深夜。
昼間の激しかった戦いが嘘みたいな静けさだ。
ヴィクターが去って行ったあの後、エネルギーを吸われた生徒たちにしかるべき処置を施すと、戦士長はこの夜のうちに本部へ向かった。
残されたカズキと私は、出来ることも無く、またいつもの生活に戻されることになる。
といっても、今夜は宿舎に半分しか生徒が居ないように、周りがまた”いつも”に戻るには幾分時間がかかりそうだ。
色々あったせいで寝付けない。
こんな夜更けだというのに、カズキの部屋を訪ねてしまう自分が居た。
甘えてしまっているのかな、なんて考えが頭を過ぎる。
「カズキ―――?」
ゆっくりと扉を押す。
案の定鍵はかかってなく、部屋は明るかった。
「斗貴子さん」
ベッドに腰掛けているカズキがこちらに顔をむける。
「やはり―――眠れないか?」
「うん・・・・・・昼間は色々あったからね。」
「私も眠れなくてな。こんな夜更けにたずねてきてしまってすまない。」
「いや、ぜんぜんかまわないけど。」
いつもの笑顔とは違う、少し影の入った微笑み。
無理もない、突然自分の体を変異が襲ったのだ。
いくらカズキだって不安にならない方がおかしい。
―――ぐっ、と唇を噛みたくなるのをこらえる。
「体のほうは大丈夫か?」
我ながらなんて間抜けな質問だろうか。
原因は私だって言うのに。
「うん、平気。あれからはなんともない。斗貴子さんは大丈夫?」
「ああ、平気だ。―――ありがとう。」
こちらの礼に、素直に頬を赤らめるのが可愛らしいなんて思う。
―――こんな風に思い始めたのはいつからだっただろうか。
始めはただ、真っ直ぐなところが好ましかった。
まるで危なっかしい弟のように感じていた。
私が止めようとしても、結局戦士としての道を選んだ、ちょうど修行を始めた頃。
真っ直ぐな力に、決意が加わって、少しだけ、頼もしくなった。
そうして今、共に戦う戦士としてここにいる。
―――嗚呼、この気持ちはいつからだったろうか。
「……カズキ。」
名前を呼ぶ。
カズキの瞳が「何?」と真っ直ぐにこちらを向く。
私は耐えられず俯いた。
「……本当に―――すまなかったと思っている。」
言ったとしても、ただ彼の重荷になるだけだと、そう判っていて口にした。
「私が、キミを巻き込んだ。」
視界が滲む。
いまさら許しを請う自分が腹立たしい。
顔が上がらない。
目を見ることができない。
カズキは逆に謝罪の言葉を口にする。
それは判っていた。自分がそれにすがりたいだけだということも気付いていた。
「私は何でもするといった。……カズキ。わたしを―――――」
「嫌だ。」
静かに、そして強く否定される。
「―――そういうと思っていた。」
本当の表情を隠すため、精一杯、薄い笑みを貼り付ける。
これは償いのはずなのに。
これは罰のはずなのに。
どうして拒否されてこんなにも悲しくなるのだろう。
「ああ。そうだな。私の体なんかで済むわけが無かった。こんなんじゃキミも満足できないだろうしな。」
半ば自暴自棄で品のない言葉を口にする。
もう、どうしていいか分からなかった。
どうすれば罪を償えるのか。どうすれば彼を救えるのか。
本当は泣きたかった。
ひどく、みっともない自分がいた。
「い、いや。別に斗貴子さんとする、っていうのが嫌なんじゃなくて。」
「その……俺は斗貴子さんが好きだから、斗貴子さんが望みもしないのに、そういうのでするなんて、嫌だ。」
「――――――――?」
予想外の言葉に頭が真っ白になる。
なんだ?それはなんだ?
やった!とか、嘘?!とか、もしかしたら私はすごく鈍いんじゃないか?とか、そんな思考が一瞬で頭を駆け巡る。
「いや、だから。その。償いとかそういうの抜きでなら―――凄く、うれしい、けど……」
ゴニョゴニョ
顔を真っ赤にして、それでもこっちを見て言おうとするが、やっぱり恥ずかしいのか、最後には俯いた。
「ああ、わかったカズキ。じゃあ、言い方を変えよう。」
もしかしたらこれはもう償いでもなんでもないじゃないかとも思う。
「君が望むなら―――私は何でもしたい。
これは紛れもない私の望みだ。」
―――――まあ、しょうがない、か。
この状況で、どうしようもなく浮かれてる自分がいるのだから。