「先輩っ!!」
「斗貴子さんっ!!」
悲鳴が交差する。
バブルケイジ――再殺部隊・丸山のフローティングマインの武装錬金。
大量爆撃を受けた斗貴子の体は縮小化し、消えうせた。
残された衣類に斗貴子の姿はない。
カズキと剛太が失措する中、斗貴子の残りわずかな肉体は、崖を転がり落ちていった。
そして――
「くっ……」
かなり離れた場所で、斗貴子は身を起こした。
体調は十数センチしかない。あと一発で消滅するところだった。
そして、丸山に武装解除されなければ、永遠にこのままである。
斗貴子はあり合わせの包帯で身を隠したが――
「へへ、いいざまだな」
「!!」
頭上から下卑た声が轟いてきた。数人の巨漢が自分達を見下ろしている。
いずれも斗貴子には見覚えないが、中には明らかに人間ではないものもいた。
また、そうでないものも胸には章印が蛍光ペンで描かれている。
ホムンクルスと信奉者――LXEの残党だった。
「あの裏切り者の変態の後をつけてきたら思わぬ拾い物だな」
「やめろ、離せ!」
斗貴子はホムンクルスの手の内で叫んだ。
彼らは戦団がLXE本部を急襲した際、ドクトル・バタフライの計によって難を避けていた、
かなりの数のホムンクルス・信奉者たちの生き残りの一部だった。
決戦後、戦団は改めてLXE残党狩りを開始したが、主力は対ヴィクター戦の準備に追われて、
残党狩りなど徹底できないというのが実情であった。そして、その機に乗じて動くものどももいたのである。
「へへっ、そう喚くなよ。お楽しみはこれからなんだ――」
ホムンクルス・信奉者たちは組織内の情報で斗貴子のことはよく知っていた。
恐怖と憎悪の対象であるはずの女戦士。それがどういう理由かは知らぬが、人形同然の無力となって目の前にいる。
――嗜虐と陵辱の食指が動かされぬはずはなかった。
「あうっ!!」
捕らえられた翌日。
虫かごの中に閉じ込められていた斗貴子は、荒々しく引っつかまれて、床に叩き付けられた。
銀成市のどこか――LXEのアジトとして使われているらしいアパートの一室。
斗貴子は、神のように斗貴子を見下ろすホムンクルス・信奉者たちに囲まれていた。
「資料と比べて見たが間違いない、こいつは戦団の津村斗貴子だ」
「武装錬金の仕業か? まるで”リカちゃん人形”だぜ?」
好奇と色欲の下卑た視線が注がれる。斗貴子の身を守るものはもはや何もない。
あれから体が元に戻るという事はなかった。カズキたちは丸山を取り逃がしたらしい。
つまり、カズキたちが再び丸山を捕捉して倒すまで、体は元には戻らない――
「や、やめろぉぉ!!」
必死にあがく。男どもはわずかに身を隠す包帯に手をさし伸ばしてきた。
「バルキリー・スカート!!」
斗貴子は、体と一緒に小さくなった核金を起動する。心の中で絶望を感じながら。
「へへへっ、これが武装錬金だってよ」
たちまち、男どもの笑いが涌き上がった。
四本のマニュピュレーター付の処刑鎌は、体に応じてカミソリくらいの大きさしかなかった。
男の一人は斗貴子の胴を掴むと、やすやすとバルキリースカートをへし折っていった。
「あうっ、ああっ!!」
握りつぶされそうな斗貴子が悲鳴を上げる。苦痛と絶望の悲鳴を。
一本、一本と折られ、最後の四本目が折られたときだった。
パキッとプラモデルの部品を折るように、バルキリースカートは四本全て折られてしまった。
「おい、握り潰すなよ。お楽しみがなくなるじゃねえか。これからのよぉ――」
そのとき、その光景を窓から眺めるものがあった。宙に浮かんで。
「ふん、そんなものか。貴様の力は――?」
住宅街のまばらな往来から、ときたま悲鳴が上がる。
全身タイツを着て妖しげなマスクをはめた「裏切り者の変態」は、
自分を追ってきたホムンクルス・信奉者どもの後を逆につけていたのである。
「どうするんだよ! ツムリンが――」
「黙れ」
武装錬金のオートマトンが彼――パピヨンの手の中で握りつぶされる。
「どうあがくか、見させてもらうとしようか――」
「止めろ、離せぇぇ――っ!!」
斗貴子が絶叫する。
男たちの手によって、包帯はすっかり剥ぎ取られてしまった。
斗貴子の鮮やかな裸身が神のように巨大な男どもの目にさらされた。
「いやっ、いやぁぁ――っ!!」
「へへへ、みろよ。すっぽんぽんだぜ」
「ああ、たまんねえや、人形遊びはよぉ」
人形大にされたとはいえ、斗貴子の体の縮尺は元のままである。
今や斗貴子は乳房の膨らみも露わに、股間の茂みもふさふさと、
男どものなぶるがままにされている。
斗貴子の体はまるで性器を彫り込んだ精巧な人形さながらだった。
「いやぁ……ぁぁ……っ」
斗貴子の口から弱弱しく悲鳴が漏れる。
裸にされ、逃げ惑う中、男どもの指に突っつかれ、右往左往する。
これほどの屈辱を受けるくらいならいっそ――だが、斗貴子は激しくかぶりをふった。
(駄目だ。カズキが――)
自分一人なら、ホムンクルスに囚われ辱めを受けるくらいなら、速やかに死を選ぼう。
――だが、今は違う。カズキをヴィクター二号にしたのは自分だ。
戦士としてではなく人として、自分はカズキを人間に戻すまで、死ぬ事は許されない。
「へへっ、観念したか」
「っ!」
男の一人が斗貴子を手に取った。
両足を指先で掴んで、広げて見せる。
「ほらほら、おま○こが丸見えだぜ」
「……!!」
斗貴子の体が震えた。股を広げた男のもとに、他の男どもが集って、下卑た視線を集中させる。
斗貴子の茂みは解放され、その下にピンク色の亀裂を走らせている。
「おい、虫目がねもってこいよ」
「けっこう濃いんだな、この人形女」
「…………っ!!」」
斗貴子はあまりの屈辱に身を震わせた。逆さにされ、局部を丸出しにされて、見られている。
きゅっと目をつぶって身を固くし、何とか酷い屈辱を凌ごうとしていた。
(カズキ、カズキ――)
斗貴子さん、がんばって、すぐ助けにいくから――
「おいおい、濡れてきやがったぜ、この女」
ぎゃははは、と爆笑が巻き起こった。斗貴子はただ、屈辱に耐えるしかなかった――
「よっと」
「!」
男が斗貴子の両手を掴んで上体を起こす。小さくなった手を、指先で摘むのだが、
力加減が間違ったらしい。暴れる斗貴子の体と相まって、指先に力が込められた。
ゴキン
嫌な音が響く。斗貴子の左腕は肩の付け根で骨が外れてしまった。
「うぎゃああああああっ!!」
あまりの激痛に斗貴子が絶叫した。左腕は肩関節が完全に外れて、
男の指先でぷらぷらと揺らされて、弄ばれている。
「おいおい、壊すのは最後だろ」
「すまねえな、つい力加減が」
男どもが談笑する。そのさなか、斗貴子は今度は苦痛にもがき苦しんでいた。
そんな斗貴子を男は床に叩き付けるように投げ捨てた。
「…………っ!!」
斗貴子の口からげはぁと血が溢れた。
「お前には俺達ホムンクルスはざんざん苦しめられてきたんだ。たっぷり御礼はさせてもらうぜ」
そういうと、男の一人が工具箱を手に取った。
「――……!」
「へへ、何されるか分かるかな?」
そういいながら、男はペンチを手に取った。
「抑えてろ」
暴れて逃げようとする斗貴子の胴を指が床に押さえつける。
ペンチのはさみが、斗貴子の右腕をとらえた。
「いや、いや……止めろ……」
か細くふるえ始める斗貴子。男の口元が釣りあがった。
ごきょごきゃぁっ!
骨の砕ける音が響いた。一瞬後、悲鳴が巻き起こる。
「ぐぎゃああああああああああああああああっ!!」
斗貴子の右腕は肘の上の辺りでぐちゃぐちゃに潰され、砕かれていた。
骨はバラバラに折れ、辛うじて肘から先が肩にくっついている。
「ああ……あ……」
もはや瀕死の斗貴子。それを前に取り囲む男たちは最後の「遊び」を始めるのだった。
「それじゃ、始めようか」
男は爪楊枝を一本手に取った。
「ぐがはあああっ!!」
血へドが飛び散った。バブルの上から丸山の体が吹っ飛ぶ。
埼玉県某所。あれからカズキたちは再三の再殺部隊の襲撃を凌いでそこにいた。
そして今、四度目の襲撃を撃破したところだった。
「はぁ……はぁ……」
丸山の肉体は地面に叩き付けられ、もはや動く事もかなわない。
最初の襲撃で受けた傷に加え、腹部に重傷を負っていた。
「――斗貴子さんへの攻撃を解除するんだ」
カズキがランスを引っさげて見下ろす。
「ま、待って……」
丸山は情けない声を上げて核金を手に取った。
「か、解除したわよ。だから、たすけ」
銀光が閃いた。戦輪が、今カズキが核金を与えてやろうとしていた、
丸山の喉を真一文字に切り裂いた瞬間である。
「ごばぁ……!」
喉を裂かれた丸山は、びくびくっと痙攣して、やがて息絶える。
「な……」
カズキの喉が震える。
「何てことをするんだ。何も殺さな」
「甘えんだよ、お前は!」
剛太はカズキを睨み据えていった。
「てめえが甘いことを抜かして何度も敵を逃がすから、こいつを殺すまで手間取った。
その間、斗貴子先輩の身に何かあったらてめえはどうするつもりだっ!?」
「…………」
カズキは俯いて、震えることしかできなかった。
あれから必死の捜索にも関わらず、斗貴子の姿は見えなかった。
カズキたちは斗貴子自身をさらすよりも、自ら囮となって動いて、
丸山を目の前まで引きずり出す作戦に切り替えた。
だが、その際にも、敵にあくまで情をかけてしまうカズキと剛太の間で衝突があった。
「俺は……」
そのとき、携帯電話の着信音が鳴り響いた。
「!」
あわてて、カズキが携帯電話を手に取る。
「はろー、偽善者」
電話の奥からふざけた調子が聞こえる。
「蝶野! お前――」
「あわてるな、あの女の居場所を教えてやる」
「斗貴子……さん……」
カズキは呆然とその場所に突っ立っていた。
「ま、さっきまで俺の核金をかしてやっていたんだけどね」
パピヨンが宙に舞う。
部屋のあちこちはこげている。パピヨンの武装錬金、
二アデスハピネスによってホムンクルスと信奉者どもは消し炭にされていた。
だが――
「どけっ!!」
剛太がカズキを突き飛ばして、馳せていく。瀕死となって裸体をさらす斗貴子の元に。
斗貴子の体は見るも無残に痛めつけられていた。なにより、その股間は――
「爪楊枝をつかって突っつかれたらしいぜ、そこ」
血に塗れた草叢をパピヨンは顎で示した。
「膣がぐちゃぐちゃに裂けちまっている。あれじゃ、この天才・パピヨンでも治せないな――」
硬直するカズキの耳元で、パピヨンは呟いた。
「偽善者」
カズキの目が見開かれたまま、硬直する。
そのさまを楽しげに見つめると、パピヨンは窓から宙に躍った。
「せいぜい、苦しめ。その先に答を出したお前を、蝶・サイコーの俺が倒してやるよ」
そうはき捨てると、パピヨンは飛んで消え去っていった。
ヒュン
「――――!!」
その喉を戦輪が一ミリ先で掠めていく。
かろうじて喉への一撃をかわしたカズキの視線の先に、憎悪に燃えた少年が立っていた。
「てめえのせいだ、てめえのせいで斗貴子先輩は」
「やだ、やめてくれよ、俺は……」
(俺は……俺は……)
「殺してやるぜ。ヴィクターになるまえに、俺がてめえを殺してやる!」
二つのチャクラムが剛太の周りを周回する。剛太はカズキに突っ込んだ。
「くたばれ、化け物野郎――――っ!!」
「うおおおおおおおおっ!!」
カズキはランスを手に、天を衝いて絶叫した。
(終)