“ずず〜〜〜”  
「……今日もお茶が美味い」  
 点いてはいても見てはいないテレビ画面に向かって、ブラボーはぽつりと呟いた。  
 歳を取ると独り言が多くなると言うが、彼はまだそんな歳ではない。ちゃんと同じ部屋には応えてくれる相手はいる。  
「……んッ」  
 ただ、その声はか細く、なにかを堪えている、鼻に掛かったものだった。  
 まひろは、昨日よりも声のトーンは抑えてはいるが、その声はたった一日でずいぶんと艶っぽさを増している。  
 【男子三日会わざるば……】と言うが、オンナは一日で変わるらしい。  
「ぅあッ……は………んぅッ!!」  
 どこか、オトコに聞かせるための媚を含んだ声。ブラボーは昨日に倍する自制心を必要としていた。  
 昨日の今日でいきなり来るとは『また来てもいい』たしかに言ったが、なんとも、兄に似て非常にせっかちな娘である。  
 そして、昨日と同じようにお茶を淹れると、ブラボーが背中を向けたのを合図に、勝手に一人遊びを始めた。  
 いや、勝手にというのは違うかもしれない。  
 切ない潤んだ瞳でまひろが部屋に入ってきたときから、こうなるだろう事は、漠然とだがブラボーは予感していた。  
 『やめろ……』とも言えない。そのセリフを言うべき時機は、もう逸している。  
 今更言うのであれば、あのとき少しでも受け入れるべきではなかった。だからこうして、させたいようにさせてやるしかない。  
「んんっ…あッ……はぁあッ……ふぅ」  
 どうせすぐに、若い身体を見もしないオッサンなど厭きるだろう。……そうあってほしい。だが……  
 
「!?」  
 ふらりっと、まひろが立ち上がる気配がする。  
 ブラボーにはまだ、まひろがイッてないのはわかっていた。ふらふらっとした足取りで近寄ってくる。  
 年甲斐もなく心臓が跳ねた。たとえ戦闘中でも、よほどの強敵を前にしなければブラボーが取り乱す事はない。まひろは……強敵だ。  
 それでも、負けるわけにはいかない。大人の余裕を、子供になぞ興味が無いところを、見せねばならない。  
「……手強いな」  
 ブラボーはぼそりっと呟いた。  
 
 ストンッと、ブラボーの真後ろに荒い息遣いのまま座り込むと、まひろは握った手をおそるおそるといった感じで肩口から伸ばして  
ゆっくりと開いた。  
“ファサ……”  
 白いショーツがフワリッと、ブラボーの股間へと舞い降りる。  
 自分のしている、大胆を通り越した破廉恥な行為に、まひろの頬が、身体が、カーーッと火照った。  
「わ、わたしね…… いま、な、なにも履いてないんだよ……」  
「……そうか」  
「………うん」  
 たったそれだけ、勇気を振り絞った恥ずかしい行為にブラボーの返事はたったそれだけ……  
 やっぱりなにをしても、オンナとは見てはくれないんだろうか? シュンッとまひろの肩が落ちる。  
 しかし、まひろがいまブラボーの前に回り込んでいれば、ズボンの布地を突き破りそうなほど膨らんでいる勃起にショーツが  
持ち上げられているのに気づいたはずだ。  
 ――でも泣かない……絶対に振り向かせる……  
 挫けそうになる自分を叱咤すると、まひろは目元に恥じらいの色を濃く浮かべたまま、制服のネクタイに手を掛ける。  
 シュルリッと軽やかな音を立てて抜き取ると、そのまま迷わずボタンを外していく。  
 流れるような動きは、決意が鈍らないようにと、まるで自分自身を急かしているようだ。  
 制服の上半身をはだけると、ブラボーに熱いまなざしを送りながらブラのホックを外す。カチッという音がやたらに大きく聞こえた。  
 
隙間から覗くふんわりと盛り上がった乳房は、極度の緊張の為か、肌を紅く染め上げている。  
 青白い血管が透けて見えそうなほどに白い乳房、乳輪は小さくて綺麗な薄桃色、乳首は色素の沈着などまるで見られない。  
 フルフルッと震える様は、堪らずオトコの嗜虐心を煽る。  
 ちなみに、ブラボーの手にしている湯呑みもまひろにバレナイよう細かく振動していて、もういつ割れてもおかしくない。  
「こっちを……見て………お願い………」  
 まひろがブラボーの背中にもたれかかると、若く張りのある乳房も圧力に耐え切れずに淫らに歪んだ。  
 二人の身体を隔てているものは、ブラボーの着ているツナギとシャツだけ、錬金の戦士の鋭敏な感覚を持ってすれば、  
なにも着てないのも同然である。  
「……ッ!?」  
 グラつき出した平常心を、ブラボーはお茶を飲んで取り戻そうとするが、湯呑みはとっくに空だった。  
「ん……んンッ………ふぅッ…くぅ……はぁうッ……」  
 それに追い討ちを掛けるように、まひろはブラボーの背中に乳房を密着させながら身体を上下に揺する。  
 清楚な乳房の頂点にある蕾は、もう固くしこっていた。  
「はぁッ……んふッ………ン……」  
 オトコに対して奉仕するという発想が出てこないまひろには精一杯のセックスアピールである。  
 だが、蒼い性は貪欲に己の快感も求めた。  
 ブラボーのツナギを掴んでいた右手がするするっと降りて、スカートの奥に消える。  
 さっきの余韻が残っているのか、それとも想い人との密着が新たな興奮を生んだのか、弄っているそこからはすぐに粘つく音がした。  
「うぁッ……んッ…んぅッ……」  
 まだ、一度も他者の侵入を許した事のない処女の秘裂は、本能的に感じる恐怖で浅くかき回すだけだが、好奇心に後押しされながら  
漠然と感じる更なる高みへと快楽の階段を一段飛ばしで登っていく。  
 身体の深い最奥から湧き上がる衝動に操られ、まひろは親指と人差し指で真珠を挟みひねり上げる。  
「あッ、あッ、あぁッ!!」  
 快楽に対してとても達人にはほど遠いまひろは、不意に襲った山吹色の光りに包まれて、ガクリッとその身をブラボーの背中に預けた。  
 
 
「また……明日来てもいいかな?」  
「……ああ」  
 今日もブラボーは振り向いてくれなかった。それでも拒絶されてないとわかるだけで、まひろの心は満たされる。  
 もっとも、人間の欲求には果ては無い。それが善でも悪でも……  
“パタンッ”  
 ドアが閉まる。例によってまひろの気配が完全に消えるのを待って、ブラボーは呟きを漏らした。  
「心を偽るのが偽善なら……」  
 股間を見る。まひろも二回目とはいえ、この特殊な状況に慣れてないんだろう。  
 ブラボーのいまの心境を雄弁に物語る勃起には、白いショーツが被さったままだ。指でクルクルッと回しながら自問してみる。  
「俺は偽善者ってことか……」  
 『善でも悪でも、貫き通せたものに偽りなどないッ!!』 カズキにはそう言った事があるが……  
「これは貫いちゃあ……マズいよなぁ……」  
 その疑問に、ブラボーな答えをくれる者はいなかった。  
 
 
 
                           一応終わり  
 

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