「南君の恋人」的世界観でどうぞ…
高校生男児の部屋には不似合いなドールハウス。斗貴子さんはそこに居着いていた。
「なあ、カズキ」
「どうしたの?斗貴子さん。卵ボーロ食べたい?それともベビーチョコ…」
「違う!君はこのままでいいのか?」
人形サイズの斗貴子の世話を焼くカズキに対して、周りは「人形マニアになった」「裁縫の達人?」などと好き勝手なことを言っているが…
「俺は今の生活にすごく満足してるけど…」
「このままじゃ君は恋人の一人もできないぞ!」
「何言ってるの?…斗貴子さんが俺の恋人じゃない。」
「…////!」
「大好きだよ。」
(…バカ!このままでいいのか?本当に?迷惑だと一言言ってくれれば、今すぐ出て行くのに…)
カズキが人間に戻る方法が見つかり、すべては解決するかに思われた。しかし…
「失われた質量を元に戻す方法などない」
それが、円山の返答だった。斗貴子は生涯この大きさのまま戻れないと知った。
(けど、カズキはこのままの私でもいいと言ってくれて…)
それ以来、このような生活を続けているわけだが…。
「…これから先、どうする。」
この大きさのままカズキに嫁入りするか?そんじょそこらの相手の親は仰天するだろうが…
「あの兄妹の両親なら、快く迎えてくれるかもしれないがな。」
斗貴子はため息をついた。自分とカズキに立ちはだかっているのは世間体ではなく、もっと大きな問題だ…。
トイレから帰ってきたカズキと目が合う。手には「Hできれいなお姉さん」が…
「…ごめん、斗貴子さん。」ちょっとうなだれるカズキ。
「いい。…君も、男だからな。」と言いつつ、すこしすねる斗貴子。
この大きさの体ではカズキを受け入れることができない。物理的に不可能だ。
そしてカズキも健全な男性なわけで…。
(今のままで、満足できるはずはないんだ。)
いつか、カズキは別の女性と体をつなぐかもしれない。その時、どうして彼を責められようか。
(君も男だからな。)そう言って、笑って許して…
突如頭に浮かんだのは、早坂桜花に誘惑されるカズキの姿だった。
「…!!!!違う!」
あの女じゃない!もっと、どこの誰とも知れない女だ。むりやり頭を切り替える。
しかし次々頭に浮かぶカズキの相手は、ちーちんさーちゃんや、カズキのクラスメイト達だった。
あるいは斗貴子の嫉妬がそうさせていたのかもしれない。
「嫌だ…嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ…」
砂糖粒のような涙が、斗貴子の目からこぼれた。
その夜。斗貴子はドールハウスのベッドから抜け出し、カズキのベッドにいた。
「…いっしょに、寝ていいか。」
斗貴子の声が震えていたことに、カズキが気づいていたかどうか。
「ん、斗貴子さん用にタオル敷くから。」
何の気なしにカズキは答える。恋人同士なのに、こんなに近くにいるのに、そんな雰囲気にはまるでならない関係。
…このままでは、嫌だ。
「カズキ…」「ん」斗貴子はカズキに口づけた。「もっと…」
二人は存分に口づけた。何の性的欲求の解消にもならない、愛を確かめ合うだけの行為。
おもむろに、斗貴子は服を脱ぎ捨てた。
「ちょっ…斗貴子さん?」
カズキの服の中に入り込み、胸板に顔をうずめる。カズキの高ぶった鼓動か聞こえる。
「こんな私でも、君をドキドキさせられるんだな…」
顔を真っ赤にしてあせるカズキ。
「斗、斗貴子さん、もう出てきて。」
「だめだ。今夜は君を満足させたいんだ…」
そう言って、カズキの性感帯を刺激する斗貴子。
「ああっ、はあっ、はあっ、はあっ」
小さな愛撫だが、確実にカズキの気分は高まっていく。
私だけだ、カズキに触れていいのは…
「斗貴子さん…オレ…」
斗貴子はカズキの気持ちを察し、「下」のほうへ体を移動させる。
「駄目だ!」
カズキの服の中から転げ落ちる斗貴子。
「…ごめん。」息も荒く、熱を持て余しながら、謝るカズキ。
「いや、謝るのは私のほうだ…」タオルをまとい、うなだれる斗貴子。「どうせ最後まで出来ないのに…すまない。」
「オレは、オレは斗貴子さんにそういうこと望んでいないから。だからもう、いいから。」
そう言ってベッドから飛び出し、部屋から出て行くカズキ。怒っているのかも知れない。
そのあと、斗貴子はひとしきり、泣いた。
愛しい。もっと抱きしめたい。めちゃくちゃにしてしまいたい。
己の欲望に溺れそうになる。
愛しているから。そのままでもいいから。もっと深く…深く愛し合いたい。
「オレは…いつか斗貴子さんを壊してしまうかもしれないな…」
結局その晩、カズキは一晩中トイレで夜を明かした。
(終。…バッドエンド?)