「うまく、行きました?」早坂桜花は、彼女に近寄り、そう尋ねた。
「…相手にもされませんでしたけど。好きだと伝えられて…良かったです。」
彼女、若宮千里はそう答えた。
彼に告白できるよう、二人っきりにしてあげる。そう持ちかけたのは、早坂桜花だった。
「彼とキスの一つもした?」
「ま、まさか…そんなことありえません」
『そのとき武藤くんをおもいっきり酔わせちゃうから、キスのひとつもしちゃいなさいよ。』
そのとき桜花はそう言った。
だが彼女を…そして武藤くんを見る限り…予想以上の結果になったみたいね…。
若宮千里はあの晩以来、寄宿舎には立ち寄らなくなった。
「もう会っちゃダメ。武藤先輩に迷惑は掛けられない…」
それでもあの夜を、あの夜の彼を思い出しては、ふわふわした気持ちに浸っていた。
一方カズキのほうは、しばし不貞の罪悪感に苦しんでいた。
斗貴子さん、ゴメン…。でもあの時のことは言えない、絶対に…。
元の大きさの斗貴子さんの幻を見て、彼女とセックスしたなどと知られたら…。
斗貴子さんは傷つくだろう。自分の小さい体を責めるだろう。そして俺の元を去るかもしれない。
斗貴子さんを失いたくなかった。俺はズルイ。
桜花は二人の変化に気づいていた。あの晩二人は…セックスしたのだ。
「ふふ…ごめんなさいね、津村さん。」
くすくすくす。含み笑いが漏れた。
「幸せな人には、イジワルしたくなるのよ…」
最近カズキの様子がおかしかった。なんだか元気がなかった。
そしていつにもまして優しく、変な気分だった。いや、ベタベタされるのは嫌いじゃなんでけれども…
「おやすみ、斗貴子さん」
「…おやすみ。」
彼の枕もとで眠る。キスをかわす。
さっきカズキが着替えたとき、彼の背中に付いていた傷跡、あれは何だったんだろう。
まるで、女性の爪あとみたいな…
「斗貴子さん…どこにも行かないで…」
彼の寝言に、私は考えるのを止めた。
「でも妹の友人に手を出すなんて、やっぱり不自由してたのよねえ…」
「姉さん…何の話?」「いえいえ、津村さんは相変わらず武藤くんに愛されててしあわせよね。」桜花は笑ってごまかした。
「でも、お人形のような斗貴子さんを世界で一番愛している武藤くんは例外として、」
早坂桜花は、いたずらっぽく弟の顔を覗き込む。
「やっぱり男の人は、なんだかんだ言ってセックスさせてくれる女性が一番よね?」
(終わり、桜花姉さん…(汗))