梅雨らしくない梅雨が続くある日。
私とまひろはとあるフリーマーケット会場に来ていた。
銀成市での活動がこれほど長期に及ぶと予想しなかった私は、
夏物の手持ちがあまりなかった。
身を飾る機会がない戦士としては、華美な服装は不要だが、
それなりの数がないと任務に支障をきたす。
そこでそれをまひろに相談したところ、ここに案内してくれたのだ。
「まだ開店前のようだが…とりあえず、並んでおくか?」
「うん、フリマは開店前に来るのがコツなの」
「キミは詳しいのか?」
「何を隠そう、私は(ry」
女カズキとそんな会話をしていると開店時間が到来。
ダッシュで会場内に突撃するまひろに苦笑しながら私も中に入った。
こういうところに来るのは初めてだが、けっこう店が出ているし、思いのほか安い。
予定したより多めに買ってしまった。
一点、かなり迷った服があったが、試着はしたけど、結局、買わなかった。
そして、他のフリーマーケットもいくつか回った後、駅前のロッテリやで昼食。
ハンバーガーを食べて人心地ついた後、まひろがポテトをつまみながら言った。
「斗貴子さんって、今日もそうだけど、
下はほとんどショートパンツかミニスカートだよね?
今日買ってたのも、そーゆーのばかりみたいだし。お兄ちゃんの趣味?」
「何度も言っているが、私とカズキはそういう間柄ではない!」
「うん、うん、斗貴子さん、脚、キレイだもんね。お兄ちゃんも見とれちゃうよね!」
「…すばやく発動するため、だ」
「すばやく…はつどう?」
長めのパンツやスカートを着ている時に敵の奇襲を受けたら、
武装錬金で服を破る分、最初の行動が一瞬遅れてしまう。
だから、戦士として、私の服装は決まっているのだ。
しかし、反射的に答えてしまったが、まひろに聞かせる話じゃなかった。
「…すまない、今のは忘れてくれ」
「…あ、うん…ええと、他の格好も嫌いじゃない?」
「嫌いではない」
「じゃあ、はい、これ。プレゼント!」
そう言って、まひろが自分の買い物袋から出したのは、
私が最初のフリーマーケットで買うかどうか迷った7分丈のハーフパンツ。
特別な物ではないけれど、たまにはこんな格好もいいな、と手に取った服。
「…何故、これを?」
「斗貴子さん、すごく欲しそうな顔してたよ?
膝まで隠れちゃうけど、脚の線はちゃんと出るから、斗貴子さんに似合いそうだし。
いろいろ事情があるんだろうけど、
お兄ちゃんから見たら、こーゆーのは新鮮だと思う」
「だから、カズキとは!…それに、キミからもらう理由がない」
「学校が襲われたとき、敵を倒s」「だああああああああ!」
誰が聞いているかわからないこの場所で、この話題はまずい。
「じゃあ、いつも、お兄ちゃんがお世話になってるから」
悪魔のような笑顔で、そんなことを言うまひろ。
「…わかった。ありがとう、いただくとしよう」
私に残されたのは全面降服だけだった。
そして、寄宿舎の自分の部屋に戻った後、今日の買い物を整理してみた。
最後に残ったのは、まひろからもらったハーフパンツ。
──戦士失格だな…まあ、待機中だけでも使うとしよう。
そう一人ごちて、他の夏物といっしょにした。