給水塔から降り校舎に戻ると、すでに下校時間になっていた。
途中で抜け出したことは、六枡がうまくごまかしてくれていた。
そして、まひろ、ちーちん、さーちゃん、六枡、大浜、岡倉、カズキといっしょに帰った。
今晩は寄宿舎に泊り、明日から戦士として活動再開だ。
とりとめもない会話が続く帰り道、まひろが言い出した。
「そういえば、銀成の夏祭り、今日までだよ?」
「あ、そっか。みんなで行こうか?」
カズキが私の顔を見てそう言った。
「しかし、私は着れる私服がないぞ?」
ニュートンアップル女学院から直接銀成市に戻ったので、
手持ちの私服は戦闘や探索で汚れたままだ。夏祭りに着ていける状態ではない。
「お姉ちゃん、浴衣、貸してあげるよ!」
「お姉ちゃんはよしてくれ…そうだな、借してもらえるか?」
寄宿舎に着いてから、まひろに手伝ってもらい、浴衣を着付けた。
「すごく似合うよ!」
「私に合うサイズがよくあったな?」
「それ、私が小学校の五年の時の…ムガ」
途中でちーちんがまひろの口を塞いだ。なんだ?
そして、銀成市内の神社の境内。
カズキから金魚掬いの成果を受け取った。
「2匹か…キミは夜店の達人じゃなかったのか?」
軽くからかってみる。
「ゴメン…あ、サクランボ?」
カズキが私の髪留めを指差した。
「さっき、まひろがくれたんだが…何か変か?」
「似合ってるし…かわいいよ、斗貴子さん」
自分の顔が赤くなるのがわかる。それを見たカズキが思い出したように言った。
「そうだ!リンゴ飴、食べよう!」
そして、私の返事を待たずに出店に走り、肩を落として戻ってきた。
「がっくり、1個しかなかった…どうぞ」
「キミはいいのか?」
「え〜と…じゃあ、ちょっとだけ」
受け取った飴を、自分で食べたり、カズキに食べさせたりしながらいっしょに歩いた。
カズキがきょろきょろと周りを探した。そういえば、六枡やまひろ達がいない。
「アイツら、隠れてオレたちのこと、覗いてたりして?」
「気にするな。やましいことをしてるわけじゃない」
確かにやましくはない。しかし、数ヶ月前の自分なら考えられないことをしている。
そして、それがとても自然に思える。
ピカっ─遠くの空で何かが光った。一瞬の間をおいて、ヒュ〜ドンと音が鳴る。
河川敷の方向だ。花火大会だろうか。そういえば、少し前から人の流れが変わっている。
私たちは、足を止めて、そちらを向いた。
天を彩る大輪の花。次々と咲いては消え、消えては咲く。
「…カズキ」
「なに、斗貴子さん?」
「来年もいっしょに来たいな」
「ウン。来年も、再来年も、その次も…何年たっても」
寄宿舎への帰り道。六枡やまひろ達から少し遅れて歩くカズキ。その背中に私は居た。
「すまない…」
「これじゃ、仕方ないよ」
そう言って、鼻緒が切れた私の下駄に目を向けた。
「久し振りのオンブだね」
「そうだな」
あの時は、意に反して背負われて、抗った。今は、この背中が心地よく思える。
「重くないか?」
「ウン。大丈夫」
そうか、なら。
ぎゅっ
少し浮かしていた体を大きな背に預け、抱きつくようにカズキの前に両手を回した。
「それも久し振りだね」
「ん?…そうだな」
少し考え、ヴィクターと戦った後の話とわかった。
ヴィクター…ヴィクターV…思い出してしまった。今だけは忘れていたかったことを。
「大丈夫だよ。勇気をもらったし…あっ!」
「どうした?」
「え〜と…何でもないです…」
カズキが私を背中から少し離そうとしている。
そういえば、まひろに言われて、ブラを着けていないのだ。
「バカ!そういうことを考えるな!想像も禁止だ!」
「ゴメン。絶対、考えないし、想像もしないから、許して!」
気がつくと、前を歩いていた6人が足を止めてこちらを見ていた。
「カズキ君?」
「ストロベリってる〜!」
「代わろうか、カズキ?」
「ケンカするほど仲が良いって言うけど、ほどほどにね」
「長く連れ添えば、そういうこともあるさ」
「お仕置き…ですか?」
口々にからかうように言って、また歩きだす。
なんだか、怒ったのがバカらしくなった。そして、再び背中から抱きつく。
「斗貴子さん!?」
「約束を守れ。考えなければ気にならないだろう?」
「ウ、ウン!」
「…こうして…いたいんだ」
「そうだね…ずっと、こうしてたいね」
寄宿舎がもっともっと遠くにあればいいと思った。
(おわり)