6時間の激戦の末、セルギエンコはついに全中隊に後退を命じた。
長射程の榴弾砲兵中隊が散発的に援護射撃を行なった。
空挺隊員たちは整然と撤退し、海兵隊員たちは罠ではないかと疑いながら前進した。
これまでじりじりしながら息を潜めていたロケット砲兵中隊が全力射を開始した。
続いて砲兵中隊が急速射に移る。
浜辺にロケット弾と榴弾がふりそそぎ、みんながひるんだ。
その隙に両翼から戦車部隊が突入した。
見通しのよい砂浜である。
海兵隊員たちはばたばたと倒れた。
戦車部隊はさんざん荒れ狂うとさっと引き上げた。
損害は、1両小破。
他にLAW対戦車ロケットを被弾した車輌が何両かあったが、リアクティブ・アーマーに阻まれ、さほどの効果はなかった。
その直後にノルウェー海兵隊の戦車小隊を乗せた揚陸艇隊が着岸したが、あとの祭りだった。
だが海兵隊は前進を再開する。
彼らは1メートルの前進を血で贖いながらも、進みつづける。
ソロキン大尉以下の第2中隊が守る第2防衛線に取り付き、戦車小隊の支援を受けつつ激戦がはじまった。
ソヴィエト側が拘置していた戦車小隊も、戦車壕をすばやく移動しながらの直接支援を開始する。
「目標11時の先頭戦車、距離1230弾種徹甲!戦闘照準」
「照準ヨシ装填ヨシ」
「撃て」
BAM!
「命中」
『343号予備陣地へ移動』
『давай!давай!』
制空権をほぼ完全に掌握し、米海兵隊のF/A-18がはるか上空を旋回していた。
海軍の戦闘機と交替するためにムーンシェイド小隊は一度帰艦したが、空母機動部隊への空襲警報から爆装して再出撃するはめになっていた。
ルイス少佐は、その僚機を操縦するリュングマン大尉と共に旋回しながらはるか下の地面に目を走らせた。
その視線には感慨がこもっていた。アンダヤ――ノルウェーの友人が墜ちた地。
彼女が死んだわけではないことは聞いている。彼女は脱出し、捕虜になった。そして、彼女はエースになった。
一方ルイスのほうは「CASのエース」「女ルーデル」という称号を奉られてはいる。
しかし、やはり戦闘機パイロットとしては空対空戦闘での戦果のほうが喜ばしかった。
この戦闘では既に2機撃墜している。あと3機落とせば…
そのときレーダー警報機が鳴った。
すばやく下を確認すると、いくつかの光のドーナツが上がってきた。
両機は即座に急降下しながら回避行動に入る。
ミサイルはフレアとチャフにだまされ、戦闘機を捉えられずに飛び去った。
素早く対レーダーミサイルを起動する。
「ファイア!」
ミサイルが機体から離れ、ロケットモーターが火を噴き、急加速し――――
次の瞬間、機体に衝撃が走った。
「高度が…!」
回避行動中に降下しすぎて、低高度対空ミサイルの有効射高内に入ってしまっていたのだ。
メーターが狂ったように回り、油圧が急降下し、機体が激しく縦揺れする。
F/A-18は煙を曳きながら斜めにゆっくりと落ちていき、やがてきりもみ回転し始めた。そして、爆発した。
燃える破片が地面にふりそそぐ。
その上空では、間一髪で脱出したルイスがほっと息をついていた。
どさりと地面に落ちると、腰をさすりながら立ち上がる。すばやく拳銃を抜き、周囲に目をやった。
車が走ってくるのが見えた。車上では、油断無く兵士が機関銃を構えている。
HMMWVだ―――友軍だ。彼女は満面に笑みを浮かべ、大きく両手を振った。
「増援はまだか?」
シマコフの一瞥を受けてクレトフが通信隊員にせっついた。
「応答有りません」グスコフ中尉が返す。
「同志戦闘団長、本日中に増援が来なければ、我大隊戦闘団は孤立します」
この事態に備え、ナルヴィクの三軍調整官は自動車化狙撃師団2個、2万人の応援を確約していた。
だがそれが、来ない。
「哨戒4班がリュソイハウン近郊で敵工作隊と接触、交戦中。支援を要請しています」
「至急KGB保安中隊を急行させろ」リュソイハウンにはKGB保安中隊がいた。
「了解」
「哨戒4班連絡途絶」
「保安中隊が接敵。敵は逃走しています」
「第2中隊敵と交戦しつつあり」
「保安中隊より、橋が破壊されました!」
「聖母よ!」思わずクレトフが口走った。
ソロキン大尉は、戦車揚陸艦が回頭して動き出すのを見て野戦電話を掴んだ。
NATOの揚陸指揮官は賭けに出た。
戦車揚陸艦を動かし、島の南部のノードメラ付近に海兵隊を上陸させた。
島の南部は、無防備だった。
戦闘団は飛行場を円形に囲むように縦深防御陣地を構築し、時計回りに、第1、第2、第3中隊が守備していた。
ただし第1中隊と第2中隊が交替したため、現在は北東部を第2中隊が、南部を第1中隊が守備している。
シマコフは急ぎ機動群を急行させた。
NATOは抵抗を受けずに揚陸を行なうことができた。
強襲揚陸と言うのは相手の不意をついて初めて成功する作戦だ。
アンデネスのように完全に防御が固められ、制空権も伯仲した状態では、上陸部隊が形勢を立て直す間もなく殺られる。
1個大隊戦闘団が再編を完了し偵察隊を先頭に進撃を開始しようとしたところで、イワノフ以下の機動群が交戦を開始した。
機動群はその特性を生かし、全速力で突撃した。
偵察隊はこの重機甲部隊の攻撃に一撃で四散し、敗走した。
この知らせを受けて戦車小隊が前進し、戦闘団のほかの部隊は後退した。
4両のレオパルト1戦車は適当な窪地を見つけて潜み、砲塔だけを出した。
4両の戦車が単縦陣で進撃してくる。ソヴィエト特有のドーム型砲塔が見えた。
「オッド21より全車、戦闘照準。目標戦車、弾種徹甲」
『距離2000、照準よし!』
「撃て」BAM!
『撃て』『撃て』『撃て』BAM!BAM!BAM!
KAM!KAM!ZUVO!KAM!
『バカな』
『外した!?』
『はじいたぞ』
「くそなんだあの戦車は」
「新型のT-80戦車ではないでしょうかね」
「T-55とPT-76だけだと言った莫迦はどこのどいつだ」
「スパイ連中がまたポカをやらかしたということでしょうな」
「ジーザス…ヘル・マイン・ゴッド!」
BAM!
125mm砲弾がかなり離れたところに弾着した。
めくら撃ちをしているのは明らかだった。
「しめた、奴らまだ気付いてないぞ」
「オッド12より全車、距離700で射撃。先頭車に火線を集中せよ。レーザー測距機は使うな」
T-80はレーザー警報機を備えていた。スタイルズ少尉はハッチから身を乗り出し、旧式の測距儀で距離を測っていた。
「距離1600―――1500―――1400―――1300―――1200―――1100―――」
全ての戦車兵が固唾を飲み、スタイルズのカウントを聞いていた。
「1000―――900―――800―――700!用意!」
「装填ヨシ!照準ヨシ!」
「撃てェーッ!」BAM!
『撃て!』『撃て!』『撃て!』BAM!BAM!BAM!
先頭車に砲弾が続けて命中した。戦車は煙を上げてよろよろと進み、やがて擱坐した。
乗員が飛び出して逃げた。
次の瞬間、爆発して炎を吹き上げた。
3両のソヴィエト戦車は反転して逃走に掛かった。
スタイルズはかっとなった。
「この…腰抜けめ!逃がすな!突撃!突撃!」
戦車小隊は遮蔽から一気に走り出た。
さらに、それに乗じて大隊戦闘団が前進を再開した。
軽装甲歩兵中隊を先頭に、トラックや高機動車に乗った歩兵部隊が続く。
もっとも、このとき軽装甲化歩兵はさんざんな目に会っていた。
歩兵部隊にはじき出されて路肩を進撃するが、装輪装甲車は不整地走行能力が低く、ひどく揺れる。
イワノフ大尉は歯を剥きだして獰猛な笑みを浮かべた。
そして、無線機を握る手に力を込めた。
「天は崩れ落ちる。天は崩れ落ちる。天は崩れ落ちる」
ソヴィエトの2個戦車小隊、8両の戦車と偵察小隊は、完全に擬装して潜んでいた。
4両の戦車が、まず発砲した。
先頭車と最後尾の車輌に砲弾が命中し、あっという間にくすぶる残骸となった。
さらに、残る4両の戦車と偵察小隊が、ノルウェー軍の戦車小隊を狙っていた。
砲弾と対戦車ミサイルが殺到し、4両の戦車は炎を吹き上げる火山と化した。
待ち伏せ戦闘が開始されてから数秒と立たないうちに、ノルウェー軍戦車小隊は一掃された。
軽装甲歩兵中隊はすばやく散開し、回避行動を取る。
空挺戦闘車が機関砲で攻撃しはじめると、海兵隊も砲塔を回して応戦する。
だがソヴィエト戦車部隊は最初の斉射ののち、各個に目標を探し始めた。
最初の標的となったのが海兵隊のピラーニャ装甲車だった。
トラックや高機動車には無いが、ピラーニャ装甲車には水陸両用能力がある。つまり、海に逃げられる。
しかし彼らはその能力ゆえに身を滅ぼした。
数分の交戦の後、24両のピラーニャ装甲車はすべて、煙を上げる超現実的なオブジェとなっていた。
さらに彼らの死は戦友たちにも影響を与えた。
道路上を全速で突っ走れば、あるいは運がよければ逃れられたかもしれない。
だがあちこちに散らばる残骸がそれを妨げた。
彼らは敵を見ることもなく、数キロの彼方から飛来する砲弾に命を絶たれた。
むろん、反撃の努力がなされなかったわけではない。
しかし遮蔽の無い開けた場所でミサイル・ランチャーを設置するのは、自殺行為だった。
ミサイル・ランチャーを設置しようとすると、空挺戦闘車の機関砲、機関銃や戦車の同軸機銃が即座に掃討する。
だが、イワノフは誤りを犯した。
この戦果に拘泥せずに、揚陸地点を叩くべきだったのだ。
完全に状態を整えた次の大隊戦闘団が、砲兵の支援を受けつつ突撃してきた。
「ちっ」
砲弾がふりそそぐなか、イワノフは舌打ちした。
もう少しでこの大隊戦闘団を殲滅できるはずだったのだが。
しかし、引き潮だ。
彼は撤退を命じた。
スタイルズは茫然として這いつくばっていた。
吹き飛ばされた土砂に半分体が埋まっていたが、それにも気付かなかった。
ポータブルな火葬用棺桶と化した彼の戦車から飛び出したのが、ほんの十分程度まえだとは到底思えない。
目の前には惨憺たる光景が広がっていた。
アンデネスの浜辺とは、また違う。
あの砂浜は赤く染まっていた。
だが、ここは、黒く染まっている。
漂うのは、血の香りではなく、焦げるような匂い――――火葬場の香り。蛋白質が焼け、内臓が破裂した香りだ。
黒焦げになり、四肢を天に突き出し、駆けるような姿勢の彫像が転がっている。
それは炭を彫刻したもののように見えるけど、実は死体なんだ――――生きたまま、火葬された人間の。
彼は四つん這いになり、砂を魅入られたように見つめた。
そして、吐いた。
苦しげな嘔吐の音が負傷者たちのうめき声に混じって響いた。
砂浜にいるのは、もはや精鋭の海兵隊員ではなかった。
そこにいたのは、死んだ者と死につつある者、そして、死を見てきた者たちだった。
しかしイワノフたちもそこまでだった。
陣地に向かって後退する戦車部隊に、マヴェリック対地ミサイルと500ポンド爆弾を満載したハリアー飛行隊が襲い掛かった。
機甲部隊の仇とばかりに殺気だった攻撃を仕掛ける攻撃機の前になすすべもなく、イワノフは戦死し1個小隊分、4両の戦車を残して全滅した。偵察兵は装甲車から飛び出して逃げ、ほぼ全員が助かった。
「同志マクシモービッチ」クレトフが進言した。「山中機動,隠密行動ならば我の方が上です。私に考えがあります」
そして話した。
「賭けだな、サーシャ。大きな賭けだ。失敗したら二度と立ち直れんぞ」
「確かにそうです」クレトフは認めた。
「しかし、このままでは手詰まりです。航空優勢・海上優勢を敵が握っている以上、我の不利は明白です。
夜が明ければ、空爆で我は一方的な出血を強要されることになるでしょう。今晩が最高のチャンスです」
シマコフは肯いた。
「…よし、やろう!最優先だ。だが、いくつか手直ししたほうが良いな。火力支援は――直接支援は――」
「敵の砲火が弱まっています」通信将校からの報告を受け、レイノルズ大佐が言った。
ノルウェー海兵隊のスミス大佐は反駁した。「莫迦な。敵はまだそれほどの損害を受けているはずが無い!」
「連絡が途絶した強襲中隊が健在で、砲兵陣地を掃討しているに違いない」
指揮を執る少将も同意した。
同意したのは良いのだが、そのために夜間攻撃の中止を決定したのは拙かった。
もっとも少将の決定にも理由はある。
今回の戦闘では土地鑑があるのは敵の側になる。
夜間戦闘では土地鑑が物を言う。いたずらに夜動いても損害を拡大するだけだ、と判断したのだ。
大佐の決断を受け、本部管理中隊は活気付いた。
いくつもの計画が生まれては消え、また生まれた。
アンダヤ支隊には、あらゆる軍人が熱望するような絆があった。適度な競争心と、仲間意識。
シマコフは、両親を早くに亡くしたクレトフにとってまさに父親のようなものだった。そして、その2人を支援する本部管理中隊は、この部隊がアンダヤ支隊に再編される前、第14親衛空中突撃連隊時代からの仲間だった。
シマコフとクレトフが大まかな作戦計画を作る。
本部管理中隊がそれを具体化する。
歩兵中隊がその作戦を実行する。
そして、小隊や分隊が活気付く。
迫撃砲部隊は、命令を受けて直ちに射点移動を開始した。
その穴を埋めるように、砲兵中隊は猛烈にぶっ放し始めた。砲身が焼け、白い硝煙が濛々と立ち込めた。
「明日のことは考えるな!とにかく今日いっぱいは持たせろ!」砲兵中隊長のデミヤン大尉は走り回り、喉を嗄らして砲員を激励した。
ニチーキン大尉は隠密裏に部隊を移動させるように命令を受けた。
島の西側で戦われていた激戦とは全く縁がなかった第3空挺中隊は、この命令に沸き立った。
シマコフ大佐はロケット砲兵中隊を南部にまわし、さらに北部を守る2個中隊からそれぞれ1個分隊の兵士を抽出した。
またプーカン中尉に命令し、軽傷の兵士は直ちに再編成して前線に再投入した。これで、おおよそ1個分隊を確保できた。
偵察小隊を一度後方に退げ、この3個分隊を追加して臨時に中隊級の部隊を編制した。指揮官としてはソロキン大尉が転任してきた。中隊は9個分隊だからこれでは足らぬ、とお思いかもしれないが、偵察隊はもともと準中隊の7個分隊編制なので問題はなかった。
さらに、アンデネス前面に貼り付けられていた戦車小隊の生き残りである2両の戦車に、本部付きの2両を追加して戦車小隊を編制した。
完全に息の合った、小所帯のアンダヤ支隊にして初めてできる芸当である。もっとも部隊のやりくりが分隊レベルなのが小所帯の悲しさではあったが。
スーザンが悶々としながら部屋の中を行ったり来たりしていると、鍵が開く音がして本管中隊の兵長が夕食を持ち、入ってきた。
「待ちなさい」トレイを置き、そそくさと出て行こうとする兵長を呼び止める。兵長はおずおずと振り向いた。
「戦況を報告しなさい」
彼は、戦況を捕虜に教えるのにためらいを覚えた。
しかし、彼女が丹田に力を入れて声を張って繰り返すと、その命令調に逆らえずに彼は白状した。
アンデネスの浜辺には、ノルウェー部隊が進退窮まって立ち往生している。
南部にはノルウェー軍の旅団規模の部隊が上陸した。対空ミサイル部隊は出血している。
制空権は奪われ、明日はかなり厳しい一日になるだろう。
『飛行場を枕に討ち死にしたとしても、我々が降ることはない 固守か、死か』
シマコフは、敵の降伏勧告を一蹴した。
兵長は言い終わると逃げるように去り、茫然と立ち尽くすスーザンが残された。
日が、暮れる。血のように赤い太陽が水平線を動いている。
そんな中、ノルウェー兵は砂浜に散らばるあちこちの遮蔽で分隊ごとに固まり、見張り以外は死んだように眠った。
彼らはこの一日で疲れきっていた。
撤退させられるだけの舟艇が着岸するのは不可能だった。
夜のうちにダイヴァーたちがひそかに潜入し、弾薬や糧食を補給した。
低い太陽が雲の間から顔をのぞかせた。
雪が残る木々の間を、赤黒い人影がひそひそと動いていく。
「偵察隊、攻撃開始線へ展開完了」
「第3中隊、まもなく展開完了します」
「迫砲、射撃準備完了」
Target On Time、という言葉がある。
陸上自衛隊では…そのまま「ターゲット・オン・タイム」と言っている。
これでは説明にもナニにもなっていないので無理矢理訳すと、「同一目標同時弾着」とでもなろうか。
Ti…Ti…Ti…Ti…
何対もの目が、時計の秒針を息を詰めて見つめていた。
…Ti…Ti…Ti…Ti…
闇の帳が、死んだように静かな島を、覆っていた。
X日1800時、攻勢発起。
「アゴーイ!」PAM!
「アゴーイ!」PONG!
「アゴーイ!」QuOOOOM!
「アゴーイ!」Sh-!Sheeeeee…
PONG!PONG!PONG!PONG!PONG!PONG!PONG!PONG!
PONG!PONG!PONG!PONG!PONG!PONG!PONG!PONG!
BAM!BAM!BAM!BAM!BAM!BAM!BAM!BAM!BAM!BAM!
Shー! Shー! Shー! Shー! Shー! SheeSheeShee……
Hu-M HuM HuM HuM HuM HuM HuM HuM HuM HuM
PTHOOOM!PONG!PAKOM!POM!PAOM!PTHOOOM!POM!
「アターカ!」「アターカ!」HuOOOOOOOOOM!HuOOOOOOOOOM!
「アゴーイ!」POM!POM!POM!POM!POM!POM!POM!POM!
「ウラー!」「ウラー!」KTOWKTOWKTOWKTOWKTOWKTOWKTOW!
「ウラー!」「ウラー!」ZIPZIPZIPZIPZIPZIPZIPZIPZIP!
BAOM!VOM!DOM!BAKOM!ZUVO!ZUVO!ZUVO!BAOM!
迫撃砲の一斉射撃に遅れること数秒、空挺隊員たちは一斉に30ミリグレネードを撃った。
ソヴィエト兵の頭上を、布を裂くような異様な唸りを上げながら82ミリ迫撃砲弾が飛びすぎた。
82ミリ迫撃砲弾と同時に30ミリグレネードが弾着し、爆発が大地を揺るがした。
「て、敵襲!」「敵しゅうてきしゅう!」「敵襲ーッ!」「敵襲ーッ!」
海兵隊員たちは飛び起きた。
連続する爆発を奇蹟的に生き延びた歩哨の視界に、亡霊のように銃を撃ちまくる人影が出現した。
彼らがあわてて突撃銃を構えなおそうとしたとき、一斉に球が弧を描いた。
手榴弾の弾幕投擲。手榴弾はころころと転がり、続けて爆発した。
さらに迫撃砲弾が降り注ぎ、爆発が夜営地で連続する。
死にゆく男たちの絶叫が響く。
寝ぼけ眼の海兵隊員たちを、ソヴィエト兵の銃撃が襲う。
ノルウェー兵の間を致命的なパニックが走り抜ける。彼らには、ノードメラでイワノフたちに叩きのめされた記憶が鮮明に残っており、脆かった。
指揮系統は完全に崩壊し中隊長は戦死、海兵隊の先遣中隊は一撃で潰走した。
「捕虜なんぞほっとけ!突撃!突撃!突撃!突撃!突撃!」「蹂躙しろ!」
「爆薬が足りんぞ!あと500グラム持って来い!急げ」「突撃班前へ!」「戦車前へ!」「すごいぞ全周目標だ」
戦車小隊はがむしゃらに突撃し、対空砲小隊は直射を浴びせ、対戦車ミサイルは速射で装甲車を屠っていく。
各分隊は事前に割り当てられた目標に向かってきびきびと散開していく。
偵察隊は浸透し、物資の集積所に爆薬を仕掛けて爆破した。
赤黒い火球が薄く白んだ夜空を焦がした。
後方に駐屯する第2中隊も潰走してくる友軍に圧されて揺らぎ始めた。
しかし、そんな中でもノルウェー兵は果敢に反撃を試みた。
ランチャーから照明弾が発射され、パラシュートに吊られてゆらゆらと漂いながら降りてくる。
揺らめく光に照らし出された山肌ではあちこちで発砲の閃光がきらめき、爆音が響き、硝煙が薄くなびいていた。
まさに生き地獄だった…
しかし、そのさらに後方に駐屯する第3中隊の抵抗は想像を絶した。
第1,第2中隊には与えられなかった貴重な数分が、第3中隊にはあった。
中隊長のウォード大尉は戦線を駆け回り、敗走してくる友軍部隊を臨時に編制し、反撃の準備を整えつつあった。
幸いウォード大尉はその場での最先任士官だった。
数ヶ月後任の大尉を激励し、中尉を叱咤し、少尉,准尉や曹長を怒鳴りつけ、奮い立たせた。
定数170名の歩兵中隊は敗走兵を糾合して300名前後にまで膨れ上がっていた。
猶予は一刻としてなかった。編制が完了しないうちに敵が押し寄せてきた。
岩場を無謀な速度で走りながら、ノルウェー戦車小隊はソヴィエト戦車小隊との交戦を開始した。
開始されてすぐに、その戦車戦は命をかけた一騎打ち、ないし隠れん坊と化した。
一瞬の閃光が照らした陰影を目掛けてレオパルト戦車の105ミリライフル砲が火を吹いた。
その発砲炎を狙ってT-80戦車の125ミリ滑腔砲が咆哮した。
ノルウェー砲兵は急速射を開始した。
迫る敵部隊に、砲兵はあわただしく仰角を下げた。
間接照準どころの騒ぎではない。用意が出来るや否やぶっ放した。
105ミリ榴弾砲の直接射撃である。
防楯に銃弾があたり、甲高い音を立てて跳ねた。
ナルヴィクのソヴィエト三軍調整官はアンダヤ支隊を支援するために偵察機を派遣した。
増援の2個自動車化狙撃師団はカテゴリーCの予備役部隊である上に空爆で出血し、アンダヤ島への上陸は諦めざるを得なかった。
彼は指揮下にある唯一のカテゴリーB師団を使っての逆上陸作戦の計画を考え始めた。アンデネスの飛行場なら、ブラインダー爆撃機が直接スコットランドを襲撃できる。アンダヤ島はいまや信じがたいほどの価値を持つ不動産なのだ。
「偵察隊より報告、敵の抵抗軽微」
「戦小より報告、敵は敗走中!」
「第3中隊も同様に報告しています。追撃を継続します」
司令部には矢継ぎ早に各部隊から報告が入っていた。
戦線を決定的に突破し、波に乗って進撃している。勝利は間近だ。
そう思えたとき、それを引っくり返すような報告がナルヴィクから入った。
「至急報!リュソイハンおよびスヨルデハウンに敵部隊あり!連隊規模!」
そのミグ-21の操縦士は、地上の敵軍を目視した後に連絡を絶ったのだった。
「何でそれを早く言わん!」怒鳴られて通信士は肩を落とした。
シマコフはそれが理不尽な怒りだと分かっていたが、彼としては責任を誰かにかぶせたくもなる気分だった。
この予想外の敵軍の出現に、アンデネスのソ連軍司令部は動揺した。
兵力比6倍は生半可なものではない。
2倍なら、指揮官や将兵の能力で埋められもしよう。
4倍でも、地形や兵器の有利、そして運があれば引っくり返すことは可能だ。
だが6倍ともなると、まさに白刃の上を渡るような賭けをして辛うじて埋まるか否か、である。
彼らは既に賭けをした。だが、この劣勢を挽回するには更なる賭けが必要だった。
第2次攻勢の敢行が決定された。
第2次攻勢参加部隊は、臨時に編成した第4中隊と戦車小隊、迫撃砲小隊、ロケット中隊。
第1次攻勢参加部隊と合わせると、空挺隊員2個中隊に戦車2個小隊、迫撃砲2個小隊にロケット中隊。
小さいながらもそれなりの形は整えることができた。
対するはノルウェー海兵隊の2個大隊戦闘団。歩兵中隊が6個に戦車小隊が2個、砲兵中隊が2個である。
これを見て、読者諸賢の中には「なんだ、戦力比3倍じゃないか」と仰る方もおられよう。
だがこれはアンダヤ島南部に限っての話だ。
北部のアンデネス前面には、未だにノルウェー海兵隊のA大隊戦闘団――というかその残りが頑張っている。
その基幹戦力は3個中隊から2個中隊強にまで低下しているが、北部のソヴィエト軍も損耗している。
アンデネスを守るソヴィエト軍は、建前は2個歩兵中隊。とはいっても減耗と南部への戦力抽出により、実質は1.5個中隊である。さらに直掩火力である戦車や迫撃砲は南部に引き抜かれている。もっとも迫撃砲については、ノルウェー軍から弾薬付きで鹵獲した81ミリ迫撃砲があったので、問題はさほど無かった。
問題は対戦車火力の不足である。いくら陣地に篭っているとは言え、対戦車ミサイルだけでは心もとない。
だが、どうしようもなかった。
洋上にはさらに1個大隊戦闘団、つまり3個歩兵中隊が遊弋している。
これらは舟艇によって高い機動力を持ち、どこに現れるか分からない。
この状況のなか、ソヴィエト軍はその持てる全力を展開した。司令部の守備部隊や傷痍兵まで前線に駆り出しているのである。
つまりこの後客がきても、鍋の底をさらおうが何をしようが一品も出せない状況にあるのだ。
そして敵には、我の全力と同じだけの予備部隊がある…しかもそれらは全く戦闘に参加していない!
「これからが修羅場だぞ。ここからは時間との競争だ」
夜明けまでにノードメラとスヨルデハウンの敵軍を駆逐しなければ、空爆で袋叩きにされることになる。
偵察隊のみの小規模な夜襲として計画されたものが今やソヴィエト側全兵力の3割を投入しての強襲となり、さらに熾烈さを増そうとしていた。
「ノードメラを迂回せよ。目標はリュソイハウン、そしてスヨルデハウンだ」
ディーヴァーベルグ経由で島の東部を回り、一気にリュソイハウンの敵橋頭堡を急襲する計画である。
「4中、攻撃開始線に展開完了」「迫撃砲前進準備よろし」
「哨戒班配置につきました」「敵影なし!敵の警戒は皆無です!」
「くそ、いけるぞ」クレトフがうめいた。
「測候班より、風向は…」測候班がロケット中隊に最新の天候データを伝えた。それを入力し、準備は完了した。
「ロケット中隊、準備完了」
クレトフがシマコフに敬礼し、報告した。「全部隊、配置完了しました」額に当てたその掌は、震えていた。
シマコフも肯き返した。そして、叫んだ。
「攻撃開始!」
X日2020時、第2次攻勢開始。
ロケット中隊がいっせいに火蓋を切った。
続けざまに72発の122ミリロケットが空中に放物線を描き、ノルウェー軍の前哨線に襲い掛かった。
上空を陸続と飛び越えていく光線に、空挺隊員たちは奮い立った。
「アターカ(突撃)!」
ソロキンの抑えた叫びに、第4中隊はいっせいに前進を開始した。
兵士たちは山肌を疾駆し、一気に敵部隊へと肉薄していく。4両の戦車と1両の空挺装甲車は道路を疾走した。
戦車の後部には偵察隊の空挺隊員が鈴なりにしがみついている。空挺装甲車は迫撃砲部隊を乗せている。
ディーヴァーベルグにはノルウェー海兵隊の偵察部隊が進出していたが、この予想外の攻撃に肝を潰してろくな反撃もせず逃げ出した。
さらに思わぬ幸運があった。リュソイハウンで全滅したと考えられていたKGB保安中隊のうち、生き残っていた1個小隊がサウラヴォーゲン近郊に潜伏していたのである。
当初計画では1個小隊をディーヴァーベルグの守備に回すはずだったが、これでその分の兵力が節約できることになる。
第4中隊はなおも突進した。
ディーヴァーベルグでは村落に拠ってKGB部隊が守備につき、さらにロケット中隊が前進してきた。
ロケット中隊は布陣すると、スヨルデハウンの橋頭堡に向けての猛射を開始した。たかだか中隊規模のロケット、しかも空挺部隊用の軽量発射機ではさほどの効果は無いが、少なくとも敵に心配の種を与えることはできる。
セレフォールまで突っ走った第4中隊は、まず偵察隊を浸透させた。その間に徒歩で追ってきた部隊が追いつき、再編制が完了した。
かつてノルウェー軍がアンデネスに置き忘れた60ミリ軽迫撃砲は今やセレフォールに展開し、砲撃命令を待っている。
「41より03、展開完了」
『03了解。攻撃を開始せよ』
「41了解」
偵察隊の報告を元にして、ソロキン大尉は攻撃を開始した。
迫撃砲が全力射を開始し、その支援のもと、第4中隊戦闘団は戦闘地域に突入した。
歩兵部隊が山側を先行し、敵の対戦車火点を制圧する。その後方から戦車小隊が進撃する。
4両のT-80戦車は、抵抗を主砲や同軸機銃で制圧しながら上手く稜線や遮蔽にその巨体を隠しながら前進していく。
リュソイハウンのノルウェー海兵隊は不意をつかれた。
ノードメラでの第3中隊の攻撃に対応するために部隊の主力を西側に送ったばかりで、山をはさんで反対側からの攻撃に対応できなかった。
ノルウェー軍のパニックは最高潮に達した。
アンダヤ島東部で初のノルウェー軍の実質的な抵抗は、オーセに展開していた海兵隊D大隊第2中隊によって行なわれた。
土嚢を積んだ即席の陣地には米国製の汎用機関銃が据えられ、対戦車ミサイルが配置された。
丘の間の道路はキル・ゾーンとされ、地雷が仕掛けられていた。道路以外は地盤がゆるく、戦車が行動できるとは思えなかった。
戦車の履帯が道路を踏む音に、海兵隊員たちは緊張した。
次の瞬間、カーブを曲がってソヴィエトの戦車が現れた。
ミサイル発射機と戦車は同時に発砲した。ミラン対戦車ミサイルがワイヤーを曳いて飛んだ。
偵察隊員がミサイル発射機の位置を掴んでおり、戦車はだいたいの見当をつけて榴弾を撃つだけでよかった。
対戦車ミサイルが戦車に達する数秒前に榴弾がミサイル発射機を抹消し、ミサイルは無害な飛行体となって飛び去った。
だが次の瞬間、もう1基のミサイル発射機が発射した。戦車は煙幕弾を撃ちながら後退し、戦果は見えなかった。
そのとき後方で吶喊の声が沸き起こった。
ノルウェー軍の指揮官は敗北を悟った。
戦車が正面で陽動している隙に、敵の歩兵部隊が丘の下の低地を走り、後方に回り込んだのだ。
オーセの防衛線は10分あまりの交戦で突破され、ノルウェー軍は敗走した。海兵隊員たちは肝を潰し、オーセの村落に拠っての遅滞戦闘など頭に浮かびもしなかった。
セレフォールの迫撃砲部隊はオーセまで前進し、リュソイハウンに直接砲撃を加えはじめた。
スヨルデハウンに展開するノルウェー海兵隊E大隊戦闘団は、この攻撃に対応できるはずだった。
戦力的に言えば容易なはずだが、しかし夜陰の攻撃ということが混乱を招いた。
夜空は明るいが、昼間と同様に戦うには暗すぎた。降ってくるロケットも混乱を助長した。
戦線をパニックが走り抜け、情報は錯綜した。
敵の特攻隊が司令部に突入してくるという情報もあった。これはリュソイハウンで潰滅したKGB保安中隊の敗残兵を誤認したものだったが、ノルウェー軍はそれを信じた。
潜入したソヴィエトの哨戒班は偽情報を流し、その混乱をさらにあおった。
虎の子の戦車隊は司令部の警備に駆り出された。前線から引き抜かれた部隊が警備に回った。
合言葉が何重にも複雑になっていった。
ノルウェーの首都は?
フィンマルク州の州都は?
ブリトニー・スピアーズの歌を一曲言ってみろ!
答えられなければ即ホールド・アップ。
准尉を営倉送りにした憲兵軍曹が、すぐに別の憲兵に銃を突きつけられた。
航空統制官や中隊指揮官までもが営倉にぶち込まれた。
E大隊戦闘団司令部は自らの想像と自らの部隊の捕虜になりつつあった。
「敵の攻勢です」
「チャーリー2敗走中!」
「チャーリー指揮官、航空支援を要請しています」「デルタが状況説明を求めています」
「敵勢力は旅団兵力と考えられます」
空母「アーク・ロイヤル」のCICは蜂の巣をつついたような騒ぎになっていた。
「至急ハリアーを発進させろ」NATO艦隊の航空機で夜間攻撃能力を限定的でも保有しているのは、ハリアー攻撃機しかなかった。
だが、すぐに状況はさらに混沌の度を増す。
島の中央で、突如として閃光が続けざまに生じた。
これまで鳴りを潜めていた対艦ミサイル中隊が火蓋を切ったのだ。
数十秒後、16発のカヤック・ミサイルはブースターを切り離して沖合いの英国艦隊に向かった。
『ヴァンパイヤー!ヴァンパイヤー!ミサイル飛来』
空母「アーク・ロイヤル」を直掩する42型駆逐艦のCICで伝令員が叫んだ。
「総員配置につけ。対空戦闘」「機関出力全開。最大戦速。面舵一杯!」
艦長はレーダー断面積を減らすためにミサイルに艦正面を向けた。
『複数のシーカー・ヘッドが本艦を追尾しています』ディスプレイには、ミサイルが接近してくるのが表示されていた。
『チャフ連続発射!』艦の上空で続けてチャフ・ロケットが破裂し、アルミ箔を撒き散らした。爆発音にみんなが竦んだ。
両舷のファランクスCIWSは回り、空を狙った。
「さあ、やろうぜ!」戦術行動士官がスイッチを押した。
艦首のミサイル発射機がくるっと回り、最初のミサイルが発射された。前甲板が白煙で覆われた。
『ジーザス』SAMは敵のミサイルのそばまで行ったが、すれ違った。近接信管の故障だった。
『なおも本艦は追尾されています!』
さらにシーダートが発射されたが、またも外れた。
「射撃開始!」右舷のファランクスが撃ち始めた。
20ミリバルカン砲の6本の砲身がからからと回り、最初の薬莢が甲板に落ちる前に数十発を撃っていた。
ほとんど間をおかずに、右舷側前方から2発のミサイルが突っ込んできた。
ファランクスは一発目を撃破したが、その後からさらにもう1発来た。
ファランクスはなおも撃ちつづけるが、なかなか当らない。
空中哨戒中のシーハリアーがミサイルを狙ってサイドワインダーを撃った。みんなが驚いたことに、これは命中した。
直衛していた2隻の42型駆逐艦のうち1隻が撃沈され、残り1隻に全てが掛かっていた。
しかし、この42型駆逐艦が奮戦した。
この戦役中まったく当らないので有名だったシーダートSAMを7発撃ち、実に3発ものミサイルを撃墜した。
撃ちもらした1発のミサイルは「アーク・ロイヤル」のファランクスが辛うじて撃墜した。
だが結局、この戦闘でそれぞれ1隻の駆逐艦とフリゲイト,徴用された民間船5隻が撃沈された。
しかし、情報化されたNATOの強みがここで発揮される。
カヤック・ミサイルが空中から消えるや否や、NATO軍は戦況を的確に把握し始めた。
シーハリアー戦闘機は危険を顧みずに突入してレーダーでマッピングし、ハリアー攻撃機は暗視装置で偵察した。
2200時ごろ、NATOは戦況を完全につかんだ。
「くそ、敵のどこにこんな余力が残っていたんだ!」イギリス軍の少将はうめいた。
「これは敵の最後の攻撃です。これを乗り切れば勝てます」ノルウェー軍の大佐は力説した。
「敵がアンダヤに展開する部隊は1個連隊相当です。今戦線に出ているのは、その全力です!」
そして、彼は作戦を説明した。
イギリス軍側は同意するしかなかった。この作戦が失敗すれば、6倍の兵力にもかかわらず戦況は膠着状態となるだろう。
しかしスミス大佐の主張は、十分な説得力を持っていた。
ノードメラで激戦を続けるB大隊、D大隊、そしてリュソイハウンのC大隊は、スヨルデハウンまで後退してE大隊と合流するよう命じられた。
ノードメラ〜オー間に設定されていた戦線に代わって、ボガード防衛線が設定された。
スヨルデハウンを死守せよ!
揚陸艦がスヨルデハウンの港に回された。
C大隊とE大隊は、受けた命令に激昂しながら揚陸艦艇に乗り込んだ。
『敵はなお敗走中。第3中隊はノードメラを突破しました!』
『第4中隊、リュソイハウンを占領。敵の抵抗極めて軽微!』
「サーシャ、やったな!」シマコフは満面の笑みを浮かべて副官を振り返った。
だが、クレトフの表情はすぐれなかった。
「どうした?」
「敵は脆すぎます!戦車が東部で戦線に現れないのはなぜです?
圧倒的優位なのに、なぜ敵はノードメラとリュソイハウンを放棄したんです?何か臭いませんか!」
「考えすぎだよ、サーシャ。夜襲に敵は潰乱した。そういうことさ」
「何か裏がありますよ、これには!過度の進撃は危険です。追撃はリュソイハウンとノードメラで止めるべきです」
「ここまで来て怖気づいたか、サーシャ!追撃して戦果を拡大するんだ」
ノルウェー海兵隊C大隊は西へ、E大隊は東に回った。
それぞれに2隻の駆逐艦が護衛についた。
2隻は展開し、攻撃開始線を形成した。
『カンプグルッペ・チャーリー、攻撃開始!』
『カンプグルッペ・エコー、攻撃開始!』
『ブリーク沖に敵艦隊!』通信士が狼狽して叫んだ。
「それは誤報ではないのか!? 確認しろ!」
『確認しました!敵駆逐艦および複数の船舶を視認しています!陸兵を揚陸中!』
「第3中隊に命令!速やかに転進しブリークの敵部隊と交戦せよ」
「団長!」クレトフは怒鳴った。「直ちに両中隊を戻すべきです。このままでは分断されます」
「敵はブリーク沖だけだ!第4中隊の攻撃は継続する!夜明け前にスヨルデハウンの敵を駆逐しなければ我々は破滅だ!」
通信士官の声がその論争に水を注した。
『ブレイヴィカ沖に敵艦隊!』
「何だと!? ブリークの間違いではないのか!?」
『ブレイヴィカ沖にも敵艦隊――監視所と連絡途絶!』
『第3中隊より報告!敵部隊はなお敗走中!ノースを突破しました!』
『第4中隊より至急報!敵の強力な抵抗に遭遇!敵は組織的に反撃しています!』
「直ちに両中隊に撤退命令を出してください! 戦線を縮小しなければ持ちこたえられません!」
『アンデネス前面に敵艦隊!増援部隊を揚陸しつつあります!』
『第3中隊、ボガード前面で強力な抵抗に遭遇!』
『第4中隊、敵の砲火が強まっています!』