「・・ふう、意外と疲れるものだな」
ロッカールームに戻って小さく息を吐くと、パピヨンが耳障りな高笑いを発した。
「キミでも弱音を吐くことがあるんだね。まあ、動きはそこそこよかったよ」
明らかに挑発を含んだ言葉に血が沸騰するが、ぴりぴりと震える空気の間に剛太が入り込んで、私の両肩を力強く掴む。
「そんなことないです、先輩は最高でした! 後半のスルーがなければ負けてましたよ!」
「・・・・そ、そうか・・」
褒めてくれるのは嬉しいが、こうも一直線に奨励されると些か照れるものがある。
知らず詰まった言葉に、パピヨンは鼻を鳴らして着替えを再開──
「待てっ! ここは休憩所であり、着替えはシャワールームだろう!」
「それは女性に限って、だよ。そうだろ?」
パピヨンが視線を向けたのは、早坂秋水にタオルを宛がわれている早坂桜花で、彼女はパピヨンの目に気付くと苦笑を見せた。
「そうですね」
「くっ・・・・だ、大体、パピヨン、貴様、開始と同時に変態衣装のせいで退場しおって! 貴様は何の貢献もしていないだろう!」
悔しさから声を荒げるが、パピヨンは素知らぬふりで笑みをこぼし、サッカーボールを模したのか縞々の変態衣装に手をかけて堂々と着替え始める。
「ま、まあまあ、落ち着いてくださいよ、先輩。試合には勝ったんですから、穏便に」
私の肩を押さえ、私の視界にパピヨンが入らないよう配慮しながら、剛太が困った笑顔を見せる。
視界の端で早坂秋水が興味の欠片もない視線を寄越したのに激昂がちらつくが、しかし目の前の剛太の表情を見て、深く息をすることで怒りを静める。
そうだ、試合には勝った、パピヨンは役立たず、早坂秋水は早坂桜花ばかり気にして動きが散漫、早坂桜花は反則すれすれの行為を繰り返し相手を撃破、その度に試合が中断して早坂桜花の誤魔
化し笑顔を何度も見た、唯一チームプレイを感じさせた剛太は敏捷な動きで私のアシストに回ってくれて、後は不慣れな私と切り込みのカズキが敵を突き崩し、一点差だったが試合には勝った。
何も文句をつける箇所などないではないか。
漸く落ち着き、ロッカールームを見渡せば、ベンチに仰向けで目を閉じているカズキが映る。
「・・カズキはまだ目覚めないのか」
何気なく呟くと、大して変わらない衣装チェンジを終えたパピヨンが鋭く鼻を鳴らした。
「ふん、いくら逆転のチャンスといっても、キミが安易に突っ込むから武藤カズキはそうなったんだ。精々、反省することだね」
かちん、と頭の撃鉄が音を鳴らすが、またも剛太の笑顔が視界を遮り、怒りを沈静化させる。
「いえいえ! あれは完全に武藤が悪いんですよ! 先輩の華麗なスルーを見逃して駆け寄るなんて、あっこで俺がボール拾ってなかったら先輩の素敵プレイが台無しでしたよ!」
「・・わ、分かったから、もういい。あのような奴に怒りなど覚えていない」
疲れと照れを隠して溜息を吐けば、剛太はにこにこと邪推のない笑顔をして「はい!」と頷く。
全く、カズキもそうだが、剛太の態度にも著しく乱される。
「では、私はシャワーを浴びてきます」
「あ、姉さん、タオル」
場を去ろうとした早坂桜花に、すかさず早坂秋水が、汗を拭いたものではない、真っ白のタオルを渡す。
「ありがとう、秋水クン」
そう言って早坂桜花はその場を離れ、途端に早坂秋水が押し黙って近寄りがたい表情を見せた。それは慣れたことなので、誰も何も言わない。
「じゃあ、僕は帰らせてもらおうかな。武藤カズキが起きたら、『今度は一緒にプレイしよう』とでも伝えておいてくれ」
「・・・・・・・・・・」
私があからさまに険悪な表情で無言を貫くと、私の表情を見た剛太は額に汗を浮かべて同じく黙りこくった。
そんな私たちを面白くもなさそうに眺め、ふん、と鼻を鳴らしてパピヨンは姿を消した。
「・・変な奴ですね」
「変態だ」
剛太の言葉を正してカズキに歩み寄り、顔を覗き込む。表情は安静そのもので、ただ寝ている、という状態らしい。
「先輩はどうするんですか? 武藤が起きるまで、待ってるんですか?」
背後からやや尖った声が聞こえ、それが剛太のものであると判別するのに一瞬の時がいった。
振り向いて確認すれば、剛太はひねた目を斜め上に向けており、ロッカールームの天井に巣食う陰を見つめている。
「? ああ、そのつもりだ。カズキがこうなったのも私のせいだからな。責任がある」
「・・・・そうですか」
「剛太、キミは早く休んだ方がいい。カズキが倒れたのもあるが、一番動いているだろう。それでは明日からに差し支えるぞ」
恐らく、今も平気そうな顔を見せてはいるが、筋肉は既に軋んでいるだろう。それを見て取って言ったのだが、剛太は何故か不貞腐れた顔で「・・・・はい」と頷き、物悲しそうな背中を見せて姿を消した。
首を傾げる私を置いて、早坂秋水も姉の分の荷物まで持ってロッカールームを出て行く。
気付けば、残されたのは私とカズキだけになっていた。
「・・・・・・・・・・」
無言と静寂が混じり合った空気の中、カズキの顔を間近に見れば、恐らく私を庇った時に出来たのであろうと推測される傷がある。その傷は浅い切れ込みで、これも予測だが、相手に吹っ飛ばされて
地面を滑った際に出来たものなのだろう。
その傷を指でなぞるが、指先に血はつかない。もう完全に固まってしまったらしい。
洗い流していなかったので黴菌が気になるが、しかし今さら心配したところで仕方がない。そう自分を納得させて、静かにカズキが目覚めるのを待つ。
何か・・・・・・不思議な気分だった。
酷く穏やかで、このような空気の中に存在することも出来るのか、と愚かな感傷めいたものすら思い浮かぶような、奇妙な感情が胸を支配していた。
そうして静かな、穏やかな、心地好く生温い感触に包まれて時間は過ぎ、その感触を壊したのは望んだとおり、カズキの声だった。
「・・・・う、うん・・・・・・」
漸く目覚めたことに安堵しながら、カズキが上半身を起こすのを待つ。
カズキは頭を抱えてゆっくりと体を起こし、丸めた背中のまま辺りを見回し、私と視線を合わせた。
「・・・・あ、斗貴子さん」
「やれやれ、第一声がそれか」
苦笑すると、カズキは唐突に目を見開き、慌てた様子で首を振った。
「あ、あれっ? 試合はっ? 皆はっ?」
「落ち着け、試合は終わった、私たちの勝ちだ。皆は既に帰った」
「え・・・・そうなんだ・・・・」
私が告げるとカズキは黙り込み、かと思えば表情を崩して首を傾げる。
「オレ、なんで寝てたの?」
「・・・・忘れたのか?」
「うん」
「・・全く」
まあ、あの状態では記憶の混乱も仕方がない。
私は一息ついてカズキの隣に座り、脳裏に試合後半、同点で焦る自分を思い浮かべる。
「あの時・・・・剛太からパスを貰った私は、前方から駆けてくるパワータイプの相手を見定め、ボールをスルーしてキミに渡そうとしたのだが・・・・・・」
「そうだ、斗貴子さんが危ないって・・・・」
カズキが手を打ち、私は頷く。
「そう、こちらに向かってきたキミは、ボールを剛太の前方に蹴って、私を突き飛ばした。結果、キミは相手に跳ね飛ばされ、相手の隙を狙った剛太がシュートをしたが、相手の反則でPK。そこで剛太が
決めて逆転、後は守りを死守して勝った、ということだ」
「・・・・・・そっか」
納得したカズキは黙り込み、かと思えばはっと顔を上げて私を見つめる。
「斗貴子さん、ずっと見ててくれたの?」
その真っ直ぐな瞳に何故か混乱し、僅かに頬が赤らむのを感じた。
「・・ま、まあ、私に責任があることだからな」
側にいることに躊躇いを覚えて体を引くが、素早く動いたカズキの両手が私の手を握り締め、離れることを許さない。
「斗貴子さん、ありがとう」
真面目な、真摯な眼差しを真正面から受けて、私の鼓動が微かに高鳴る。
「なな、何を言っているんだ、キミはっ? 頭でも打ったのか?」
照れ隠しに声を荒げるが、カズキはきょとんと訝しげな顔をするだけで、私の照れる意味にすら気付いていないらしい。
これでは動揺している自分が馬鹿みたいではないか、と溜息を吐き、頬は赤らんだままだが平易の表情を見せて、鷹揚に頷いておく。
「ま、まあ、気にするな。それより、早く帰るぞ。もう遅い」
「あ、う、うんっ・・・・・・」
「・・・・? どうした」
カズキの反応は瞬間の積み重ねのようで、時折りあまりの速度についていけないことがある。
しかし今回は対応できたと安心していると、カズキは握り締めている私の手を見て、頬を赤くした。それだけでなく、唾を飲み、私を見据える。
「斗貴子さん・・・・!」
熱のこもったその声に警戒反応が出た瞬間、私はカズキに抱き締められていた。
「お、おいっ? ななな、何を考えているっ」
カズキの感触よりも、すっかり乾いたといっても汗で濡れていたユニフォームのままで抱き合うということに抵抗が表れ、何とか突き放そうとする。だがカズキの力は強く、私の腕を押さえるように回さ
れた逞しい腕はしっかり固定されていて、私の力では外せそうもない。
「ごめんっ、斗貴子さんっ」
「ごめんじゃないっ」
「でもごめんっ」
力ではどうすることも出来ないのなら、抵抗手段は言葉しかない。しかしカズキは私の言葉も聞かずに押し倒し、真下の私の顔を真剣な表情で見据えた。
「ま、待て、せめて──」
言葉が、カズキの重ねられた唇で止まる。
カズキの唇は、私の唇に押し付けるように重ねられ、離れればすぐに感触も忘れるようなものだった。
それでも、行動に突き動かされているカズキの姿に仕方なしの笑みを見せた途端、再び重ねられた唇の感触は、一度目のそれを容易に思い出させるもので、私は目を閉じてカズキを感じた。
お互い汗で濡れたユニフォームに身を包み、更に身を寄せ合っているものだから、汗の臭いを強く感じる。それだけではない、カズキの唇が薄く開き、そこから舌が這い出て私の唇を舐め、私が唇を
開けば舌は迷わず入り込んできた。無防備にしている私の舌を絡め取れば、唾液の鳴る音が頭の中で響く。
熱に侵されていくような・・・・頭の中が熱で溶けていくような、感じたことのない心地好さが広がる。
カズキの口が離れたのは、口内の全てを舐められ、口の中が溶けてなくなったのかと訝るほど経ってからだった。
短く呼吸するカズキの唇には唾液の糸があり、それはどうやら私の唇に繋がっているらしく、手の甲で拭えば塗れる感触があった。
「・・・・落ち着いたか?」
私が苦笑すると、カズキは激しく首を左右に振る。
「全然」
「って、おい!」
剣幕を鋭くする私の口をまたもカズキが塞ぎ、しかし今度はすぐに離れたカズキは、息のかかる距離で私を見つめる。
「・・斗貴子さん、オレ・・」
その静かな、決意の込められた眼差しに、私はやはり苦笑で返す。
「・・・・せめて、シャワーを浴びたい。駄目か?」
私の言葉に、今度はゆっくりと、カズキは首を左右に振った。
ロッカールームを出て細い通路を歩けば、共同のシャワールームがある。両面の壁に合計で十数はノズルが設置されており、一人一人を区切るように脆そうな衝立が用意されている。
先程まで早坂桜花がいたであろう気配は既になく、床を見ても水の跡すら残っていない。それだけの時間が過ぎたのか、高い天井の上方にある四角い窓からは、暗闇しか窺うことができない。
「・・・・・・さて」
ユニフォームの上着を脱ぎ、パンツを脱ぎ、下着姿になったところで、脱いだユニフォームを足元と頭の見えるようになっている衝立にかける。
そして振り返れば、カズキが真っ赤な顔で口を半開きにして立っていた。
「って、どうしてキミがいる!?」
「ごごご、ごめんっ、オレもシャワーに・・・・!」
慌てて背中を向けたカズキは、立ち尽くして動く気配がない。
私は溜息を吐きながら下着を脱ぎ、それをユニフォームの下に隠れるようにかけて、個室に入って扉を閉める。
「・・・・・・全く。もう見ても問題ないぞ」
そう言うとカズキは恐る恐る振り向き、引きつった笑顔で後頭部を掻いた。
「ご、ごめん、つい」
「つい、じゃない。まあ・・・・そ、その、これから・・のことを考えれば、し、仕方ないかもしれんが・・・・・・」
言っているうちに激しい恥ずかしさに襲われて、居た堪れなくなって蛇口を捻れば、冷たい水が勢いよく噴き出した。
「うひゃあっ!」
「斗貴子さんっ!?」
冷たい水の一撃に思わず声を上げた私を心配してか、カズキが駆け足で寄って来た。
薄い壁・・・・といっても、目を合わすことに何ら支障のない障壁のすぐ向こうにカズキが立っていて、私を見ている。
冷たい水は時間とともにぬるま湯と化し、程よい温度となるが、それは問題ではない。
衝立の設計上、そこまで近寄れば、私の肌を覗くことなど容易である、ということが問題だった。
咄嗟に両手で胸を隠したが、カズキは視線も逸らさず、私を見つめている。その沈黙に危ういものを感じていると、カズキはいとも簡単に衝立となっている扉を開けた。
肌を隠す服が載った扉はカズキの方へと開いていき、そして私の目の前に、唾を飲むカズキが、何の障壁もなしに立っていた。
「・・・・あ、ああっと・・お、落ち着け、カズキ・・・・・・」
無駄と知りつつ言ってみるが、やはり無駄だった。
「斗貴子さんっ!」
「だぁっ!」
案の定、勢いに負けたカズキが私を抱き締め、服に湯がかかることも気にせず口付けをしてくる。
抵抗しようにも動かせる箇所のない私は立ち尽くしたまま、カズキの唇を受け入れるしかなかった。
先程の繰り返しのように、カズキの舌は私の口内を舐めて、歯の裏を舐めたかと思ったら唇を僅かに離し、前歯に舌を這わせた。
あまりのことに顔が真っ赤になっていくのを感じながら、私はカズキの唾液を飲み下し、鼻で息をする。
耳元でシャワーから溢れる湯の音、そして湯が私やカズキに当たって弾ける音を聞きながら、頭の中が溶けていく感覚を味わった。
口付けを終えると、カズキは躊躇することなく、私の首に唇を寄せた。もう止めるつもりはないらしく、右手は私の手首を掴んでおり、私が力を抜くと、右腕を引っ張り上げられた。
左腕も同様にされ、壁に背中を押し付けられ、もはや膨らみに乏しい胸を隠すものはなく、その事実がますます私の顔を赤くしたが、カズキは首を舐め、二の腕を舐め、腋の下を舐め、と私の肌を舐
めることに夢中で、言葉すら発さない。
「・・ぅ、はぁ、あ、ぁ、う・・」
カズキの舌が触れれば、そこは甘く痺れを残して熱を持ち、それらが広がっていくとともに、口からは意識もせず吐息が溢れた。
「・・・・ぅ、あ、ぁ・・・・」
ふと、完全に受けになっている自分に違和感を覚えて、目の前にあるカズキの首筋に舌を伸ばす。
舌が触れた瞬間、カズキは小さく体を震わせたが、肌への口付けは止まることをしなかった。
カズキの肌は汗のせいか、湯がかかって水滴が流れ落ちているにも拘わらずしょっぱさがあり、その味は私の舌先に残った。
そして舌先の味をもっと深く知ろうと口の中で舌を動かしている時、カズキの唇が私の柔らかく膨らむ箇所に触れた。
「・・う、ぁ・・・・!」
私の胸はカズキの唇が触れると簡単に痺れて、先端の突起が痛いほど反応するのを感じた。
それでもカズキは止まらず、あたかも私の膨らみを頬張るように口を開き、上唇と下唇で膨らみを揉んだ。更に舌先で私の肌を舐め取り、乱雑に動く舌先が突起に触れると、私の中を痺れが走った。
「は、はぁ、ぁ、あ、ん・・・・!」
段々と抑えの利かなくなる声は喉の震えとともに発せられ、カズキの行為が喉の震えを引き起こし、そしてカズキは行為を止めない。
いつの間にか自由になっていた腕ももはや力が入る状態ではなく、自然と下りた腕はカズキの背中に載った。カズキは中腰になって私の腹や脇腹を舐めていて、このままではあそこも舐められてし
まうのか、という思いが浮かんだ瞬間、私のそこが微かに疼く。
「・・ぁ、はぁ・・? ・・う、ぁ・・・・」
戸惑う私を置いて、カズキは顔を下ろし、遂に両膝を床につけた。
そして私の腰に両手を置いて、一時、カズキの動きが止まる。
視線の先を予測するに、そこには私の薄い毛と、先程から妙な疼きを示している割れ目しかない。
「お、おいっ・・ひゃっ!」
抗議しかけた私の喉が大きく震えて、甲高い声が漏れた。
カズキが顔を近付け、私の割れ目に唇を寄せたのが原因だった。カズキの息が触れ、唇が触れ、舌が触れると、下腹に痺れが走り、腰が落ちそうになった。
それでもカズキは、私の割れ目を執拗に責めて、私が腰を落とす寸前に漸く顔を上げた。
「・・・・斗貴子さん・・」
カズキの唇は濡れていて、すぐ横で噴き出している湯の音を聞いているとその顔が近付いてきて、何度目かの口付けをした。
「・・・・ん、ん・・・・・・」
まだ舌先に残っているカズキの汗の感触が、カズキの舌に絡められて消えていく。
代わりに口の中に広がるのは唾液の混じり合った生温さで、ぼやけた視界の中のカズキの顔を見つめていると、カズキの手が割れ目に触れた。
喘ごうにも口を塞がれた状態で、吐息はカズキに飲み込まれていく。
カズキの指は上下に擦るだけの単純なものだったが、熱の広がる体にはそれだけで心地好く、カズキが口を離せば唇の端から唾液がこぼれていくのを感じた。
その唾液も、カズキに舐め取られる。
「・・・・は、ぁ、はぁ・・全く、キミは、節操がないな・・ぁ・・・・」
漸く落ち着いた格好になって私が言うが、カズキは私よりも熱い熱にやられているのか、言葉も発さない勢いで、ズボンに手をかけた。
ズボンが下げられ、下着が下ろされれば、浅黒い肉の塊とでもいうような、棒状のそれが覗く。
「・・・・・・それが入るのか」
反射的に言葉が漏れると、途端、カズキの瞳がふっと正気の色を取り戻す。
「・・・・え、斗貴子さんって・・・・・・」
「・・な、なんだ?」
カズキは視線を横に逸らして、後頭部を掻く。
「・・は、初めて・・?」
「当たり前だろうっ」
「ご、ごめん」
短いやり取りの後、妙な沈黙が流れ、仕方なく咳払いをする。
「で、では・・・・する、か・・?」
カズキは何も言わず、首を上下に何度も振った。
恥ずかしさを殺して心持ち足を開けば、カズキが体を寄せてきて、身長差のせいでカズキのそれの先端が下腹に触れた。
湯の熱とは違う、肌の熱を感じて、私のそこが再び疼く。
カズキは自分の手でそれを下げると、私の割れ目に先端を触れさせ、ぐっと息を呑んだ。
「・・・・ど、どうした・・」
うるさいぐらい響く鼓動を聞き流して言うと、カズキが苦笑いを浮かべる。
「実はオレも初めてで・・・・・・」
「・・・・・・全く」
深く溜息を吐き、見下ろす。
そこには棒状のそれがあり、私はそれに指を添えて、先端の触れる箇所を変えてやる。
「・・・・・・いいぞ」
「・・・・うん」
カズキが腰を進めると、濡れた割れ目はカズキのそれの先端に押し開かれた。そのまま内奥にまで達し、カズキの腰が内股に触れると、脳をつんざくような痛みの後、鈍い重さが下腹に広がった。
「・・い、痛い?」
目の前の心配そうなカズキの顔を見て、私は額に汗を浮かべて笑みを見せる。
「・・気にするな、キミの好きに動いてくれ・・」
「・・・・でも」
うろたえるカズキの唇を私の唇で塞ぎ、そして微笑む。
「いいんだ」
それを聞いたカズキは無言のまま私を見据え、それからいつもの笑みを見せて、私の唇を塞ぐ。
もう何度目かも分からない口付けの後、カズキは私の尻を両手で抱え、激しく腰を動かした。
「ふっ、ぅ・・は、はっ、あっ、はぁっ、あっ・・!」
カズキの腰がぶつかる度に、下腹に溜まっている鈍い重みが霞み、代わりに溶けたとばかり思っていた頭の中で痺れが弾ける。
「ぅあっ、あぁ、あっ、ふあ、ん、ぁ、ぁ、あ・・!」
頻繁に震える喉からは喘ぎ声が漏れ、体の中の熱が温度を上昇させて、頭の中を弾ける痺れで満たしていく。
「・・う、斗貴子さん・・・・!」
そしてカズキが体を震わせ、腰を引いて私の内を突いていたものを抜き取り、私の腹にそれを押し付けた時、それがびくびくと大きく震え、先端から白っぽいものを吐き出した。
熱い、粘液のようなものが私の腹にかかり、それを吐き出したものは余韻に浸るように震えている。
「・・・・ごめん、斗貴子さん・・・・・・」
荒い息の中で私の名を呼んだカズキに微笑みかけて、私はとろけた頭をカズキに寄せ、耳元で囁く。
「・・・・・・気にするな、またすればいい」
それを聞いたカズキが快楽に怯えるように全身を震わせた。
私は、その怯えが勘違いでないことを示すように、カズキの唇を自分の唇で塞ぐ。
その口付けがいつ終わるのか、私にもカズキにも分からなかった。
終わり。