める。
彼女の視線の先には、クレトフがいるはずだった。
冷たい夜気の中ですら、体が火照っているのが感じられた。
雲がさっと月を隠した。
部屋の中に闇が入り込み、閉ざす。
彼女はドアを開けたままベットの端に座り、そのまま体を横たえる。
つめた息をほおっと吐くと、かすかに白く立ちのぼる。
シャツの上から乳房を優しく揉みしだきつつ、そっと目を閉じると、まぶたの裏にクレトフの顔が浮か
んでくる。
あの車の中での初めての時だ。彼はリクライニングしたシートに横たわり、穏やかな青い目で彼女を見
上げていた・・・
その手がシャツの中へと滑り込み、リズミカルに下からすくい上げるように揉みしだく。
痺れるような快感が胸の頂からふもとへ、そして身体の芯へと伝わっていく。
彼がたくみにズボンとパンティを脱がせ、顔が彼女のももの間へと移っていく。
彼女はそれにつれて腿を開き、彼を誘う。
彼女はいつしか、四つん這いになっていた。彼が南部に出発するまえの夜だ。
あの時、彼は夜が更けるまで彼女の体を離さず、彼女も彼を離さなかった。二人はいっしょに、何度も
高まりに上り詰めた―――
茂みをかきわけ、彼の唇が彼女の秘貝に吸い付いた。
舌が秘裂を割り、すっかりと濡れそぼった果肉から花弁を舐めあげる。
「はあっ・・・」
かたく結んだ唇から、思わず吐息が漏れる。
割れ目に沿って、ぬめぬめとした舌が反復して這い回っている。
熱い蜜がとめどもなくわきあがってくるのを感じる。
気持ちいい。しかし、決定的なそれが、無い。
もどかしさに、思わず両手でシーツを握りしめる。
お願いだから、そこだけじゃなくって、上も、舐めて。
途端に舌先が肉芽を捉え、掘り起こした。
快感の電流が背筋を走る。
すばやく抽送されている。舌が奥へと差し入れられ、秘肉がぐぐっと押し広げられた。
愛液があふれでる、淫靡な水音が、小さな部屋に響き渡る。
舌はそれ自身の意思を持つ軟体生物であるかのように、彼女の中を蹂躙した。
彼女はそれに、情熱的に体をくねらせて応じる。
彼女の体が絶頂の予感に小さく震えたとき、彼の舌が抜かれた。
蜜と唾液の混じりあった液体が糸を引いてシーツの上にこぼれ、寸止めされた秘肉が不満げにひくひく
と動く。
彼女が不満そうな吐息を漏らしたとき、彼女の入り口に陽物が押し当てられるのを感じた。
予感に体が震える。
「いいか?」
男が聞くと、女は、無言でこくんとうなずく。
その気配が闇に伝わり、男は一気に腰を進めた。
「はぁ・・・んっ!」
ぬるりという感触と共に、男の陽物が女の蜜壷を貫いた。
男は、妻を亡くしてから久しく味わっていなかった女性の味をかみ締めていた。
しばし、そのぬるぬるとからみついてくるひだを味わい、そして男は腰を動かしはじめた。
抜ける寸前まで腰を引き、続いて一気に突き入れる。
蜜壷は大きく押し広げられ、糸を引いてあふれた蜜がシーツに小さくたまっている。
そして、また腰を引く。
力強く引かれ、まるで肉襞ごと引きずり出されるかのような感覚を味わう。
続いて、引き裂くように押し入れられると、信じがたいほどの快感が全身をふるわせる。
二人が体を打ち付ける乾いた音と、その結合部から出る淫らな水音とが、奇妙な旋律を成していた。
男はその動作を繰り返し、女も快感を求めて同周期で腰をグラインドさせ、そしてその間隔はどんどん
狭まっていく。
それにつれて、二人の荒々しい喘ぎが高まっていく。
男はさらに深く突き入れ、子宮をこすった。
男は女の肩をつかんで引き寄せ、女の体が限界まで反り返った。
女は唇をかんで、声を抑えようとするが、喘ぎ声が漏れるのを止められない。
彼女は、体の中で男のものがかすかに震えるのを感じた。
続いて男は深く引き、根元まで急激に突きこんだ。
彼女は一気に追い上げられ、達した。
膣が、精液をしぼりとるかのようにきゅっと締め上げ、男もうめいて白濁液を女の中に放った。
彼女は、その熱さを薄いゴムの膜を通して感じていた。
女は荒い息を付き、朦朧としてベットに横たわっていた。
寒さにもかかわらず、彼女の体には汗が玉になって浮いていた。
男は浴室でタオルを湯に濡らし、後始末をすると彼女の体に毛布をかけて立ち上がり、ドアを出た。
そして垂らされていたロープをつかみ、上階に消えた。
熟練したリペリング技術の持ち主らしく、その間、かさとも音を立てなかった。
一瞬の月光に照らし出されたその左眼には眼帯があったが、彼女はそれを見たかどうか分からないうち
に深い眠りに落ちていた。
翌日の朝食後に司令部メンバーと顔を合わせ、スーザンは最初の印象が部分的には正しかったと思った。
猫科の動物の、密かな情事―――そしてライオンは猫科だ。
そしてまた、猫は獰猛なハンターでもある。
獰猛なハンター―――まさに空挺隊員のイメージにぴったりだ。
猫と、鷹匠との情事。
彼女は、そのイメージにかすかなおかしみを感じた。
しかし、これだけは言える。アスランは、だれとも寝ないだろう。