武芸者。汚染されし世界の支配者、汚染獣に対抗すべく生まれた新しき人類、ヒトならざるヒト。その武芸者が腕を磨き技を競い、修練に励むべく入学する学科、武芸科。  
 世界中を闊歩する自立型移動都市(レギオス)の一つ、学園都市ツェルニには、一年生でありながら武芸科史上最強と謳われる―――実際は最強どころか最『凶』と言っても間違いは無いが―――武芸者がいる。  
 レイフォン・アルセイフ。武芸の本場、槍殻都市グレンダンの出身であり、ツェルニ武芸科第十七小隊のアタッカーである。  
 そして今、学園都市ツェルニで一時限目が終わったこの時、彼は―――  
 
 
 
「レイとん遅―――いっ!とうっ!」  
「うげぁっ!?」  
ゴン。ドサッ、ガタガタッ。  
 
・・・机に突っ伏して居眠っていた所を金色の物体に奇襲されていた。  
 横っ腹に強烈なキックを喰らい、その勢いで机ごとひっくり返り、更に机に載せていた筆記用具や教科書が容赦無く頭上に降り注ぐ。いくらレイフォンでも寝ていた時にこれは痛い。  
 そしてその金色の物体はと言うと。  
「んも―――!!!レイとんが遅刻ギリギリの時間で来るから、宿題写し損ねて怒られちゃったじゃん!どうしてくれんの!」  
 と、仁王立ちでのたもうていた。  
「ええええそれ完璧に僕のせいじゃないよね・・・」  
 呻きながらふらふらと立ち上がり、再度椅子に座るレイフォン。今その顔に、最強のアタッカーの気迫だとか貫禄だとかいうものは微塵も感じられない。  
 
 更にぎゃーぎゃー騒ぐ金色の物体・・・ミィフィ・ロッテンの背後には、赤毛の女生徒が立っていた。  
「だから言っただろうに。レイとんは今日機関清掃で時間ギリギリに来るだろうから宿題は写せないって」  
「え〜、だって昨日はバイト先の新聞社で缶詰めだったから、宿題なんて出来なかったんだもん」  
「レイとんとあたしはバイトと両立しとるだろうが。お前が悪いぞ、ミィ」  
「ぶー、ナッキのいぢわる」  
 ナッキ、と呼ばれた女生徒―――ナルキ・ゲルニが宥めると、ミィフィは観念して自分の席に戻り、罰として出された課題のプリントの上にペンを走らせ始めた。  
「はぁ、やっと始めたか・・・おおそうだった。大丈夫か、レイとん」  
「えっと、まずは色々言いたいんだけど、予想してたんなら止めてよ。ミィのこと。今回僕なんにも非は無いし」  
「すまんすまん。止めようとしたんだが気が付けばダッシュしてたから。まさか一般人相手に衝剄で止める訳にも行かんだろう」  
「・・・その一般人にあれだけやられたんだけど」  
「うむ、机と教科書を使った見事な連携だった。あれで剄脈があればあたしよりも強くなったと思うぞ。実に惜しい」  
「いや問題はそこじゃないし。っていうかああもう元々の問題点思い出せないし」  
と、いたちごっこな会話をしていると、ナルキの後ろの隠れていた三人目、青い長髪の女生徒が、眉毛を八の字に曲げた心配そうな顔をレイフォンに向けてきた。  
「・・・大丈夫?」  
「ああ、うん。ありがとうメイ」  
 
 そう言ってレイフォンは作れる範囲で精一杯の笑顔を作り、メイ―――メイシェン・トリンデンが差し出した手から絆創膏を受け取り、擦り切れた額にそれを貼り付けた。  
 
「ほう、珍しくお前が絆創膏に貼り付かれているとおもったら、そんな事があったのか」  
 手にした黒鋼練金鋼(クロムダイト)の鉄鞭を磨きつつレイフォンの額の絆創膏を見て、第十七小隊長である武芸科の三年生、ニーナ・アントークが言う。  
因みに額の傷は塞がっているのだが、ミィフィとナルキに「メイの好意なんだから傷が治っても最低でも明後日までは付けていろ外したらどんな方法使ってでも殺す」と詰め寄られた為に絆創膏は付けたままになっている。  
 その後レイフォンに背を向けた為に直接は見えなかったが、磨かれた黒い鉄鞭に映った彼女の顔がふるふると震えているのを、レイフォンは見逃さなかった。  
「・・・笑わないで下さいよ」  
「っすまんすまん。お前が尻に敷かれているのがあんまり面白くてな」  
 磨き布やら滑り止めスプレーやらが載った机からレイフォンへと視線を移すニーナ。ショートカットで切り揃えられた輝くような金髪を冷風機の風になびかせ、その笑顔は単純に話の内容を楽しんでいた。  
 
「しかし、ナルキがそこまで言うなら余程強いのだろうな、その子は。本当に残念だ」  
「あれ以上強くなられても、正直困りますけどね」  
 心底げんなりとした声でレイフォンがそう言うと、またもニーナが笑う。ひとしきり笑ったニーナが、復元したままの二振りの鉄鞭を両手に持ち、真剣な表情で言う。  
「さて、今日の稽古を始めるか。頼むぞ」  
「了解です」  
 短く応えたレイフォンも、腰の剣帯から、蒼い練金鋼を引き抜き、正面に構える。一見すると只の金属棒にしか見えないそれは、レイフォンが呟いた起動鍵語に反応し、即座に形を変える。  
 そして次の瞬間。  
「はあっ!」  
 気合いと共に的確に胸元と顔面に迫ってきたニーナの鉄鞭を、青石練金鋼(サファイアダイト)で作られたレイフォンの剣が迎え撃った。  
 
 
 レイフォンは人を相手にした練習の時、剣の腹で殴る様に意識している。その方が安全且つ平等に練習出来るし、小隊の仲間も納得している。  
 練金鋼の整備を担当する先輩に話したら殴る勢いで説教されたのは別として。  
 想像してみよう。恐ろしいまでの腕力と握力を持つ人間に細長いベニヤ板で殴られる時、平たい方と淵の方、どちらで殴られる方がダメージが少ないか。  
 その想像の結果を考えての策が、峰打ちだった。この方法ならば風の抵抗によって剣を振る速度も僅かに下がる。  
 尤も、ニーナはその練習方法に激しく不満を抱いていた。いたのだが。  
 
「突きの動作から払いの動作に移るときに隙が大きくなってます」  
「うぅ・・・今度こそ上手く行くと思ったのだが・・・」  
 現在進行形で自分が床に転がされており、首から数センチの所に剣の切っ先がある事を考えると、身の程知らずも良いとこだと思う。  
 ここ数日フェリとシャーニッドが練習に参加していない為に、練習の内容は一対一の稽古が主なメニューになっていた。  
 今日は練金鋼の整備士であるハーレイも居ない。新しい複合練金鋼(アダマンダイト)の研究をすると顔を輝かせていたから多分それだろう。  
 
で、そんな感じのほぼニーナに対する個人レッスンとなっている練習だが、今のところはレイフォンの二十戦全勝(当たり前と言えば当たり前だが)。これではいけないと、十敗した辺りでニーナはあるペナルティを提案したのだが・・・  
「その・・・やはり、あのペナルティは・・・す、するのか」  
「・・・いや、そこまで嫌だったら強制はしませんけど」  
 真っ赤になってなんとか言葉を絞り出すニーナに、少し赤くなってレイフォンが言う。  
 ペナルティの内容は会話から察する通り。というか普通の罰ゲームだったらこの話が成立しない。  
 
 
 唐突な話だが、実はこの二人はしばらく前から、いわゆる『ダンジョノカンケイ』をとうに通り越して『ニクタイカンケイ』のある状態になっている。  
 どう考えてもそっち方面に疎そうなレイフォンとニーナが何故と疑問に思うべきか、多分純愛過ぎて境目が分かってないんだろうなと納得すべきかはさておいて。  
 
「・・・あの、やっぱり今日は別に・・・」  
「だ、駄目だ!い、言い出したのは私なんだし・・・」  
 周囲に既に人の気配が無いことを確認しつつ、訓練場の扉に鍵を掛けるニーナ。  
 そのなんとなく必死な後ろ姿にちょっと罪悪感を覚えるレイフォンだが、こうなったらニーナは止まらない。覚悟を決めて椅子に腰掛けた。  
 
 壁にもたれかかり腰を下ろしたレイフォンに、ニーナが歩み寄ってくる。その顔は真っ赤に染まり、エルパ原産の林檎もかくやという色をしていた。  
「先輩、やっぱり・・・」  
「くどいぞ!い、一度決めたことを無しになどできるか!」  
 勇んでそういうニーナだったが、歩く際に右手と右足が同時に動くほど動揺しており、一昔前のブリキのおもちゃのようにぎこちなく歩く姿に、レイフォンはどうにも良心の呵責というものを拭い切れずにいた。  
 が、レイフォンとてお年頃の健全な少年である。恋人との行為に及ぶ悦びと、それを知った瞬間に生まれた欲望というものが、当然理性と共に心の中にあるわけで。  
因みに今のところレイフォンの脳内では理性を司る天使が欲望を司る悪魔によってボッコボコにされた後丁寧に簀巻きにされていた。これで暫くは動けまい。  
 
(ん、悪魔が十勝目を勝ち取ったか)  
 ぼんやりとそんな事を考えているうちに、ニーナがレイフォンの眼前に立っていた。目の前で気まずそうに顔を赤くしている二つ年上の女生徒を、うつくしい、と思った  
 
「頭の中に悪魔で、目の前に天使か」  
「なんだ?」  
「いえ、なんでも」  
 そう言って微笑むレイフォン。すると心なしか、ニーナの緊張も解れたようだった。ニーナがしゃがみ込み、座り込んだレイフォンに身体を預ける。  
 そのまま目を閉じ、唇を重ねる。  
「んぅ・・・っふ、ぁ、んっ・・・」  
 始めは、長く。一呼吸ついてから、二度、三度と唇が触れる。その度にニーナから、空気を求める喘ぎが発せられる。  
 薄く瞼を持ち上げたレイフォンの視界に、紅潮したニーナの顔が映る。ニーナは目を閉じているが、なんとかリードしようと頑張っているようだった。  
 
(無理しなくて良いって、言ってるんだけどな)  
 ニーナとしては少しでも先輩の矜持を保ちたいのだが、こういったところがレイフォンには可愛らしく見えてしまい、どうにも逆効果となっている。  
 やがて、触れるだけのキスから、更に深いキスに。舌を絡め、互いの口腔を味わう。喘ぎ声に、水音が混じった。  
「ん・・・ちゅく・・・ふぅっ、ぁ・・・」  
 抑えようとしても漏れ出てしまうらしい、か細い切なげな声が、レイフォンには聞いてて心地よい物があった。  
 二つの唇が離れると、離れる事を惜しむように銀色の糸が引いた。そのうち、興奮しすぎたのか、覆い被さるようにしていたニーナの身体が、とさっ、とレイフォンの胸の上に崩れる。  
「先輩、大丈夫ですか」  
「あ、ああ・・・はぁ・・・まだ、ちょっと、慣れなくて・・・」  
 途切れ途切れに、荒い息とともにニーナが言う。彼女とは幾度も身体を重ねてはいたが、身体が適応しても、それに感情がまだ追い付いていないようだった。  
 呼吸を多少強引に整えて、ニーナがレイフォンから離れる。そして、再びレイフォンの前にしゃがみ込む。  
「じゃあ・・・その、す、するから、な・・・」  
 とろんとした目を向けてくるニーナ。それにレイフォンが頷くと、ニーナの細い手がレイフォンの股間に伸びた。何の抵抗もなくジッパーが降ろされ、ニーナの手に導かれてレイフォンのモノが空気に触れる。  
 熱の篭った視線でそれを見詰めて、ニーナが息を飲む。そして、武器を握る戦士の物とは思えないような白く、細い指先が、ゆっくりと絡みつく。  
「ん・・・」  
 燃えるような熱を持ったそこに触れられ、レイフォンが呻く。だがそれはニーナには聞こえておらず、彼女の手がゆっくりと上下し始めた。しゅにしゅに、という乾いた音が二人の耳に入る。  
「きもち・・・いいか?」  
「ええ、すごく・・・」  
 
 レイフォンの言葉に、嬉しそうに微笑むニーナ。ちょっとずつ、手を動かす速度も上がっていた。  
 やがて、レイフォンの額にじっとりと汗が浮かび始めたあたりで、ニーナの手の動きが止まる。  
ニーナは四つん這いになるように床に身体を近づけ、今度は指ではなく舌を這わせる。  
「っく、っ・・・」  
 突然触れた彼女の舌の感触に、レイフォンはびくりと身を震わせる。  
「は、んんっ・・・ちゅ・・・」  
 その間にも、ニーナが顔を動かしている。出産を終えた動物が産まれた仔の身体を舐めて洗うように、優しく、丁寧に。  
 そして、自分の唾液でべっとりと濡れたそこを、ニーナが口に含む。背筋を走る快感に、再びレイフォンの身体が震えた。  
「んっ・・・ふぁ・・・っぷ、んんんっ・・・」  
 間を置かずに、ニーナがゆっくり頭を上下に動かし始める。その度に、彼女の金髪が揺れ、そこから珠のような汗が飛んだ。  
「うぅ、っ・・・」  
 一瞬、レイフォンは彼女の頭部を掴み、強引に揺さぶりたい、という衝動に駆られた。  
しかし、寸でのところで思いとどまる。ペナルティの内容は『負けた方が勝った方の性的欲求を満たす』だからレイフォンにはそうする権利はあったのだが、  
レイフォンに気持ち良くなって貰おうと少ない性知識で必死に自分から動こうとするニーナを見て、彼女のそんな姿をもう少し見てみたくなった。  
「せん、ぱ・・・もう、イ・・・っ!」  
 レイフォンの頭の中で光が満ち、一瞬視界が暗転する。  
「ん・・・んんぅんっ!・・・んくっ・・・」  
 ニーナの口の中で、熱が弾ける。口内を突如走った苦味に驚きながらも、ニーナは熱を持った液体を一滴残らず喉の奥へと運んだ。  
 こくん、と喉を鳴らしてからニーナが身体を起こす。荒く息を吐く二人は、視線を合わせるともう一度互いの身体を抱き寄せ、キスをした。  
先程まで自分の性器に触れていたものではあるが、レイフォンは不思議と汚いとは思わなかった。  
「っは・・・今度は・・・僕が・・・」  
「え・・・あっ・・・」  
 
 そう言って、ニーナの首筋に唇を落とすレイフォン。ちゅうっ、という音が響き、桜色の印がニーナの白い首に残る。続けざまに吸引の音が響き、次々と新たな所有印がニーナの身体に散る。  
「ん、くすぐっ・・・あ・・・」  
 レイフォンはキスマークをつけながら、身じろぐニーナの衣服を脱がせていく。武芸科の動きやすい制服を脱がせると、露になった肩に、小さな線が見えた。  
 レイフォンはそれが何か知っていた。自分がこの都市に来て初めて、汚染獣に襲撃されたときの物だ。あの時、レイフォンは戦う事を拒んでいた。  
故郷の幼馴染からの手紙で迷いを吹っ切り、再び戦う事はできた物の、前線で戦い、指揮を執っていた彼女が傷を負った。  
「はあっ・・・どうし・・・」  
 動きの止まったレイフォンに気付き、ニーナが顔を上げる。その瞳が自分の肩に向けられている事に気付き、気まずげに視線を彷徨わせる。  
 レイフォンは直接関係はしていなかった。ただ、自分にはその状況を打開できる力があったのだ。それなのに戦う事を拒み、結果としてニーナには大きな負担が掛かっていたのだ。  
 そう思うと、レイフォンは罪悪感を感じていた。  
「・・・僕の、せいですよね・・・」  
 つい、口に出してしまった。それが事実だと思っていたからだ。だから。  
「違う」  
 ニーナの言葉に、レイフォンは少なからず驚いた。  
「私が未熟だったんだ。それに、あの時私は、自分の理想をお前に押し付けてしまった」  
 言って、ほとんど服を肌蹴られたニーナが躊躇い無くレイフォンの頭を胸元に抱いた。  
「せんぱい・・・」  
「もう、自分を責めるな。そんな顔されても、私は嬉しくもなんとも無いぞ」  
 胸の内が満たされる感触があった。綺麗な言葉をかけることは出来なくても、時に支える事すら出来なくても、レイフォンはニーナがたまらなく愛おしかった。  
 
 不意に、ニーナの視点が回転する。その時にはもうニーナの身体は床に横たえられ、先程と逆にレイフォンが彼女の上に覆い被さっていた。  
「・・・え?」  
 当然ながら、ニーナは驚いている。  
「・・・おい、レイフォン?・・・その、今日は私が・・・」  
「先輩、可愛い」  
 レイフォンがいきなりそんなことを言うものだから、ニーナの混乱は更に深まる。  
「いや、だから・・・えっと、ペナルティの内容は、私が、お前を、満足させることだった筈だが・・・」  
「うん、僕は自分がしてもらうよりもするほうが良いです」  
「え・・・っ、ん!?」  
 それ以上言う前に、ニーナの唇がレイフォンのそれに塞がれる。それだけでなく、身体のあらゆる箇所がおかしい。  
「ま、待って・・・あ、こっ、こら!」  
「すいません、聞く耳持ちません」  
「〜〜〜〜〜〜〜!?!?!?」  
 突然の攻守逆転。というか攻め受け逆転。割と自分の欲で動いているレイフォンには、ニーナの静止の呼びかけは届いていない。  
「先輩、ここ、もうこんなです」  
「ばっ、あ、そ、そんな急に・・・っ」  
 ニーナと違いごつごつとした手が、スカートとその下のスパッツの間に侵入する。もぞもぞとその手が動くと、その度その度に水音が響いた。  
「や、ひぁっ・・・!だ、めっ・・・」  
 狭い室内に、甲高い媚声が響く。  
 
「もう大丈夫かな」  
 それだけ言うと、レイフォンは慣れた手つきでニーナのスパッツを下着ごと引き下ろす。  
「え?・・・あ、ぁ・・・」  
 ワンテンポ遅れてそれを理解したニーナが、真っ赤になった顔を両手で覆う。いくら恋人とはいえ、自分のそこをレイフォンに見られるのは未だに抵抗があった。  
「う、ぅ・・・ばか、みるなぁ・・・」  
 出来れば両足を閉じて、隠してしまいたい。だが、既に広げられた太腿はレイフォンにしっかり掴まれている。振り払おうにも腰から下に力が入らない。  
「せんぱい、かわいいです」  
 呑気な事を良いながら、レイフォンは液体にまみれたそこを指で軽く擦る。くちゅくちゅ、という音に合わせてニーナの腰が跳ねる。  
「あ、やっ・・・ひぁっ!」  
「やっぱり、ここは弱いんですね」  
「だっ、だって・・・ひぅっ!ん、ぁ、あぁっ!」  
 レイフォンは、腰をひねって逃れようとするニーナの身体を少しだけ持ち上げると、自分の膝に載せてその腰を左手でしっかり捕まえる。そして再び、右手をニーナの秘所に這わせる。  
「ん、んくうっ!・・・や、やっ・・・」  
「ダーメ。先輩、逃げちゃ駄目です」  
「な、こ、この変態・・・ん、はぁっ!」  
 なおも文句を言おうとするも、やっぱり途中で唇を塞がれる。それでも、ニーナの身体が昂ぶっているのは確かだった。  
「ん、ちゅ・・・おねが、もう・・・」  
「・・・ん」  
 レイフォンがニーナの身体を再び横たえると、そのまま大きく脚を開かせる。身体が密着し、互いの呼吸と鼓動が引っ切り無しに聞こえる。  
 そんな状況で。レイフォンは、腰を押し進めた。なにかとなにかがぶつかる一瞬の感触の後、例えようの無い充足感が二人を包む。  
「ん、んんんっっ・・・ぁ、ひあっ!」  
「っく、きつ・・・」  
 レイフォンの肉棒がニーナの肉壷に根元まで埋まると、二人は大きく息を吐き出す。そのままの姿勢で、互いに唇を重ねる。  
「ふ、んん・・・ちゅむっ」  
 
「ん・・・む、ちゅっ」  
 愛情と欲望が程よくバランスが取れている、貪欲なキス。それで充分だと思えてしまうほどの。  
 でも、それだけじゃない。熱に浮かされた頭で、本能のままに、レイフォンがゆっくりと動き始めた。  
 最初は、ゆっくりと引き抜き。  
「はっ・・・あぁっ・・・」  
 そして、再び満たす。  
「うぁ、あぁぁああ・・・」  
 目の前の女性が、澄んだ甘い声を奏でると、レイフォンはそれに応えるべく律動する。  
「はぁっ・・・先輩っ・・・」  
「はっあ、あ、あっ、あ・・・や、そんっ、な・・・もっと、ゆっくり・・・んうっ」  
 ニーナの懇願と裏腹に、レイフォンの動きの速度は徐々に上がる。また、ニーナもそれを受け入れていた。  
 皮膚と皮膚がぶつかる乾いた音と繋がり合った箇所から水がかき出される音が交互に響く。  
「んんっ・・・ひぁあっ!!あ、やっ・・・あぁっ、あぁっ、あぁっ!!」  
 ニーナの声も、段々とトーンが上がる。  
「く、うっ・・・せ、先輩っ・・・も、もう・・・」  
「んっ・・・わ、私、もっ・・・」  
 互いの絶頂が近いことを悟り、加速する行為。そこに、普段の二人が持つものはなく、ただ、相手と共にどうにかなってしまいたいという、『純粋』な『欲望』があるばかり。  
 膝の裏が凍りつくような感覚がレイフォンの中の熱を解き放つ。  
「・・・く、う」  
「ん、んんんんっ!!!ひ、あっ、あぁぁぁああああああああああっっっっ!!!!」  
 身体の芯が熱に溶かされるような錯覚に、ニーナの意識が上り詰めた。  
 意識が、真っ白に弾けた。  
 
 
 
「・・・」  
「・・・」  
「・・・・・・」  
「・・・・・・」  
 行為を終えてからの経過時間、二十分ほど。夕陽の射す窓に、二人の姿があった。  
 証拠隠滅のために床にモップをかけ、窓を全開にして空気を入れ換えていた。それから、なんとなく、二人並んで窓枠に腰掛ける。  
「なあ、レイフォン」  
 ニーナが口を開く。顔をそちらに向けずとも、ニーナの口の端に微笑が浮かんでいるのが分かった。  
「私は、この都市に来て良かったと思っているぞ」  
 レイフォンは返事をしなかったが、ニーナが身体を寄せてきたことから、聞いているのは伝わっているのだろう。  
「ツェルニにも出会えた。シャーニッドやフェリにも出会えた。そして・・・」  
 レイフォンはなんとなく続きが分かり、ニーナの肩を抱いた。  
「お前に出会えた」  
 ニーナはそれだけ言うと、レイフォンの肩に頭を預けた。肩から伝わる温かさに、レイフォンは目を閉じる。  
「僕も、そう思います」  
 微かに聞こえてきた寝息に、レイフォンは静かに言う。  
「先輩が・・・ニーナが居るから。僕は、もうちょっと頑張ってみます」  
 普段なら照れくさいことも、今なら言える。照れくさいことも、今なら出来る。  
 抱き寄せた額に、先ほどの激しいキスとは違う、やさしいキスを落とす。窓からの風に靡く金髪を手で梳いてやると、さらさらと流れるような感触が心地よかった。火照った身体を撫でるそよ風に、レイフォンの顔が緩む。  
 今日は、もう少しだけこうしていよう。レイフォンは一人呟く。そうして、二人で居ることが、今のレイフォンの幸せだった。  
 
 
 
おまけ  
 
「・・・・・・(呆けている)」  
「・・・・・・(呆けている)」  
「・・・いや、すげーもん見ちまったな、おい」  
「・・・・・・(目に見えて生気を失っている)」  
「・・・・・・(目が虚ろになっている)」  
「流石、機械科特製の新型双眼鏡だよ。五百メートル離れててもばっちり見えたぜ?モニター引き受けて良かったやら悪かったやら」  
「・・・・・・(しゃがみ込み膝を抱える)」  
「・・・・・・(立ち尽くしたまま硬直している)」  
「しっかしあいつら、もうあんなトコまで進んでたのか。いやぁ青春だねぇ」  
「・・・・・・(声を殺して男泣きに泣く)」  
「・・・・・・(髪が淡い燐光を放っている)」  
「真面目に練習してるかと思って見てみたら、なかなか学校生活満喫してるな。こりゃ俺達はもう一週間ばかり休んでたほうが感謝されるんじゃないのか?」  
「・・・・・・(地面にスパナでがりがりと「の」の字を書いている)」  
「・・・・・・(焦点の合っていない目でぶつぶつと何かを呟いている)」  
「・・・帰りにどこかで晩飯でも食って行こうぜ。全部俺が奢るから。もう、二人とも好きなだけ食っちゃって良いぞ・・・いや、ホント無理すんなお前ら・・・」  
「・・・・・・(がりがりがりがりがりがり)」  
「・・・・・・(ぶつぶつぶつぶつぶつぶつ)」  
 
 

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