きっとオレはどうかしてたんだと思う。  
正常な判断を下せず感情の赴くままに  
あんな愚かな行動を取ってしまうなんて…  
 
オレは戦士失格だ!  
 
確かにあの日、オレはどうかしてた。  
夕刻、寄宿舎内での食事が済んで部屋に戻った  
ときに目にした光景。  
ベッドの下の秘蔵のコレクションが紐でくくられて  
勉強机の上にまとめて置かれ、その横で  
斗貴子さんが呆れ顔で腰に手をあてて立っていた。  
 
オレはパニックを起こして何ごとか叫んだ後  
部屋から、寄宿舎から飛び出していって、  
気がつくと夜の銀成市をトボトボ歩いてたんだっけ。  
シトシトと降り始めた雨。  
 
斗貴子さんは悪くないんだ。  
オレが戦士になると決意して戦士長との特訓に入って  
からは、いつも何かと世話を焼いてくれてて。  
あの時も部屋の片付けをしてくれてただけなんだ。  
ああ。ベッドの下の事を忘れちゃうなんて。  
 
雨の街は寂しくて肌寒くて。  
それでかも知れないけど、風邪を引いちゃったのか  
熱でポ〜ッとしながら寄宿舎に戻ろうとした時に。  
何故か蝶野に出くわしたんだ。  
 
ニタリと濁った目で笑みを浮かべてる蝶野。  
「何だかしょぼくれてるな武藤カズキ」  
「何故ここに?っていうか雨の日もそのスーツ?」  
「これは素敵だから天気など関係ないのさ」  
何だろうか。  
奴とオレは休戦協定を結んでいるのでここで戦闘を  
始めるために現れた…訳じゃないだろうし。  
「具合が悪そうだな武藤。大丈夫か?」  
 
オレは耳を疑った。あの蝶野が。オレの心配?  
「何だその顔は。この雨の中歩く内に体を冷やしたか」  
「…うん。ちょっと熱っぽいかな」  
「それは聞き捨てならんな。好敵手の体調は俺の関心事だ」  
 
そういうと蝶野はスーツの股間へと手を伸ばし、そこから  
小さな小ビンを取り出してオレに見せたんだ。  
「錬金術は貴様の味方だ。これを飲めば蝶回復」  
「蝶野悪い、オレには飲めない!」  
「貴様!俺の善意を拒絶するのか」  
「なんでちゃんとポケットがある癖にお前は股間なんだ!」  
「大事なのは善意と効果だ!飲ませてやる」  
 
元気なホムンクルス相手では、発熱して意識がボンヤリな  
オレがかなう訳なくて。  
オレに無理矢理小ビンの中身を飲ませた後、蝶野は  
高笑いしてあっけなく姿を消してしまった。  
「手間が省けたので蝶サイコーだ。お大事に」  
 
なんだったんだ。  
一抹の不安を感じつつオレは寄宿舎に戻った。  
 
部屋にはもう斗貴子さんの姿はなかった。  
綺麗にしてくれたんだなー。  
後でお礼のメールしなきゃ…  
あ、あれ。  
なんだ…この変な感じ。  
不安は現実になった。  
だるいようで鼓動は高鳴っていて、  
熱っぽいようで意識ははっきりしてる?  
落ち着かないなぁ…。  
いや。  
一番の問題は…。  
…なんで?  
オレ、興奮してるのか?なんで?  
思わず手で股間のあたりを抑えてみたら、ギンギンに  
固くなっていた。  
男なら別にはじめての事ではない体の変化なんだけど。  
全然収まりそうにないのはなんで?  
…うーん。どうしよう。  
解消する方法は簡単で、行えばスッキリ落ち着くはずだけど。  
斗貴子さんが綺麗にしてくれたばっかりの部屋でするのは  
何かちょっと心が痛むなぁ…。  
……………。  
斗貴子さん、ゴメン!  
オレは我慢できなくなって、結局始めてしまったんだ。  
入り口にしっかり鍵をかけて。  
ベッドの下の…は紐でくくられてるから使えないや。  
本棚にある、一冊だけハードカバーの本。  
「写真で綴る激動の二十世紀」。  
もちろん偽装。中身は「Hでキレイなお姉さん・極」  
岡倉の秘蔵のなかの秘蔵。  
最近になってやっとオレに譲ってくれたお気に入り。  
はやく済ませて寝てしまえば収まるだろう…。  
 
もう何回目だっけか。  
ぜーんぜん収まる気配もない。  
ちょっと恐くなってきた。  
蝶野…アレは何の薬なんだ。  
お前との決戦、明日にでも始めたいぞ。  
うう。  
誰か…助けて。  
「お兄ちゃんいるー?入るよー」  
「まひろ!?だ、駄目だ!明日にしてくれ」  
「カギかけて何してんのー?…あー!」  
扉の向こうでまひろが素頓狂な声をあげた。  
「今そこに斗貴子さん遊びにきてるんでしょ?」  
何だか嬉しそうにヒソヒソ話しかけてくる。  
「斗貴子さんどこいったかなーって探してたけど」  
「こ、ここにはいないよ、まひろ」  
あれ?斗貴子さん部屋に帰ったと思ったけど。  
「まぁまぁ。ごゆっくり〜」  
「だから居ないってば!」  
まひろはオレと斗貴子さんが一緒にいると決めつけたまま、  
どうやらどこかへと去って行ったようだ。  
まずは一安心。  
妹のまひろと話していた間、ずっと収まらずにギンギンだった。  
これじゃあオレ変態じゃないか…。  
とても悲しくなったので、冷蔵庫に冷やしてある青汁でも  
飲んで気分を紛らわせる事にした。  
ベッドを降り、冷蔵庫のある間へと移動する。  
あれ。なんか人の声がしたような?…気のせいだ。  
目的の青汁を手に取ってベッドのある間へと戻る。  
ああ、なんか最低な一日になってし…  
斗貴子さんがベッドに座ってる。  
顔を真っ赤にしてオレを見てる。…なんで。  
オレはあまりのことに倒れて気を失った。  
 
 
…どれくらい時間が経ったのかな。  
気がつくとオレはベッドの上にちゃんと  
寝かせられていた。額のうえの冷たい感触。  
固く絞られた冷たいタオル。  
お腹のあたりまで被せてくれた毛布。  
誰がやってくれたのかは言うまでもない。  
「起きたのか、カズキ」  
「斗貴子さん」  
勉強机の椅子をベッドの側に持ってきて  
ずっとオレの事看ててくれてたんだ…。  
「キミの着てる服な、雨で濡れてたみたいだから  
勝手に着替えさせて貰ったぞ。パジャマに」  
優しいな。  
何か世話ばっかりかけてるのが情けないや。  
この街に任務で来てから、彼女はずっとオレの  
お守に振り回されている。  
オバケ工場の夜。  
…オレの「命」に対する責任から  
望んでそうしているかもしれないけど、  
…オレが無理させている事には変わらない。  
 
「部屋の片付けサンキュ。オレの部屋じゃないみたい」  
「キミが言う程散らかってなかったぞ」  
「でもオレ、本とか読んだら投げっぱなしとかするし」  
「ちゃんとわかってるなら改善しろ」  
オレも斗貴子さんも何か可笑しくなって、クスクスと  
小さく笑いあった。……本。あっ。いやそれよりも!  
いまようやく気付いた。マジなのか。  
まだ収まってない。ってことは気絶してた間もずっと!?  
着替えさせて貰ったパジャマ。まさか。  
「斗貴子さん…?」  
 
「なんだ。素頓狂な声をあげて。顔も赤い。…熱が」  
「そっ、その!着替えさせて貰えてありがたいけど…」  
「ああ。少し手間取ったな。パジャマを探すのとか」  
「…みたの?」  
「ん。なっ、何をだ?」  
途端に斗貴子さんの顔がパっと赤くなった。  
どうやら最悪のケースを辿ったようだ。  
「わ、私はなるべく見ない様にしたぞ!断じてジロジロと」  
「…もうひとつだけ聞いていい?」  
気まずそうにうつむく斗貴子さんにオレは弱々しく尋ねた。  
「もしかして…みたの?オレが…」  
「……」  
 
 
 
「カズキ」  
毛布から何から頭から被ってベッドの上のダンゴ虫に  
なったオレに、遠慮がちに声をかけてくる。  
「…実はな。私は、キミの読んでるあの…何とかいう本な」  
机のうえに紐でくくられた本。ああ。あれもみられたんだよな。  
「片付けが終わって、帰ろうかと思った時、何故だか…  
魔が差したのか。キミが愛読する程の内容ってどんなのかと」  
ベッドの下に隠すくらいの内容です…あれは。  
「試しに一冊手に取って読んでみようとしたらキミの気配が」  
うう。  
「もう手に取ってたんでな。慌てて無音無動作で錬金発動させて」  
…たぶん。天井に張り付いたとみた。死角になる様移動しつつ。  
「上から様子を伺っていた。隙をみて部屋を後にしようと」  
でも部屋に入ってきたオレが、まさかそのままあんな…。  
「あの。…すまん。プライベートな事だろう、あの、」  
「軽蔑するよね。…あんな姿」  
「わ、私には良くわからない。でも…驚いてしまったのは確かだ」  
 
「オレって最低だ。…もう顔合わせられないや」  
毛布のなかの暗闇で、オレはすこし涙ぐんでしまった。  
「いや、キミも多分そういうコトするだろうとは何となく  
理解はできる。そういうものだと何か本で読んだ気がする」  
懸命にフォローしようとしてる声。  
「オレ斗貴子さんのコト尊敬してるし守りたいって思うし」  
「カズキ?」  
「あんなに痛いの我慢してみんなのために戦ってる姿みてさ」  
「…」  
「オレ絶対強くなって斗貴子さんに認めて貰えるような戦士に」  
「…」  
もう自分でも何言ってるのかわからないけど止まらない…。  
「できれば格好良いとこもみせたかったんだ」  
「キミは頑張ってるじゃないか、カズキ」  
オレの丸めた背中にあてられた斗貴子さんの手の感触を毛布ごしに感じた。  
「毎日毎晩頑張ってるじゃないか」  
「斗貴子さんにだけは見られたくなかった」  
話してる間もずっと状態は変わらない。  
もうずっとこのままなのか?  
いつも前屈みになって戦ったり学校行ったりするのか。  
誰もオレの側になんか来ないだろうな。  
「カズキ。そもそもずっと、それはその状態なのか?」  
躊躇いがちにオレに聞いてくる。  
「…こんなの初めてだよ。ありえない」  
「そ、そうか。大変だな。男というのは」  
不意に会話が途絶えた。  
しょげてるオレよりも励まそうとする斗貴子さんのほうが  
その沈黙の時間は気まずかったのだろう。  
とにかくオレを落ち込ませまいと話題を振ろうとしてくれたのか、  
「え、えーと。そうだ。どんな時にそうなるんだカズキ?」  
凄い質問をオレに投げかけてくる斗貴子さん。  
今思うと、この言葉が、始まりだったんだ。  

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