初夏の朝、妙に早くに目が覚めてしまった私たちは散歩をしていた。  
薄暗い丘の上を鳥のさえづりを聞きながら歩く。  
 
「このへんだっけ?斗貴子さんがオレの武装錬金に名前をつけてくれたのは」  
そういいながら、腰を降ろすカズキ。  
「そうだったな」  
 
カズキを巻き込んで1週間が過ぎたあの日。  
蝶野攻爵──パピヨンを倒したカズキを蝶野家の蔵で見つけた戦士長は、  
当局の捜査の手が伸びかねない場所にカズキをそのままおいておくわけにもいかず、  
かといって、キズが深くてあまり動かせないカズキを寄宿舎まで運ぶこともできず、  
結局、蔵の近所で人目が少ないこの丘にカズキを運んだ後、  
私に解毒剤を届けてくれたのだ。  
 
私がカズキに並んで隣に座ろうとしたら、突然、手を引っぱられた。  
「!?」  
わけがわからないまま体をカズキの正面に運ばれ、向い合わせで膝の上に腰を降ろす。  
びっくりして、バランスを崩しそうになり、カズキの肩につかまった。  
カズキも手を腰の後に回して支えてくれた。  
 
「…どうした?」  
「地面、濡れてるから」  
「朝露くらいなら気にしないが…そういえば、昨晩、小雨が降っていたな─  
 しかし、これではキミの服が濡れるだろう?」  
「オレのはもう濡れたからいいよ。でも斗貴子さんのはまだ濡れてないし」  
「まったく、キミは…」  
 
そして、カズキが地平線から顔を出した朝陽を見ながら言った。  
「オレの飾り布のエネルギーってあんな色なんだね」  
「ああ、そうだ」  
私はカズキの膝の上に座ったまま、ゆっくり昇ってくる朝陽をしばらく眺めた。  
「…キレイ」  
「そうだな」  
本当に綺麗な朝陽だ。  
「うん、ホントにキレイだよ、斗貴子さん」  
話がかみ合っていない気がして向き直ると、カズキの視線がまっすぐ私を向いていた。  
「真顔でそういうことを言うな!」  
「でも…こういうのをふざけて言うのはなんていうか失礼?」  
「失礼で…その…ありがとう」  
そう言って、真剣な面持ちをしているカズキを見た。  
朝陽で陰影がはっきりしたせいか、カズキはいつも以上に格好よく頼もしく見える。  
しかし、客観的に見ればカズキが図抜けてかっこいいタイプとは思えない。  
それを格好よく感じるのは、自分の中の特別な感情がなせる技だろうか?  
私を『キレイ』と言ってくれるカズキの中にもそういう感情があるのだろうか?  
 
そんなことを考えながら、無言で見つめ合っていると、  
突然、カズキに抱き寄せられた。  
「!?」  
「ごめん、なんかこうしたくて…イヤだったら言って」  
「…イヤではない─」  
カズキの胸に頭をうずめて、そう答える。  
むしろ、ずっとこうしていたい─そう言えない私は臆病だと思う。  
気が付くと、周囲の音が全て消え、互いの心臓の音だけになっていた。  
カズキの手が私の顎にかかり、引き寄せされるように唇が近づいていった。  
 
ピー、ピー、ピー。ピー、ピー、ピー。カズキの左手が静寂を破った。  
「腕時計のアラームだ…オレ、いつもはこれで起きてるから」  
ジリリリリリリ。ジリリリリリリ。  
今度は私の携帯が目覚ましのベルを模した電子音を奏でた。  
「私もだ」  
苦笑いを見せるカズキ。努力して普通の笑顔を作って返す。  
「そろそろ戻ろうか?」  
「ああ、そうだな」  
ちょっと残念に思いながら、腰を上げる。  
カズキも同じ想いだといいのだが─そう思いながら寄宿舎への帰路についた。  
 

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