ヴィクターとの決戦に勝利し、武藤を人間に戻す方法も見つけ、俺たちの長い逃避行は終わった。  
「先輩、どこにいるんですか、先輩〜!」  
俺は先輩を探して、あたりをうろついていた。目の前にピンクの浮遊物体を見つけ、俺は声をかける。  
「おい、ションベンチビ」  
「誰がションベンチビだっ!御前と言え!」  
こいつは武装錬金なのに態度がでかい。こわがりでしょっちゅうちびってるくせに。  
武藤を戻すとき一度きり会った本体は、割りと美人な女だったが…俺には先輩ほど魅力的じゃなかったな。  
ま、その女とは言葉も交わさなかったけど。  
「先輩見なかったか?」  
「ツムリンとカズキン探してンのか〜?あの二人なら、ほれ、こっちこっち」  
 
「見ものだぜ」  
 
俺はこの声を、この声につられて付いていったことを、憎むことになる。  
 
俺が見たのは、二人が抱き合っている光景だった。  
あの夜の浜辺のときと同じように、俺は動けなくなる。  
何か、武藤と先輩が言葉を交わしている。甘く、熱く。  
そして、斗貴子先輩から、武藤に顔を近づけ…唇を…  
ガサッ…  
俺はあとじさった。そんな、先輩…  
長い接吻の後、武藤の口が開いた。  
「…剛太に悪いな。あいつ、斗貴子さんのこと、好きなのに…」  
 
なんだ…と…!?  
 
俺はその場から逃げ出していた。どこをどうやって来たのかは、覚えていない。  
何かの気配が近づいてきた。  
「ゴーチン」  
「お前か…」俺は憎しみを込めてそいつに言った。「なんであんな光景を俺に見せた…」  
俺は涙を流しながら言った。黒い言葉を、腹の底から。  
「許さねえぞ…お前も…武藤も…絶対に…もう仲間でも何でもない…!!」  
「ゴー…」  
「あっちへ行け!俺の目の前から消えろ!!」  
俺は手元にあった石を投げつけた。そいつはとっとと逃げてしまった。  
 
俺は与えられたホテルの一室で飲んだくれていた。  
「ちくしょお…ちくしょお…」  
…剛太に悪いな。  
武藤が哀れみでそう言ったのか、あるいは本当にすまないと思ってそう言ったのか俺にはわからない。  
だがどちらにしても、俺のプライドはズタズタだ。  
「先輩…!!」  
先輩の心は、ずっとあいつの下にあった。わかりきっていた筈なのに。なのに…  
トントン。  
ノックの音。出たくもなかったが、戦士長やらの勅令の可能性もある以上、出ないわけにもいかない。  
俺はのぞき穴から相手の顔を見た。そこには思いがけない人物がいた。  
…何故、こいつがここに?  
俺はチェーンを付けたまま、ドアを開けた。そこには、長い黒髪の女。  
彼女は開口一番言った。  
「あら、お酒臭い。」  
ヤベッ!俺はさっきまで飲んだくれていたのだ。  
女はくすっ、と笑い、「ご一緒していいかしら?」と言った。「口止め料。」  
 
かくして俺はー、元信奉者の女、早坂桜花を自分の部屋に招き入れる羽目になってしまったのである。  
 
この女は危険だ。  
 
ホムンクルス組織の下で働いていた信奉者。戦団に保護された後も、武藤を戻すためとはいえ、ホムンクルスと結託していた。  
あの自動人形…御前サマが失礼をしたので謝りに…とかいい子ぶっているが、腹の底では何を考えているのやら。  
(でも飲酒のこと戦士長に告げ口されたらな…)  
なるべく穏便に帰ってもらおう。と俺は思っていた。  
女はチューハイ缶を開け、ニコニコ笑ってこう言った。  
「ヤケ酒するほどショックだった?」  
「あたりまえだろ…」  
先輩にずっと恋してた。その先輩が…あんな…  
俺はがっくりと肩を落とす。  
「あの程度のキスでねえ…口がくっついただけじゃない。」  
「き、キスにあの程度もその程度もねーだろ!」  
「あらあら、ひょっとして経験なし?」  
グサッ!  
図星を突かれた。そうだ。俺はファーストキッスもまだのチェリー君なのだ。  
「反応が可愛いわね。」  
「うるせーよ!」  
俺は情けねーやら、恥かしいやらで顔が真っ赤だった。  
一体何なんだよ!この女は!  
「まあまあ、じきにあなたにもいい人が見つかるわよ。でもその前に、大人のキスを覚えておいてもいいかしら」  
「うるせえ、適当なこと言ってんじゃ…」  
俺は顔を女に近づけてしまった。女は白い手を俺の頬に添える。  
「こうするのよ」  
「!!!」  
いきなりその小悪魔的な女の顔がアップになり、唇が、押し当てられた。  
 
あまりのことに、俺は固まってしまった。何すんだ馬鹿、と振りほどけばよかったのに。  
お、おれのファースト…キス…  
眩暈がするほど手馴れている。俺はいつの間にか目を閉じ、キスの感触に酔いしれていた。  
ああ、先輩…ごめんなさい…  
舌を挿入される。甘いものがトロリと、口の中に流し込まれる。俺は舌を夢中で舐り返した。  
武藤と先輩は唇をくっつけているだけだった。  
ああ、武藤、お前は先輩の舌の味を知っているのか?  
 
「ぷはっ!」  
ずいぶん長いことキスしていた気がする。  
「なかなか良かった?」  
その一見天使のような微笑み。綺麗だ。だが俺は我に返る。  
「う、うるせえ馬鹿女!人のファーストキッスを!」  
俺はこんな女、好きでも何でもない!ちょ、ちょっと上手かったからついつい…  
「初めて会ったばかりでこんな…」  
「私は御前さまを通じてあなたを見てたから、よく知ってるけど」  
「俺はぜんぜんよく知ってねー!!」  
俺は本気で怒った。  
「そう、それは…ごめんなさいね。」  
シュンとうなだれる彼女。お、俺が悪い事言った見てーじゃねーかよ…  
「いいよ、もう…俺がだらしなかっただけだし…お互いちょっと間違い起こした、で終わらせりゃ…」  
「あらあら、間違いを起こすのはこれからよ?」  
その女は、ジャラジャラと小瓶を鳴らして、言った。  
…錠剤?  
 
「これ、さっき噛み砕いて、あなたに飲ませたんだけど…」  
俺は血の気が引いていくのを感じた。まさか、毒!?  
「いや、だまされないぞ!アンタの口の中で砕いたんなら、あんたもただじゃすまない!」  
「何か勘違いしているみたいね。これは、そういう気分を高めるために使うお薬で…」  
血が引いてたと思っていたら、俺の身体は今度はなんだか火照って来た。  
「かなり効き目が強くて、初めての人間なら一粒で十分。口の中で砕いたのは念のため二粒分。」  
俺は股間を押さえた。体中の血が其処に集まってきた気がする。足がガクガクして立っていられない。  
「あらあら、大丈夫?」  
「き、貴様…一体何たくらんで…」  
俺は力いっぱい女を睨み付ける。腫れた股間を押さえながらでは凄みなんぞないが。  
「何って、別に。」しゃあしゃあと女は答えた。  
 
「ただ私は、御前さまが失礼をしたお詫びとお慰めをしに来ただけよ。」  
 
彼女が衣服のボタンを外していく。形のいい乳がむき出しになる。  
で…でかい。メロン見たいなデカパイがゆさゆさしている。  
自信満々、と言う顔で、セクシーに胸を押さえる。  
「どう?津村さんとは比べ物にならないでしょう。」  
俺は生唾を飲み込んだ。身体がこれから起こることへの期待で震える。  
ひっくり返ったカエルの様な格好で。股間はギンギンのもっこりテント張り状態。  
赤紫のランジェリー姿の彼女が俺の服を脱がしにかかる。  
ああ、俺はこのまま誘惑に負けてしまうのか?  
…それもいいかなあ。だって先輩はもう、武藤と…  
俺の考えを見透かすように彼女は言った。  
「津村さんのことはもう忘れなさいな。お姉さんが慰めてあげる。」  
彼女は俺のズボンを下げ、スッポンポンになった俺のペニスにフェラを始めた。肉棒をお口の奥まで咥え込んで、ペロペロ舐めてくれる。  
「んふっ、んぐ、んむう」  
ちゅっぷ、ちゅぷっ、ぐちゅぷ、ちゅぴっ!  
「あっ、あっ、う、うおっ!」  
俺は腰を振って喜んだ。快感で涙が溢れてくる。この女はすげえ…。  
あーもう達しそう…。お口に出しちゃっていいかな…出来たら下のお口にも…  
俺は彼女の顔を見た。  
 
彼女は、俺の愛している人ではない…。  
 
ビチャッ、と俺は彼女の顔に精液を吹き付けた。  
彼女は瞳の奥に、どこか冷たい光を宿して、言った。  
「早いのね」  
 
「う、うるせえ!淫売女が!」俺は汚い罵声を吐いた。  
「てめえなんか、どうせホムとだって寝たんだろ!」  
彼女の瞳が鋭く変わった。しかし落ち着いた声で、凛とした態度で、答えた。  
「ええ、初潮が来た12の時からずっと相手をさせられたわ。そうしないと生きていけなかったもの。」  
今度は、俺の顔色が変わる番だった。  
「そんな顔しないでよ。初めては好きな人としたわ。」「…実の弟とだったけど。」  
「な、んで…」俺は震える声でまぬけに尋ねた。意味のない問いだと知りつつ。  
「信奉者といっても、富も権力も持たない私たちは、奴隷同然の扱いだった…」  
「自分の運命を恨んだ…」  
「でも、失意の底でわかった事もある。」  
「キズは舐め合う相手がいれば、癒えるのも早いということ…」  
彼女は淫らな姿で俺を誘う。  
「私のキズを…舐めて」  
俺は、彼女を愛していない…  
でも、彼女の『女』の凄みにはかなわない…  
俺は彼女の割れ目に顔を突っ込み、クリトリスに舌を這わせた。  
「きゃんっ!もお…」  
ジュクジュクに濡れている。俺は自分の肉棒を掴み、言った。  
「挿れるぜ…いいな。」  
「できたら、長く楽しませてね。」  
「うるせー!」  
じゅぷっ、と、先から、一気に奥まで入れる。  
 
俺と一つになった女は…淫らな顔を汗ばませ、余裕を持った顔で微笑んでいた。  
俺は腰を揺すり、肉棒を抜き差しする。ぐちゅぐちゅといやらしい音が立つ。  
「あっ、あっ、はあんっ!」  
女は喘ぐ。だが、余裕を残した乱れ方だ。  
俺は女の艶やかな、コリコリになった桃色乳首に歯を立てた。  
「痛っ!…悪い子ね」「うるへえ…よ」「あっ、はっ…、うふん…、余裕ない?」  
女はにまっと微笑んだ。  
「っ、…る、せえ」  
女の言うとおり、俺は余裕がなかった。ちょっとでも気を抜くと、今にでも達してしまいそうだった。  
この女の股は、俺の肉棒をぐいぐい咥え込んで、キュウキュウに締め付けてくる。  
先走りをジュプジュプ搾り取ってくる。  
俺は必死で射精を耐えた。  
だって早漏なんて思われたくねえ。  
俺は女の両乳を鷲掴みにし、それぞれ別の動きで、荒っぽく揉んだ。  
「あっ、乱暴っ、なんだから…っ、あはっ、もおおっ!」  
腰の動きも荒っぽくピストンする。  
俺はさっき見つけた女のいい所を激しく突いてやる。  
「ここかっ!?ここが良いのかあっ!!」  
「ああっ…!」  
女は甘い声を上げる。  
ようやく俺は支配感と勝利感に満たされ、ほくそ笑む。女は頬を上気させ、言った。  
「なまえ…呼んでっ…私の…」  
とっさの申し出に、俺は訳がわからなくなる。  
「…?何て、名だっけ?…っ」  
「桜、花。呼んで…っ、おうか、って…」  
「おう…、か。」  
「呼んで…!」  
「桜、花っ…桜花あっ!」  
「うふっ、うれしいっ、剛太クン!」  
剛太クン。  
桜花は、微笑んだ。その甘美な…笑み。  
その笑みに、俺は、ついに、達した。  
 
 
俺は女と後始末を済ませ、身支度を整え始めた。  
「ま、悪くなかったわね」  
桜花の何気ない言葉に、俺はかっとなる。  
「悪くなかった、だあ!?よがってアンアン言ってたくせに!」  
「あらあら、そうだったかしら?」  
「大体薬さえ飲まなけりゃ、お前なんかと真っ平ごめんだったぜ。」  
「途中からノリノリだったくせに。」  
「なんだとお!」  
子供みたいな言い合いをする。  
「でも、始まりはこんな形でも、じきにあなたは私の虜になるわ。」  
艶やかに、桜花は微笑む。「津村さんのことなんか、すぐ忘れちゃうから」  
俺はぷいっとそっぽを向く。  
桜花はとっとと服を着終わり、荷物を取って部屋を出て行く。  
「ああそれから、」去り際に桜花が言った。「何だよ。」  
「あなたも錬金の戦士なら、易々と薬なんて飲まされないことね」  
扉は閉まる。  
「チッ…嫌味な女」  
あの女が言ったことを思い出す。  
津村さんのことなんか、すぐ忘れちゃうから。  
「そんな簡単に忘れられないよ…。あんたはいい女だけどな。」  
俺はベッドに落ちていた女物の時計に気づく。…忘れていった?  
俺は部屋を出て、桜花を追いかけた。  
 
背の高い男が、早坂桜花にホテルの廊下で絡んでいた。俺はその男を見て、立ちすくむ。  
(ひ、火渡…戦士長…!?)  
戦団最強の攻撃力を誇る男。キャプテン・ブラボーがこの男自身によって大怪我を負ったせいで、現在事実上、戦団最強の戦士。  
俺は核鉄を握り締めた。何かあったら桜花を守るため。  
俺は二人の会話に聞き耳を立てた。火渡が桜花にささやく。イヤミったらしい、デカイ声で。  
「この前の夜は燃える様に熱かったな、嬢ちゃん。また…お相手願えるかな?」  
な…何言ってるんだ…?火渡戦士長は…!?  
 
「嫌ですわ隊長サンったら…まだ日も高いうちから…」  
「夜も昼も関係あるかよ…正直自分でも信じられねえぜ?この俺がアンタ見たいな小娘チャンの身体に夢中になるなんてよ?」  
桜花は、少し半目になって言う。  
「あら…おっしゃってるほどは、私自身に興味を持っては下さってないようですけど」  
「ま、あのヤローが手ー出した女でなかったら、欠片も興味は持たなかっただろーがな…。アンタの身体に魅せられたってのは、嘘じゃない」  
「ウフフ…いいです。今夜にでもお相手しますわ。」  
桜花は笑う。俺を誘惑した、あの笑顔で。  
「ああ、それじゃ9時半に…603号室に…」火渡隊長は、桜花の腿を撫でて言う。  
「この細股で、どうやってあのカタブツの防人のヤローを誘惑したか、今夜こそ教えてくれよ…」  
 
火渡隊長が去り、その場から去ろうとする桜花の前に、俺は現れた。  
「お前…火渡隊長と寝たのか…ブラボーとも…」「!!」  
桜花は一瞬驚いたようだったが、さして取り乱しもしなかった。俺はそんな彼女の様子を見て、無性に腹が立った。  
「なんで…なんでだよっ、お前…何やってんだよっ!」  
「武藤君を…守るためよ」ドクン。  
俺の心臓は震えた。  
アンタも、あんたもやっぱり武藤のことを…?  
「なんてね。それじゃあキャプテン・ブラボーを誘惑してSEXしたことへの言い訳にはならないわね。」桜花は舌を出した。  
「これは戦団の上層部を手玉に取るため…私が好きでやっていることよ」  
 
桜花は独白した。  
「ドクトル・バタフライの爺さんや…怪物紛いのホムンクルス男たちの相手をさせられて…私は身も心も傷付いたわ…」  
「秋水君はそんな私をいつも慰めてくれた…守ってくれた…だから私も一生懸命秋水君の想いに答えたわ…」  
「でも傷を舐め合うだけじゃ、惨めな自分に我慢ならなかった」  
「自分を踏みつけた全ての者を踏み台にして、LXEを裏から手玉に取ってやりたかった。」  
 
「それで?LXEが無くなったから、戦団を裏から牛耳ろうってのか?」  
「錬金戦団が悪いのよ…私の野心の行き場を奪ったから…」  
「クズだ!アンタは!」  
俺は腹の底から怒声を上げたが、桜花は鼻で笑って、言った。  
「何とでもお言いなさい。これが私の…失意の果てに…選んだ生き方。」  
「さよなら、剛太クン。」  
 
「私の役に立ってくれるなら…またいつでも、お相手するわ」  
 
(END。桜花サンは書いてて面白すぎます…。)  
 

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