「ごめん、待った?」
「ううん、今来たところ」
「その浴衣、似合ってるよ…」
「本当?うれしい…」
エトセトラエトセトラ…。寄宿舎前には待ち合わせていたらしいカップルが数組いた。
(あーあ、いいよな他のやつらは……)
オレだってできれば斗貴子さんと普通にデートなんかしてみたかったりするけど、そんな願いは叶わないわけで。
(ん、でも今日のこれはデート……なのか?)
デート、デート。何と甘美な響きだろう。でもそう思ってもいいのか?
それにオレがそう思っていても、斗貴子さんのほうは全然そんなつもりじゃないかもしれない。
(……分からない)
分からないことを考えていてもしょうがない。気を取り直して寄宿舎前にいるはずの斗貴子さんを探した。
「斗貴子さーん!」
オレが呼び掛けると彼女はすぐに振り返った。
「少し遅かったが、何かあったのか?」
「うん、途中でまひろに捕まっちゃってさ」
「まひろ……ああ、キミの妹か」
「それより待たせちゃったかな?ゴメン」
「いや、気にしてはいない。それじゃ行こうか」
「おうっ!」
(って、やっぱりこれってデート……と思ってもいいのかな)
斗貴子さんだっていやいや付き合ってくれているわけじゃないし、これはもうデートでファイナルアンサーでいいのか?
「ねえ、斗貴子さん」
オレは思い切って聞いてみることにした。
「ん?どうかした?」
「これってさ、で、デート…、と思っていいのかな…?」
「……」
「………」
「…………」
「…………ごめんなさい」
沈黙に耐えかねて出た言葉がそれだった。聞くんじゃなかった、と後悔の念がこみ上げてくる。
「……そうか、これはデート、デートか。うん、うんそうだなこれはデートだ」
「…………………………え?」
「だからデートだ。カズキ、今日は楽しませてくれ」
祭りがある場所は銀成学園からも近いので知った顔のやつも結構見かけた。
「えっ、お前彼女できたの!?」
遭ってまず言われたのが全員それだったことがちょっと傷付いた。
そんで今、オレと斗貴子さんはというと、
「ふぁふふぃ、ふひああふぇふぁいい(カズキ、次はあれがいい)」
「……へーい」
口いっぱいに夜店で買った食い物を詰め込んだ斗貴子さんがさらにオレに食い物をせがんだ。
最初のほうはオレも喜んで買っていたが、流石に千円を超えだしたあたりから焦りだした。
「ねえ……もういいだろ?」
そう言って金がもうやばいことを伝えようとしたら、
「何を言っている。今日はデート。つまりキミは彼女である私の望むことをしてくれるのではないのか?」
こう切り替えされた。
(だから今日はデートだって言ってくれたのね)
気がつけば既に財布の中身はすっからかん。もうこれ以上は逆さに振っても何も出ません。
「そうか。私もちょうど満足したところだ」
斗貴子さんの両手にはとうもろこしといか焼きがしっかりと装備されていた。
正直なところもう少し早く満足してもらいたかった。今月はまひろに土下座して金を貸してもらうしかない。
「っんぐ!?」
急に斗貴子さんが胸を押さえて苦しみだした。
「と、斗貴子さん!?」
慌ててオレは彼女の背中を擦った。どうやら食い物を詰め込みすぎたせいで喉が詰まったみたいだ。
「っふう……ありがとうカズキ」
「慌てて食いすぎだよ。もっと落ち着いていいから」
彼女はこくんと頷いた。
「にしても今日はやけに食い物食ってたね。なんか理由でもあるの?」
ふと疑問に思ったことを口にした。斗貴子さんがこんなに食いしん坊だったとは記憶に無いからだ。
「ん、まあ…私にも諸々の事情というか何と言うか……」
キラーン、見えた!ここが今日の斗貴子さんのウィークポイントか!
あんなに金を使わされたんだ。ちょっとくらい斗貴子さんをいぢめてもばちは当たらないだろ。
「どんな事情があるの?教えてよ」
「そそ、それはキミには関係なくてだな…いやまるっきり無いわけでもないがいやしかし……」
困ってる困ってる。こういう斗貴子さんを見るのが少し楽しみになってきている。
「オレにも関係あるのか。だったら教えてもいいじゃん」
「……知りたいか?」
「うん」
「…………大きく……したくてな」
ぼそっと呟くようにしか聞こえなかったが確かにそう言った。
「大きくなりたかった?そんだけ?」
もうちょっといぢめたかったけど思ったよりもあっさりと本当のことを言ったので少しだけがっかりした。
それも大食いの理由が大きくなりたかっただけとは。
「そんだけ?って、キミは大きくなくてもいいのか?」
斗貴子さんがオレに意見を求めてきた。どうやらオレは大きいほうが好きだと思われているらしい。
確かに斗貴子さんの身長は低い。女の子の中でも小柄なほうだ。
「…でも、斗貴子さんだったら大きいほうより小さいくらいのほうが合ってると思うけどなぁ」
「それは、私は小振りなほうが可愛いと、そういうこと?」
いきなり可愛いとか言ったので少しどぎまぎしてしまった。
「う、うん……」
ぎこちなく頷いた。
「そうか…キミは小さいほうがいいのか。うんうん……」
しきりに頷いている。自分の中で納得して完結してしまっているようだ。
「あっれぇぇぇ〜〜??」
カズキの部屋、そこで岡倉は一人でがさごそといろいろなところを散らかしていた。
「カズキのやつ、オレがこの前貸してやった『エッチで巨乳なお姉さん』どこにやりやがった?」
祭りの夜、一人でエロ本を探し出すという男の中の男のような行為を岡倉は続けていた。無意味に。
その本は数日前、既に斗貴子の手によって盗み出されていた。