【天使の下僕】 
 
「いやぁ、こんなに落ちてるぅ」  
女子高生姿でくるみは延々と公園にてゴミやら犬の糞やらの処理に辟易していた  
「別にあやしいとこなんてない只のボランティア団体ですよぅ、捜査を続けるだけ…」  
「無駄かどうか決めるのは君ではない」  
「はぁーい」  
 
女子高生のボランティアグループ、『エンジェルホワイト』は巷でも最近珍しい真面目な若者の集まりとの評判だ  
しかし…  
 
「援助交際なんてやってる感じはないですよ。昨日は施設の子供達に配るお菓子作りだったし」  
「その昨日は楽しそうだったじゃないか。頼みもしないのにクッキーなんか持ってきて」  
「だって…」  
その時、くるみの肩をふいに誰かが叩いた  
「彩木さん」  
「シスター、なんですか」  
相手はグループのメンバー達にシスターと呼ばれ、慕われる嶋田であった  
「実は彩木さんに天使に御仕えする特別なお仕事を頼みたいんだけど、今日は遅くなっても大丈夫?」  
もう三十代らしいが、真っ白で子供のような肌に化粧をしていない嶋田の、美しい黒目がちな瞳に、くるみは引き込まれそうな気がした  
 
「大丈夫だと返事しろ」落ち着いた声で氷室が言った  
「大丈夫です」  
「そう、よかったわ。じゃあここは他の子に任せるから来て」  
「あ、あのぅ、手を洗ってきていいですか?」  
くりみの作業に汚れた手を見て、嶋田は天使の笑顔で微笑みながら謝る  
「ごめんなさい、気がつかなくて。私って駄目ねぇ」  
その笑顔を見てくるみはこの人すきだなぁとしみじみ思った  
手を洗いにかけてゆく、くるみ  
後ろ姿を見送る嶋田の笑顔が妖艶に歪んだ  
「可愛い…」  
 
グループの本部、まだ足を踏み入れた事のない場所にくるみはいた  
「彩木さん、処女だって入会の書類に書いていたけど本当?」  
ハーブティーを差出ながら嶋田はくったくのなさそうに聞いた  
「そんなこと、嘘は書きません」  
真っ赤になって答えるくるみに、笑いながら嶋田は謝り、お茶をすすめた  
警戒心の全くない彼女に呆れながら、氷室は指令をだす  
「とにかく、援助交際をするように言われたら無理せずすぐに帰るんだ、いいな。」  
「……」  
「彩木くん、返事はどうした。彩木くん!」  
その時、ドアが大きな音で開かれ、慌てながら見慣れない男と共にボブがはいってきた  
「大変だょ!!」  
 
「グループで援助交際していた子は洗脳されていたんだょ」  
「なんだって、ボブ。」  
驚き振り替える氷室の目に、見慣れない男の姿が飛び込んだ  
不審げな氷室の目をすばやく察知したのか、  
「今回の件で補導された少女たちを担当している精神科医ですよ」  
と軽く自己紹介をすると男は、事件に関わった少女達が、ちょっとした催眠状態による暗示で指示を受けたと説明をした  
彼女らから、麻薬成分は検出されていないが、おそらくは睡眠導入剤と性技により、性の奴隷とされたのであろうという事だった  
しかし、その説明がどこまで氷室の耳に届いただろうか  
悲痛な面持ちでボブに彼女の救出を依頼すると、虚空に向かうようにくるみへの呼び掛けを続けた  
 
「彩木くん、彩木くん!」  
氷室の悲痛な叫びに、くるみはうっすらと意識を取り戻した  
すると…  
胸元からなんとも言いがたい、くるみがまだ知らない感覚が、電気のように一瞬に、さざなみのよいによせかえすような感覚でやってきた  
「あ、はあぁ…」  
思わず声が漏れた  
しかし、それが恥ずかしい事だとは、今のくるみに気付く事は出来なかった  
「気持ちいい?彩木さん…」  
耳に息を吹き掛け、嶋田がささやく。そのまま、軽く舌を入れ甘噛みすると、くるみは簡単に背中をのけ反らした  
 
くったりとしている、くるみの体は制服の前をはだかれ、あられもない姿であったが、今その事を気にする余裕などなかった  
くるみは初めての感覚に翻弄されるばかりだった  
頭を優しく撫でながら、片方の手はくるみの大切な場所に延ばされていた  
「気持ちいいでしょ、彩木さん。あなたは天使になるのよ。美しくて可愛らしい、優しい天使…」  
くるみの唇と舌を優しく奪いながら、クリトリスをさぐりあてると、触るか触らないかの微妙な指使いで責める  
もどかしい  
くるみは自ら腰を浮かすようにもう少し強い刺激を求めた  
その間も氷室はくるみへの呼び掛けを続けていた  
「ひ、氷室警視…」  
皮肉にもくるみは氷室と目の前の人物を重ね合わせていた  
 
嶋田は彼女の下半身へと体を移した  
彼女の下着を下にずらすとそこはすっかりと濡れていた  
「やっぱり綺麗ね、可愛いわ」  
熟練した舌使いにくるみは翻弄され続ける  
「ひ、氷室警視…、けいしぃ…」  
「彩木くん、どうした、彩木くん、何が起こっているんだ…」  
氷室の片目から水滴が落ちた  
 
「貴方の声では駄目だ!」  
ふいに精神科医の男が氷室をどかした  
 
嶋田に翻弄され続けるくるみにふいに男の声が届いた  
「彩木、くるみさんだね」  
一瞬にして、くるみは知らない男の声で恐怖に突き落とされた  
 
「だ、誰ですか、あなた。氷室警視は…?」  
「安心してくれ。ただの精神科医だ。氷室くんは隣にいる。君の身を心配している。いいか、君の身を誰よりも心配している氷室警視がいるのがどこかわかるか」  
「あ、あのいつもの地下室です」  
「よし、大丈夫だな」  
 
くるみの体はすっかり冷めきり、嶋田の行為には嫌悪感しか感じられなかった  
しかし、いつしか嶋田自身も行為に没頭していたのだろう、気付く様子はない  
「今、君の目の前にいる人物は誰だ?」  
「嶋田さんです。みんなにはシスターと呼ばれている嶋田さんが…」  
その行為に羞恥心を感じたくるみの体が急にカァっと熱くなった  
再び、体の奥の感覚に飲み込まれそうになる  
「いいか、どんな事をされているかは報告する必要はない。部屋の中を観察して詳しく教えるんだ」  
「えっと、今は床のラグの上です。ふかふかしています。とても高そうです。天井には、天使の小さなモチーフがたくさんついたシャンデリア。すっごい可愛いです。あんなの欲しいなぁ…」  
いきなり呑気になるくるみに氷室は頭を抱えたが男は笑顔でうなづいた  
「その調子だ」  
 
「向こうにはテーブルセット。椅子が一つ、倒れています…あ、横にはスリムなスタンドライトがあります。」  
くるみは必死に部屋を観察した。その結果、自分の体への刺激から気がそれていた  
男の目論み通りである  
「よし、今、嶋田という人物をはねのけて逃げる力はあるか?」  
「はい、あれ、いつもより体に力が入りません…」  
体力自慢のくるみにとって、自分の体が意外であった  
「じゃあ、相手に隙を作るんだ…」  
男は少し躊躇しながら指令を続けた  
「彼女が君にやったような事をやってみるんだ」  
「ようし、頑張ります」  
くるみは何故か妙に張り切っていた  
 
くるみはゆっくりと身を起こすと嶋田に向き直った  
嶋田はいぶかりながら秘所から唇をはなす  
くるみは嶋田に倒れ込むように、体重をかけながら、嶋田の胸をまさぐった  
「あらあら」  
勘違いしている嶋田は自らブラウスをはだけ、ブラのホックをはずした  
自分のものより小さめだが、形のよいその胸に、くるみは子供のような好奇心で触りながら顔を埋める。  
もう、あんな恥ずかしい事してくれちゃって。ずぇったい、負けないんだからぁ。  
乳首を口に含み、片手でもう片方の胸を揉みながらくるみは変な闘志を燃やしていた  
嶋田は軽く喘ぎながら、さすがになれているのか、片方のくるみの手を自分の秘所に導いた  
そこは暖かく湿っている  
 
豆のような大きさの部分をつまむように弄びながら、ここがおしっこするときの場所だよね、といちいち頭の中で確認しながら指を動かす  
その度に嶋田が甘い声をあげて反応するのがだんだん楽しくなっていた  
そして、その下の奥深い部分に指をのばす  
ここが保険の授業で習った腟だよねぇ  
にゅぷ  
何も考えずに指を差し込んでいる  
あったかぁい  
「あ、あぁん。かき回して。そのままつよくかき回してぇん」  
嶋田の声に答えながら、くるみは自分に力が戻っているのを感じた  
 
「私、力が戻ってきました」  
「わかった。彼女を思い切り突き飛ばすんだ」  
そう言うと男は主導権を氷室に戻した  
「彩木くん、できるな」  
「はい」  
「えーいっ!!」  
突き飛ばされた嶋田はさすがに正気に戻ったが、今度は彼女が力が入らないらしい  
「逮捕します」  
くるみに手錠を掛けられ嶋田はほうけたようにがっくりと崩れ落ちた  
「くるみちゃん!」  
ドアを破る勢いでボブが入って来た  
「ボブさん」  
前をはだけたままのくるみの姿にボブは心を痛めた。  
「ちゃんと服を着ないと」  
「きゃあ、本当だぁ」  
慌てて後ろを向いてボタンを止める  
御互い家族のような感情を持っているので、恥ずかしい訳ではないのだが  
そして、くるみは嶋田の服もしっかり着せてやった  
その間、嶋田はほうけたままで小声で何やら歌のようなものを呟いていた  
 
 
後日  
 
くるみはボブと共に精神科医の診察室を訪れた  
意外にもそこには嶋田がいた。しかし、くるみの事はわからないようだ  
「彼女も操られていたんだ。もっとも、もともとある種の精神症もあったようだがね」  
それを聞いて、天使のような嶋田の笑顔を思いだし、くるみは目を潤ませた  
きっと、きっと、あれが本当の嶋田さんだったんだよね  
 
くるみは男に感謝の意を伝えると彼に用事があるというボブを残し、新たな仕事に向かう  
「あなたなら、彼の病気、なおせるんじゃないの?」  
男はボブの問いに静かに微笑みながら答えた  
「心の病を治せるのは、精神科医とは限らないよ」  
彼の視線の先には窓の外、小走りでかけて行く、くるみの姿があった  
 
 
 
 
【完】  
 

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