困ったことになった。  
 
自分の部屋の机で、組んだ手に顔を乗せてぼんやりと考える。  
 
カズキと初めて体を重ねた日から大分経ったが、あれから毎日のようにカズキの部屋へと通っている。  
いくら本隊からなんの連絡も無いとはいえ、錬金の戦士である自分がこんなことばかりしてもいられないと思うのだが、自分を求めてくるカズキをどうしても拒めない。  
また、私自身がカズキを求めていたというのも事実だろう。  
色々と解決していない問題があり大きな不安があるのだが、カズキと体を合わせていると、それ以外のことが考えられなくなり、ただただ安堵感に包まれる。  
カズキに身を委ね、裸の胸に響いてくる黒い核金の脈動を感じていると、自意識というか理性のようなものが無くなり、無心になれる。  
そうして私は毎日のように………。  
…………………。  
違う。  
 
毎日のように、じゃないぞ。  
 
………毎日、だ。  
 
その事実に気付いて愕然としてしまう。  
なんていうか、あれから連日カズキとの性行為に及んでいる。  
一日たりともしていない日が無い。  
いや一日位はしていない日があるんじゃないか?と自問してみるが、  
本当に、ない。  
毎日してる。  
それも一度カズキにベットに押し倒されれば一回や二回では済まされないから本当の回数ということで考えると一体どれほどの………。  
 
………やめた。  
 
考えるだけ無駄というか、考えたくないというか、考えると体が反応してしまうというか…じゃなくて!  
 
机の上で頭を抱えてしまう。  
ふと、脇に置いた携帯電話に目を遣る。  
 
……来る。  
 
と思ったと同時に着信を知らせる光が点滅し、ウ゛ウ゛ウ゛と機体が震え、すぐに止る。  
 
カズキからのメールだ。  
 
内容は見なくても大体分かる。学生寮の消灯時間を回った頃になるといつも決まってカズキからのメールが入るのだ。  
 
(斗貴子さん、起きてる?)  
(今なにしてる?)  
(そういえば今日学校で岡倉がさ、………てことがあったんだよー)  
(斗貴子さんはもう数学の宿題やった?よかったら明日見せてくれないかなー。だめ?)  
 
雑談混じりのたいしたことも無い話題を振ってくるので、今日こそはカズキの部屋には行かないぞと強い心をもって、適当な返事を返してやったり、  
もう遅いから寝なさいといってみたり、また、無視してやることもあるのだが、とにかく私が自分の部屋に来ないということが分かるとカズキは最後にトドメの一撃を放ってくる。  
 
(………逢いたいな。)  
 
その文面を見ると心臓を鷲掴みにされたような苦しさというか、胸の圧迫感が強まり、カズキが部屋で一人ぼっちで膝を抱え淋しがっているという情景が問答無用で浮かび上がり、いてもたってもいられなくなってしまう  
 
着信を受けてから1分経たない内にカズキの部屋に駆けつけている自分がいる訳だがいつも腹立たしく思うのはそんなメールを送った張本人がくだらない漫画雑誌を読んでゲラゲラ笑っていることだ。  
笑った顔のままこちらに気付き、窓枠に足をかけ硬直している私を見て、ん?などという顔をする。  
「あれ?斗貴子さんどうしたの?」  
 
キミがよんだんじゃないか。  
 
私の中の怒りゲージがたまり目潰しの発動条件が揃うのが感じられるのだがこの内の半分は未遂に終わる。  
なんだかにこにこしながらベットを超えて迎えに来るとそのまま体に手を回し、ぐいと引き寄せるのでバランスを崩し前に倒れ込むようになってしまうのだがカズキが胸で受け止めてくれる。  
この時のタイミングがもう少し遅ければ、目潰しをキメることができるのに。  
カズキに包まれながら目潰しのきまらなかった日はそんなことを思う。  
そして抱き締めるカズキの腕が少し緩んだことに気付き顔を上げるとさっきと同じようににっこり笑ったままのカズキが唇を寄せてくる。  
そうなるともう、抵抗できない。  
触れ合ったやわらかい感触の後、唇を割ってぬるりと入ってくるカズキの舌を感じながら思う。  
 
私は、カズキのとりこだ。  
 
 
結局、また、カズキと体を合わせることになる。  
 
そうして、私の困惑は、増すばかりだ。  
 
 
斗貴子さん今日も来てくれた。  
嬉しくて、顔がへらへら笑ってしまう。  
よく分かんないけど斗貴子さんオレの部屋に来るといつも怒ってるような顔して、ほっとくと目潰しされるからなるべく早いうちに窓辺に迎えに行って抱き締める。  
そうすると大抵いつも、大人しくなってくれる。  
目が合ったので、そのままキスする。  
唇の感触だけじゃ物足りないから舌を入れて斗貴子さんの口の中身も舐める。  
そうしているとその細い体からくたりと力が抜けていくのが分かる。  
そんな斗貴子さんを感じていると、オレの体も反応してくる。  
一旦キスをやめてとろんとしている斗貴子さんの表情を見ながらもう一度抱き寄せる。  
それも、今度は腰に手を置いて、そこを中心にしてぐっと自分の体に引き寄せる。  
オレの硬くなったものに斗貴子さんが気付くように。  
「ん…。」  
ぴったりと押し付けているのですぐに気付いたみたいだ。目がきょときょと泳いだ後、そのまま俯いてしまう。  
きれいに切り揃えられた髪が割れて、そこから覗く耳が赤くなっているのを確認したけど、まだ、しない。  
緊張したのか斗貴子さんが身を竦ませてしまったからだ。  
もっとリラックスしてほしいのに。  
体を固くしてしまった斗貴子さんを見ていると、初めてした時のことを思い出してしまう。  
 
あれは、本当にひどいことをした。  
 
斗貴子さんに申し訳ないことをした。  
 
痛がっている斗貴子さんに気付かずに無理矢理に押し込んで、斗貴子さんを酷く傷付けてしまった。  
今思い出しても、胸が痛む。  
だからもう、絶対にそんなことの無いように、斗貴子さんとする時は細心の注意を払う。  
 
また、体が柔らかくなるように肩や背中を撫でて、時々そのきれいなうなじにキスする。  
そのままそろり、と舌を這わせると「あ………ぅ…」と小さく声を漏らしてくる。  
オレの背中に回した手には力がこもるけど、腰から下は力が抜けたように体重を預けてくる。  
ぐずぐずと腰砕けになってしまった斗貴子さんを支えて、そろそろいいかなと思う。  
頬を撫でていた手を顎へと移動させて、ちょっと持ち上げてオレのほうを向いてもらう。  
小さな子供みたいな表情になってしまった斗貴子さんの目をじっと見つめてから聞いた。  
 
「電気、消したほうがいい?」  
 
 
 
暗くした部屋の中で斗貴子さんをベットに横たえる。  
そのまま間を空けずにもう一度、口を塞ぐ。  
ゆっくりと舌を絡ませながら片手でそっと頬を撫でる。その手を耳たぶまで移動させ摩ったり、さらさらした髪の毛を撫でたりしながらちょっとずつ下に降ろしていく。  
顎から喉元を辿り、その下のゆるやかな起伏の上にたどり着く。軽く撫でただけで「ンン………」と唇の下から声が漏れた。  
唇を離して、今度は頬を赤らめている斗貴子さんの表情を真正面から見つめながら指先で撫でる。斗貴子さんは胸がすごく感じるみたいだけど、その中でもやっぱり乳首が一番感じるってことを知っているので大体このあたりかな?というところで重点的に動かす。  
斗貴子さんの目がじわりと潤んだようになって、大きな反応は示さないものの顔の横にある手がシーツをキュッと握り締めるのが分かった。  
蒸し暑い夜だから斗貴子さんは薄着だ。  
今着ている服も薄い生地を使っているものなので布越しの感覚があるみたいだ。  
 
「ここ、感じるの?」  
斗貴子さんの口から直接聞きたくてそう言うと、なんだか怖いものを見るような目でオレを見た後、暫くの間もじもじしてそれからやっと、目をぎゅっと瞑りながらこくん、と頷いた。  
そんな斗貴子さんを見ていると愛しさが込み上げてくる。  
同時に斗貴子さんが欲しいという強烈な欲望に支配されて、オレと斗貴子さんの間を邪魔するその服を脱がすのももどかしいと思いながらぐいと捲りあげると「ひゃ……」と声を上げる斗貴子さんに構わずその胸にむしゃぶりついた。  
あ。  
でもまだブラジャーがのこってる。  
もう斗貴子さんの服を脱がすのは慣れているので背中に腕を回し、片手で簡単にホックを外してしまう。  
もう一度、シャツと共にブラジャーも捲り上げて、露になったその小さな膨らみを両手できゅっと握った。  
「あう……………!」  
今度こそ仰け反って反応する斗貴子さんにオレ自身も我慢できなくなりもう一度斗貴子さんの唇を自分の唇で塞ぎながら強く胸を揉んだ。  
オレの唇の下で斗貴子さんの声にならない声が響いてくる。  
早く、早くと急かされる様に斗貴子さんの胸を掴んでいた手を滑らせて、両足の隙間に入れようとした。  
「……………だめ…ッ!」  
ぐいと押しのけようとする力とはっとするような強い声に驚き、一瞬で我に返った。  
「そこは…ま、まだ、だめだ………」  
胸を腕で庇い、じりじりと後ずさりしながら言う斗貴子さんを見て自分の顔から血の気が引くのが分かる。  
 
また、やってしまった。  
 
斗貴子さんは、無理矢理にされるのが、嫌なのに。  
焦って両足の間を触ろうとすると、いつも、拒まれてしまう。  
 
初めての時を思い出して、怖いのかもしれない。  
 
ちゃんと、ゆっくりキスしたり、撫でたり、舐めたりして十分に時間をかけてからでないと、ひどくいやがる。  
 
だから、やさしくしないといけないのに。  
 
なのに、オレは。  
 
斗貴子さんに申し訳がなくて、そのままなにもできなくなってしまうのだが、そんなオレにいつも斗貴子さんはやさしく声をかけてくれる。  
「あ…す、すまないカズキ…その………」  
なんで斗貴子さんが謝るんだろう。悪いのはオレの方なのに。  
「…ごめんね」  
謝るとなぜか斗貴子さんはひどく慌てて「いや、その、いいんだカズキ。謝るんじゃない。それより、その、その…」へんに口篭る。  
「うん、なに斗貴子さん?」  
斗貴子さんの言うことを一字一句たりとも聞き逃すものかと身を乗り出して聞こうとするとなんだか困った様な顔をしながら言う。  
「その…その、むね……もっと……え、と…気持ち良かったから…その……」  
「むね?胸がいいんだね?斗貴子さん!」  
よし、分かった!  
やっぱり胸が気持ちいいんだね!  
そうと分かればさっきのお詫びも兼ねて、斗貴子さんをいっぱい感じさせてあげようと再度押し倒して思いっきり胸を攻める。  
揉んだり舐めたりちょっと噛んだり色々して刺激を与えると斗貴子さんは仰け反ったりかわいい声をあげたりしながら身を捩って逃れようとする。  
でも今度は気持ちいいからだと分かっているので絶対に逃がさない。  
他にも耳や背中を舐めたりして、斗貴子さんがぐったりするまで攻めてからようやくそろそろと斗貴子さんの秘所に手をのばす。  
ゆっくり手を移動させていっても、今度はいやがらない。  
こんなに攻めたんだから、ショーツがくったりと濡れている。  
これならよし!  
オレはゆっくりと最後に残った斗貴子さんの下着を脱がしにかかった。  
 
 
今日はまた、あぶなかったな。  
情事の後(またしてもカウントするのが億劫になるほどイカされてしまったが)隣で眠りこけるカズキを見ながらそう思った。  
あやうくあのことが、カズキにバレそうになった。  
そのせいで焦ってしまい、おかげでカズキを心配させるはめになってしまった。  
すまなかったな、カズキ。  
すやすやとねむりこけるカズキの髪を撫でながら心の中で呟いてみる。  
これからは気を付けないと、と思うのだがじゃあどうやって、というのも分からない。  
はあ、と溜め息をつく。  
 
ああ、どうしよう。  
 
こんなこと、カズキにいえない。  
 
カズキとセックスするようになってから、からだが濡れてしまってどうしようもないんだなんて。  
 
 

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