「違うよ!」
それはどうしようもなく、突然込み上げた衝動で。
気付けばくるみは氷室を抱きしめていた。
「あなたのせいじゃないよ・・・」
切々と訴えながら、知らず氷室の頭にまわした腕に力がこもる。
この暗い牢獄で、ひたすら自分を責め苛んできた氷室を思うと、どうしようもなく胸が痛んだ。
こんなことが救いになるのかはわからない。
でもこうして触れることで、少しでもいい、氷室の痛みを分かち合うることができるなら・・・
くるみの心の中にはただその思いで一杯だった。
突然の出来事に対する驚き。部下であるくるみに身を委ねるためらい。
当然のように邪魔をするプライドも理性も、くるみの指が、髪を優しく梳くたびに、氷室の中から消えていった。
強張っていた表情が次第に和らいでいく。やがて氷室はくるみの胸の中でゆっくりと目を閉じた。
「警視・・・」
くるみの吐息混じりの呼びかけが契機だった。
どちらからともなく、自然に、最初の口付けは交わされる。
ついばむような軽いキス。
出会ってからの時間はそれなりに長いのに、お互い始めて間近でみつめあうことになる。
氷室の端正な顔を目の前に、くるみは思わず息をのむ。
「どうした?」
こんなに間近で声を聞くのも、おそらく初めてのことだ。
くるみはますます込み上げてくる羞恥心に絶えきれず、氷室から目を逸らした。
氷室はそんなくるみを訝しげにみつめる。
「・・・心配するな。嫌なら無理強いはしない」
「い、嫌なわけじゃ・・・」
自身の行動を間違った方向にとる氷室の言葉をくるみは即座に否定した。
そしてその直後に自分に対して驚いた。
要するに自分の言ったことは『合意』を示しているのだ。
――伸吾がいるのに?
心が早鐘を打っている。理性は必死で押しとどめようとするけれど、溢れる思いはそれを許さない。
気付けばくるみの心の中には氷室でいっぱいになっていた。
微動だにせずにいた氷室が、くるみの手をゆっくりと解き、やにわに立ちあがる。
呆然とみつめているくるみに背を向け、氷室が言った。
「・・・君は馬鹿がつくほどお人よしだからな。・・・同情してるのか?」
――同情?
「だったらそんなものは必要ない。・・・迷惑なだけだ」
そう冷たく言い放ち、氷室はそのまま歩き出そうとする。
――違う
「違う!同情なんかじゃない!」
くるみの声が聞こえたのと同時に、氷室の背中に衝撃が伝わった。
ほとんどぶつかるようにして、くるみは氷室に後ろから抱きついていた。
心の中はぐちゃぐちゃの状態だった。
いろんな感情がないまぜになって、自分の取っている行動がわからない。
ただ、氷室をこのまま行かせたくなかった。
この気持ちが愛なのか、それはくるみにはわからなかったけれど、
どうしても氷室の寂しい背中を、放っておくことはできなかった。
「・・・後悔しても知らんぞ」
相変わらずのそっけない物言いにほんの少し暖かい何かが混じったのをくるみは悟っただろうか。
やがて氷室がくるみに向き直る。
「・・・しません。後悔なんて。警視がしないなら」
その言葉を潮に、氷室はくるみにくちづけた。
徐々に深く激しさを増していく口づけに、くるみもまた応えるように自ら舌を絡めていく。
「んっ・・・」
くるみの口から声が漏れる。上下する胸がはずむ呼吸と連動していた。
おずおずと、ぎこちない舌使いで必死に応じながら、くるみはコートを脱ぎ捨てる。
その間も休むことなく続くくちづけの嵐に絶えきれなくなったくるみは、思わずその場にくず折れそうになった。
間一髪のところで抱きとめた氷室がくるみの体をベッドの上に横たえると、スプリングがわずかにひと鳴きした。
シーツに残った氷室の匂いがくるみの中の本能を刺激する。
くるみの上に覆い被さるようにして、氷室がジャケットを脱いだ。
骨ばった手が、セーターの中に侵入すると、くるみの唇から小さく声が漏れた。
「・・・あっ」
氷室の指が、頂に触れる。
一度も他人に触れられたことのない部分を刺激され、くるみの頬は羞恥に染まった。
懇願するように見上げるくるみをよそに、氷室はさっさとセーターと下着を取り去ってしまう。
「えっ?やだぁっ」
直接見られる恥ずかしさに、くるみはあわてて隠そうとするが、簡単に頭の上で両手を押さえつけられてそれも適わなかった。
氷室の手の中で、くるみの胸は弄ばれ、自在に形を変えていく。
刺激が加えられるたび、思わずこぼれそうになる喘ぎ声をくるみは必死でかみ殺した。
「・・・ずいぶん頑張るな」
そんなくるみの様子が気に入らないのか、氷室が新たな攻撃に出る。
ゆっくりと乳房に舌を這わせ、頂を口に含み、同時に片方の手でスカートの中に手を入れ太腿をなぞり上げた。
「んっ・・・はぁっ・・・いやっ」
氷室の甘噛みが加わると、くるみの赤い蕾はさらに固さを増し、呼吸はますます荒くなっていく。
やがて太腿をまさぐる氷室の手がショーツへと辿りつき、その上からそっとなぞりあげた。
「・・・やっ!・・んっ」
片手で器用にスカートを脱がせると、すでにしっとりと濡れたそこからは蜜がしとどに溢れていた。
恥ずかしさにまともに氷室を見れないくるみはただ目を閉じて氷室が加える愛撫に耐え続ける。
氷室の指が割れ目をなぞるたび、くるみの体は小さく震えた。
溢れ出す愛液で、下着の意味をほとんどなさなくなったそれに氷室はようやく手を掛けた。
「やだっ・・だめっ」
くるみは驚いて声をあげ、足を閉じて抵抗を試みる。
もともと薄暗いとはいえ、灯かりも落ちていない場所で、生まれたままの姿を見られることにはさすがに抵抗があった。
「まったく・・・こんなときにも聞き分けがないな」
溜息をひとつ、氷室はくるみの両足の間に膝を挟み、くるみの精一杯の抵抗をあっさり阻止した。
氷室の手がするりとショーツの中に忍びこむ。
敏感な部分に直接触れ、徐々に指を内壁へと滑りこませる。
「はぁっ――んっ・・・」
くちゅくちゅと粘膜の淫猥な音が静かな部屋に響く。
くるみは半ば朦朧としながらその音を聞いていた。