握っている掌の汗のせいなのか。  
布下のペニスの輪郭がしごく度に露骨なものになる。  
どんどん硬くなり、熱さを帯びる奇妙な触り心地。  
それを促しているのは間違い無く自分の手だという事実が、  
我が事ながら斗貴子にはピンとこない。  
こっそりカズキの横顔を盗み見る。  
痛みではない何かを我慢してる、不思議な表情。  
「カズキ、…痛い、のではないのか?」  
「…ううん。違う。何かヘンな感じ。斗貴子さんにして貰ってるのが」  
「…そうなのか。よく、わからないが…」  
「ごめん。オレばっかり、してもらって」  
「謝られても、その、困るぞ…」  
 
少しだけ行為に慣れた為か、斗貴子に彼の反応を伺う余裕ができた。  
強めに握り、速度を上げると、快感は増すらしい。  
先端は敏感な所らしく、親指で円を描く感じで撫ぜると堪らない様だ。  
すこし斗貴子は考える。  
カズキに許可を貰ってからが良いか?…口に出すには恥ずかしい。  
この様子だとむしろ喜んでくれる気もする。不言実行、だ。ええい。  
「わわッ斗…」  
トランクスのなかへ手を差し入れて、直接カズキの物に触れる。  
「あ…指が…」  
当然だが、布ごしの時とは全然違う生々しい感触。  
熱気のこもる、せまい空間。掌が、指が、手首もソレに直に触れる。  
ぬるっとした何かがついた。…今は気にしないコトにしよう…。  
カズキの視線を強く意識する。羞恥でまた頬のあたりが熱くなった。  
「カズキ。キミが気持ち良いのなら…。このまま、続けるぞ?」  
 
そういった斗貴子の頬へ、おでこへ、カズキは優しくキスをしてゆく。  
年上の、凛々しくて、でも小さな肩の小柄な先輩戦士。  
好きだ。斗貴子さん。その想いを肩にやった自分の手にこめてみた。  
視線が絡む。かすかな罪悪感。オレ、こんなコトさせていいのかな‥。  
 
肩にあるカズキの手に力が入る。  
視線が合う。そういうコトだと斗貴子は解釈する。  
彼のトランクスの中に隠れた自分の右手。ゆっくりと探ってみる。  
下腹の感触。ざわざわとした、これは陰毛‥か。熱い肉の柱を過ぎて。  
探れる範囲の一番下で、奇妙な感触。ふにゃっとした、なんというか。  
その皮膚の下、弾力のあるカタマリ。つまんでみる‥。  
「痛ッ。斗貴子さん、タ、タンマ!」  
「えっ?あ、スマン。これは痛いものなんだな‥」  
慌てて、さする。私は何をしてるんだろう。苦笑する斗貴子だった。  
錬金の戦士を目指す者が養成所で習う格闘教練で、  
斗貴子は人体の急所においての攻撃・防御の術を叩き込まれている。  
攻撃対象が男性の場合、急所にはもちろん男性器も含まれており、  
敵の単独・複数を問わず痛打をそこに加える事は戦意をそぐ上で定石。  
教官も、同期の戦士たちもこの教練に臨む斗貴子を恐れた。  
誰であろうと彼女は躊躇も容赦もしないからだ。  
 
そんな彼女が戸惑いながらも恋人の為に急所へ愛撫を試みているのは、  
ある意味微笑ましくて、滑稽な冗談にも思える。  
力の加減が激痛と快感を分けるとは、繊細な場所だと彼女は感心する。  
「カズキ、もう痛まないか?」  
「ウン。…こういうのなら、ちょっと良いかも」  
幼いころ遊んだお手玉の袋の様に、注意して優しく揉みしだいてみる。  
そして指を肉茎に添えて上下に撫でた後、そのまましっかりと握った。  
掌に伝わる体温と、脈動。また、ピクリと動いた気がした。  
「なんか、たまらない。他人の手でこうされるの初めてだから…」  
「わ、私だってこんなコト経験ないぞ。キミがあんなに頼むから!」  
「正しい言葉の使い方じゃないかも知れないけど、ありがとう」  
「礼を言われるのも、困る!集中するからしばらく黙るぞっ」  
折角慣れたハズなのに、彼の天然さが再び彼女の羞恥に火をつけた。  
 
しゅっしゅっと、握った手を上下に動かす。  
そのたびにカズキの口から切ない吐息が漏れる。  
カズキ…。  
つられる様に、斗貴子の身体の奥が、疼く。その事にすこし戸惑う。  
絶えず手を動かしている為、部屋の温度を熱く感じる。  
動く毎に綺麗に切り揃えた髪が揺れ浮かんだ汗で前髪が少し張り付く。  
「…ちょっと熱いな」  
「あ、そうだね。ゴメンちょっとまってて」  
空調を調節して貰えるかなと思った斗貴子は、次の行動に面喰らった。  
「な、なぜキミは下を全部脱いでるんだ?早くはきなおせっ!」  
「てっきりトランクスの中の事だと…だから脱いじゃった方がって」  
「ボケ倒すのも、いい加減に…ッ」  
 
いまやハッキリと姿を現したカズキ自身。  
そして自分の右手はそれをしっかりと握っているという事実。  
「斗貴子さん、あまり見つめられると、その、困る」  
「見つめてなんかいない!」  
しかし、言葉とは裏腹に彼女の眼は釘付けになってしまっている。  
…男性の、そして、カズキのペニス。初めて目にするものだ。  
赤ちゃんとかのなら見たコトはあるし、知識としてなら頭にはあるが。  
こんなに大きくなるものなのか?それに。何と言うか、こわい、な…。  
なんだか違う生き物みたいで、思わず握っていた手を離す斗貴子。  
「斗貴子さん?」  
「んっ、な、なに…?」  
思わずかしこまって返事してしまう。  
「もう、やめてもいいよ?オレ、何か悪い気がして…」  
「…何故だ?」  
「もし無理してるなら、オレに遠慮しないで…」  
真意を探る為カズキの顔を見据える。斗貴子のコトを気遣う優しい瞳。  
彼女のよく知ってる、カズキだ。まったく。強引なのか謙虚なのか。  
下半身に何もはいてないのは、すこし減点の対象だなと苦笑する。  
 
「無理はしてない。私は拒絶する時はハッキリとする。知ってるな?」  
「ウン。でも」  
「私はキミが好きだ。…その、キミのカノジョってヤツだ。だな?」  
「ウン。オレも斗貴子さんが好きだ。オレの大切なカノジョだよ」  
「ああ。そうでなくては困る。…話がそれた。キミは私のカレシだ」  
「へへっ。ウン。オレ、斗貴子さんのためなら何だってするよ」  
「私も同じだ。…出来るコトであれば何だって出来る…キミになら」  
「……斗貴子さん」  
「だから無理してるとか、遠慮してるとか思うな。…寂しくなるから」  
「ゴメン。そんなこと、もう思わない」  
 
優しい抱擁。互いの背中にまわした手に伝わる相手の温もりと気持ち。  
出会ってから、もう何度もこうしてるハズだけど、薄れない安心感。  
幾多の戦いや危機の中、積み重ねた絆を強く感じられて、嬉しい。  
「私はこうしてるだけでも良いけど、キミは満足できないのだろう?」  
「えっ。そんなコトないよ?オレもこうしてるの好きだし」  
なんだか可愛い。斗貴子はちょっと意地悪したくなった。  
「じゃ、さっきの様なことはもういいな?終わりだ」  
「………うう」  
「ホントわかりやすいなキミは。もう一度言うが今回だけだ、ぞ?」  
「ウン。わかった」  
ポン、とカズキの背中を軽く叩いて抱擁を解く斗貴子。  
優しく抱いて貰った為か、気分がいい。柄に無く舞い上がってるかも。  
キミを知りたい。カズキが喜ぶなら、続けてあげたい。  
「じゃあ、…。痛かったりしたらすぐ言うんだぞ」  
 

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