「彩木くん。念のため聞いておくが…、自慰の経験はあるのか?」  
「あ…、ありません!あるワケないでしょ!!」  
露出の多い服を着たくるみは、真っ赤になって否定する。  
「それはまずい。演技するにしても、まったくの未経験ではな。  
 ――仕方ない…、私が指導しよう」  
「………へ?」  
「行くぞ」  
氷室はくるみの腕を取ると、寝室へ引きずって行く。  
「ちょ、ちょっと待って…。ボブさん、警視になんとか言ってえ!!」  
ボブは首をすくめて、「くるみちゃん、Good luck…」と小声で言った。  
 
「ベッドに仰向けになって寝たまえ」  
腕を放されたくるみは、よろめいてベッドに倒れ込む。  
「け、警視…、ホントのホントに……するんですか…?」  
「くどいぞ」  
くるみは言われた通りに横たわり、ワンピースの裾を握りしめる。  
氷室は椅子をくるみの脚の方に置いて腰掛けた。  
「まず下着をおろせ」  
「え…っ、で、でも……」  
「早くしろ!」  
「はい……。…うえぇん…」  
 
くるみは服の裾を臍の辺りまで上げると、ためらいながら下着の端に指をかけ、  
腰を浮かせてゆっくりと下げた。  
氷室の視線を受けながら、下腹部をあらわにする。  
太腿まで来て、手が止まった。  
さらに下ろすには体を折り曲げる必要があった。  
「も…だめ……。丸見えになっちゃう…」  
頬を染めて目を閉じ、首を横に振った。  
「うむ、そこでもいいが…」  
氷室は立ち上がって手をのばすと、下着を足首まで引き下ろした。  
 
「キャアアアア!!!」  
くるみは目を剥いて金切り声を上げる。  
「演出効果を狙うなら足首に引っ掛けておけ」  
「そんなの狙ってません!」   
くるみは慌てて太腿を重ね、大事な部分を隠した。  
氷室は椅子に戻る。  
 
「では、少々脚を広げたまえ。…女性器の構造及び名称は分かってるな」  
「は…?!た、たぶん……」  
「脚を広げろと言ったはずだが」  
氷室は再び腰を上げ、くるみの足首をつかむと30センチほど間をあけた。  
「きゃぁん…!…見ないでっ!」  
「…何を言ってる。風俗嬢は見られるのが仕事だろう」  
「へ、変装です!潜入です!」  
 
氷室の眼前に白い下半身を晒し、くるみは目をつぶった。  
「よし、始めよう。まずは胸に触れてみろ」  
「えっ……。はい…」  
手を開いて胸に当てる。  
「…あ……」  
薄い布地越しに触れる乳首は、既に固く立っていた。  
「はぁ……、ん…」  
手を当てた所から奇妙な感覚が蠢きだし、くるみは苦しそうな顔をする。  
「あん…っ…、…なん…か……」  
くるみは自分の胸を強く揉み始めた。  
開かれていた脚はいつの間にか閉じられ、擦り合わされる。  
 
くるみの様子を見ていた氷室は、立ち上がって部屋を出て行く。  
「…警…視……?」くるみは手を止め、目を開けた。  
氷室は薬品瓶と脱脂綿を手に、すぐに戻ってくる。  
「両手を出したまえ」  
 
くるみが手を差し出すと、ひやりとした感触が手の上を滑る。  
「つめた…。何?」  
「エタノールだ。消毒だよ」  
そう言って、氷室は自分の両手も脱脂綿で拭いた。  
 
「中断させて悪かった、続けてくれ」  
「…警視…、あたし、やっぱり、無理です……」  
「そんな事はない」  
氷室はいきなりくるみの太腿をこじ開けた。  
「やぁっ…!!なっ、なにするん…」  
 
「見たまえ…と言っても見えないか。自分で確かめろ」  
「…え…?」  
くるみは氷室に手を取られ、熱く疼く部分に指を伸ばした。  
奥から湧き出た粘液はぬめり、指を離すと糸を引いた。  
「あぁ……」  
「バルトリン氏腺液及び膣潤滑液だ。君が『感じて』いる証拠だな」  
「やめ…て…、はずか…し……」  
 
「さて、初心者が最も快感を得やすいのは、陰核=Clitorisへの刺激だろう。  
 やってみたまえ」  
「えっ?ど、どこ…ですか?」  
「男性器同様、性的興奮により充血・勃起する。触れれば分かるさ」  
くるみはおずおずと指を這わせる。  
小さな点に触れたとき、痺れるような快感が走った。  
「はぁっ…!」  
「そうだ。そこを軽く、ゆっくりと刺激する」  
「は……い」  
子猫の頭を撫でるように、くるみは指先を動かした。  
「……あ、あんっ!…はぁ…あ……、あ……っ」  
抑え切れずに体が震える。  
 
「…お…願い…、見ないで……」  
腕組みをして凝視する氷室に、くるみは悲しげな声で言った。  
「…続けるんだ」  
 
膣からあふれた粘液を塗り付けるように、指を回す。  
「んん…っ、…あ…あぁん…、は……ぁ…」  
快感が増すにつれ、指の動きが速く、大きくなる。  
「ああ…、あたし、もう……」  
やるせなくつぶやいて、もう一方の手で胸を押し揉んだ。  
「よし、そのまま最後まで行ってしまえ」  
「…ど…、どう……すれば…」  
「好きな男の事でも考えろ」  
「え…っ…?」  
 
くるみは一瞬氷室の顔を見つめ、瞼を閉じ、指を速めた。  
「あっ…、あぁっ…、う…、んー…っ…!!」  
広げた脚を突っ張って震え、やがてぐったりと力を抜く。  
氷室が近づいてきてくるみの手を取った。  
「けい…し……」  
くるみはまぶしそうに目を開ける。  
「発汗、脈拍上昇、呼吸亢進。本物だな。初めてにしては上出来だぞ、彩木くん!  
 どんな店でも充分つとまるだろう。早速面接に行ってくれたまえ」  
「あの…、本職にする気は、ないんですけど……」  
荒い息をしながら、くるみは氷室の顔を睨んだ。  
「あとは、恋人に協力してもらって練習することだ」  
「冗談…、あたしたち、結婚まではキスだけって決めてるのっ!」  
 
氷室は眉をひそめた。  
「…君たち、病気じゃないのか……?」  
「……け…警視に言われたくありませーんっ!!!」  
                               〈完〉  
 

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