知り合ったのはいつからでしょう。
好きになったのはいつからでしょう。
惚れ込んでしまったのはいつからでしょう。
気がつけば私は、こうしてヴィクトリアさんと逢瀬を重ねるようになっていました。
旧華族の娘までが揃う、徹底したお嬢様たちの花園で、成金社長の娘である私は、どこかずっと孤独でした。
お琴にバイオリン、社交ダンスにフィギュアスケート……そんな話題についていける人生じゃなかったから。
勉強だけは中の上。
いてもいなくても変わらない、大勢の中の孤独の中で、私は血迷ったのか、神様に導かれたのか。
もしかして、幽霊なら友達になってくれるとでも思ったのかも知れません。
仮面の男が出てくるという七不思議の礼拝堂で……ああそうだ、私はそこで、祈りをささげるヴィクトリアさんに出会いました。
中途半端に染めた毛とは違う、輝くような色の髪を幾本にも連ねた中にある顔は、可憐と呼ぶに相応しいものでした。
でもそのさらに奥に、同い年のお嬢様たちには無い、何かを感じさせられました。
怪談の中にでも踏み入るようなかすかな躊躇いを、振り返った深い瞳に引きずられるように断ち切りました。
「あなた、名前は?」
ああ、そうして名前を尋ねてくれたのは、この学院に来て貴方が初めてでした。
私の名前を聞いて、いい名前ね、と言ってくれた後で、
「私の名はね、ヴィクトリア」
そうして告げられた名が、私を恋に落としたのです。
何年何組なのかも知りません。
年下なのか年上なのかもわかりません。
中等部の生徒のようでもあり、ずっと年上の大人のようでもあって。
気がつけばヴィクトリアさんは私の傍にいてくれました。
私がどんな話を振っても、ヴィクトリアさんは応えてくれました。
博学で、気軽で、会うたびに私は好きになって。
ヴィクトリアさんもまた、私に向ける視線は次第に熱いものになっていきました。
授業時間なんていらないと、貴方と一緒にいられるだけでいいと、とうとう告白した私にヴィクトリアさんは、熱く激しいキスの雨を降らせてくれました。
それからは、もう止まりませんでした。
もとより、クラスには私がいてもいなくても変わらないのです。
七不思議に守られて、私はほとんど四六時中ヴィクトリアさんと二人きりになりました。
覚悟もしていましたし、期待もしていました。
そんな私とヴィクトリアさんが、一線を越えてしまうことを。
「綺麗……」
私とヴィクトリアさんしか知らない、秘密の地下室の中で。
十字架の刻まれた制服を脱ぎ捨てて、ヴィクトリアさんが見せてくれた身体は、そう呟く他無いほど綺麗なものでした。
生まれてから今まで、傷一つついたことも無いような、白く、すべらかで、美しい身体でした。
胸だけは淡く、でもその慎ましやかさが、ヴィクトリアさんにまこと相応しいようにも思えました。
「ねえ、あなたの身体も、私に見せて」
胸だけは勝っている自信がありましたが、ヴィクトリアさんの、彫刻のように美しい身体と比較できるのかと思いました。
でも、ヴィクトリアさんの声は媚薬そのもののようでした。
「あなたを食べてしまいたいの。ねえ、いいでしょう」
ああ、私の身体がヴィクトリアさんのものになるのなら、それ以上躊躇うことは無いでしょう。
スカーフを、上着を、スカートを、靴下まで脱ぎ捨てて、私は身一つになりました。
「……ねえ、私の下唇にキスをして。
あなたの全てを私に頂戴……」
下唇と言って、ヴィクトリアさんはその細く長い足を開きました。
はしたないはずの仕草は、ヴィクトリアさんがすることで、とても似合っているようにも見えました。
それで、下唇とは何を言うのかわかりました。
白い割れ目の奥にある赤い唇が、ヴィクトリアさんが足を開いたことで、ちらりと姿を見せていたのです。
神々しいような気配さえして、私は足を開いたヴィクトリアさんの下に跪き、きっと誰も触れたことがないでしょう、その下唇にキスをしようと目を閉じました。
そして、下唇に触れたその瞬間、
「戴きます」
ヴィクトリアさんが、そんな言葉を言ったような気がして、私の顔は、肩は、胸は、腕は……
「ごちそうさま。美味しかったわ」
文字通り、おなかいっぱい。
ホムンクルスは、人を食べなければ生きていけない。
もう、何人目か忘れてしまった。
でも、大丈夫。
どうせまたすぐに、怖れを忘れた者が来るのだから。