「キミ……武藤カズキ君の妹さん?」  
「は、はい。武藤まひろです」  
「良かった。今すぐボクと一緒に来てくれないか? お兄さんが怪我したんだ」  

 真夜中に寄宿舎を訪れたその人は、蛙井(かわずい)さんと名乗りました。  
 名前も変だけれど、格好も変な人です。  
 裸の上半身にオーバーオールのゆったりしたズボン、マッシュルームカットの髪、  
そして薄く張りついたような、にやにや笑い。  

 そう、笑ってたんです。「おにいちゃんが怪我をした」と教えてくれた、その人は。  

 ……ということは、そんなに大きな怪我じゃないんだ。  
(相変わらずおっちょこちょいだなぁ、おにいちゃんは)  
 わたしは、ほっと胸をなでおろしました。  

 夜道を早足で歩きながら、わたしは蛙井さんから事情を訊きました。  
 わたしの連絡先は、おにいちゃんの生徒手帳で調べたのだそうです。  
「キミ、可愛いねぇ。ホントにカズキ君の妹さん?」  
 そう言われて、わたしは言葉を濁しました。  
 男の人に可愛いなんて言われて気が動転していたし、それに……  
「まぁいいや。どっちみち同じことだし」  
「……?」  
 気さくな人だけど、蛙井さんの言うことはよく分かりません。  

 のどかな田舎町。周りの草むらからは、蛙たちの合唱が聞こえてきます。  
 夜道を照らす街灯は、ぽつりぽつりと数を減らしていきます。  
 進んでいくごとに、闇の色は少しずつ濃くなっていきます。  

「あの……本当に、この道で合ってるんですか?」  
 てっきり病院へ行くのだと思っていたから、わたしは不安になって訊ねました。  

「あぁ? うん、そうだったね。もうすぐだよ」  
 なんだか曖昧な口ぶりで答えると、蛙井さんは歩調を速めました。  
 遅れないように、わたしも早足でついて行きます。  

「はい、お疲れさま。到着〜♪」  
 そこは町外れの河原でした。  
「ここで……おにいちゃんが怪我したんですか?」  
「そうだよ。ここなら誰にも邪魔は入らないし、ね」  
「???」  
 蛙井さんは、ずるりと舌なめずりをしました。  
 ぞくり、と背中に寒気が走りました。  

「おにいちゃん、どこ? 聞こえてるなら返事して」  
 不安な気持ちを吹き飛ばそうとするかのように、わたしは呼びかけました。  

 返ってくるのは、川のせせらぎと、蛙の鳴き声だけ。  
「無駄だよ。呼んでもカズキ君は答えない」  
「そんなに……ひどい怪我なんですか? じゃあ、どうして病院に……」  

「だって、ボクが食べちゃったから」  
 蛙井さんはオーバーオールのお腹をポンと叩いて、薄笑いを浮かべました。  

「………………こんなときに、ふざけないでください」  
「ひどいなぁ、ボクはいつだって大マジメさ。でも男はダメだね、筋ばってて美味くない」  
 変です、この人。どうして、こんな悪趣味な話を、他愛のない世間話みたいに……  
 早くおにいちゃんを探して、一緒に帰らなくちゃ。  
 怪我の手当てもしないと。  
 後ずさるわたしの足を縫いとめるかのように、蛙井さんの声が突き刺さりました。  

「だから、甘い甘ぁ〜い食後のデザートが欲しくなったのさ」  

「ホムンクルス、チェ〜〜ンジ!」  

 蛙井さんが叫んだ、その次の瞬間、わたしは張り裂けるような悲鳴をあげていました。  
 だ、だって……  
 蛙井さんの体じゅうの輪郭がくにゃくにゃに歪んで、風船みたいに膨らんでいって、  
緑色の光沢を帯びた……人間よりも大きなカエルのお化けに、姿を変えてしまったから。  

「助けを呼んでも無駄だよ。周りには誰もいないから」  
 その陽気な声は、カエルのお化けのお腹のあたりから聞こえてきました。  
 両生類にもおヘソがあるとしたら、ちょうどそのあたり。  
 マッシュルームカットの頭に薄ら笑いを浮かべた顔が、ニョッキリ生えているんです。  

「いや……嫌ぁ……近寄らないで……」  

 腰が抜けて膝にも力が入らなくて、ぺたんと土の上に座り込んでしまって。  
 それでも両手とおしりを必死に動かして、わたしは巨大なカエルから後ずさりました。  

「だ〜め。逃がさないよ♪」  

 カエルが口を開けると、濡れた舌が鞭のようにしゅるりと唸って飛んできました。  
「きゃあっ!」  
 まるで時代劇の腰元ぐるぐる巻きみたいに、べとつく舌が胸と両腕を絡めとって。  
 そして西部劇の馬で引き回されるみたいに、わたしはカエルの足元まで引き寄せられて  
しまいました。  

 ぎりぎりと舌で締めつけられて、胸が潰れそうな息苦しさが押し寄せてきます。  
 空気を求めて喘ぐわたしに、カエルのお化けは生臭い息を吹きかけました。  

「ふぅん、ずいぶんエッチな体してるじゃん。少し遊ばせてもらおっかな」         

 カエルの顔をまともに見ることができなくて、わたしは足元に視線を逸らしました。  
 お腹の下で「にへら」と歪んだ笑顔を浮かべる蛙井さんと、目が合ってしまいました。  
 上下から同時に、ぴちゃぴちゃと唾液交じりの舌の音が響いてきます。  
 さぁっと全身から血の気が引いて、鳥肌が立つほどのおぞましさが押し寄せてきます。  

「いや……嫌ぁ……やめて下さい……」  
「いいよ、いいよ、その怯えきった顔。う〜ん、ゾクゾクするなぁ」  

 ふいに舌の拘束が緩んで、わたしの体は宙に投げ出されました。  
 恐ろしさで足の力が抜けていたので、そのまま背中から地面へ……倒れ込んでしまう  
前に、ぴたりと止まりました。  

 両胸に吸い付くような、奇妙な感触。  
 これって……?  

「………………きゃあああああぁぁぁっ!!」  
 その感触の正体に気が付いた途端、わたしは恐怖も忘れて大声で叫んでいました。  

 ……にちゃにちゃした粘液と吸盤に覆われたカエルの両手が、……わたしの……  
わたしの……胸のふくらみを、鷲掴みにしていたから。  

「アハハハハっ!! 水風船のヨーヨーみたいに、ぽよぽよしてて面白いや♪」  
 蛙井さんが、子供のように無邪気な調子で笑います。  
「弾力があって柔らかくってボリュームたっぷりで、最高のオッパイだねぇ〜♪」  

 かぁぁっと顔が真っ赤に火照るのが、自分でもはっきりと分かりました。  
 変態さんです、この人!  
 なのに、わたしは抵抗もできずに、なすがままに弄ばれて……  

「ぁっ……あっ……」  
「ゆさゆさ、タプタプ。ん〜〜、いい揺れっぷりだねぇ〜♪」  
「わ……わざわざ擬音を、口にっ、出して、言わないで、くださ、い……ぃ!」  

 とっても恥ずかしくて悔しいことに、わたしの両胸は、水風船のヨーヨーみたいに  
カエルの両手のひらの中で激しくバウンドしていました。  
 ともすれば倒れてしまいそうになる体は、胸だけで宙に吊り上げられていて。  

「あぁ……やめて……くださ……ぁんっ……」  

 まるで……空に浮かんでいるような、不思議な感覚。  

「あれれっ!? 乳首がツンと尖ってきたぞぉ。もしかして感じちゃってるわけ?」  
「そ、そんなこと……感じてなんか、ないです……!」  
「ふぅん。もっと正直になりなよ」  

 文字どおりの、絹を引き裂く音。そして、わたしの悲鳴。  
 カエルの舌が制服の中に滑り込んで、一瞬で布地を引き裂いてしまいました。  

「ゃ……あぁ……っ……」  

 ぞくぞくと体じゅうに震えが走ったのは、身を切るような夜風のせいじゃありません。  
「この人は本当に人殺しの怪物なんだ」という恐怖を、確かに思い知ったから。  
 そして蛙井さんが言ったとおり、わたしの乳房は恥知らずにも歓んでいたから。  

 ……上気した肌と、体の芯の奥深いところで、何かが疼きはじめていました。  

 夜風に弄られながら、体をちぢこませて両手で胸と太腿の間を隠します。  
 そんな私の体を値踏みでもするように見渡して、蛙井さんは言いました。  

「ふぅん? キミって着やせするタイプなんだね」  
「ち、近寄らないで……ください……」  
「駄ぁ目、強がったって。声が震えてるよ♪」  

 カエルが両手を挙げて、無造作にわたしの腕を払いのけました。  
 抵抗する間も力もなく、吸盤付きの両手が、今度はじかに私の乳房を包みました。  

「ほら、やっぱり抵抗する気なんか無いじゃないか」  
「ち、違います、わたしは……」  

 せめて言葉だけでも否定しようとする私に構わず、彼は言葉を続けます。  
 手のひらを胸に這わせて、パン生地をこね回すように揉みしだきながら。  

「今、どんな気持ち?」  
「……んぁっ……ぬるぬるして……気持ち悪い……です……」  
「クセになるよ、たぶんキミなら♪」  

 うわごとのように答えるわたしの顔を見て、また蛙井さんはニヤリと笑いました。  
 水掻きで挟まれた桜色の……胸の……先端……が、張り詰めるように尖っていきます。  
 乱暴に弄ばれる二つの胸が熱っぽくて、息苦しくなってきました。  

「そろそろイイかな?」  
「きゃうっ!」  

 地面に押し倒されて、背中に小石が当たる痛みに、うめき声をあげてしまいました。  
 カエルの白くてブヨブヨした冷たい肌がのしかかって、火照っていた体が氷水を浴びた  
ようにすくむのを感じました。  

「そういえばキスがまだだったね。はい、チューーー」  
「……きゃあああぁぁ!!」  

 いきなりカエルの頭がくにゃくにゃに歪んで、カエルの胴体の上に出た蛙井さんの顔が  
迫ってきました。カエルと同じような生臭い息を吐きかけながら。  

「ん……んぶっ……」  
 ねとついた舌が口の中を暴れ回り、わたしの舌を絡め取って吸い上げました。  
 麻痺していた感覚が不意に戻って、気がつけば涙で前が見えなくなっていました。  

「あれれ、泣いちゃった。もしかしてファーストキスだったの?」  

 ……なけなしの意地を張って、わたしは答えませんでした。  
 初めてはお兄ちゃんと、って決めていたのに……。  

「……ってコトは超ラッキーだね! バージンもボクが貰ってあげるよ♪」  
「ゃ……だ……それだけは……許して……」  
「いいねェ、その怯え顔。花房みたいなキツい女より、キミみたいな子が好みだなぁ」  

 蛙井さんの顔が消えてカエルの顔に戻って、その次の瞬間、  

「ひぅっ! ぁ……ぁあっ……」  
 ぬめっとしたおぞましい感触が、今度はわたしの太腿の間に分け入ってきました。  

 蛙井さんの舌がペチャペチャと大きな音をたてて、舐めまわして……います……。  
「眼福だね。うっすらとオケケの生えた、綺麗なピンク色の割れ目ちゃん♪」  
「い……言わないで……くださ……あぁっ!!」  

 いやらしい言葉で責められながら、波打つ舌に下腹部を舐め回されて。  
 痺れるような感覚が次々に押し寄せてきて、わたしは気を失ってしまいそうでした。  

 ……お兄ちゃんの部屋のベッドの下から見つけた、エッチな本。  
 その中に書かれていた「クンニ」という言葉を、ふいに思い出していました。  

「好きな人と……こんな風に……するんだ……」  
 真っ赤になって、慌てて本をベッドの下に戻して、そのまま自分の部屋に戻って。  
 もやもやした気持ちで、一人で……してしまったことがあります。  
 その時、こっそり思い浮かべていたのは、お兄ちゃんの顔でした。  

「ぁあ……お兄ちゃん……」  

 ……助けて、お兄ちゃん。  

「どうだ? まひろ? 気持ちいいか?」  
「……うん……恥ずかしいけど……お兄ちゃんだから……いいんだよ……」  

 ふかふかの白いシーツを広げたベッドの上で。  
 大好きなお兄ちゃんと生まれたままの姿で愛し合いながら、夢見心地で答えるわたし。  

 そんな、叶わぬ夢を抱いてしまった……罰なのでしょうか?  

「ま……ひ……ろ……」  

 地の底から響く亡者のような、だけど確かに聞き覚えのある声。  

「お……お兄ちゃん……!?」  
 我に返った瞬間、わたしは声にならない嗚咽の叫びをあげていました。  

 「お兄ちゃん」が焦点の合わない眼でわたしを見つめて。  
 蛙井さんと頭を並べて、わたしの恥ずかしいところに舌を這わせていたから。  

 その瞬間、わたしの中で何かが壊れました。  

 お兄ちゃん。  
 大好きなカズキお兄ちゃん。  
 お兄ちゃんが怪我したと教えて、河原まで連れてきた蛙井さん。  
 ぶよぶよしたカエルのお化け。  
 お兄ちゃん。  
 わたしの体を愛撫する手。  
 お兄ちゃん。  
 這い回る舌。  
 お兄ちゃん。  
 お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん………………  

「う〜ん、サービス過剰だったかなぁ」  
 マッシュルームカットの顔が、いやらしい笑いを浮かべて。  
 その股間から大きな松茸みたいなものが、にゅっと突き出てきました。  

「さぁて、お待ちかねの開通式といこうか」  

 唾液や何やらでぬめりを帯びた下腹部に腰を当てがって、カエルが力みました。  
 貫かれる、鈍い痛み。  
 肉の襞を押し分けて、ずぶっ…ずぶっ……と入り込んできます。  

「んぁっ……あふっ……ふぅっ……」  
「うわ、キツキツ。入れただけでイッちゃいそうだ」  

 押し潰されるような息苦しさと共に、わたしの上で蠢く肉の塊。  
 ぞるりと膣壁をこすって、胎内を掘り進み、何度も何度も突き上げて。  
 そのたびに、わたしは悲鳴とも歓声ともつかない声を立てながら背中を反らしました。  

 ……理科の実験で電気を流されて足をピクピクさせる、可哀想なカエルのように。  

「あぁ……あぁ……ふぁっ、お、……お兄ちゃん……」  

 月明かりを背中に浴びてわたしを犯しつづける影に、吐息交じりに求めかけて。  
 熱い肉棒で深深と貫かれて責めたてられて、何度も何度も昇りつめて。  
 「お兄ちゃん」に助けを求めているのか、それとも「お兄ちゃん」と交わっているのか、  
自分でもわからなくなってきました。  

 ……うぅん、本当は全部分かっていたんです。  
 だけど、狂ってしまわなければ、この現実に耐えることなどできなかったから。  

「お兄ちゃん……おにいちゃん……もっと、もっと強く……もっと深く……」  
「あ〜あ、壊れちゃったよ。でも、ま、いっか。思ったより淫乱な子みたいだし」  
 呆れるような声が、どこか遠くで……それとも耳元で?……聞こえたような気がします。  

 そのうちに小さなカエルのお化けが何匹も出てきて、体じゅうに群がりました。  
 大きなカエルに犯されたまま、背中を舐められ、おっぱいを弄り回され、果てには  
お尻の穴まで舌でほじくられて……気を失う間もなく、絶え間なく責めたてられました。  

「そろそろボクも限界だ。最後に……とびっきりのプレゼントをあげるよ……!」  
 息も絶え絶えに「うっ」と呻き声を挙げながら、カエルのお化けは笑いました。  

「嫌ぁ……胎内(なか)には出さないで……お願い……!」  
 はっと我に返って、わずかに残った最後の理性で叫びました。  
 だけど、もう手遅れでした。  
 マグマのように熱くて、それでいてゼリーみたいに柔らかいゲル状のものが、わたしの  
胎内へと一気に流れ込んできました。  

「あぁ……嫌、いや、あぁぁあああ………………っ!!」  
 とどめようのない快楽と絶望が体じゅうに溢れて、わたしは最後の絶頂を迎えました。  

 
 

 気がつくと、裸のまま河原に寝そべるわたしを、四人の男女が冷ややかな目で  
見下ろしていました。  

「……それで、処刑鎌の女は?」  
「私と鷲尾で仕留めました。強敵とはいえ、所詮は手負い」  
 勝ち誇るでもなく淡々と、長い髪の女の人の声が響きます。  

「さて蛙井、キミの独断専行の処遇だが……」  
 わたしと同じ学園の制服を着た男の人が、無感情な声で。  
「ひ…」と、身をすくませる蛙井さん。  

「……今日だけは大目に見よう。錬金の戦士を排除した褒美だ、二度はないぞ」  
「ホッ。さすが創造主(あるじ)、話が分かるね♪」  
「……蛙井! 調子に乗るな。天敵の巳田が死んで以来、おまえは増長しすぎだ」  
「ハイハイ分かりましたよ。……ヒス女の花房サン(ぼそっ)」  
「何か言ったか!?」  
「いいえ何にも〜♪」  

 それからしばらく会話を続けた後、彼らは解散しました。  
「さて、まひろちゃん。創造主のお許しも出たことだし、キミは晴れてボクのペットだ」  

 ……頭の中が真っ白になるような衝撃でした。  
「わたしを、食べるんじゃなかったんですか?」  
「気が変わった。あんなエロい体は滅多に味わえないからね、それにキミはもう……♪」  

 わたしの膨らんだお腹へ向けられた視線に、すべてを悟ってしまいました。  
 ……生き地獄の始まりを。  
 人の姿をした怪物が人を食らう世界で、人間のまま怪物の子を産むという宿命を……。  

                                  (Bad End)  

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