私は、まひろに呼ばれた。
まひろは変わった。見た目がどうとかではなく、ただ中身が変わったとしかいえなかった。
姿形は確かにまひろなのだが、私には「まひろを演じている何か」に見えた。
―親友が怖い。
だから最近は放課後になるとすぐ町へ繰り出し、目的もなくブラブラとする事が多くなっていた。
と言ってもお金もないし本当にブラブラするだけである。
和菓子の新商品―と考える時もあったが、そんなノリではない。
考える事はもっぱら決まっている。
―――何が起きたのか?
確かまひろのお兄さんであるカズキ先輩と、顔に傷がある女の人津村先輩と
どこかへいなくなってからだと思う。旅館にいた日は別段なんとも
思わなかったけれど、寄宿舎に帰ってから印象がガラリと変化した。
『笑み』を浮かべるようになったのだ。
笑顔ならわかる、彼女の笑顔は何回もそれこそ飽きるくらい見ているし、
私はその裏表のないそのままの感情が現れている笑顔が好きだからだ。
でも最近の笑顔は違った。口の両端を均一に吊り上げ、少しだけ開いた両目からは
夜よりも暗く泥沼よりも濁っている瞳。まるでそういう仮面を被っているかのような完璧な『笑み』。
正直寒気がした。二度と見たくないと思った。
そこまでまひろが豹変した事に『カズキ先輩と津村先輩』
が関わっていそうな気はする。ただ確証がない。
それと、それらと関係しているか判らないけれど、実は沙織の姿もこの頃見ない。
まひろがああいう『笑み』をこぼすようになってからは学校や寄宿舎で会った事がない。
まひろが関係していようがいまいが無事である事を祈りたいのだけれど・・・
結局そこで考えることを止め、帰路につく。疑問は疑問のままだった。
そういう風にまひろに会わないようにしてきたけれど、やはり限界はあった。
学校にいると避けていても必ず会う時があるし、たまたま会った時の言い訳がまた苦しい。
すぐ帰宅する言い訳を考えるのも嫌になってきていたので思い切って仮病を使って休んでみた。
実は寄宿舎にいるほうが危険である事を知らずに・・・。
「だいじょうぶ?どうしたの?」
ドア越しに聞こえてくる聞きなれた声。
「この頃ちーちん休んでばっかだよ?」
返事を待っている。ドアノブを捻ったようだが、鍵がかかっているので開くわけがない。
金属と金属が不規則にぶつかり、擦れる音だけが部屋に響く。
私はどうにか帰ってもらおうかと必死に考えていた。
どれだけ沈黙が続いていたのかは判らない。結局1分も経っていないのかもしれない。
どうせ良い案が出ないならこのまま居留守を使おうかと思ってた矢先、ドアノブを捻る音が消える。
一瞬だけの沈黙―。
「――そう。でも明日は学校にきてね」
「!!」
抑揚が無く、決まったことだけを機械的に話すような声だった。
一気に場の空気が水あめのように重くなり、夏なのに肌を刺すような冷たさを感じた。
「明日の放課後、用具室に来て」
まひろの声がドア越しではなく、私の耳の傍で聞こえている錯覚を受ける。
一言一言が呪詛のように鼓膜から脳へと達し、解くことの出来ない鎖になる。
ドア越しにある気配は影となり、ズルズルと近づいて来て私の心臓を鷲掴みにした。
それだけではなく枝割れを繰り返し、蛭か蛞蝓のように手当たり次第に身体を這う。
脇下、指の隙間、爪の間、首筋、口の中、耳の中、脇腹、下腹部、股下、足の裏・・・
影によって全て穢されていく。数え切れないほどの蟲から犯されたようにおぞましい。
あまりの気持ち悪さに涙が溢れ、抱えた膝が震える。震えを止めようとした手も自分の思い通りにはならなかった。
もう何がなんだか判らなくなった。
いったい、ドアの向こうには何が・・・
――――――
―突然気配が消え、全身を這っていた影がいつの間にか居なくなっていた。
同時に重く澱んだ空気が晴れ、芯まで凍るような寒さも真夏の乾いた暑さに変わっていた。
心臓の鼓動と震えだけはそのまま残っているけれど。
もしかして・・・夢?部屋の外を確認してみようと、恐る恐るドアノブに触れる。
!!!
―突然現れた証拠に、私はそこから逃げるように離れた。
夢では無かった。
だって―
ドアノブが―
氷のように冷えていたから。
そして今は約束の場所にいる。
学校の生徒もあまり近寄らない、敷地の隅にある古い用具室。
物置小屋と言った方がいいかもしれない。手入れがまったくされていないらしく
周辺は雑草が伸び放題であり、一目見ただけでは物置小屋があるかどうかも疑わしいくらいだ。
蝶つがいの壊れかけた扉の数歩前で立ち止まる。
・・・正直来たくは無かった。昨日のような事をまた味わうかと思うと恐くて仕方がない。
自分に呪いでもかかっていない限り、こんな所にだって来ない。
でも、今のまひろとの関係を考えると此処に来る以外なかった。
もう逃げるのも誤魔化すのも全て嫌だった。ならこっちから訳を聞くしかない。
頼みのカズキ先輩や沙織がいないのなら私が行くしかないのだから。
少しだけ沸いた勇気が無くならない内に一歩扉に近づ
「あ、ちーちん。来てくれたの?」
「!!―ま、まひろ!?」
まったく気付かなかった。何時から後ろにいたのだろうか?
踏み出す勇気はもうどこかへ飛んで行き、代わりに動悸が激しくなる。
「あ〜よかったぁ。全然会ってくれないし嫌われたのかと思った」
「そ、そんなまさか・・・」
まったくいつものまひろだった。
「あのね、実は話が」
「あ、ここじゃなんだし中に入らない?」
「・・・そうだね」
ややあっちのペースに巻き込まれてる感はするけれど、これならなんとか話を続けられる。
少しホッとした。確かに立ち話で終わるようなものでもないし、できれば個室で話したい。
私は扉へ歩み寄り、ドアノブを握る。
「―ようこそ。」
耳元で『何か』が囁く。ドアノブを握った手に『何か』の手が置かれ、一気に扉が開かれる。
―――全て突然の事だった。
「そ、そんな・・・」
今見たものが信じられなかった。
まさか
そんな・・・
「さぁ、ちーちんも仲間に入ろうね」
いなくなった沙織がいた
彼女は
彼女はカズキ先輩に
―――抱かれていた。
「すごいでしょ。ここ数日ずっとあの調子だよ」
衣服を着ていない、裸だった。
そんな彼女が暗がりの中で上下に揺れる。苦悶と快楽の混ざった喘ぎが部屋に響いた。
沙織の目には焦点がなく、光も宿っていなかった。だらしなく開いた口からは舌を伝って涎が垂れる。
「やっ、あ、あっ、おにぃ、さ・・・あ・・・あんっ・・・」
「もう全部入るようになってたんだ。最初は痛がってたけどもう大丈夫だね」
「さ、沙織・・・」
沙織の中に赤黒いモノが侵入する。まるで杭のように太く毒々しいものが華奢な沙織を貫く。
入るたびに中に溜まっていた液体を飛び散らせ、敷かれたシーツに広がる染みを尚濃いものにしていった。
「なんでこんな事やってるのか―とか思ってる?」
声がでない。
「お兄ちゃんはね、王様の一人なんだよ」
まひろが何を言っているのかよくわからない。
「でもね、王様は一人でいいの。ヴィクターが王様なんて許せない」
「だから私たちが作るの。一番強い王様を。」
スカートをたくし上げる。白濁色の液体がまひろの秘所から内股へと垂れる。
それを指ですくい、糸が引くのを愛しげに見つめ、舐めた。
「お兄ちゃんと私の子ならヴィクターだって倒せる。だって私たちの子供だもん」
服を脱いだまひろが後ろから私の制服のスカーフを解く。わたしは――身動きができない。
「さーちゃんは私の友達だし、なんとなく食べたくないなぁと思ってたの。
でね、さーちゃんもお兄ちゃんの事気になってたみたいだし、じゃあ」
開いた首回りから手を入れ下着越しから乳房をなぞる。
「―――私と一緒に子供を作ろうかなって。王様には家来もいるでしょ」
「あ、もう少しで終わるね」
水気とヌメり気をもった肉同士がぶつかり、擦れ合う音が一層大きくなる。
沙織は下から突き上げられる度に理性を麻痺させるような甘い声を上げ、ささやかな胸を上下に揺らした。
私は、あんな沙織を、―――見たくなかった
涙がどんどん溢れてきた。なぜか私の中で敗北にも似た感情が渦巻く。
「ん、やっ!ああっ、早く、早く頂戴!もぅ・・・我慢・・・でき、ないよっ!」
もう沙織の方から求めていた。沙織は足を先輩の股の下に潜りこませる。
あれでは全部中に・・・
「お兄ちゃん、そろそろ楽にしてあげて。さーちゃんも欲しがってる」
まひろの言葉を聞いて反応したのか、沙織の腰を掴み動きを早める。
そして―
「ひ!ゃああぁぁぁぁ・・・は、ぁ―――」
下腹部が膨らんだ・・・と思わせるくらいありえない量の精液が出ている。
収まりきらない精液が隙間から流れ出る。
私には痙攣している沙織を見る限り、毒を注入されているようにしか見えなかった。
大切にしていたものが破壊された、そんな気がした。
沙織は先輩に身体を預け、そのまま糸の切れた人形のように動かなくなった。
「これで・・・さーちゃんも終わり。あれだけ中に出せば多分孕むよね」
「でも無理しすぎたから当分起きないかも」
「ま・・・ま、ひろ・・・ぁ、な・・・」
上手く声にならない。言いたい事はたくさんある。沢山あったが声にでない。
肝心な時に言えない事がくやしい。結局涙を流しながら震えるだけなんて・・・
まひろはその質問を判っているのか、
「さぁ、なんでだろうね」
とだけ言って私にキスをした。
舌でこじ開けられ、ドロっとしたものが口の中に侵入してくる。
何回か喉が鳴った後、突然目眩が起きた。
吐くような目眩はすぐ治まり、その後は身体中が熱くなってきた。
頭もボーっとする。
もう考えるのも面倒臭くなってきた。
沙織の方をみた 先輩のが引き抜かれるところだった
引き抜かれた先輩のは 出した後であるにも関わらず
まったく衰えていなかった
私は薄れる意識の中 ソレを見て
―――愛しいと感じた
=END=