「ふっ!…つあぁ、はあっ!」
一心不乱に、俺は武装錬金(未だにいい名前が付けれないでいる)を振り回している。
一刻も早く、思い通りにこいつを使いこなせるようにならなくちゃいけなかった。
斗貴子さんの身体に寄生したホムンクルスを倒すには、とにかく俺が強くなる必要があった。
「精が出るな」
掛けられた声に俺は振り向いた。そこには、飯を買いに行ってくれた斗貴子さんがいた。
「お帰り、斗貴子さん」
武装錬金を振り回すのを止め、斗貴子さんに向き直った。
学校から少し離れた雑木林の中で、俺はこってりと絞られていた。
「ごめんよ、飯なんか買わせに行かせちゃって」
昼を過ぎてからも休むことなくこれを振り回していた俺の腹が情けなくも鳴いてしまった。
それでわざわざ斗貴子さんがコンビにまで行ってくれたんだ。
「気にするな。今は君に強くなってもらうのが先決だからな」
そう言って斗貴子さんは自分の脇腹の上を撫でた。そこにはあのホムンクルスが寄生している場所だった。
それを思い出すたび、俺は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
もう少しだけ、俺に力があったら――――。
「何を呆けている?早く食わないか」
「あ、ああ、そう、だね」
ぎこちなく笑みを作り、斗貴子さんの手からビニール袋を受け取った。
「ん?」
そこで気がついた。彼女の逆の手に小さな小包があることに。
「ねえ、そっちは何?」
好奇心からそう聞いてみた。
「こっちか?君が気にするほどの物ではない」
「ええー、教えてくれたっていいじゃー…い、イタイイタイぃ〜〜」
チクチクと彼女の武装錬金・バルキリースカートが突っついてくる。
「下らんことに気を殺がれるな、まったく…」
「ちぇ、わっかりました」
諦めて俺は斗貴子さんが買ってきてくれた物を取り出した。
おにぎり、サンドイッチ、パン、エトセトラエトセトラ……。
(……なんか、適当だな)
まあ、今は食えれば問題ないのでがつがつとありがたく頂いた。
「ふいー、食った食ったぁ」
食い終えて満足したので、早速訓練を再開した。
あの時は咄嗟にできた無音無動作での武装錬金の発動、これは結構うまくできるようになってきた。
「どう斗貴子さん。なかなかうまく……」
無音無動作での発動がうまくできた俺は斗貴子さんに話し掛け、そして彼女が本を読んでいることに気付いた。
「へえ、斗貴子さんって本読むんだ」
思わずそう漏らした。普段の彼女のイメージと読書が、いまいちうまく繋がらなかった。
「なっ…わ、私だって読書ぐらい嗜む!」
顔を少し赤くしてそう言ってくる斗貴子さんが妙に可愛らしく見えてしまった。胸が少し高鳴った。
「で、で、なに読んでんの?」
また好奇心が俺を動かした。
「だから、君には関係ないと」
「いいじゃん、減るもんじゃあるまいし」
俺はしつこく食い下がった。もしかしたら、斗貴子さんと親しくなる、そのきっかけができるかもと思ったからだ。
「あぁ、もう!わかった、わかったから!」
そう言うと彼女は俺の目の前に本をタイトルが見えるように突き出した。
「えぇーっと、なになにぃ……男と、女、の…突き、合い……か、た………」
俺は、しばらくの間、思考が停止した。明らかに、あっち系のタイトルではないですか、ときこさん。
「ああ。これから私たちは支えあいながら奴らを打ち倒さねばならない」
ええ、おっしゃるとおりでございます。
「だが、私は、その…見てのとおり不器用だ」
ええ、じゅうじゅうしょうちでございます。
「だから、だな……その、私なりに君とうまくやっていけるよう努力を………どうした、カズキ?」
ええ、うまくやっていければいいと………
「っっっってえぇ、どうしてこんな本を買っていらっしゃったのですかああぁぁっっ!!?」
後ろに引っくり返りそうな勢いで俺はずざざざっとあとずさった。後ろの木にどすんと背が当たった。
「…なにを焦っている。口調も変だぞ」
いやいやいや!おかしいのは斗貴子さんのほうだぞ!
「だ、だだだだだだだだからあぁぁ!どどどうしてそんな本を!?」
「だからカズキ、君とうまく付き合っていけるようにと思って、恥を忍んで買ってきたのだ」
びしっと指を突きつけてそう告げられた。
「本当に恥ずかしかったぞ。客からも店員からも好奇の目で見られて……」
その時の事を思い出してか、斗貴子さんは顔を赤くして目線を宙に泳がせた。
そりゃこんな本をお買いになれば見られますって。
「だ、だ、だからね!斗貴子さんはちょっと勘違いしてるんだよ!」
そう、君は間違ってます!付き合い方でしょ、君が知りたいのはそっちでしょ!
断じて突き合い方などといったものじゃないでしょ!!
「勘違い……?何をだ?」
斗貴子さんは本当に何も分かっていないようだ。首を傾げて俺に聞いてくる。
俺だって説明には少し困るが、ここは正しく訂正してあげないといかんだろ。
「っだ、だからね、そのほ」
「ここを見てみろ。ほら、書いてあるだろ。『こうやって付き合えば二人の中はさらに進展』と」
「っぶうぅうぅはあぁぁっっっ!!!」
俺が訂正しようと開いた口を遮るように斗貴子さんが俺の目の前に本を開いて見せてきた。
そのページには『こうやって突き合えば二人の中はさらに進展』と書かれ、裸の男女が、あれ、とにかくあれとしか言いようがないあれをしている写真がでかでかと載せてあった。
そんなものを見せられて平常でいられるほど俺は人間できちゃいませんよ!
正直に身体が反応してしまいました。はいそりゃもうびんびんです。
「うん?」
斗貴子さんが俺の股間がむくむくと膨張しているのを見てしまった。恥ずい…、こんなところ見られたくない!
だが俺は逃げられない。木を背にし、正面には斗貴子さんが本をかざしている。
横に逃げようかと考えた時、斗貴子さんが本を見てほうほうと頷きだした。本と俺の股間を交互に見ながら彼女は呟いた。
「ふむふむ…、つまりこれは付き合う準備が万端ということか……」
突き合う準備がね!突き合う準備がねっ!!
「そうか…。なんだかんだと言って、カズキも私とうまく付き合いたいと思ってくれていたのか」
いや、そりゃまあうまく付き合えれば俺としても嬉しいかなあなんて思っていたけど、これは付き合うじゃなくて突き合う!
誤解、すっごいごかいですよ、斗貴子さん!!
「それでは付き合ってもらうぞ」
斗貴子さんのしなやかな指が俺の情けない股間の上を弄りだした。
「あうあうあぁ〜〜」
「何を情けない声を出している」
しょうがないでしょ!女の子に免疫なんてない俺が、斗貴子さんにこんなことされちゃ情けない声だって出ちゃうだろ!
「次は、こうだったか…?」
彼女の指が器用にズボンのチャックを下ろしていく。
「っはふん」
「き、気色悪い声を出すなっ!」
だからこれはしょうがないわけであって、全くの初心者の俺にとっては与えられる刺激全てが胸を激しく高鳴らせるのです。
全く抵抗できないまま、とうとう俺のモノはぺろんと曝け出されてしまった。
「あ、案外大きいものだな」
「あうぅ〜」
俺みたいな男が女の子に裸に剥かれてしまうなんて正直思ってなかった。はっきり言って夢見たいな状況だろう。
でも、俺は素直にそれを受け入れられない。だってこんなことは好きな奴同士でやることじゃないか。
斗貴子さんの小さな肩を俺の両手でがしっと掴んだ。
「ダメだよ、…こんなの、間違ってる……!」
自分の中で渦巻いていた欲求を押さえつけてそう言った。
「ん……間違っている、のか?」
「そうだよ。俺だって、斗貴子さんともっと仲良くなりたい。でも、今やってるのは、その過程全部すっ飛ばしてるんだ」
「ふむ……」
斗貴子さんはぽりぽりと頬を掻いた。
「だからさ、俺はちゃんと順序踏んで君と仲良く…」
「私はすっ飛ばしても構わないんだがな」
え?
そう思った瞬間には、既に彼女の柔らかな唇が俺の唇と触れ合っていた。
「私たちには時間が無い。煩わしい過程など無いほうが好都合……どうした?」
「………あわ、わわあぁ…」
ぽすん、と音を立て、俺の意識は吹っ飛んだ。
「……んん…、く…ぅ……はぁぁ…」
――ん?
「な、かなかに……きつい、ものだな…」
何だろう…。ずっと遠いところで、声がしてる感じがする。
「まったく…動かんとは…、これが、んんぁ……マグロというものか……」
そういや俺ってどうなったんだっけ?
そう思ったとき、視界が少しずつ戻ってきた。
飛び込んできたのは斗貴子さんの顔だった。
「ん…目が、覚めたか……」
頭がボーっとしている。それでも、少しずつ意識が覚醒していくのは分かった。
斗貴子さんの声と顔が、ちょっと苦しそうだということに気付いた。
「キミも、早く動いて…ん、くれないか?一人で、腰を動かすのは…あぁ……疲れる」
腰、動かす………って、斗貴子さんは何言ってるんだ?
「っ痛ぅ!?」
いきなり俺の腰に痛みが走った。いや、身体の感覚がようやく戻ってきたために、今になってその痛みが駆けてきたんだ。
一体どうなっているのかを分かるために俺は腰のほうに目をやった。
そこには俺の元気なモノが天に向かって突っ立っていたわけだが、それだけじゃなかった。
斗貴子さんの腰が、俺のそれを呑み込んで上下に動いていた。
お互いに性器だけを露出し、そしてそこが結合していた。
「キミが気絶など、ん……するから、私一人、で付き合わなければ、ならなかったんだぞ」
斗貴子さんはそれからさらに何か言っていた気もするが、俺の耳には届いてなかった。
目に入ってくるその光景に、今まで感じたことの無い感情が湧き上がってきた。
今この瞬間、俺の中で、決定的な何かが崩壊していく。そんな気がした。
「――――斗貴子さん!」
「あ、何を……!?」
俺は繋がったまま、彼女を押し倒した。
「お、俺も本気で突き合っていいかな?」
俺の中の欲望は、ダメだと言われても止まりそうになかった。
「そうか。キミもようやくその気になったか。いいぞ」
斗貴子さんは余裕を含んでそう言ってきた。遠慮なく、腰を動かそうとした。
「っあ、ちょっと待って…!」
動く直前で彼女は俺を制止した。
「あまり…痛くしないでくれ……」
顔を朱に染めて逸らした。
そう、いくら余裕そうに振舞っていても、彼女も腰を動かしてしっかりと感じていたんだ。
感じていないように振舞った彼女の仮面が剥がれていくのが、とても愛らしく思えた。
「大丈夫。優しくするから」
彼女にそう囁いてからゆっくりと腰を動かし始めた。
「っくぅう……!」
今までずっと妄想の世界だけでしか味わえなかった感覚が、こんな奇妙な形で現実のものになっている。
腰を動かすたびに射精感がすぐこみ上げてくる。だが、こんなにすぐイッてしまっては全然満足できない。
必死に堪えながら腰を動かし続けた。
「んんぁ、は、……く、あ…はあぁ……」
斗貴子さんの呼吸は大分荒い。一人で腰を振っていたときに気分が高まっていたんだろう。
「斗貴子さん…、俺もう、我慢できないかも……」
自分から限界が近いことを言ってしまった。もう堪えられるほど余裕が無かった。
「我慢…?なにも、我慢する必要なんか、ないぞ…」
「斗貴子さんは?まだ、イけそうに、ない…?」
「私は…よく、わからない、が……キミが動くたびに……変になりそうだ…」
そうか。彼女のほうもそろそろ限界が近いのかもしれない。
そう思うと、俺は何が何でも彼女をイかせないといけない、そんな気がしてきた。
腰を動かすスピードをさっきよりも上げて突き出した。
「んんっ!だ、ダメ…そんなに動くな……」
斗貴子さんはそう言うが俺は構わず腰を振り続けた。
堪えろ、堪えろ!ここでイッたら漢じゃないぞ!
「っはあぁ、くっうぅあ…あぁ……」
彼女の身体がぴくぴくと少しずつ震えだした。切なそうな顔に、俺はさらに興奮した。
「んくっ…、だ、めぇ……」
彼女の細い腕が俺の身体に回され、きつく抱きしめられた。
同時に、俺のモノを潰すように彼女の中がきゅっと締め付けてきた。
「っつあ……」
あっけなく俺のモノは彼女の中で果ててしまった。
目的を果たしたためか、俺の身体に疲労が押し寄せ、そのまま彼女の胸に顔を埋めるように再び意識が飛んでいった。
「まったく。痛くするなと言っておいたのに、あんなに激しく動くとはどういうつもりだ!」
「………ごめんなさい」
「謝ってすむか!キミのせいでまだここがひりひりする」
目を覚ますと、俺は斗貴子さんにたっぷりと説教を喰らってしまった。
「だって、初めてだったから加減がわかんなくてさ」
「私だって初めてだ」
「え、そうだったの」
「意外か?」
「あ、うん、ちょっと。だってそっちから攻めてきたから、てっきり場慣れしてるかと」
「バカッ!初めてだから本を片手に勉強してから臨んだのではないか!」
「………おお、そうか」
すっかり忘れていた。
「っはあ……全く、君の頭は猿並みか…」
むかっ。
「そんな言い方しなくてもいいだろぉ!俺だって斗貴子さんイかせるために頑張ったんだからさ!」
「っな……!」
彼女の顔が一瞬で赤くなった。ふっふっふ、どうだ参ったか。俺だって言う時は言う…、
「こんのおぉ……」
………へ?
「バカたれがあぁぁぁぁっっっ!!!」
俺の身体が宙に舞った。あ、これ死ぬかも。
そういえば、初めのほうは恥ずかしげも無く攻めてきたのに、終った後であんなに恥ずかしがってに怒るなんて…。
彼女の中で何か変わったのかもしれないなと、俺は思った。彼女には小さな変化でも、俺にとっては大きな変化なのかもしれない。
さて、とりあえず地面に激突する残り0,7秒ほどでどうしようか――――。