ただ、カズキに、報いたかった。
それだけなのに。
カズキはもはや私にとって、なくてはならない存在だ。
あの、一番初めの春の夜の出会いから、そう月日を経たわけではないのに、カズキの存在は私の中で肥大していくばかりで、とどまる所を知らない。
自らを省みずに、見ず知らずの他人を助けようとする少年に好感を感じた。
最初はその程度のことだったが、カズキと触れ合ううちに、その人間性を知るうちに、私の心には、それまでに感じたことのなかったゆらぎのようなものが湧き出てくるようになった。
カズキと目が合うと、こころがぐらりとゆれる。
カズキがにっこり微笑むと、胸が熱くなる。
そして、カズキに抱き寄せられた時、その体に包み込まれた時。
その太陽のようなあたたかさに、身もこころも蕩けてしまう。
暗くなった部屋の中で、裸にした私を組み敷いて、そしてその、心の内まで見透かされてしまいそうな真直ぐな視線で、私と私の裸身をじっと見つめるその眼。
その眼はどこまでも、かぎりなく、やさしい。
そのまなざしそのままに、カズキは、私のからだを、やさしく抱いてくれる。
愛しんでくれる。
いつも、いつも、カズキに、してもらっている。
だから今度は、私が、カズキに。
カズキにしてあげたかった。
カズキにしてもらうばかりでなく、私から、カズキにしてあげたかった。
ただ、それだけなのに。
さっきから身動きひとつできない。
オレの息子をじっとみつめたまま、斗貴子さんがぴくりとも動かないからだ。
何しようとしてるのか分からないから、オレもなんにもできない。
だって、なにかしようとする斗貴子さんの邪魔をすると、目潰しとか抜き手とかバルスカとか目は嫌か?とかならば四肢切断とか臓物をブチ撒けとか地獄の苦しみをとかあとシンプルに死ねとかあるし。
じっとしてるしかない。
でもとりあえず目は動かせるから斗貴子さんの顔を見ることはできる。
斗貴子さんのきれいな顔をみつめる。
この位置だと斗貴子さんを上から見下ろす形になるので、鼻の上を走る顔の傷が、よく見えた。
すると、さっきまでぱか、と開いていた斗貴子さんの口がゆるゆると閉じていくのが分かった。
あれ?と思う間に斗貴子さんの口は閉じられてしまった。
それでも相変わらず斗気子さんが動かないでいるのでとりあえずオレも動けないし、なんだったんだろうと思う半面、今日の斗貴子さんはなんだかいやに目がキラキラしているなとも思った。
目の中がキラキラとした輝きでいっぱいになり、こぼれおちそうだ。
と、思っていたら、本当にこぼれた。
斗貴子さんの両目から、輝きが、ひとつ、ふたつと頬を伝って床に落ちた。
敷物のうえに、小さなしみをつくる。
斗貴子さん………?
その輝きが、まるで宝石のように、あまりに綺麗に見えたので、魅入ってしまっていたオレは、斗貴子さんが泣いているという事実をしばらくの間認識することができなかった。
斗貴子さんが。
泣いている。
さっきまでオレがのんきにきれいだな、と思って見つめていたその顔を、悲しそうというよりは苦しそうに歪めて、ぽろぽろと涙をこぼしながらくちびるを噛み締めている。
オレの両方の腿の上に置いていたそれぞれの手を、ぎゅっと握り締めた。
そのままだんだんと俯いて行き、最後にその顔がさらさらとした前髪に隠され完全に見えなくなったところで、ようやく、オレは正気に戻った。
「と、斗貴子さん!どうしたの!?なんで泣いて…」
ようやく声をかけることができたが、その声に気付いた斗貴子さんがはっとして顔を上げたので、オレはまた、言葉を失ってしまった。
こんなの、絶対に見たくない、と思った。
斗貴子さんの泣き顔なんて、絶対に、見たくない。
なのに、斗貴子さんが、泣いている。
こんなに、辛そうな顔をして。
「………と、きこ…さん………」
まだ、オレの前に膝をついたままの斗貴子さんの肩に、震える手を置いた。
なんで泣いてるの、と聞いたが答えてくれない。ただ、オレをじっとみつめながらふるふると力なく首を横に振るばかりだ。
「……なんでもない………」
軽く咳をしながらそれだけをオレに告げた。
涙を止めようとしているのか両手で目を拭い、なんでもない、だいじょうぶだと目を瞬かせながら再度、オレにそう言った。
そうして多分、オレに心配をかけさせない様にと思ったのだろう、斗貴子さんは瞬きを繰り返しながら最後にオレを真直ぐにみつめた。
それから、めったにないことだが、オレにわらってみせた。
泣いている親を見て心配して寄ってきた子供に、なんでもないよといってみせる笑顔のようだったが、すぐにその目から隠しようもなく涙が溢れてくるのを止められないようだった。
胸が締め付けられた。
衝動的に、斗貴子さんのからだに腕をまわして一気に持ち上げるとびくりと硬直するのにも構わず力の限り抱き締めた。
どうしたの、斗貴子さん。
なんで泣いてるの。
なにがあったの。
さっきのが、いやだったの?
いたかったの?
思いつく限りの言葉を並べ聞いてみるが、斗貴子さんはオレの胸の中で首をふるばかりだ。
抱き締められたまま、ちいさく肩を震わせて、声を押し殺して泣いている。
無力な自分が情けなかった。
オレは、斗貴子さんの力には、なれないのかな。
その悲しみを少しでも吸い取りたい。
斗貴子さんの変わりにオレが、悲しいことも、苦しいことも引き受けるから、斗貴子さんにだけは、辛い目にあって欲しくない。
その悲しみを少しでもこの身に移そうと、抱き締めた腕を離さなかった。
年甲斐もなく泣き出したりして、カズキに心配をかけてしまった。
泣いたのなんて、何年ぶりだろう。
いや、そういえばカズキと初めてした時も私は泣いてしまったが、あれとは少し違う。
肉体的な苦痛や刺激に対して涙が零れたのではなく、精神的に、こころが揺さぶられて泣く、というのは長いことなかった感覚だった。
小さな子供がよく泣くのは、自らの力では絶対に対処しきれない事象に直面した時に、周囲の助けを求めて大声を出すのだそうだ。
そうして助けを呼ぶらしい。
情けないことに、どうも私も同じ心境だったらしい。
どうやっても、どう頑張っても口に入れることが不可能なカズキのいちもつを目の前にして、自分の無力さを実感した。
ぜったいむりだ。
不可能だ。
では、その無理を押したらどうなるか。
不可能を可能にするべく努力したらどうなるのか。
答え: あごがはずれる。
……………………………。
できない、と感じた所でなにやら目が熱くなり、泣いてしまったが、その感覚も久しぶりだったので、泣き止める時はどうするのか、その昔、私は泣いた時、どうやっていたのかがどうしても思い出せなくて、長い間涙を止めることができなかった。
しかし、カズキが私のからだを抱き締めてくれたので、今はもう、だいぶ落ち着くことができた。
少しずつ精神が安定してくると、自分の状況が分かってくる。
カズキがしっかりと抱き締めてくれるのはいいが、少しきつかった。
ほんの少し体をもぞもぞと動かすと、カズキが腕の拘束を少し緩めてくれる。
私を見下ろしてくるカズキと目が合った。
当然何か言ってくると思ったのでカズキの言葉を待ったが、この日はなぜか何も言ってこなかった。
なんだか私よりも悲しそうに見えるカズキの表情を見て不思議に思ったが、私は更にもうひとつ、なにか違和感を感じていることにも気が付いた。
暫く考えて、ようやくその違和感の正体が分かった。
今、私とカズキの体はぴったりとくっついている。
カズキがしっかりと抱き寄せているので、その胸板で私のちいさな胸はつぶれ、腹同士も隙間なくくっついている。
私は、カズキの腿の上に乗っている。
とすると。
カズキの陰茎はどこに行ったんだ?
あんなに甚だしいサイズで、しかも勃起しているのだから、普通体を抱かれたら腹の辺りにでもその存在を感じるはずだ。
と言うか、それが邪魔になって、体をぴったりとくっつけるなんて芸当はできないはずだ(なんせあのでかさだ)。
でも、どこにもそんな感触はない。
勃起している状態のカズキと体を隙間無くくっつけるためには、それこそ、カズキを、私の中に収めないと………。
もちろん今は、ちがう。
してみると、“カズキ”は、いったいどこへ行ったんだ?
その答えは、カズキが私の体を軽く抱き直した時に判明した。
体の位置が動いた時に、下着を着けていない私の両足の間、付け根の所、外陰部に、それこそしっとりと、まるでそれが自分の体の一部であるかのように直にくっついていたものがぬるりとずれたので分かった。
“カズキ”の上にすわっていたんだ。
そうかそこにあったのかと思う反面、先程カズキに舐められた時の潤いで、陰唇とクリトリスがぬるりとこすれて、声こそ上げなかったが、丸太のようなカズキの芯の硬いじんわりとした熱い感覚と、ちりちりとした快感で忘れていた感情が蘇り、同時に昂った。
いやしかし座れるってのはどうなんだいくらなんでもと余計なことも考えそうになったがそれを押しのける。
熱くなったからだで、今、私に出来ることを考えた。
そうだ。
口に含むことが無理でも、舌を這わせるぐらいなら、できるじゃないか。
カズキの胸元をじっと見つめて、決心した。
私が出来る、精一杯のことを、カズキにしてあげよう。
涙をぬぐって短くため息をつくと、斗貴子さんはなんだかさっぱりした顔でオレを見た。
さっきまでの悲しそうな顔と比べたらこっちの顔のほうがずっといいけど、それにしてもじゃあ、あの泣いたのはいったいなんだったんだろう、と思ってしまう。
「…カズキ」
ぼんやりしていたオレに斗貴子さんが声をかけてきた。
「え、な…なに………?」
オレを見つめる斗貴子さんの表情はすでに、年上の、お姉さんっていう感じの落ち着いたものになっていた。ちょっと視線を下に向けたあと、もう一度オレを見て言った。
「………じっとしているんだぞ」
「え?」
そのままオレの腕の中からするりと抜け出すと、さっきと同じようにベットの下で、オレの前に膝をついてかがみこんだ。さっきまで斗貴子さんを座らせていたオレの陰茎をじっと見つめている。
と、そのちいさな口からほんの少しだけ舌先が覗くのが分かった。同時に斗貴子さんの顔が、そろりそろりとオレに近付いてくる。
接近する速度があまりにゆっくりなので、オレには考える時間が十分にあった。
斗貴子さんが、なにをしようとしているのか。
さっき、なにをしようとしたのか。
これから、オレに、してくれることを。
ようやく分かった。
分かった途端にカッとして顔が熱くなった。
そんな。
斗貴子さんが、そんなこと。
そんなこと、斗貴子さんにさせるなんて、そんな………。
それを斗貴子さんにさせるなんて考えたこともなかった。でも、今まさに、斗貴子さんがオレに、それをしようとしてくれているという事実を目の当たりにすると、なんだかすごく背徳的な、悪いことのような気がして、それがいけないことだと思えてしまう。
それをさせたら斗貴子さんが汚れてしまうような気がする。きれいな斗貴子さんが、汚れてしまう。
やめさせようと、斗貴子さんの接近から逃げようとしてはっと思い出した。さっき斗貴子さんはオレにじっとしてろといったな。
………うごけない。
そうしている間にも斗貴子さんは少しずつ、着実に近付いてくる。じりじりしているオレにお構いなしに。
もうあと少し、残りほんの数センチという所まで近づくと、斗貴子さんはいったん舌を口の中に戻した。そのままそっと目を閉じる。
オレも、斗貴子さんにつられて思わずぎゅっと目をつぶってしまったが、なんだか怖いような、でも待ち遠しいような、よく分からない気分になり、もう一度目を開けた。
だから、オレは、斗貴子さんがオレ自身ににそっとキスしてくれたところを見ることができた。
そして、その、ふんわりとオレに押し付けられたやわらかい唇の感触を味わうことができた。
どくん、と核金が鳴った。
くちびるにじっとりと広がる熱い感触に一気に心臓が高鳴った。
顔面に血流が集中する。鏡で見なくても自分が真っ赤になっているのが分かる。顔がものすごく、あつい。
私のできる範囲で精一杯のことをしようと決心した。
それで先程と同じ体勢になり、カズキを目の前に据えた。
これを舐めよう、と思ったのだ。その行為に対する抵抗は無かった。
自分でも意外だったが、男性の生殖器に口をつけて舌を這わせるということを、実際にカズキを眼前にひかえ考えてみても、嫌だとか汚いなどとは思えなかった。むしろ、そうしてあげたいという思いのほうが強い。
そう思ったのが事実なのに、なかなか実際の行動には移せなかった。なぜならでかすぎてどこから手を、いや口をつけていいのか分からなかったからだ。
とりあえず舌を出してみたのはいいが、さてこれのいったいどこから…と考えると動き出せない。カズキのものは、とにかくでかいので必然的にその表面積も大きな値を示すことになる。選ぶ場所が多いので、最初の着地点はどこに、と考え出すとかえって
動き出し辛くなる。どこでもいいだろうという自分の内からの声もあるが、ではその(どこでもいい)の“どこ”とはどこのことだと一旦考え出すと、止まらない。
いつまでも考えがまとまらないので私自身が痺れを切らし、このまま近づいていって最初に触れたところでいいじゃないかと進撃を開始した。
じりじりと近づいていくと、カズキから物凄い圧迫感を受ける。
いつもは気恥ずかしさもあってカズキの体の下のそれから故意に目を逸らし、ただ時々ちらりと目に入るだけだったので、こうして顔の真正面から迫ってくるそれを見ると恐ろしいまでの迫力と存在感があり、圧倒される。
なんだか怖いような気がして、決して嫌ではないのに、それに口をつけるのをためらってしまう。しかし、そこは先程の自分の決心を思い出し、気を奮い立たせてなおも近づいていく。
そうして気が付いたら目を閉じてしまっていた。
閉じられた視覚の中、くちびるに、そっと何かが触れたのが感じられた。
「ふぁ………」
カズキではなく、私の声が、カズキの隙間から漏れた。そのなんともいえない感触で、精神的に達してしまいそうになる。そっと目を開けて見ると、私の口はカズキの先端より少しずれた、なんというのだろうか亀頭のくびれのところに触れている。
そういえば直進していった時カズキから与えられる威圧感に耐えかねて軌道をずらしてしまったような気がする。
少し首を傾げるようにして、カズキに触れている。
もっとすんなりできると思っていたが、実際にこの状態まで持ってきても、なかなか次に進めない。全身が、特に顔が強張ってしまい動けない。くちびるに触れるカズキの感触が私を支配する。
………くちびる?
私は舌を出していたはずなのに、なぜくちびるの感触しかないんだ?舌はどこにいったんだと、自分のことなのに把握できていなかったが、私の舌はカズキに触れる瞬間、怯えて口の中にひゅっと戻ってしまっていたらしい。舌の付け根の辺りでまるまっていた。
………自分のことながら情けない、と思いながらそろそろと舌を戻していく。歯と唇の上を越えてやっとカズキに到達する。
ぴと。
と、カズキに触れた。
「……へぁぁ………」
その感触にどきりとして、また変な声が出てしまう。なんか物凄く間抜けな声だ。物凄く恥ずかしい。カズキに馬鹿にされるかと不安に思い視線を上へ、カズキのほうへと上げたが、カズキは私のほうを見ていなかった。
どこか別のほうを見ている。どこを見ているのかなと思う前にその目がぎゅっと閉じられた。
「…………………………………くぅ…」
カズキから小さな声が漏れた。
……………カズキ、感じているのかな。
気恥ずかしさではなく、今度は嬉しさで頬が熱くなるのが分かった。
ドキドキしながら、ただ触れているだけだった舌をそろり、と動かしてみる。
「…………はぅ…!」
少し動かしただけなのにカズキの反応は大きかった。私自身もその不思議な舌触りにぞくりとしたが、カズキはもっとすごいらしい。
ぐうと前かがみになり私の頭を掴みかけだが、はっとしたように手を離し今度はその手をぎゅっと握り締める。
「…と、きこ…さん………」
そう言って目を開けて私を見るカズキのその表情に、鳥肌が立った。
いつもは、私を下に組み敷いて、私のすべてを支配するカズキが、今度はその私を、すがるような目で見てくる。
お互いの立場が逆転したようだった。
なんだかうれしい。
それでもまだ私は緊張していて、うっかりすると手や口が震えだしてしまいそうだったが、なんとかそれを抑え、カズキの表情やその反応を見ながらゆっくりと舌を動かしだした。
「うわぁ………」
口の中で、ぴちゃぴちゃと小さな水音がする。
ぴくり、とカズキが震えるのが分かる。そんなに感じるのだろうか。ただちょっと舐めているだけでたいしたことはしていないつもりだが。一旦口を離し聞いてみる。
「……気持ちいいのか?」
真っ赤になったカズキがこくこくと一生懸命に頷く。そればかりでなく。もういいから、と体を離そうとする。
ここで私は、ひとつの天啓を得たような気がした。
性行為のとき、いつもカズキは私がやめろと言うのも聞かずに攻めてくる。快感が大きすぎて、おかしくなってしまいそうで、それが怖くていい加減やめるように言うのだが、むしろそう言うと余計ひどく刺激してくる。
あとになってカズキはやりすぎた、ごめんねと謝り、もうしないよと言ってくれるのだが守ったためしがない。またその時がくれば、私が逃げようとするのを押さえつけてでも攻めてくる。
なぜそこまでするのか分からなかった。
だが、今カズキが快感に耐えている表情を見ていて、それがなぜだか分かったような気がする。
要するに、カズキにもっと、気持ちよくなって欲しいんだ。
逃がさないぞ、と言う思いでカズキの腰に片手を回し、もう片方の手を聳え立つ陰茎にそえる。斗貴子さん、と許しを請うような
声と表情のカズキを威圧するような顔を作り、じっとしてろいったろ?と制すると、本当はカズキが感じてくれるのがうれしくて笑ってしまいそうな顔を隠すためにわざとうつむき、再度攻撃を開始した。
ぴちゃ、ぴちゃと音を立てながらカズキの勃起した陰茎を舐めあげていく。
唾液を潤滑液として、がっしりとした重量感のあるそれに私の舌を這わせ、ぬるぬると滑らせていく。
時々ぱくりと齧り付くようにして、くちびるをぴったりと密着させると、ちゅっ、ちゅっとキスするようにぬりつけた自らの唾液を
吸い取る。亀頭から徐々に根元の方へと移動して行き、覗き込むようにして首を傾けると裏側も舐めて、丁度付け根の部分に到達すると陰毛が舌に与える変わった感触に心を奪われながらこちらはふにゃふにゃとした陰嚢をくちびるを使い咥えてみる。
どうすればいいのか、技なんてものを私は持っていないが、口でカズキの性器に触れていると気持ちが昂ぶり、考える前に、何かを思う前にからだが自然に動く。
くちびるや、舌に触れるカズキがいとおしい。
一心に舌を使いながら、私はこれが大好きだ、と思ってしまう。
そんなことを考えてしまう自分がよく分からないが、本当に、心の底からそう思った。これがカズキの一部なんだと思うと、いとおしくてたまらない。その全てにキスしたい、私の舌で愛撫してあげたいという耐えようの無い衝動が込み上げてくる。
夢中になって舌を使いながらカズキの様子を見上げる。
んん、と何かに耐えるような押し殺した声を漏らしながら時々びくんと痙攣する。なんだか苦しそうな表情で私と目が合うと決まって、もういいよ、もういいからと言ってやめさせようとする。そんなカズキを見るのは初めてだ。
ふたりともお互いが初めての相手だったのに、いつのまにか、私がカズキに攻められなかされるというパターンになっていた。
いつもカズキに主導権を握られている。スタート地点では同じところにいたはずなのに、毎回カズキにいい様に弄ばれるだけで抵抗もできず、いっぱいいっぱいだ。
挿入して腰を突き上げてくる時も私が喘ぐ様をじっと見つめては「斗貴子さん、気持ちいい…?」とか突き上げる角度を少し変えて違うあて方をし、私が大きい声を出してしまうと「こうすると、気持ちいいでしょ…?」とか「こうすると、どう?」などと言って余裕極まりない。
そのカズキを、今は私が、弄んでいる。
「カズキは…ここが、感じるのか…?」
「ん…こうすると、どうだ…?」
「カズキ、気持ちいいか…?」
一々カズキに聞いてしまう。自分だってカズキにこんなこと聞かれるのは恥ずかしかったのに、なせか同じことをしてしまう。
なぜだか聞きたくなるし、そこでカズキが「気持ちいい…」とでも言おうものならそうかカズキはここが好きなのかそうかそうかとその部分をもっと刺激したくなる。
いつも攻められているからその復讐、というわけではないし、加虐心があるわけでもない。
ただ、心の奥底から込み上げてくる何かがあるだけだ。
カズキ。
君の気持ちが少し分かったよ。