あるいは有り得たかもしれない、もう一つの結末
「大丈夫だから。斗貴子さんは心配しなくてもいい」
抱きしめられる。
「うん、わかった」
そう、わかってしまった。
もう、カズキの腕にはほとんど力が無い。
離れないように、抱き返す。
「ねぇ斗貴子さん、デートしよう」
何を言うんだろう。彼の体はもうボロボロなのに。
でも、私を想ってくれる。愛してくれる。それが純粋にうれしくて。
「………うん!」
笑顔で返した。彼の腕を引いて走り出す。
「じゃあ、早く行こう、カズキ」
でも、寄宿舎を出たところで止まる。
数メートル先に人影。
あいつは……錬金術の本隊からの、使者。
使者が来るのは次の任務が決まったとき。
つまり、もう、カズキと一緒に居られないということ。
嫌だ。そんなの耐えられない。
畜生!
「斗貴子さん、あいつ、誰?」
何も知らないカズキがたずねる。
「錬金術の…、私の所属する本隊からの使者だ」
憎々しげに口にする。
「そう、なんだ。行かなくていいの?」
っ、なにを
「何を言うんだ。あいつが来たという事は、次の任務があるという事だ。
そしたらもう、カズキと一緒に居られない」
それは私の本心。でも、
「それでも、だよ。斗貴子さんは、優しい人だから。
ホムンクルスに襲われる人を助けることが出来る人だから」
そう言ってぽんと私の背中をおすカズキ。
カズキだってきっと私と一緒にいたいはずなのに。
そんなことを言われたら、私はカズキの気持ちを裏切れない…
斗貴子さんは辛そうだけど、しっかりとした足取りで使者のもとへ歩いていく。
使者はしばらく何か話したあと、大きめの封筒を斗貴子さんに渡すと消えてしまった。
斗貴子さんは手早く封筒を開けて中の手紙―指令書か何かだろうか―を読み始める。
斗貴子さん、驚愕の顔を見せたあと、なぜか急に泣き出した。
「ど、どうしたの斗貴子さん」
痛む体に鞭打って、慌てて斗貴子さんに駆け寄ると、
「カズキ、かずきぃ」
潤んだ声で名前を呼ばれた。
「だ、大丈夫?斗貴子さん」
「うん、うん、大丈夫だから。もう大丈夫だから」
そう言って泣きながら斗貴子さんが封筒から取り出したのは……
あれから数ヶ月。
相変わらず戦いの中に生きる私だが、今もまだ、大切な人が居る。支えてくれる人が居る。
「突き刺され!俺の武装錬金!!」
ホムンクルスが突撃槍の一撃で倒れる。
「大丈夫だった、斗貴子さん」
彼は心配そうに聞いてくる。
「心配するな。やられるようなへまはしない」
そう、やられてなんかいられない。もっとずっといっしょにいたいから。
「それよりも、『さん』は辞めろといったろう」
ちょっと恥ずかしいから言いよどむ。
「そ、その、私たちは付き合っているんだから」
「そうだね。ごめんね。斗貴子」
そう言って抱きしめてくれる。
もう、あのときのような弱々しい抱擁ではない。
そう、彼は生きている。
あのときの指令書の中に、こんな一文があった。
『核鉄2つの破損、消失を確認。新たな核鉄を支給する』
そして新しい核鉄。
今もそばに居る大切な人。
その人の名前は……
武装錬金SS『彼の名は』
END2 大切な人の名前は