「うーん…と、ここかな?…あ、待って、やっぱりここ!」  
「あっ、くるみちゃん、そこは……」  
「…えっ?――やだあ、どおして?!」  
 
くるみとボブがゲームに興じる後ろで、氷室は憮然と仕事をしている。  
 
「悔しーい!ね、もう一回……」  
 
「……うるさい。君たちは何しにここに来てる!」  
氷室はくるりと椅子を回転させ、腹にすえかねた様子で二人を睨み付ける。  
「だぁって…、やることないんですもん……」  
「じゃあ仕事をやろう。ファイルを取って来い」  
「なっ……、犬みたいに言わないで下さい!」  
「…警察犬の方が君より勤勉だろう。いいから早くしろ。過去の事件資料の棚から、  
 ファイル5を持って来てくれ」  
「はあい…」  
くるみは立ち上がり、ファイルを探しに行く。  
 
ファイルは棚に整然と並んでいた。  
「ファイル、5……と」  
背見出しには、くるみがA別館に来るずっと以前の日付けが記載されていた。  
 
あ、ずいぶん前の事件なんだ……。  
毎月のように部下が辞めてたっていう頃かも。  
それにしても、几帳面に資料まとめてて……警視らしいなあ…。  
 
くるみは何気なくページをめくって中を見る。  
突然、陰惨な他殺体の写真が目に飛び込んで来た。  
「う…えぇぇ……!!」  
 
「何だ、その素頓狂な声は……」  
氷室がうんざりした顔をする。  
 
顔を歪めたくるみが戻ってくる。  
「…あーん、もろスプラッタ……」  
「中を見たのか。余計なことをしなくていい」  
「…だって…、見ちゃいけないって言わなかったから……」  
「別に、見たければ見て構わんが?」  
「見たいわけないじゃないですかあ。うぅ…気持ち悪い…」  
 
ファイルを受け取ると、氷室はそれを机に置き、キーボードを叩きはじめる。  
くるみはボブのそばに腰掛けて、げんなりした様子で巨体に寄りかかった。  
ボブは困った表情を浮かべ、そっとくるみの背をさする。  
 
「警視…、まさか、今度はそういう事件なんですか……?」  
くるみが苦しそうにたずねる。  
「いや……。類似事件が発生して、犯人像に対する意見を求められただけだ。  
 まあ、捜査が難航すれば、こっちに回ってくることもあり得るが」  
「やーっ、断って下さい!でなきゃ、あたしが辞めます!…もう……、今日は…、  
 晩ご飯が食べられそうにありません……」  
背を向けたまま氷室がつぶやく。  
「それが刑事の台詞か…」  
 
「気持ちの問題です!警視だって、ああいうの見たら食欲が失せるでしょ?」  
「…食欲など、もとからない。私にとって食事は義務にすぎん。食事が娯楽の  
 君たちとは違うんでな」  
くるみとボブは顔を見合わせた。  
 
ボブがぽんぽんとくるみの肩を叩いて慰める。  
「大丈夫、コウの考える犯人像が当たっていれば、事件は解決するんだから。  
 ボストンでも、コウのプロファイリングはパーフェクトだったね。  
 だから、安心していいよ、くるみちゃん」  
 
「ホ、ホント…?じゃ、絶対に当てて下さいっ!お願い、お願い、警視!!」  
 
「……うるさいと言うんだ。用があれば呼ぶから、それまで来なくていいぞ」  
そう言い捨てて、黙り込む。  
くるみ達を無視して仕事に集中することにしたようだった。  
 
氷室を残し、ボブとくるみは一階に上がる。  
「あんな殺人事件の捜査なんて…、あたしにだって限度が……うえぇん…」  
華江のいれたお茶を飲みながら、くるみは泣き言を言う。  
「大丈夫、被害者を発見なんて、よっぽど運が悪くなきゃあり得ないから」  
「ピエロの時、いっぱい見たもん……!警視のことだから、また『良く見ろ』  
 『触れ』って平然と言うに決まってるよお!」  
 
「光三郎様も、必ずしも心中穏やかではないと…」  
華江がたまりかねたように口をはさむ。  
「ぼっちゃまは、感受性のたいへん豊かな方です。お顔に出されないだけで、  
 心には動揺があるに違いありません。御両親も、恋人も……、みな事件で  
 亡くされているのですから…」  
過去の出来事を思い出しているのだろうか、華江は悲痛な表情を浮かべる。  
 
「華江…さん……」  
 
うん……そうだった…。  
華江さんやボブさんがそばにいるけど、警視は天涯孤独なんだよね……。  
 
地下室で独り仕事をする氷室の姿を想うと、くるみの胸がちくりと痛んだ。  
 
華江は畳み掛けるように続ける。  
「そんなぼっちゃまを支えているのは、理性と、正義感と、お仕事への誇りだと、  
 私は信じています。…ですから、くるみ様…どうぞ光三郎様を、末永くお助け  
 下さいまし。この通り、お願い致します…」  
深々と頭を下げられ、くるみは慌てる。  
「あ、やだ、華江さん…そんな……」  
華江は顔を上げ、くるみの目を覗き込んで、にこりと微笑んだ。  
 
 
伸吾はちらりとくるみの顔を見る。  
夕食後、シャワーを浴びて、二人はソファでくつろいでいた。  
ピンクのバスローブを着たくるみは、伸吾に寄りかかったままテレビを見つめる。  
照明を暗くした部屋の中、画面には南国の青い海が映っていた。  
 
「ね、くるみ。どっか調子悪かったりする?」  
「…え?…どうして?」  
伸吾の顔を見たくるみは、意外そうに聞き返す。  
「いや、なんか…、ここんとこ、くるみにしては食が細いみたいだから、さ」  
「あれ…そうだった…?――別にダイエットしてるわけじゃないよ」  
小さく舌を出して、微笑んでみせる。  
 
「……仕事、大変だったら辞めてもいいんだぞ。……ローンはあるけど……、  
 おれ、頑張って働くから」  
「伸吾……。大丈夫、全然大変じゃないから。でも、心配してくれてありがと」  
くるみは伸吾の腕に手を回し、体を押し付ける。  
「本当に大丈夫なの?…ならいいんだけど…」  
伸吾は鼻の頭を掻く。  
 
「ね、休み取ってどっか行こうか。…近場なら海外でも」  
「ホント?でも、伸吾とこうしてるだけでも楽しいよ」  
「くるみ…。もっとワガママ言って、贅沢していいんだよ」  
くるみは左手を伸ばして、揃えた指を反らせる。  
「もう充分贅沢してるもん。わがままはしょっちゅうだし。――あたし…、  
 伸吾と一緒にいられるだけで、幸せだと思ってるの……」  
 
「……おれだって…」  
伸吾は覆い被さるようにくるみを抱きしめた。  
「あ……ん」  
くるみは伸吾の背中を抱いて、その胸に顔をうずめる。  
「あったかい。なんか、ほっとする……」  
そう言ってうっとりと瞼を閉じた。  
 
伸吾はしばらくそのまま抱いているが、腕の中のくるみは動かない。  
「……くるみ……寝ちゃったの……?」  
おそるおそる尋ねると、くるみはくすくすと笑って顔を上げた。  
「起きてるよ。でも、このまま眠っちゃってもいいなぁ…」  
「そりゃないだろ…だめだよ、まだ寝ちゃ」  
 
「ふふっ…ごめんね、……ん!」  
笑顔の唇を少し乱暴にふさぐ。  
肩を引き寄せて押さえ、もう一方の手でふっくらした胸を強く押し上げる。  
ぴくんと震えながらもくるみはキスを続ける。  
「ぅ……ん…んっ」  
舌を深く絡ませて、伸吾の首に腕を回した。  
伸吾は勢いを得てくるみにのしかかり、二人は座面に倒れ込む。  
「あ…ぁん…」  
 
「…くるみ…」  
下になったくるみの、乱れたバスローブの裾に伸吾の手がのびる。  
「…あ…っ」  
布の下をくぐって、手はするすると腰まで達し、裸の尻や脚の付け根のあたりを  
さまよい始めた。  
「だめ……だめだよぉ…」  
くるみは喘いで伸吾の胸にしがみつく。  
思わず軽く膝を曲げると、バスローブがさらりと落ちて、腰骨まであらわになる。  
 
むき出しの脚の内側に、手が滑ってゆく。  
「は…ぁ、あぁ……ん」  
柔らかく、湿った襞の中央に触れた指は、そこから熱い蜜をすくい取った。  
「あぁ…っ!」  
「く…るみ……」  
荒い息をしながら、伸吾は同じことを繰り返す。  
「…あっ…、あぁ……、…は…ぅう…!」  
粘液に濡れた指は、だんだんと奥へ沈んでいった。  
 
「…んっ、……っ、…あ…ぁ……」  
差し込まれた指が動くたび、目を閉じたくるみは震え声を漏らす。  
 
こえ……声が、出ちゃう………。はずかしい…のに……。  
や…だ……、どうすれば、いいの……。  
ああ…、……伸吾…、あたしの体、…変……。  
 
「んーっ…、…は、あぁっ……!」  
くるみは腰を浮かせて小さく動かした。  
筋肉が中にいる伸吾の指をきつく締め付ける。  
「…うっ」  
「……あ…っ…」  
体の力を抜いてはあはあと息をつく。  
「…くるみ……いったの…?」  
「…え……。…そんな…、…わかん…ない……」  
上気した頬をさらに赤く染めて、恥ずかしそうに答えるくるみの額を、  
伸吾は優しく撫でた。  
「ごめん、そうだよな。…いいんだ、くるみが気持ち良ければ…」  
そう言って額に軽くキスをする。  
 
「しん…ご…」  
「おいで…」  
伸吾はくるみの肩を抱いて一緒に体を起こす。  
起き上がると、すっかりはだけたバスローブがくるみの肩から滑り落ちる。  
「やぁん……!」  
くるみは腕で胸をかくし、伸吾に張り付いた。  
伸吾は最後に残った紐を引きながら、くるみに囁く。  
「ベッドまで待てない……。ここでいいだろ…?」  
「え…?!」  
裸になったくるみを自分の膝の上に抱き上げ、向かい合わせに座らせる。  
「あっ…、し、伸吾……」  
伸吾のバスローブの前が割れ、逞しい太腿の奥がのぞいた。  
 
くるみは消え入りそうな声を出す。  
「こんなカッコ…はずかしいよ……」  
「恥ずかしくないよ…。すごくきれいだ……」  
伸吾はくるみの尻を抱えて浮かせ、自分の体の上に導いた。  
手を添えてくるみのそこにあてがうと、ゆっくりと腰を下ろさせる。  
「あ、あっ…、あぁ……んっ…!!」  
伸吾の肩に手をかけ、くるみは苦しそうに目を閉じてのけぞった。  
 
「くるみ…、ごめん。まだ痛い…?」  
くるみは首を振って喘ぎながら答える。  
「だい…じょう、ぶ…。最初だけ、ちょっと……」  
「慣れるまでゆっくりするから。無理しないで」  
「ん……。あり、がと…」  
 
伸吾は小さく腰を上下させ始める。  
「…あ…、…あっ…、あぁ……」  
体の奥まで伝わる振動にくるみは声をあげた。  
口元に髪の束がかかり、豊かな乳房が小刻みに揺れる。  
「はぁっ…、…はあぁ…、んんっ…」  
伸吾の腰をはさむ白い太腿が、しっとりと汗ばんでくる。  
「…可愛いよ…とっても…」  
「あぁん…、しんごぉ……」  
「動いてごらん…。自分で、気持ち良くなるように…」  
 
「…えっ…。……こ…う?」  
くるみは伸吾の腕を支えに腰を前後させる。  
「う…!あぁっ、いいよ…、くるみ……」  
「あんっ…、ん…っ…、しん…ご…」  
伸吾の腕につかまったくるみは、背を反らせて腹部を押しつけ、大きくねじるように  
腰を動かした。  
「しんご……、はぁ…ん、し…んご…お」  
「……っ…、うあ…っ、く…くるみ!」  
 
苦しそうに顔をしかめると、伸吾は広げた手のひらでくるみの尻をつかみ、  
激しく腰を突き上げた。  
「あー…っ!あぁぁん…!!」  
余りの勢いに、くるみは悲鳴に近い声をあげる。  
「ごめん…、くるみ、ごめんっ……!」  
伸吾はくるみの体を抱きしめ、体を震わせた。  
 
ゆっくりと、しかしまだ大きく胸を上下させて、二人は抱き合っている。  
呆然と背もたれに首を乗せていた伸吾が顔を起こし、くるみの耳元に小声で言う。  
「…くるみの声を聞いてるだけで、顔を見てるだけで、いっちゃうかと思った…。  
 すごくエロくて、きれいだったよ……」  
くるみは少し顔を上げる。  
「…えっ…。…あたし、そんなエッチな顔、してた…?」  
「うん…してた。顔も、体も…」  
「…や…だぁ、伸吾のばかっ…」  
顔を伏せて、蚊の泣くような声でつぶやく。  
「くるみは?少しでも気持ち良くなれた?」  
声は出さずに、小さくうなずく。  
「そうか。ならいいんだ」  
伸吾はくるみの髪にキスをして、背中を優しく撫でた。  
 
翌日、くるみは署内の資料室に行った。  
窓際に陣取ってめぼしい資料を読みあさる。  
 
「…彩木くん、何してるの」  
突然背後から、耳元に低い声で呼びかけられる。  
「ひゃあ!」  
総毛立って振り向くと、千曲川がいた。  
「なんだよ、何してるのって聞いただけじゃない」  
「あ、す、すみません。あの、ちょっと、資料を……」  
「熱心だねえ。君は本当に仕事熱心なコだったんだな…」  
「は?」  
 
千曲川はくるみの隣の椅子を引いて座り、猫撫で声で続ける。  
「君なんかどうせすぐ辞めて、結婚しちまうと思ってたのに、どうよ…。いまだに  
 A別館にいるじゃない。いやあ、よっぽど気に入られたんだねえ、氷室警視に…」  
「さあ、どうでしょう。使いやすいだけじゃないですか」  
くるみは気のないそぶりで答えた。  
 
「『敵に塩を送る』…じゃ変か、『瓢箪から駒』だな、この場合、ははは。  
 君もさ、彼氏とよろしくやって、氷室警視のもとで仕事に燃えて、なんかこう…  
 前より大人っぽく、色っぽくなったんじゃない?」  
昨晩の行為を見透かされたような気がして、くるみの頬が熱くなる。  
 
それに気づかれないよう、わざとあっけらかんと切り返した。  
「やぁだ!それって、セクハラですよぉ。年頃のお嬢さんがいるっていうのに!」  
「ああっ、最近さあ…、いや、あいつの話はいいんだよ。――で、何してるの」  
「え……、あの…」  
 
「なるほど、猟奇殺人…。苦労するなあ、相変わらず」  
くるみの話を聞くと、千曲川はつるりと頭を撫でた。  
「まだ担当するかどうかは…。一応、心構えをと思っただけで」  
「健気だね…。でもなあ、女の子が死体を見慣れるってのも何だかねえ」  
「そういう感覚、氷室警視には通用しませんから」  
「ああ、そうか…。ま、どんな事件でも、我々凡人は現場百遍だな。物証だの、  
 人間関係だのを、地道に歩いて捜査するだけだよ…」  
「…はあ…」  
くるみは資料を見ながら生返事をして聞き流していた。  
 
「だが、氷室警視は違う。彼は天才だ…。彼なら……異常な殺人を行う人間の、  
 心の奥の闇に…入り込むことができるのかも知れない……」  
「え…っ?…それ…どういう…」  
言葉の真意をはかりかねて、くるみは思わず千曲川の顔を見る。  
千曲川はにやりと笑って言った。  
「で…、結局、君はどっちが本命なの?彼氏か?氷室警視か?ん?」  
 
ばん、と机に手をついてくるみが立ち上がる。  
「もうっ!真面目に聞いて損しました!!」  
資料を乱暴に棚に戻すと、椅子を直して扉に向かう。  
「お先に、失礼しますっ!」  
 
「悪い悪い、彩木巡査、冗談だよ、冗談……」  
後ろ姿に声をかけるが、くるみは振り向きもせず出てゆく。  
「おーい、彩木くん…。外出するんだったら、傘を持っていった方がいいぞお。  
 …あやしい雲行きだ……」  
千曲川は窓の外を見上げながら、最後は独り言のようにつぶやいた。  
 
「……あの…、…彩木です…。…入ります……」  
 
地下室の扉を開け、くるみは小さな声で呼びかける。  
椅子にかけた氷室がくるりと振り返った。  
「…何の用だ。呼んでないが」  
気の立った獣のような顔をしてくるみを睨む。  
 
うわぁ、機嫌悪っ……!やーん……また寝不足なのかなぁ?  
そんなにおっかない顔しなくたっていいのに……。  
 
くるみは氷室の神経を逆なでしない程度に、明るい声で話した。  
「あ、あの…、そろそろ何か仕事があるかな、と思って…」  
「悪いが何もない。今のところはな」  
取りつく島もなく答えられ、くるみは困った。  
「あっ…そうですか……。じゃあ、えーっと…」  
 
「……邪魔だ、帰れ」  
ふいと横を向いて言う。  
くるみはむっとして声を荒げた。  
「もう、どうしてそういう言い方!警視のこと、気になったから来たんじゃない…」  
「私の何が気になる」  
 
「……え?」  
鋭い視線を受けて、どき、とくるみの胸が音を立てた。  
「それは…あの…、ちゃんとごはん食べてるのかな、とか…」  
「下らん」  
「…でも、華江さんが……。光三郎様が余り食事を召し上がらなくて…、その上、  
 きちんとお休みになられてもいないようですって、困ってましたよ」  
 
氷室は頬杖をついて、大きく息を吐く。  
気をそがれたのか、体を包む尖った空気がふっと緩んだ。  
「まったく…華江さんの子供扱いには参る」  
「違います、この前みたく倒れられるのが心配なの!」  
「………。あれは居眠りだ」  
「またそんなこと言って…!」  
 
そこに内線が入る。  
「先程から激しい雨が降り出しております。戸締まりを致しましたが……ボブ様は、  
 今日、お帰りになりますでしょうか」  
「予定は聞いてないな。だが、すべて締めてしまって構わんだろう」  
「かしこまりました。あの、くるみ様は…」  
氷室はくるみをちらりと見た。  
「ちょうど今、帰るところだ」  
「それはいけません。今は傘など役に立たない状態です。しばらくお待ちになるか、  
 …お泊まり頂いた方が安全かと」  
「うそ…そんなに降ってるの?!」  
「はい。大変な荒れ模様です」  
 
氷室は気象情報の画面を呼び出す。  
「…なるほど、警報も出ているな。…やむを得ん、彩木君、ここで待機しろ。  
 下手に帰らせて、怪我でもされては厄介だ」  
「や…厄介ってなに…?!それを言うなら心配だ、でしょ?!!」  
「用もないのに来るからだろうが。厄介としか言い様がない」  
「んもお!」  
 
軽く咳払いをして、華江がやんわりと割って入る。  
「では、また後ほど様子をお知らせ致します…」  
 
氷室は壁際に歩み、慣れた手つきでエスプレッソを入れると、無言でカップを  
口に運び、じろりとくるみを見た。  
 
「…そんな顔で怒らないで下さいよお……。あたしだって仕事するつもりで……  
 あの…、この前の事件、もしやらなくちゃいけないなら、あたし…やります」  
「あれはもう済んだ。…気にしていたのか」  
「え…、解決したの……?」  
「さあな、分からん。私は犯人を推定し、犯行の時期や場所を予測しただけだ。  
 それをどう活かすか、後は向こう次第だろう」  
くるみははあ、と感嘆の声を上げる。  
「えっ…じゃ、仕事は終わってるってこと……?なのに、何してるんですか?」  
「新しい論文がいくつか出ていたんで、そっちをな。面白いものもあった」  
氷室が指で示した書類の束には、細かい英文がびっしりと並んでいた。  
 
目眩がして、くるみはため息をつく。  
「――警視は、仕事中毒なんですっ。たまには気分転換とかすればいいのに」  
「例えば何を」  
「え……、…庭の散歩、とか?ちょっと年寄りっぽい?」  
氷室は視線を宙に漂わせる。  
「…残念だが、そういう事に意味を見出せない」  
「……仕事しか、する気にならない…?」  
「そんなところだ。また、そうでなければ存在価値もなかろう」  
 
カップに口をつけ、どこか遠くを眺めているような氷室を、くるみは見つめた。  
「そんなことない……。警視が元気でいれば、それだけで充分って思ってますよ、  
 華江さんは……。もちろんボブさんも、……あたしも……」  
氷室は無表情に目を伏せる。  
「でも、仕事以外の事をしたくないっていう気持ち、なんとなくわかる……。  
 警視は、まだ……喪に服してるんですよね、由香さんの…」  
 
「だから…何かを楽しむとか、心から笑うとか、したくないんでしょう……。  
 ――笑わなくてもいいの。あたしには、今の警視が一番警視らしく思えるし、  
 そういう警視が…好き…。…時々、なんだかやりすぎじゃないかなあって、  
 心配なんですけど……」  
氷室は唇を噛んで、ことん、とカップを机に置く。  
 
あっ……いけない…。また怒らせちゃった……?  
 
近づいてくる氷室の姿に、くるみはびくっと首をすくめた。  
ふいに両腕をつかまれ、引き寄せざまにキスをされる。  
「ぁ……」  
くるみは身動きの取れないまま、目を閉じて体をゆだねた。  
「ん……、ん、ん…っ…」  
柔らかく、ゆっくりと唇が押し付けられる。  
わずかに開かれた唇の隙間に舌をのばすと、エスプレッソの苦味に触れた。  
氷室の舌が迎えに来て、くるみの舌をゆっくりとなぞる。  
きゅうう、とみぞおちが痛むような快感。  
 
……ああ…。…もっと強く…して…。もっと深く、キスして……。  
 
.突然、今度は外線が鳴った。  
動きを止めた氷室は、そっとくるみの体を離し、電話に出る。  
くるみは机に寄りかかって痺れた体を支え、氷室の姿を目で追った。  
「…私だ。……そうか、やはりな。……いや…、無理して帰る事はない、  
 こっちは大丈夫だ。…ああ、わかった。君も気をつけろ…」  
 
外線を切るとすぐに内線をかける。  
「ボブから連絡があった。今日は帰らないそうだ」  
「承知しました。…そろそろ、ご夕食のお時間ですが」  
「いや……、私はまだいい。彩木君を上にやるから、二人で食べてくれ」  
「…はい…。ではくるみ様をお待ちします…」  
 
「そういうことだ。君はもう上に行きたまえ」  
受話器を置いて、氷室は静かに言った。  
「…え……」  
急には意味が分からず、くるみは上気した顔で氷室を見る。  
「一人に…してくれ」  
「…あっ……はい…。失礼、します……」  
そう言うと、うつむいたまま歩いて、扉の向こうに姿を消す。  
氷室はそれを目の端で見送り、再びモニターの前に座った。  
 
どのくらい経ったか、小さなノックの音がした。  
「失礼致します。…ご夕食です」  
華江が入ってきて、トレーを机の上に置く。  
「もう遅いですので、軽いものをどうぞ」  
「ありがとう。…まだ荒天はおさまらないようだな」  
「はい。くるみ様はお食事もご入浴も済まされて、既にお部屋でお休みです」  
「………。華江さんも休んでくれ。私もこれで終わりにしよう」  
「では、お休みなさいませ…」  
 
ほんの少しの食事を大儀そうに食べ終えると、背もたれに寄りかかりため息をつく。  
静寂の中、新着メールを告げる音が鳴った。  
椅子をモニターの前に移動させ、マウスをクリックしてメールを読む。  
「ふん……なるほど。今回は全面的に信頼されたという訳だ」  
挑戦的な目をしてにやりと笑う。  
「これで、彩…」  
ふとつぶやいて、口をつぐんだ。  
「……寝るか」  
そう言いながらも、片膝を立てて抱えると、視線を遠くに投げて物思いに耽る。  
 
再び小さなノックの音がした。  
氷室は扉の方を見る。  
「失礼します…」  
見慣れぬ人影が扉を開けて入って来た。  
 
氷室は目を細めて凝視する。  
「あの……携帯が…」  
紺地に白で流水と菊をあしらった浴衣を着て、くるみが立っていた。  
「携帯が、鳴ったような気がして…」  
「……なに?」  
「雨と風の音がひどくて、すぐには気付かなくて……、切れちゃったみたいで」  
「…馬鹿か君は。電話などしていない。だいたい着信記録を見ればすむことだろう」  
氷室は呆れたように言った。  
「あ…そうか…。…でも……、警視に呼ばれたような気がしたんです……」  
 
「だから、呼んでなどいな…」  
苛立たしげに言うが、そこで言葉を飲み込む。  
そんな氷室の顔を、くるみは申し訳なさそうに見た。  
「…ごめんなさい…。――それにしても、ここは静かですね……嘘みたいに…」  
「……世の中の雑音が入らないのが、数少ない利点だな。さ、戻りたまえ、彩木君。  
 …私は休む」  
何か言いたそうなくるみを置き去りにして、氷室は洗面所に消える。  
 
しばらくしてバスローブ姿で出て来た氷室は、濡れた髪をタオルで拭きながら、  
机回りの照明を切り始め、さっきと同じ所にくるみが立っているのに気付いた。  
「何をしている。戻れと……」  
「静かだから…静かすぎるから、余計に辛くない……?一人でいるの…」  
薄暗がりに、かすかに震える声が響く。  
「…慣れたと前に言ったはずだ」  
「辛くて、切なくて、寂しい時は……どうするの……?」  
くるみの顔が歪んだ。  
「なぜ、君が泣く…」  
くるみは濡れた瞳で氷室を見つめ、歩み寄って氷室の肩に額を押しつけた。  
 
「…………。いいのか…抱いても」  
ためらうように耳元に囁く低い声に、くるみは答えた。  
「…いいんです、抱いて…。抱いて欲しいの……」  
 
ベッドの脇で二人はもどかしげに唇を重ね、立ったまま長いキスを繰り返す。  
「……ぅ…、…ん…っ、ん……ん…」  
氷室の舌が荒々しく侵入してきて、くるみの舌に絡み付く。  
「…は…ん…、ん……、っ……」  
息苦しくて呼吸が速くなるが、それでも唇は離れない。  
二人の舌はぬるぬるとした唾液の海の中で、重なりあい、押しあい、擦れあった。  
「…うぅ…ん、ん……」  
氷室はくるみの肩をつかんだまま、飽かずにくるみを味わい続ける。  
 
固い筋肉の浮かぶ氷室の背中に手を回し、くるみは体を押し付けた。  
息をするたび上下する胸の動きが、早まる心臓の鼓動が、布越しに伝わる。  
「……んっ」  
くるみはあふれかけた唾液を思わず飲み込む。  
それをきっかけに唇が離れ、はあはあと大きく喘いだ。  
氷室も小さく口を開け、肩を動かしている。  
 
ややあって呼吸が落ち着くが、氷室は動きを止めたままでいた。  
くるみは不思議そうに氷室の瞳を見る。  
黙ってくるみを見返す、少し無防備な少年のような表情が、胸に迫った。  
 
…さっき、あたしがここに来た時も…、膝を抱えて、同じ顔、してた……。  
 
くるみは氷室の手を取って、ベッドに座らせる。  
「あたし…、警視のために、何でもしたいの…。前に、言いましたよね……」  
そう言って隣に座り、氷室をやわらかく抱きしめた。  
「何か……話して…」  
くるみの腕を拒否するでもなく、氷室は静かに抱かれている。  
 
「……由香を死なせたと知った時…、世界はあっけなく色褪せた……」  
「…………」  
「そして何も感じなくなった…滑稽なほどに」  
乾いた声を聞きながら、くるみは腕に力を入れた。  
 
「他人のような自分を抱えて仕事に復帰したが…、難事件ほどむしろ楽だった。  
 それに没頭して他の事を考えずに済む……」  
「だから、今もあんなふうに仕事をするの……?…でも…、スネイルが死んで…、  
 あの事件は…すべて終わりました…」  
「ああ。…頭では分かっているのに、心が騒いで…納得しようとしない」  
「……犯人に…復讐したかった……?」  
「――復讐か。この手であの男を切り刻んだら、何か変わっていただろうか…。  
 だが、今となっては…どうすることもできない……。変わらず残るのは…、  
 由香が死んだ事実と、無力だった自分への悔恨だけだ……」  
 
抑揚のない低い声に、苦悩が滲み出ていた。  
くるみはたまらず氷室の耳元に唇を当てる。  
「辛いって、苦しいって、誰にも言わないで、ずっと一人でそうしてきたんですね…。  
 泣いたっていいのに…大声で叫んだっていいのに、…警視……」  
 
氷室が顔を傾けて、くるみの唇に深くキスをした。  
そのままくるみの体に手を回し、ゆっくりと押し倒す。  
「……んん…」  
喉の奥でうめいて、くるみはベッドに横たわった。  
胸の前で結んだ帯がしゅる、と解かれ、浴衣の合わせがゆるむ。  
布の重なりの間に氷室の手が入って、柔らかな肌に触れた。  
「んっ…、ふ……」  
ふっくらと盛り上がった胸を手のひらに包み込み、固くなった乳首を指で挟む。  
「は…あっ、…ぁ……ん、ん……」  
唇が離れるがすぐに塞がれ、くるみは背をそらす。  
 
手は熱い肌の感触を確かめながら、脇腹、腰、太腿とおりてゆき、下着の縁を辿ると、  
すっとその中に滑り込んだ。  
「………っ!」  
慌てて閉じられた腿を開くよう促し、できた隙間に指を当てる。  
襞をなぞる指はあふれかえった蜜で濡れ、ぷくりとふくらんだ蕾に触れた。  
「ん、ぅっ…!」  
 
くるみはびくんと体を震わせ、小さな声を漏らした。  
しばらくそこを弄んでから、指はぬるりと襞の奥深くに潜り込んだ。  
「はぁ……あ…!あ……ふ、ぅっ…!」  
氷室の指に犯されるそこが、熱く疼く。  
くるみは浴衣の袖を握りしめ、裾のはだけた下半身をよじった。  
「……んっ…、……ぁっ…、あ…ん…」  
 
妖しく蠢く熱い穴から抜け出た指は、腰から下着をはがす。  
こぼれた蜜で濡れた下着は、冷たい感触を引いて足首まで下げられ、床に落とされた。  
氷室はくるみの膝を折り曲げ、脚を大きく広げる。  
「――あぁ…」  
固く尖った部分に、快感がとくん、とくん、と脈を打つ。  
もうすぐやってくるものの気配を感じ、そこが勝手にひくりと動いた。  
 
氷室はバスローブを脱ぎ捨て、荒く削いだような体をあらわにする。  
次の瞬間、濡れた音を立て、くるみの中に一気に侵入した。  
「っ……、あ…、うぅー…っ!!」  
その圧倒的な大きさに、くるみは悲鳴をあげる。  
無意識に逃げる腰を、氷室の手がぐいと引き寄せた。  
「…あ、ああぁ……ん!」  
くるみは氷室の手首を握りしめ、切なげに目を閉じる。  
「はあっ、…うん…っ、あぁ…ん……」  
氷室の腰が前後するたび、ぐちゅっ、ぐちゅっと、淫らな音がした。  
 
「……ん…、あぁ……、…ぁ…うっ、はぁ…あ…」  
体の奥が隙間なく充たされて、くるみの喘ぎは次第に甘くなる。  
「…あ…ぁんっ、んん……、…ん…うぅん…」  
うっとりと目を開くと、真上から見下ろす氷室の瞳があった。  
「……ぁっ…」  
くるみはとっさに腕で氷室の視線を遮る。  
「――どうした…」  
「あ、あたし…、…いやらしい…顔、してるかも……。見…ないで…」  
 
「…おかしな事を。目を閉じていればいい」  
「はずかし…いの…。見られたく、ないの…っ」  
くるみはか細い声で言い張る。  
 
「…は、ぁ…!」  
氷室は体を離すと、片手でくるみの腕を取って体の向きを変えさせ、腕に絡まっている  
浴衣の袖をつかんで、後ろから剥ぎ取る。  
うつ伏せになり、目をつぶって息を弾ませるくるみの腰に、手がかかった。  
「……ぇっ」  
おもむろに腰を引き上げられ、脚を開かされる。  
 
尻を抱える指に力が入ると同時に、後ろから氷室が押し入って来た。  
「は…ぁ、あ、あぁぁー…っ!!」  
肘をつき、うずくまっていた上体をのけぞらせてくるみは叫んだ。  
会陰がいっぱいに広がって氷室の体を受け入れる。  
「…あっ…、けぃ…し、そ…ん、なっ……」  
氷室の動きは緩やかだったが、全く違う刺激にくるみの体の芯は痺れた。  
動物が交わるような姿をしている恥ずかしさと相まって、気が遠くなる。  
 
「あ…ぁっ、…はぅ…う、……はあぁっ…」  
白く光る背中が、腰が、魚のようにうねる。  
氷室の手はウエストのくびれを捉え、早まる体の動きに同調させる。  
「…あ…っ! んー…っ! あ、うっ…!」  
背後から激しく穿たれ、くるみは苦しげに喘いだ。  
「ん…っ、…けい…し……、けぃ……」  
後ろを振り向き、片手を伸ばす。  
 
「…彩…木……」  
氷室は伸ばされた腕をつかんで、くるみを起こした。  
羽交い締めのようにくるみの体に腕を回して支えると、片手で顎を引き寄せ、  
半ば強引にキスをする。  
「ぁん……っ、んん…、ん……」  
 
体の中に火の塊を収めたまま、くるみは貪るような氷室のキスに応えた。  
 
ああっ…、あたし……壊れちゃう……。でも、壊れてもいい、このまま……。  
……あたしの体と警視の体が…全部、溶け合ってしまえばいい……。  
 
自分を抱く氷室の腕をぎゅっと握って、くるみは腰を押しつけ、よじった。  
「…ぅ…、ぅう…っ!」  
氷室が喉の奥で低くうなり、ひときわ大きな衝撃がくるみを突き上げる。  
「ぁ、あぁー…っ!……ひ…、ひむ……、け…ぃ…しっ!!」  
全身を震わせるくるみの耳元で、ぎりり、と歯の軋む音がした。  
 
目を開けると、仄暗い天井が見える。  
下腹部には氷室の体の記憶が灼け付き、鈍く疼いていた。  
右隣に氷室が横たわっている。  
整った横顔は上を向いて目を閉じ、動かなかった。  
くるみは目の前の、丸い筋肉の盛り上がった肩に額を当てる。  
 
ふと、薄く色付いた部分があるのに気付き、そっと左手を伸ばして軽く触れた。  
その手に、氷室の右手が重なる。  
「…ごめんなさい、起こしちゃった……?」  
「……ずっと起きている」  
「ここ…、まだ痛むんですか…」  
「いや。…却って感覚がないんだ」  
「そう…なの…」  
 
氷室の指が指輪に掛かっているのを見て、くるみははっと手を握りしめる。  
「警視……。……あたしのこと、軽蔑…する…?」  
「…私に…そんな資格があると思うのか……」  
「…………。いつか…、警視に、あたしが必要じゃなくなる時が、きっと来る……。  
 でも、それまでは、あたし……、警視のそばにいます……ずっと…」  
そう言って、くるみは色付いた部分に微かに唇を当てる。  
氷室は何も答えなかったが、手を重ねたまま再び目を閉じた。  
 
 
翌朝、大きな足音と共にボブが戻る。  
「I'm home, Boss! I'm back!! ……Oh! くるみちゃん、早いね、来てたんだ!」  
「う、うん…。お帰りなさい、ボブさん。昨日…、大変だったでしょ?」  
「もう、すっごかったよ!こっちは大丈夫だった、コウ?」  
「ああ……。君にはとんだ災難だったな。だが、無事で何よりだ」  
氷室はボブの元気な様子に安堵し、エスプレッソを入れに立った。  
 
「あ、そうそう!プロファイリング、どうなった?ホラ、くるみちゃんが心配してた」  
「…終わったよ。予想通りだったと連絡があった」  
氷室は背を向けたまま答える。  
口笛を吹いて、ボブはくるみにウインクする。  
「ね、言った通りでしょ、くるみちゃん!」  
 
くるみは少し恥ずかしそうに、口を尖らせて答えた。  
「別に、心配してなかったですよぉ……。回ってきたら、やるつもりだったし…」  
「あれ、そうだっけ?――ところで、今日はどうしてこんなに早いの?」  
「そ…それは、あの、昨日……」  
「…君同様、彩木君も足止めだったんだ…ここに」  
「おや…!くるみちゃんも大変だったねえ。仕事忙しかった?」  
「…ううん、華江さんの作ったご飯、食べてただけ……。すっごくおいしくて、  
 いっぱい食べちゃった!…お昼もどうぞって言われたの…ふふ、楽しみ!」  
 
「食欲出たんだ、良かったじゃない!」  
「……味をしめるのはいいが、ボブと同じ道を歩まないという保証はないぞ。  
 彼も、ここに来てからこうなったんだからな」  
くるみは耳まで真っ赤になった。  
「え…。あたし…、太りました?!ね、正直に言って、警視!」  
「――なんで私に聞く。…知らん!」  
カップを持って書庫に向かう氷室を、くるみが追いかける。  
二人を見ながら、ボブは眉を上げ、嬉しそうに笑っていた。  
 
                               〈完〉  
 
 

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