この後に起こった惨劇の結末の原因はカズキにある。
それさえなければ、あるいはまだましな結果に落ち着くことも、もしかしたらあったかも
しれない。
カズキに自覚さえあったならば。
女というものは、とにかく初めてというのは痛いものらしい、ということだけは知っ
ていたカズキはちょっと違う意味で身を竦ませている斗貴子を見て、ある決心をした。
よし。
一気に入れよう。
どうせ同じ“痛い”なら、それが長く続くよりも、早く一気に終わらせるほうが斗貴子さ
んにとってもいいだろう。すりむいたりして脛に絆創膏貼って毛がひっからまった時なん
かも、ゆっくり引き剥がすより一思いにびりっと剥がすほうが痛みを感じている時間が短
いだけましだもんな。
そこでカズキはしっかりと構え、覆いかぶさっている斗貴子の肩に乗せている手にぐっと
力を込めて、何度か深呼吸を繰り返し、頭の中でイメージトレーニングをして、とにかく
最速で斗貴子に突入することを思い描いた。
入らないなどとは思っていない。
カズキには自覚がない。
自分のものがでかいとは思ってない。
その要因はいろいろあり、ひとつにはまだ幼い子供のころならともかく成長してからは用
を足す際など、他人のものをあえて覗き込むようなこともなかったしそれにしても目に触
れる機会くらいあっただろうがそれでも気づかなかったのはやはり大浜の存在であろう。
カズキには学校内で本人の知らないうちに密かに囁かれている“KING”という呼び名が
あるが、大浜のそれは“GOD”である。
その大浜のせいで、自分はたいしてでかくもない。まあでも、ちょっとは大きいほうかな
ぐらいの認識しかない。
身近に神の如き存在がいるせいで自分のサイズがいかに甚だしいものか分からなかった。
周囲の者も、あまりのでかさに(おおきい)などと平凡な形容も適わず、一度目にした
ら一生忘れられない存在感を放つその物体に対しては、なにかを思考することさえ許され
ずに、ただ口をつぐみ、男としてこうべを垂れるしかない。
公衆トイレで用を足していた中年のサラリーマンが、後から入ってきて隣に並んだ高校生
の取り出したものをなにげなく覗き込んでおしっこをとめてしまったこともある。
カズキは後になってへんなおっさんにじろじろ見られたと周囲の者に話していた。
まわりはただ、あいまいに微笑むことしかできなかった。
それでも長年の友人である岡倉は一度だけ、「おまえのブツはでかいからなあ」などと冗談
まじりにいってみたことがあるのだが、カズキに「岡倉のがちいさすぎるだけだろ」と、
これは本当に冗談だったしそれによって二人の友情にひびが入ることは決してなかったが
それ以来岡倉は二度とサイズについて話していない。
カズキが自分のものが、小柄で、更にまずいことに処女である斗貴子の中に入らないので
はないかということに考えが及ばない原因のもう一つは岡倉にあるといっても過言ではな
いだろう。
健康的なエロス心を持つカズキが普段目にする機会の多いポルノ関連の映像などはすべて
ぼかしが入っており、男のものがぼやぼやしててよく見えない。それらは明らかにカズキ
のものよりもちいさいのだが、先入観があるのでそのぼかしをとったらもっとおおきなも
のがでてくるのだろうと思っている。まさかあんなにちいさくはないだろう。まあ岡倉ほ
どじゃないけど(他意はない)。そんなカズキに岡倉はある日、どこで入手したかは不明だ
が洋モノのDVDを貸した。そのなかで、自分よりでかい男のものがこれまたでかい女の体
の中にすぽすぽ入っていくのを初めてぼかしなしに直接見たカズキは、ますます思い違い
をしてしまう。
あんなふうにはいっていくものなのか。
それがやや特殊なジャンルのものであることを、岡倉はカズキに告げるべきであっただろ
う。おかげで斗貴子はこれからえらい目にあう。
あんなふうにすぽんと入っていくものだと思っているので、あんなふうにすぽんと入れる
つもりだった。
それが惨劇のはじまり。
いよいよ決心をつけたカズキが更に力を込め斗貴子をベットに押さえ付け、短距離のスプ
リンターのように身構えるとすべての神経を自らのからだの中心に集める。
深呼吸の中で最後に一度だけ大きく息を吸い込み、とめると同時にかっと目を見開く。
どかんと飛び出した。
う お お お お お とでも言いそうな勢いで満身の力を込めて斗貴子の中に突入す
る。
斗貴子を固定する腕と、前進を試みる足の筋力とそれに連動する全てに意識を集中する。
とにかく全力をふりしぼって全てを筋力の運動に捧げているのでしばらく気付かなかった
のだが、ある瞬間、沈黙というより無音の世界の中でふと気付く。
あれ。
ぜんぜんはいってないぞ。
これほどまでに、カズキが本気を出して圧力を加え続けているのに。
なぜかちっとも入っていかない。
亀頭の先端がかろうじて埋まっただけだ。
こういう場合、カズキにおかしいとかなぜだろうなどという考え方は存在しない。
ただただ焦った。
どうしよう。早く入れないと。
早く入れないと斗貴子さんが。
それしかなかった。なにせ武装錬金が突撃槍なだけに、ちょっと止まって考えるなどとい
うなまやさしい選択肢はない。
一度思ったらあとは一途だ。
破壊的なほどに。
カズキのその後とった行動は、ただ一途に斗貴子のことを思っての行為だったがそれは見
事に正反対の結果を二人にもたらした。
早く入れることだけが斗貴子を救う道だと信じていた。
汗ばんできた手のひらを斗貴子の肩から外し、今度は腕の下から抱えるようにして手を回
し再び肩を掴む。その手に指がめり込むほどに力を込めると同時に、膝頭とつま先に圧力
をかけスプリングを軋ませる。
これ以上限界と思えた筋肉に更に無理を言わせ、腕の筋肉を盛り上がらせて、覆いかぶさ
るちいさな体を何かから守るように背を丸めて斗貴子のからだを引き寄せる。
限界を超えた運動を強いられた筋肉が震えだすほどに力をこめても、潰してしまいそうな
ほど斗貴子のからだを抱き締めても。
まだ入らない。
まったく入っていかない。
その事実にカズキは泣きたくなった。
このままじゃ斗貴子さんが。
斗貴子のからだに分け入っている自分の一部は、これほど力をこめても未だ半分も隠れて
いない。
斗貴子のからだの中の感覚はカズキが想像していたような甘美なものではなく、痛いを通
り越して苦しいものだった。
ぎゅうぎゅうと締めつけられて、ちぎれそうだ。
こんなに痛いものだとは思わなかった。
でも、やめるわけにはいかない。
やめられない。
中途半端に終わらせた時の斗貴子のからだのことを思いやったということもあるが同時に、
そのくるしいほどのその感覚を欲している自分がいたからだ。
額にしわがよるほどの力の解放と苦痛のなかでふ、と薄く目を開けながら思う。
このままでいたい。
そうして意識を自らの中心に集中させてみると、亀の歩みよりも遅く、しかし確実に斗貴
子の中へと突き進んでいくのが感じられた。
じり、じり、と。
ただ、その速度はあまりに遅すぎた。
もっと早くと思うのだがそれ以上は腰を突き上げたところで斗貴子の体が上へ上へと逃げ
るばかりで無意味だ。
それでも確実な成果が上がっていることに少しだけ元気を取り戻したカズキは、斗貴子を
想い、そのからだを容赦なく突き上げながら、しっかりと抱き締めた。
どれくらいそうしていたのか。
力を込めすぎた体の感覚も失いかけたころ。
時間の感覚がなくなっても進入を止めず、激痛に苛まれているカズキの陰茎の一番先端に、
ふいに、なにかが触れた。
ものすごくやさしくて、やわらかい。
その感覚に目を見開く。
さっきまで涙が滲むくらい苛められていたのに、ある瞬間、なんの脈絡もなくふんわりと
やさしくされて、しびれが走るような感覚の後、それがなんであるか考えるよりも先にか
らだが反応してしまった。
「あ………」
そのなにかにむけてどっと放ってしまう。
びくり、びくりと陰茎と全身を震わせて、堪えようもなく二度、三度と立て続けに。
一瞬の沈黙の後、は、と息を吐き出しそれが合図であるかのようにカズキの全身の感覚が
戻ってくる。いつの間にか最奥まで達し子宮口に触れてしまったカズキはそのまま射精し
てしまったのだ。
視界が霞む。
ものすごい疲労感だ。
はあはあと荒く息をつき、抱き締めるというよりは縋り付くようにしながらようやく活動
を再開した頭で考える。
自分が今したことを。
あ。
やばい。
どうしよう。
なかにだしてしまった。
避妊も何もしてないぞ。
真っ先に考えたことは(斗貴子さんに怒られる!)だった。
焦ったカズキは体を起こし今さらそんなことしたってどうしようもないのに慌てて二人の
繋がっている部位に目をやった。
しかし、二人の間に広がる、暗く黒い闇を見て再び思考が止まってしまう。
月明かりの中、斗貴子の膣から溢れ出したおびただしい量の出血が、カズキの腹までも染
めぬいている。
くぎづけの状態からようやく、のろのろと顔と瞳をあげて、そこではじめて斗貴子の顔を
見た。
月明かりの中、斗貴子の膣から溢れ出したおびただしい量の出血が、カズキの腹までも黒く
染めぬいている。
くぎづけの状態からようやく、のろのろと顔と瞳をあげて、そこではじめて斗貴子の顔を
見た。
澄んだ液体がつくる水面の澱みの向こうにあるものをみて、ようやくカズキは自分のした
ことに気が付く。
なにがあっても。
この世で一番傷つけたくないひとを。
傷つけてしまった。
耐えた。
耐えてみせた。
私は耐えぬいたぞ。
両手で自分自身の口というよりは顔半分を押さえつけて呻き声を出さぬよう耐えていた斗貴子はカズキの進入が止まったことを辛うじて感じ取ると、ぼうとする頭でそう考えた。
カズキに挿入され、その激痛の最中で途中からはもう訳がわからなくなっていた。
最初にめり込んできたカズキの硬い先端が与えるに激痛の大きさにこのままでは自分は叫びだしかねないことを悟るとととっさに両手で自らの口を塞いだ。
私が呻き声なんかあげたら、またカズキが心配してしまうじゃないか。
しかしその痛みはおよそ耐えられる範囲のものではなかった。
斗貴子は錬金の戦士であり、それまでのホムンクルスとの戦いの中で酷い傷を負い、一般の人間が経験しないような苦痛を幾度となく体験しそれに耐えてきたが、その中のどれと比較しても今回のものは相当なものだった。
今ここに、自分のからだがあるというより、激痛があるといったほうが、ただしいかもしれない。
カズキに壊れんばかりの勢いで抱きしめられ、痛いを通り越してなにがなんだか今自分の置かれている現状が理解できなくなっていった。なんだか世界が遠くなっていき、どこにいるのか、なにをしているのか、わからない。
実際は悶え暴れて逃げ出したくなるほどの痛みに斗貴子の脳が体の感覚を切り離したのだ。
そうしないとあまりの激痛に斗貴子の頭がやられてしまう。
更に、カズキの陰茎の大きさと、斗貴子の膣の小ささが痛みを与える時間を果てしないと感じられるほどに長くしていた。
しかし。
斗貴子は思った。
なんとか、耐えて見せたぞ。
私は、カズキを受け入れることができた。
あの痛みは正直恐ろしいものではあったが、なんとかこうして耐えて見せた。
いや、耐えられたのかどうか、なんとなくからだの感覚がないのはヤバいような気もするが、とりあえず、私は、カズキのすべてを受け入れることが、できたんだ。
なんだかうれしかった。
というかカズキは今どさくさにまぎれて射精しなかったか?などと思ったりもしたが、無理かと思われたカズキ自身を自分のからだの中におさめることができたという事実は、たとえその代償がどうであれ斗貴子に女としてのよろこびを齎すものだった。
受け入れることのできた自分が、うれしいし、誇らしい。
そうして考えている知らず知らずの内に斗貴子の目から流れ出した涙が、耳を伝い、髪の中を潜り抜け、枕に夜の闇の中では濃紺に見える染みをつくっている。
そのことに斗貴子は気づいてなかったが、ふと見ると、さっきまで天井があったはずの視界の真ん中にカズキの顔がある。
しかし、不思議なことに、すぐ目の前にあるその顔がよく見えない。
カズキの顔をよく見ようとして瞬きをし、目蓋に押され瞳の中にたまりつつあった涙がまなじりから零れ落ちるのを感じてようやく自分が泣いているのに気がついた。
その涙を追うようにすこしだけ首を動かして、その感覚で枕がしとどに濡れていることにも気づく。
私は、泣いてしまったのか。
首を戻し、病人のようにひどくゆっくりと瞬きを繰り返しながら改めてカズキの顔を見つめる。
さっきよりは、よく、見える。
うん。ちゃんと見えるぞ。
でもカズキ。
なんでキミは、そんな顔を、してるんだ?
「…ヵ…ズ………」
カズキに聞こうと思って声を出そうとしたのだが、なぜだかうまくしゃべれない。
のどがおかしい。
いや、のどというより、からだ全体がおかしい。
と、思ったところで忘れていた事実を思い出すかのように体の感覚、この場合“痛み”が戻ってくる。
それもぜんぶ。
どーんと貫かれた。
どうかなってしまいそうなほど、すごい激痛だ。
死にそうだ。
「ぁあ………ッ!」
手に込める力を緩めていたので声が漏れてしまう。
戻ってきた痛みの感覚に耐え切れず変な具合にぶるぶると震え、体を捩らせてしまうが、動くことによって二人が繋がっている部分が擦れ、更なる激痛に襲われ息ができなくなってしまう。
その痛みの大きさに本能的にまずいと感じた斗貴子は強制的に体の全ての動きを停止させる。
息すらつけない。
これ以上動いたら、死ぬかもしれない。
じっとしていよう。
じっとしていれば、少しずつ、少しずつ、からだがなれてくるはずだ。
だからカズキ。
キミもこのままでと思ってカズキを見るのだが、自分を見つめるカズキのなんとも形容し難い表情をみてものすごく嫌な予感がこみ上げる。
カズキはじっと自分の目を見つめている。
なぜカズキはそんな表情をしているんだ、この嫌な予感はなんだカズキはなにをしようとしているんだと考えのまとまらない斗貴子に対し、
唐突にその体に回していた自分の腕を抜きさり、始まりと同じように斗貴子の肩を恐ろしいほどの力でベットに押さえつけると、そこで嫌な予感が的中した斗貴子の「カズキまて……」の声も聞かずに、入れる時はどんなに頑張ってもできなかったことを、今度は抜くときに実行しようという勢いで一気に一思いにズボズボズボズボーーーーーーッと自らのものを引き抜いた。
雷鳴が轟いた、という感じ。
目から火花がぱーんと散った。
声にならない声をあげ、斗貴子の小さなからだがぐう、と仰け反り腹が浮き上がる。
引き抜かれたカズキの陰茎とともになかに溜まっていた斗貴子の血がドッと流れ出す。
ブリッヂをしているような体勢のまま一瞬だけ静止したあとゆるゆると元に戻り、斗貴子のからだがベットに沈み込んでいく。
涙に縁どられたその目は曖昧に閉じられている。
斗貴子の肌から一気に汗が噴き出す。その量が明らかに尋常でない。それは冷や汗か脂汗か、ぽろぽろとからだをつたい落ちると涙と同じようにシーツに染みを作った。
精魂尽き果てた、という感じでベットに沈み込んでいた斗貴子だったが。
涙の向こうに霞んで見えるカズキの心配そうな顔を見ると、元気が涌いてきた。
元気というのはこの場合、怒りです。
斗貴子は激怒した。
「…その中途半端なやさしさが……この私を傷つけるんだッッッ!!!」
などとちょっとかっこいい台詞を吐きながら恐ろしい勢いではね上がると、カズキがあっと思う間もなくその首を締め上げにかかった。
斗貴子さん、と名前を呼ぼうとしたのその言葉はぐげ、という別の音に変換されてしまう。
自分のことを考えてくれるのなら、せめてあんな乱暴にヒッこ抜くまねなんかして欲しくなかったし、なにより
もうちょっとこの一体感を味わっていたかったのにキミはどうしてそういつもいつも勘違いに満ちた行動をとるんだッ!!と
斗貴子がヒートアップし細い指のどこにそんな力があるのかというほどの力を込めて、喉を潰し呼吸を止めるというよりは
正確に頚動脈を圧迫し脳への血液の供給を絶たれたカズキの瞳が沈み込む夕日を逆立ちして見たかのように瞼のほうへと昇っていく。
ようするに白目を剥いて失神しかけたカズキだったがペンチか何かで絞められているような指の感覚がぱっとなくなったのでなんとか意識を取り戻し、げほげほ咳き込みながら暗くなった視界のなかで懸命に斗貴子の様子を窺う。
首から手を外した斗貴子の怒りに見開かれた目が今度はぎゅうと縮こまり、見る見る間に眉間にしわが寄ると、何事か呟くように、しかし決して聞こえない呻きを発したのが唇が震えたことによって分かった。
蜘蛛の足のように開かれた手がカズキの首からゆるゆる離れると今度は斗貴子の下腹部へと向かい、初産を経験した母親がはじめてわが子を抱くその手よりもさらにそっと優しく弱弱しく、恐る恐るという感じで押さえる。
そのまま背を丸めるようにしてベットに転がってしまう。
「と、斗貴子さん………?」
さっき言えなかった言葉をかけるがまったく反応しない。
汗と血で濡れた体を横たえたまま、怒ってるというより身動きが適わないといった呈だ。
そうとう痛いらしい。
目をぎゅっとつむり、全身しっとりと濡れたまま動かずにいる斗貴子を見ていたカズキはふと、何事か気付いたかのようにすると体を離し、斗貴子の知覚の中から消えた。
怒った手前はあるがさっきからずっと一緒だったカズキが自分から離れてしまったので不安というか喪失感があり、斗貴子は落ち着かない気分になったが、やはり動くことができない。
あんな風に怒ってカズキに悪いことをしたかな。
動けるようになったらカズキにあやまろう。
そう思っていたところで、音と気配でカズキが戻ってきたことに気付く。
また覆いかぶさってきた感覚があったのでなんとか頑張ってようやくうっすらと目を開けてみる。
横向きになっているので背中の方のカズキは見えないが斗貴子が手を置いているへそより下の辺りになにかをそっと押し付けてきた。
途端にいままで斗貴子を苛んでいた苦痛が緩みだし、それに吸い取られていくような感覚を覚える。
カズキが斗貴子さんなら絶対持ってると思ってベットの脇に散乱していた斗貴子の服のポケットから核鉄を持って来たのだ。
核鉄の治癒力によって痛みがどんどん吸い取られていく。
全てがなくなった訳ではないが、さっきまでの生き地獄と比べるとすごく楽になった。眉間によっていたしわがふっと緩み強張っていた体から力が抜けていく。
ようやくまともに息がつけるようになった斗貴子を見るとカズキが腰に腕を回してきた。
大分引いて来たとはいえ、まだ痛みの残る体で、もしかしてカズキは先ほどの行為の続きを欲しているのかと思った斗貴子は戦慄を覚えたが、カズキはといえば何をするでもなく、ただ腰に抱きついているだけだ。
尻とも腰とも言い難い、核鉄を当てている腹の裏側にあたる背中の下の部分にぴったりとくっついて離れない。
丁度、胸の辺りだなと思ったところで分かった。
カズキは、自分の核鉄でも斗貴子のきずを治そうとしているのだ。
確かに、以前カズキに(核鉄が二つあれば一つよりもその治癒力は増す)と言ったが。
あれを覚えていたのか。
カズキの場合その核鉄は体内に埋め込まれているのだし、そもそも核鉄自体が普通とは違うのだから、はたして効果があるのかどうか
疑問だが、斗貴子はただカズキのそんな自分に対する思い遣りが純粋に嬉しく、体の傷の痛みも、更に楽になっていくようだった。
腰の辺りに広く感じるカズキの体温と、核鉄を持つ手に重ねてくるカズキの手の平の温もりで心が満たされていく。
そうしていると、いくらもしないうちに強烈な眠気が襲ってきた。
もはや日付が替わってしまったが朝の決戦から始まり、学校での戦闘、ヴィクターとの対峙、カズキの砕けた核鉄、その体の変質、戦闘の終結。
そしてそのあと、正直に言ってこれが一番強烈だったが、カズキと交わったこと。
いろいろなことが起こりすぎた。
肉体的、精神的な疲労が頂点まで達したうえに、最後に、この世でおそらく最も大事な存在に抱かれ、その体温と胸の鼓動を感じて今までにない安らぎを感じ、親に抱かれた子供のように安堵感に包まれ、同時に眠くなっていく。
しだいに瞼が重くなり、それ以上目を開けていることが困難となる。
意識が薄らいでゆき、緩んだ手の中から核鉄がこぼれ落ちそうになったが、その手の上からカズキがぐっと押さえてくれる。
これならあんしんだ。
こなまま、カズキに全てをゆだねて。
最後に、背中から聞こえてくるカズキの「………ごめんね……」という呟きを聞いた所で斗貴子は完全に眠りについた。
(続く?)