ノルウェー王国、アンダヤ島  
 
ノルウェー空軍第332飛行隊「ワイルドギース」小隊の4機のF-16戦闘機はアンデネス 
飛行場の上空1万3000mを旋回していた。  
「ワイルドギース」小隊長のスーザン・<バニー>・パーカー大尉は、油断無く周囲 
に目を配っていた。  
機首のAPG-66レーダーは切ってある。敵機の接近は地上レーダーが警告してくれるこ 
とになっていたが、彼女は地上レーダーを信用していなかった。  
この高度では既に夜が明けつつあったが、地上は闇に閉ざされている。  
彼らのF-16戦闘機は両翼端にサイドワインダー短AAMを装備し、翼下には4発のAMRAAM 
中AAMと2本の370ガロン増槽を搭載するという標準的な制空パッケージを搭載している。  
第336飛行隊は、AMRAAMを運用できるF-16が配備された初の部隊である。AMRAAMを運用 
するためには、機体に配線されているほかレーダーに新型のソフトウェアを入れる必 
要がある。第336飛行隊は南部のリッゲ基地でAMRAAMの運用試験を行い、一昨日アンデ 
ネス飛行場に展開した。  
ノルウェー空軍は昨日までの交戦で重大な損害を蒙っている。その戦力の半分は既に 
消えた。  
彼女たちの第336飛行隊は、今やノルウェー空軍でF-16を運用する最後の部隊だ。  
第331飛行隊、第332ならびに第334飛行隊の残存機を吸収し、第336飛行隊の勢力はほ 
ぼ倍に膨れ上がっていた――要するに、残る3個の飛行隊は三分の二の戦力を喪失して 
いたと言うことだ。  
間もなく、ブーデを目指して沖合いを通過するソヴィエト両用戦隊に対する攻撃作戦が 
発動される。  
しかし敵もアンデネス飛行場にノルウェー空軍が集結していることは知っているはずな 
ので、苛烈な航空攻撃が予想された。  
地上では、彼らの機体と同じ制空パッケージを搭載したF-16と、ペンギンミサイルを搭 
載したF-16が待機している。  
それらの操縦士たちは操縦席に座って待機しながら、発泡スチロールのカップでコーヒ 
ーを飲んでいた。  
 
その時、陸軍の監視点から驚くべき連絡が入った。  
『ポイント・マイク・ゼロより、沖合いに艦影多数』  
『ポイント・マイク・スリーより、沖合いの艦隊には揚陸艦あり、その数10余。舟艇を 
展開しつつあり』  
タワーの要員が、回線が開かれていることを忘れて悪態をついた。 
『何てこった、目標はここだったんだ!』  
情報では、敵両用戦隊の目標はブーデということだった。スーザンも悪態を短く並べた。  
というより、その瞬間アンダヤのNATO要員全てが大差ないことをしていた。  
『ポイント・マイク・ワンより、敵の艦砲射撃を受く』  
『ポイント・マイク・ゼロより、敵部隊が上陸しつつある』  
『警報イエロー、警報イエロー、敵地上攻撃に備えよ』  
『ポイント・マイク・ツー、維持できない。後退する』  
『タワーよりウッドクック・リード、デリンジャー・プラン・ゴルフ。用意』  
誰もが不意を突かれ、通信が錯綜し始める。  
そして、それに拍車をかける通報がNATOのE-3から入った。  
『警報レッド、警報レッド、多数のバンディットが向かってくる。真北ないし北東から 
接近中。バンディットは40から50機。  
 ワイルドギース・ワン、スポラディック・プラン・チャーリー。実施!以上』  
彼女は唾を飲み、言った。  
「了解。ワイルドギース、全機ゲート。みんな、行くよ!」  
『了解』  
彼らは機体を傾け、旋回した。各機はアフターバーナーの使用を始め、機体は急速に加 
速した。燃料を急速に消費し、続けて外部燃料タンクが投棄された。  
地上では四方八方でアラームが鳴り、キャノピーが閉じられた。  
各機体の整備班長が操縦士にさっと敬礼し、エンジンの甲高い音が轟音に変わった。  
戦闘機は列線からよたよたと出はじめた。  
『ウッドクック・リード、一時待機せよ』  
『マザーグース・リードよりタワーへ、スクランブルする。滑走路を使うぞ!』  
『了解、マザーグース・リード。使ってよし。スポラディック・プラン・エコー。 
実施!以上』  
 
アンダヤ島の沖合いでは、揚陸艦の車輌甲板に整然と並んだソヴィエトの水陸両用車が 
陸続と発進しつつあった。  
装甲車は岸を目指してひたすら進む。撃ちまくられながらもひたすら進む。  
先頭中隊の中隊長であるセルゲイ・A・クレトフ大尉は大声で祈っていた。  
しかし、乗員たちはその声に気付かなかった。彼らも同じことをしていたからだ。  
祈りでもしなければ、こんなことができる訳がない。クレトフは車体前方の機銃に取り 
付き、撃ちまくっていた。  
陸がすべて彼らに向かって火を吹いているようだった。機関銃弾が装甲に当たる音が車 
内に響いていた。  
BAOM!BAOM!  
隣を走るBMD-2が、迫撃砲弾の直撃を受けて粉砕された。  
『汀線まで30秒 スケジュールどおりです、同志!』  
至近弾がひっきりなしに破片と海水を巻き上げ、応射する30mm機関砲の砲声がしばしば 
聞こえなくなった。  
後方で支援に当たる駆逐艦が艦砲射撃を継続し、徐々にではあるが敵の銃砲火が弱まり 
始めた。  
『汀線まで10秒!』  
続いてガクン、と衝撃が伝わった。  
『上陸!』  
幸い、まだ夜は明けていない。両用作戦では、遮蔽を利用しての前進が出来ないので、 
夜陰に乗じて行うのが定石である。  
「突撃!突撃!橋頭堡を拡大しろ」  
海岸から2キロまでは、上陸第一陣――つまり第35親衛空中突撃連隊第1大隊が確保しな 
ければならない。  
機銃手が短い連射を浴びせ、敵の陣地を蹂躙している。  
「11時に無反動砲」操縦手が叫んだ。  
「任せろ」クレトフはバースト射を送り出し、砲員を屠った。  
車体に続けて機銃弾が命中した。クレトフは素早く機銃を回し、なぎ倒した。  
彼らの後方では揚陸艦が浜に乗り上げ、バウドアを開いて主力部隊の揚陸を開始した。  
猛攻に耐え切れず、ノルウェー軍が後退を始めた。  
『ミンスク1よりブローハ1、損害に拘泥せず目標1アンデネス飛行場へ前進せよ』  
「ブローハ1了解」  
BMD-2は岩を縫いながら前進を開始した。彼らは間もなく道路に乗り、飛行場を目指した。 
 
NATOのセントリーの機内では、レーダー操作員たちが広い半円形をなして彼らに 
向かってくる多数のブリップを見守っていた。  
基地との距離はおよそ400海里。探知を避けるために低空で侵入してきたが、探 
知されたので急速に上昇しつつあった。  
今やワイルドギース小隊は1200ノットで敵編隊へ向けて突進していた。敵編隊ま 
での距離は180海里。  
地上では混乱が生じていた。タワーの要員は、敵の両用戦隊を攻撃するのが先か、 
敵の爆撃隊を迎撃するのが先か決めかねた。  
制空任務の飛行隊が離陸し、続いてペンギンミサイルを搭載したF-16が離陸準備 
を始める。  
彼らは皆、帰るべき基地が残ってくれるだろうかと訝った。  
マザーグース中隊が離陸を完了し、敵機に向かい始めた。  
しかし、最初に接敵するのはワイルドギース小隊だ。  
『セントリー・オスカーよりワイルドギース、第一波は全部で16機、おそらくフル 
クラムだ。  
 四組に分かれ、四機のダイヤ形編隊をとっている。  
 距離および高度はそれぞれ、50海里エンジェル32、55海里エンジェル19、60海里 
エンジェル44、60海里エンジェル25。  
『第二波は36機、おそらくブラインダーないしバックファイアだが、隊形の詳細は 
まだ分からん。距離は100海里、高度はおよそエンジェル10から20』  
「了解。ワイルドギース・ワンより全機。封鎖解除!」  
ワイルドギース小隊は機首のAPG-66レーダーを作動させた。  
たちまちレーダースコープに目標が表示されていく。  
 
「タリィ・ホー!」スーザンは戦闘開始の雄たけびを上げ、続いて言った。  
「みんな、スラマーで行くわよ」  
『了解』  
「フォックス・ワン!」  
彼女は目標をロックオンし、プランに従って回避不能域の外縁から続けてAMRAAMを 
4発放った。ほぼ最大射程での発射だ。  
僚機もほぼ同時に発射し、16本の煙が空に弧を描いた。  
フルクラムは不意を討たれた。  
彼女は知らなかったが、これがノルウェー方面でのAMRAAMの初実戦であったために、 
ソヴィエト戦闘機のレーダー警戒装置にはAMRAAMの発振パターンが記録されていな 
かった。さらにノルウェー空軍に中射程ミサイルが配備されたという情報も届いて 
いなかったので、攻撃を受けるのはまだ先だと皆が思っていた。  
続けざまに9機が空中で爆発した。1機は至近弾を受け、大破した。激しく揺れる機 
体を制御しようとパイロットが試みる間も機体は落下していった。6機は完全にかわ 
し、反撃の態勢を取った。  
 
ワイルドギース各機のレーダー警報機が鳴った。右前方から閃光が上がってくるの 
が見える。  
アラモ中AAMが飛来しつつあった。アラモは赤外線誘導とレーダー誘導の二種を混ぜ 
て撃つことが多い。  
スーザンは最大出力にして横転し、さかさまになった。そしてチャフとフレアをた 
たき出し、急降下しながら半横転する。  
8Gの圧力を受け、うめき声が出る。彼女は、座席を傾けることにしたF-16の設計者 
に心から感謝しつつ機体を水平に戻した。  
ミサイルを探すが、どこにも見えない――まくのに成功したようだ。  
その時、敵機が見えた。  
「ワイルドギース・ワン、敵をジュディ。交戦する」 
僚機も次々と敵を視認し、交戦しつつあった。  
ミサイル回避機動中に敵は彼女のケツにつきかけていた。しかしF-16の高い旋回性 
能で状況は逆転する。  
9Gの左旋回――さすがにこれはこたえた――で敵を振り切り、彼女は逆に敵の後方 
に占位した。グッド・トーン。  
「フォックス・ツー!」  
左翼端からサイドワインダーが飛び出し、旋回している敵のエンジンノズルに飛び 
込んだ。  
一機のフルクラムがF-16に接近し、高方位角射撃を浴びせて撃墜したのを見て、彼 
女はそちらに機首を巡らせた。  
彼女は敵機の後ろ下方に占位、敵はまだ気付いていない。彼女は機関砲を使うこと 
にし、短いバースト射を浴びせて撃墜した。  
このパイロットは脱出し、パラシュートの白い花が開いた。  
 
アンダヤ島を守備するノルウェー軍の大隊戦闘団がアンデネス近辺に集結しつつあ 
り、砲兵隊が汀線に砲弾を撃ちこんでいた。  
クレトフ大尉たちは飛行場の外縁部でノルウェー軍の歩兵部隊に遭遇していた。  
塹壕から機関銃と無反動砲が発射されている。  
すぐ脇の地面に無反動砲弾が突っ込み、ハッチから出していたクレトフの顔にひと 
つかみの土が命中した。  
彼は悪態をつき、顔を拭いながら引っ込んだ。  
砲手が同軸機銃で掃射し、敵をけん制する。  
「前進継続」  
塹壕を乗り越え、敵の後方に回り込むと後部のドアを開き、空挺隊員たちが飛び降 
りる。  
慌てて銃を構えなおそうとするノルウェー兵たちを銃撃が襲い、数分の内に抵抗は 
止んだ。  
「ブローハ1よりゾイド3、敵の抵抗小。目標1へ向け着実に前進中」  
滑走路に乗り上げ、エプロンへ向けて進撃する。  
そのとき、先頭を走る第1小隊の装甲車2両が続けて爆発した。  
『13号より1号、前方に敵戦車』  
「くそ、全中隊対戦車戦闘用意。煙幕弾発射」「ブローハ1よりゾイド3、敵戦車隊 
に遭遇。支援を要請する」  
『ブローハ1、航空隊は敵航空隊と戦闘中、砲兵隊は目下展開中だ。独力でやれ。 
以上交信終わり』  
「なんてこった…くそ、当たって砕けろだ!アフガンで行くぞ」  
生き残った装甲車が後退をはじめ、第2小隊が展開して滑走路脇の丈の高い草むら 
に飛び込んだ。  
装甲車部隊は後退しながら砲撃を続ける。砲弾が駐機されたヘリコプターの近くに 
落ちた。  
ノルウェー軍戦車小隊もこれは無視できず、駆逐すべく発砲しながら突撃してきた。  
第1小隊の2両が続けて爆発する。  
突然後ろを進む2両のM48戦車が続けて爆発した。後方に回り込んだ第2小隊が対戦 
車ロケット擲弾で攻撃をかけたのだ。  
残る2両は砲塔を回し、逃げる空挺隊員たちに機銃掃射を浴びせた。  
その時、後退を続けていた装甲車部隊がいっせいにレーザービームを放った。その 
数瞬後を対戦車ミサイルがワイヤーを引きながら追う。  
 
大乱戦になっていた。各中隊はその統制を失い、敵味方が入り乱れての空戦が展開 
されていた。  
スーザンは1機のMiGを左手前方、やや上方に発見した。左旋回中だ。雲海のわず 
か上を飛んでいる。  
素早くスロットルのドッグファイトスイッチを入れ、彼女はフル・アフターバーナーで 
このMiGを追った。  
垂直に上昇しつつ機体をひねり、続いて45度の急降下、左急旋回で後方に回り込む。  
MiGの旋回の内側に回りこみ、ミサイルをセレクト。右にロールをうつ。  
MiGは左急旋回でかわそうとするが、彼女はMiGを照準器にとらえつづける。  
「フォックス・ツー!」  
右翼端からサイドワインダーが飛び出す。MiGの尾部から火の玉が次々と吐き出 
された。  
しかしミサイルはこれを無視し、MiGの右エンジンに飛び込んで爆発した。  
「ワイルドギース・ワン、ビンゴ」  
『セントリー・オスカーより全機、コードはマーサ。毒が回った。繰り返す、毒が 
回った』  
彼女は毒づいた。敵部隊に飛行場が占拠されたということだ。  
この燃料残量では、味方勢力圏まで飛べない。  
また、敵占領地域に不時着すると機密保持のために機体は爆破しなければならない。 
要するに、彼女の機体の命運は定まった。  
 
『ワイルドギース・スリー!敵を振り切れない!』三番機のトーマス・<マック> 
・ゲイツ中尉から悲鳴のような連絡が入った。  
「スリー、どこにいる」カチカチという音。空戦機動で無線機をいじっている余裕 
が無いのだ。  
そのとき、ほぼ正面の下方に逃げまわるF-16とそれを追うMiG-29を見つけた。  
「ワンよりスリー、見つけた!頑張れ」  
しかしその瞬間MiGがミサイルを発射、3番機は火球となって散った。  
「マック!」仇は討つ。ミサイルは撃ちつくしたが、20mmバルカンの弾薬がまだ残 
っている。  
スーザンは太陽を背にして突入した。  
スナップ・シュート!  
MiGはなにがなにやら分からぬ内に死んだ。コクピットを数十発の弾丸が貫通し、 
操縦士は即死した。  
火球が尾を引き、地表に激突して爆発した。その時、海軍の哨戒機から連絡が入った。  
『ペンギン・フォーより全機、エプロンに無傷のF-16が残っている。誰か破壊して 
くれ』  
「ワイルドギース・ワン、ミサイルは撃ちつくしたがガンの弾はまだ残っている。 
これより破壊に向かう」  
彼女は機首をめぐらせた。歩兵の携帯対空ミサイルを警戒し、高度を取る。  
エプロンが見えてきた。2機のF-16が並んでいる。周囲には整備員たちの死体が転が 
っている。  
彼女は発砲を開始した。  
ノルウェー空軍が誇る2機の最新鋭戦闘機は、その兄弟からの銃弾を浴びてたちまち 
蜂の巣になり、燃料が爆発した。  
火球が舞い上がり、暁の空を焼いた。爆風で機体が震える。  
 
 
次の瞬間、彼女の目の前を曳光弾が過ぎた。反射的に方向舵を蹴り、右に横滑りさせ 
る。  
その刹那 彼女の機体の残像を一連の砲弾が裂き、空しく地面を抉った。  
左後方、上空に敵機。  
劣位戦だ。  
機首を強引に引き起こし、対航する。敵機は怯んでわずかに機首をそらした。  
彼女はその隙に素早く照準線を敵機に重ね、ボタンを押す。バルカンが短くうなり、 
銃弾がキャノピーを粉砕した。  
しかし、もう1機いた。そいつは鋭く旋回し、左上方から突入してきた。  
彼女はアフターバーナーを使って推力を増強し、強引に機首を巡らそうとするが――  
ミサイル被弾の衝撃で機体が大きく揺さぶられ、彼女は前に投げ出されてうめいた。  
爆発でエンジンがやられ、推力ががくんと落ちた。  
すぐ脇を敵機が轟音を立てて通過する。  
油圧が急降下し、スティックの脇の警告灯が赤く染まる。機体が激しく揺れている。  
彼女はあきらめた。キャノピーを吹き飛ばし、その後に射出座席が続いた。  
 
ノルウェー軍のM48戦車にはレーザー警報機がなく、照射されるレーザーに気付かな 
かった。  
対戦車ミサイルは吸い込まれるように命中し、2両の戦車は煙を上げて擱坐した。  
中隊の通信網を歓声が満たす。  
「みんな、落ち着け!」クレトフは苦笑いしながら言った。もっともそこは精鋭の空 
挺隊員、限度は心得ている。  
すぐに静かになった。  
「飛行場を制圧しろ。飛行機は接収し、情報班に引き渡すまで警備しろ。設備はでき 
るだけ傷つけるな。事前説明どおりだ。  
 みんな、手早くやろうぜ。行け!」  
第2小隊が乗車し、中隊はエプロンや管制塔へ向けて進撃を開始した。  
整備員たちがぱらぱらと銃撃してくるが、機関銃の制圧射撃ですぐに沈黙する。  
装甲車が管制塔に横付けし掃討するが、そこはもぬけのからだった。  
クレトフは中隊本部の装甲車を止め、地図を広げた。  
大隊本部の装甲車4両が走ってきた。管制塔を大隊の指揮所にするつもりらしい。  
そのとき、空に小さな点が見えた。  
見る間に大きくなり、ジェット戦闘機の形となる。発砲を開始した。光の筋が向かっ 
てくる。  
エプロンの2機の戦闘機が爆発し、接収しようと向かっていた2両の装甲車が慌てて回 
避機動をとった。  
流れ弾が大隊本部に突っ込み、装甲車が続けて爆発した。  
轟音とともに戦闘機が上空を過ぎる。  
 
クレトフはハッチから飛び出し、大隊本部の残骸に向かって走った。  
燃える装甲車から人影が飛び出し、地面に倒れて転げまわる。火を消そうとしている 
のだ、と気付いた。  
彼は上着をぬいでかぶせ、火を消すと抱き上げた。ひどい火傷だ。助からないだろう。  
とその時、その男が口を開いた。  
「クレトフ…大尉――」大隊長のパーシン少佐だった。  
「ペトロフ大尉は…」クレトフは首を振った。  
「そうか…」パーシンは目をつぶった。  
「――指揮を譲る…貴様が今から大隊長だ…俺の大隊を…」絶句し、頭を垂れた。  
クレトフは十字を切り、少佐の遺体を足元に横たえた。  
「――セルギエンコ中尉!」クレトフは副官を呼んだ。セルギエンコは彼の背後で祈 
りの言葉を短く唱えていた。  
「君は今から中隊長だ。コールサインは変えない。分かったか?ゾイド3よりブロー 
ハ1、了解?」  
「了解しました、同志大尉!」  
その時、上空で轟音がして二人は身をこわばらせた。戦闘機のことを忘れていたのだ。 
物陰に飛び込み、空を仰ぎ見る。  
敵機と2機の友軍機が交戦していた。友軍機の片方が火を吹き、地面に叩きつけられた 
のを見てクレトフはうめき、なにやらつぶやいた。  
続いて友軍機がミサイルを発射し、敵機の尾部に命中したのを見て、二人は歓声を上 
げた。  
敵機は煙を吹きながら斜めに落ちてくる。その時機首から何かが飛び出し、パラシュ 
ートが開いた。  
機体は空中で爆発し、破片が林に降り注ぐ。  
脱出した操縦士は風に流され、滑走路脇の草むらにどさりと落ちた。  
彼はAKS-74Uを持ち、スリングを肩にかけると立ち上がった。  
見ると、敵の操縦士も腰をさすりながら立ち上がっていた。Gスーツでひどく着膨れ 
て見える。  
 
スーザンは自分の運命を呪った。脱出と着地で足を痛め、走ることはできない。滑走 
路に並んだ装甲車が砲塔を回し、自動小銃を  
抱えた兵士たちが走ってくる。  
ソ連兵が円をなして取り囲んだ。彼女は拳銃を抜き、スライドを引いた。  
露助の手が自分の肌に触れるところを考えると、怖気が振るった。辱めを受けるくら 
いなら、死んだほうがマシだった。  
 
そのときロシア語の命令が響き、兵士たちは銃を下げると道を開けた。カービンを肩 
にかけた指揮官と思しき男が歩いてくる。  
自分の顔から血の気が引いていくのを感じた。拳銃を握る手に力が入る。  
その時男が口を開いた。なかなか見事な英語であった。  
「操縦士よ、お前はよく戦った――しかし健闘空しくも敗れたようだ」 
小さく笑った。  
スーザンは場違いなユーモアを感じ、大きく笑って言った。 
「そのようだな」  
「操縦士よ、お前は我々の捕虜だ。手は掛けたくない。その右手の拳銃を渡してはも 
らえないものか?」  
彼女はグロックを差し出した。男は受け取り、その手を小さく上げると拳銃をポケッ 
トに入れた。  
彼女はヘルメットを脱ぎ、髪をまとめていたゴムバンドを取って肩まである金髪をさ 
らりと広げた。  
それを見た兵士たちの間に動揺が広がる。彼女は、ごわごわのGスーツのせいで女だ 
と思われていなかったことを知った。  
「ヘルメットは脱がないほうがいい。装甲車の中で頭をぶつけると困るからな」 
彼は笑った。  
実のところ、彼女は幸運だった。空挺隊員たちは、精鋭としての誇りゆえに彼女をレ 
イプするようなことはしないだろうし、また実際頭にも浮かばなかった。もしも第2梯 
団で上陸してきた海軍歩兵に捕まっていたら、さんざんにレイプされた挙句に射殺さ 
れていたかもしれない。  
「よろしく。自分は陸軍空挺部隊のクレトフ大尉である」 
彼は「陸軍」という部分を強調して言った。  
クレトフは彼女を本管中隊の装甲車に乗るよううながした。  
彼女は、少なくとも今すぐに射殺されたり、強姦されることは無さそうだと思い、ホ 
ッと息をついた。  
しかし、彼女は事情を知らなくて幸運だった。  
彼らはノルウェー軍との交戦に向かいつつあった。  
 
<状況説明>******************************** 
 
ソ連両用艦隊は、第106親衛空挺師団から抽出した連隊戦闘団(=旅団)2個と海軍歩 
兵(西側で言うと海兵隊)の自動車化狙撃旅団を2個輸送していた。このうち、ノルウ 
ェー海軍の攻撃で空挺大隊戦闘団1個が揚陸艦と共に全滅している。  
なお、師団は3個旅団、旅団は3個大隊戦闘団より編成されている。  
上陸作戦では、軽武装の空挺部隊が先陣を切った。先鋒を務めたのは、第35親衛空中突 
撃連隊を基幹とした旅団であった。  
上陸時に同旅団のうち2個大隊が85%、80%の損害を出して事実上全滅、1個大隊のみ 
が上陸に成功した。  
パーシン少佐、クレトフ大尉たちの大隊である。  
ソ軍指揮官は同隊にほか2個大隊の残存兵力を編入した上で先行させた。  
その後上陸した第14親衛空中突撃連隊戦闘団はノルウェー軍砲兵隊および同空軍の攻撃 
を受け、上陸時に30%の損害を出した。  
このため、同旅団は上陸後2個大隊戦闘団に再編した。  
 
アンダヤ島を守備していたのは、ノルウェー軍の第37歩兵連隊第1大隊を基幹とする大 
隊戦闘団、および空軍の基地守備隊の歩兵中隊  
であった。同大隊戦闘団は水際阻止を試みた戦闘で1個中隊の損害を出したためノ軍指 
揮官は空軍基地守備隊を指揮下に編入、空軍基地に戦車小隊を予備として拘置した。  
ノ軍指揮官は地の利を生かした奇襲ならば勝機があると判断、大隊戦闘団のうち1個歩 
兵中隊が前進しソ連空挺部隊と交戦した。  
ソ軍の2個中隊相当が戦闘力を喪失した時点でノ軍指揮官は撤退を決心した。  
ソ軍指揮官は全軍に追撃を命令したが、丘陵地帯の入り口で待ち伏せを受けた。この戦 
闘中にノ軍戦車中隊が側面攻撃を実施、さらに砲兵中隊が汀線付近を狙った掃討射撃を 
実施した。この戦闘でソ軍の1個大隊相当が戦闘力を喪失した。  
しかしソ海軍のレーダーによりノ軍砲兵中隊の位置が割れ、ソ海軍およびソ軍砲兵隊と 
の交戦でノ軍砲兵中隊は全滅した。  
さらにクレトフ大尉以下の第1大隊がノ軍に対して背面攻撃を実施、この攻撃でノ軍は 
潰乱、ノ軍指揮官は撤退を決意した。  
ソ軍空挺部隊の残存兵力は1個空中突撃大隊相当、1個空中突撃砲兵中隊相当、および 
通信隊や補給隊、輸送隊、衛生隊などであった。  
ソ軍司令官はこれらに第25独立戦車中隊を加えて1個大隊戦闘団に改編した上でこれを 
アンダヤ島の守備隊とし、ノルウェー本土侵攻は海軍歩兵の2個旅団で実施することと 
した。  
なお同大隊戦闘団の指揮官には、かつての第14親衛空中突撃連隊長のシマコフ大佐が任 
命された。クレトフ少佐は空中突撃大隊長となった。  
****************************<状況説明・終>** 
 
 

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