私たちは蝶々仮面の創造主と戦い、なんとか勝った、それは確かだ。  
だがどうだ、私の核鉄は失われ、カズキの核鉄もまた傷ついた。  
あれではもってあと一週間。  
皮肉なものだ。私と彼の立場が入れ替わってしまった。  
「すまない」  
「なんで斗貴子さんが謝るのさ。斗貴子さんは悪くない。」  
それはいつか私が言った言葉に似ていた…  
だから私は  
「それでも、すまない」  
こう、答えるしか出来なかった。  
「それ、俺のせりふ」  
そう言って微笑むカズキ。  
でも、震えている。  
痛みが、苦しみが、そして死への恐怖が。  
一度死んだ彼ですら…否、一度死んだ彼だからこそ  
それは彼の心を蝕み体を震わせる。  
せめて、私の核鉄だけでもあればもう一度…  

 

俺が不甲斐ないばっかりに、斗貴子さんの核鉄が壊れてしまった。  
かばわれた。  
そうと分かった後はもう夢中で、突撃槍で突っ込んでしまった。  
結果、蝶々仮面も倒したし、胎児の解毒の方法も手に入れた。  
だけど、俺の核鉄も破損して、  
「キミの命はもって……あと一週間だ」  
そんなことを言われた。  
・  
・  
・  
「それ、俺のせりふ」  
不謹慎かもしれないが、すこしおかしくなって微笑んだ。  
それでも斗貴子さんは怒るでもなく、つらそうな顔をする。  
「どうしたの、傷が痛むの?」  
俺をかばったときに負った怪我。そう深くは無い。  
でも、核鉄を失った彼女は普通の女の子だ。  
すぐに治癒することは無い。  
「心配無用だ。たいした事は無い。」  
彼女は無理をする人だ。  
でも、彼女が大丈夫というのなら大丈夫なのだろう。  
「じゃあ、自分の核鉄さえあれば、とか思ってる?」  
「っ……キミは時々鋭いな」  
どうも図星だったようだ。  

思えばあの時―学校で蝶々仮面を探していた時だ―も、  
カズキは腹部を押さえる私を心配していたな。  
「すまない…核鉄を造るのには1週間では足りないんだ」  
そうそう、簡単に造れるような代物ではないのだ。  
蝶々仮面がほしがるほどに、造るのが難しい。  
「また謝る。斗貴子さんは悪くないって、さっきも言ったよね。  
もとを正せば、『勘違い』で勝手に死んだ俺が悪いんだから」  
死ぬのは怖い、そう言っていたのに。  
彼のやさしさが私の心を突き刺す。  
「なぜそんなにやさしくする」  
私は問うた。  
「私はキミを死なせた」  
「違う、斗貴子さんは俺を生き返らせてくれた」  
「私はキミを巻き込んだ」  
「それも違う、戦ったのは俺の意思だよ」  
「私は…」  
それでも私は…  

「私は…」  
斗貴子さんが言いよどむ。  
さっきよりもつらそうだ。  
「斗貴子さん!!」  
ビクリ、と彼女はふるえる。  
斗貴子さんの肩に手をかける。  
「そんな、全部自分で抱え込まないでよ」  
ほんのすこしの間でも、いっしょに戦った仲間なんだから。  
「もう少し俺を信頼してよ。こんなボロボロで頼りないかもしれないけどさ」  
そう言っておどけて見せる。  
「それは私のせりふだ」  
蛙のホムンクルスを倒したとき、斗貴子さんが言ってた言葉。  
もっと私を信頼しろ  
うん、信頼してる。だから無茶も出来る。  
その無茶のせいで今死にかけているけれど。  
斗貴子さんは俯いてつづける。  
「それに…」  
「それに?」  
「私は、なぜやさしくするのか聞いたんだ。答えになっていないぞ。 馬鹿かキミは」  
確かにそれもそうだ。  

「答えだけど」  
しばらくの静寂のあと、カズキは言う。  
「さっきも言ったけど、斗貴子さんは俺を生き返らせてくれた」  
「うん」  
それは不注意で死なせてしまったから。  
「戦う力を、みんなを守るための力をくれた」  
「うん」  
核鉄を心臓にしたから。意図したことではない。  
「感謝してるんだ。いろいろな意味で恩人だし。  
なにより、自分以外の誰かが辛い思いをしているのを見るのはいやなんだ」  
それだけ?  
……なぜか胸がちくりと痛んだ。  
私は何を期待している。  
彼の答えに何を期待している。  
あの時巻き込んで死なせてしまい、今もまたカズキは死にかけている。  
その彼に何を期待している。  
不謹慎な。こんなことを考える自分が嫌になる。  
「だから、今斗貴子さんが辛そうにしているのを見ているのは辛いんだ」  
っ……だから、どうしてそういう事を、言う。  

 

本当に今の斗貴子さんは辛そうだ。  
彼女はいつも1人で我慢する。  
今まで…ホンの十日たらずだけど、いっしょに戦ってきて。  
それがすごくわかってしまった。  
「感謝してるんだ。いろいろな意味で恩人だし。」  
それは建前。  
「なにより、自分以外の誰かが辛い思いをしているのを見るのはいやなんだ。」  
そう、それはとても辛い。  
それが斗貴子さんならなおさら。  
だから、  
「だから、今斗貴子さんが辛そうにしているのを見ているのは辛いんだ」  
そう、言った。  
ほかの誰よりも、斗貴子さんが辛そうなのは耐えられない。  
きっと言わなきゃ後悔する。  
言っても後悔するかもしれないが、突撃槍のようなこの性格、  
あたって砕けてみるだけだ。  
「斗貴子さん、俺、キミのことが…」  
そこで斗貴子さんの手で口をふさがれた  
「それ以上は言わないでほしい」  

 

彼は助からない。それはもうほとんど確定している。  
この一週間、彼は私を助けようと、特訓をしたり、  
一人でホムンクルスに戦いを挑んだりした。  
でも私には彼を助けることは、出来ない。  
「それ以上は言わないでほしい」  
違う、その言葉をを期待していた。  
「もしものときは私を殺すように言った手前、言えた義理ではないかもしれない」  
違う、そんなことが言いたいんじゃない。  
「君の命を、想いを背負って生きていくなんて私には出来ない」  
違う、私の中でカズキの存在が大きくなりすぎたから。  
誰かに頼ったことなんてなかった。  
いつも一人で戦ってきた。  
その私がこんなにも弱いとは。  
こんなにも弱くなってしまうなんて。  
「だから、それは、その言葉は聞けない」  
聞けない言葉。  
なにより、言えない言葉。  

 

斗貴子さんが手を離す。  
これはフラれたって事だろうか。  
沈黙が落ちる。  
実際には数分だけど、数十分にも感じられた。  
先に口を開いたのは斗貴子さんだった。  
「…とりあえず、今日は帰ろう。また明日」  
そう言って立ち去ってしまう。  
悔しいけど俺もそのまま寄宿舎に帰ることにした。  
・  
・  
・  
自分の部屋のベッドに寝転んで、考える。  
俺はいまだに斗貴子さんがどこに住んでいるのか(あるいは泊まっているのか)知らない。  
なのに斗貴子さんはさっきなんて言った。  
また明日、そう言った。  
逢いに、来てくれるんだろうか。  
希望的観測なのは分かってる。でも、うれしいのは仕方がない。  
「やっぱり俺、斗貴子さんのことか好きなんだなぁ」  
声に出る。  
「お、お兄、ちゃん?」  
き、聞かれた!?  
「ま、まひろ、いつのまに」  
なんだか気が遠くなる。  

 

トントン  
お兄ちゃんの部屋の扉をノックする。  
……返事がない  
トントン  
「お兄ちゃん?」  
……やっぱり返事がない  
さっき帰ってきてるの見たのに。  
ダメもとで扉に手をかけるとあっさりあいちゃった。  
はたしてそこにお兄ちゃんはいた。  
ベッドの上に寝転んでるから、寝てるのかと思ったけど、  
どうも考え事をしてるみたい。  
深刻な顔になったり、突然にやついたり。  
私が入ってきたことにもぜんぜん気づいてないみたい。  
しばらくお兄ちゃんの百面相を楽しんでいたら、不意にお兄ちゃんが口を開いた。  
「やっぱり俺、斗貴子さんのことか好きなんだなぁ」  
…一瞬、思考が止まる。  
「お、お兄、ちゃん?」  
「ま、まひろ、いつのまに」  
前にあったときは姉弟なんていってたけど。  
お兄ちゃんとあの人はやっぱり付き合ってたんだ。  

 

聞かれた。うん、聞かれた。  
「あ、あ〜、えと、その、別に何も聞いてないからね」  
ばればれ。  
「と、とにかく座れ、うん、ほら、椅子」  
考えろ、どう言い訳すればいい。  
「えーと、今のはだな」  
…ちょっとまて、何で言い訳する必要がある。  
まひろは妹だ。大切な妹だけど、付き合っている彼女ってわけじゃない。  
うん、やましいことなんて一つも無い。  
……ものすごく恥ずかしいけど。  
一度深呼吸して落ち着く。  
「今のは、偽り無い本心なんだ」  
まひろなら、喜んでくれる。そう思うからはっきり言った。  
「そう、なんだ。うん、おめでとう」  
まひろはやっぱり微笑んでくれた。  

 

お兄ちゃんが私だけのお兄ちゃんじゃなくなるのはやっぱり寂しいけど。  
大好きなお兄ちゃんが幸せになるなら、それもいいかなって思う。  
「そう、なんだ。うん、おめでとう」  
笑みはぎこちなくなっていないかな。  
せっかくだからちゃんと祝福したいし。  
「ありがとう」  
お兄ちゃんのまぶしい笑顔。  
今は、この笑顔だけで十分。  
でも、ちょっと悔しいから意地悪をする。  
「それでお兄ちゃん、告白したの?」  
お兄ちゃんの動きがぴたりと止まる。  
…聞いちゃいけないことだったのかな。  
「それはその、だな。『君の想いを背負えない』って言われた」  
聞いちゃいけないことだったみたい。  
「え〜と、ごめんね、聞いちゃいけなかったかなぁ」  
謝ると、お兄ちゃんは慌てて反論する。  
「ででで、でもだな、『また明日』って言われたんだ。」  
「それって、お友達でいましょうってことじゃないの?」  
グサッなんて擬音が聞こえそうなくらいお兄ちゃんは反応する。  
「だ、だけど、斗貴子さんち知らないのにだぞ。これは逢いに来てくれるって事だろ」  
必死になって反論するお兄ちゃん。  
「う〜ん、それは確かにそうかも」  
これ以上子の話を続けるとお兄ちゃんがかわいそうだから。意地悪しすぎたかも。  
それからお兄ちゃんは何か思い出したのか「あっ」なんて言って  
急に真剣な顔になってしまう。  
「まひろ、もし、もしもだぞ、俺がいなくなったらどうする?」  
そんな、考えたことも無い。考えたくも無い。  

 
 

聞くべきじゃなかった。言ってしまってから後悔した。  
聞くまでも無く、まひろならびえんびえん泣くに決まってる。  
「それって、どういう意味。斗貴子さんといっしょになるってこと?それならいいよ。祝福する」  
それは違う  
「それとも、それとも……ねぇ、何でふるえてるの。最近ずっと様子がおかしかった。  
何か病気なの?怪我でもしたの?」  
そういって俯いてしまうまひろ。  
どう言えばいい。どう言えばまひろは悲しまない。  
「も、もしもって言ったろう。なに深刻になってるんだよ」  
そんな言葉じゃごまかせない。そんなことは分かりきってる。  
でも、他に思いつかないんだから仕方ない。  
「お兄ちゃんがいなくなるなんて、私、わたし…」  
ついにまひろは泣き出してしまった。  
「大丈夫だから。俺はいなくならない。約束する」  
そういってまひろの頭をなでる。  
でも、それは嘘。守れない約束。  
俺は斗貴子さんのことが好きだ。  
まひろも、大事な妹だ。  
俺はどうしたらいいんだろう。  

 
 

それ以上言わないでほしい、そういったけど。  
やっぱり私も彼のことが…  
彼の想いを受けきれない。  
―受けてしまえばいい―  
認めてしまえば失うのが怖くなる。  
―認めてしまえ―  
それが出来れば悩んだりはしない。  
―出来るはずだ―  
ささやくのは、弱い私か、強い私か。  
―強くて弱い、私―  
認めれば怖くなる?  
違う、もう、失ってしまうのは怖い。  
認めよう、私はカズキのことが好きだ。  
簡単なことだ。彼は私のことが好き。私は彼のことが好き。  
両想い。  
戦いの中で生きる私に、そんな事が起きるなんて考えもしなかった。  
携帯を取り出して、カズキの番号を出す。  
そこで思いとどまる。  
『君の命を、想いを背負って生きていくなんて私には出来ない』  
私は彼にひどいことを言った。  
嫌われたかもしれない…  
私はどうしたらいい。  
今はただ、彼に逢いたい…  

 

結局泣き疲れて寝てしまったまひろを部屋に背負っていって…  
「ふぅ――――――――」  
盛大にため息をつく。  
痛む体。息だって苦しい。  
あと生きていられる時間は長くて1週間。もっと短くなるかもしれない。  
どうすごせばいいんだろう。どう生きればいいんだろう。  
部屋に戻るとへばってしまう。  
ベッドに戻ると横になる。  
今日はいろいろありすぎた。  
蝶々仮面との決着。斗貴子さんとのこと。まひろとのこと。  
疲れてるはずなのに、気分が落ち着かないのと、体の痛みとでなかなか眠れない。  
それでも、時間がたてばウトウトとして、少し寝て、起きてを繰り返す…  
・  
・  
・  
「う、ン……」  
何度目かの目覚め。  
同時に手に感じる、違和感。  
斗貴子さんがベッドに寄りかかって自分の腕を枕にして寝ている…  
……え〜と、これは、夢?  
枕にしてないほう手は俺の手をしっかり握っていて。  
ああ、これが違和感の正体か。なんて思ってると、  
「カズ、キ?」  
斗貴子さんが起きだした。  
「えーと、その、おはよう。斗貴子さん」  
なんて、ちょっと間抜けな挨拶をしてしまった。  

 

赤面してしまう。  
何で私はカズキの部屋にいる?  
昨日のことを思い出せ。  
確か寝床でカズキのことを考えていて。  
それで、その、カズキのことが好きなんだと思い至って。  
逢いたくなってしまったと。  
「ど、どうしたの斗貴子さん、顔赤いよ。風邪ひいたの?」  
そういう彼の手は私の手を握っていて。  
ああ、そうじゃない。私が彼の手を握ったのだった。  
「だ、大丈夫だ。かまうな」  
「いやでも顔赤いし」  
そういって彼はつないでいないほうの手で額を触ってくる。  
「んー、ちょっと熱いかな」  
それはカズキがそんなことをするから顔がほてっているだけだというに。  
「だから大丈夫だといっているだろう」  
そういって額の手を払いのける。  
でも、つないだ手は離さない。  
もう、離れたくはなかったから。  
「カズキ」  
彼の名を呼ぶ  
「ん?なに、斗貴子さん」  
彼が私の名を呼ぶ。  
つないだ手と手。  
それだけでこんなにも幸せ。  

 

なんとなく嬉しそうな斗貴子さん。  
そんな顔をされるとこっちまで嬉しくなってしまう。  
まぁ、それはそれとして。  
「ところでなんで斗貴子さんここにいるの?」  
すると斗貴子さんは一瞬驚いて答える。  
「え? それはその、だな。昨日あれからいろいろ考えたんだ。」  
「えと、それはお化け工場で別れた時のこと?」  
そう聞くと、  
「ああ。それでいろいろわかったんだ」  
なんて言う。  
なにがわかったのか気になるけど、それもこっちに置いといて。  
「もう一つ、いい?」  
なんだ」  
「どうして、手、握ってるの」  
斗貴子さんは恥ずかしそうにうつむいてしまう。  

手をつないでいる理由。  
答えは簡単だ。昨日一晩考えて、結論を出したのだから。  
でも、昨日あんなことを言ってしまったから、どう説明していいのかわからない。  
カズキは私にふられたと思っているかもしれない。  
そのせいでカズキが私のことを嫌っていたら。そう考えると言い出すのが怖くなる。  
「ねぇ、斗貴子さん」  
不意に呼ばれる。  
「昨日、ふられちゃったけどさ。やっぱり俺、斗貴子さんのことが…好きだ」  
好きと言われた。彼は私のことを嫌っていなかった。  
つないだ手から緊張が伝わる。  
それとも私が緊張しているのか。  
カズキはさらにつづける。  
「斗貴子さんに嫌われちゃったっての、わかってるんだけど。それでも…」  
そこまで聞いて私は叫ぶ。  
「わかっていない。カズキは何もわかっていない!」  
カズキが面食らっているがかまわない。  
「私はカズキのことを嫌ってなんか居ない!」  
「でも昨日、背負わないって言ったじゃないか」  
それはそう。でも、  
「『背負いたくない』んじゃない。私の中で君が大きくなりすぎたから『背負えない』んだ!」  
言った。言って、しまった。  

「……え?」  
考えもしなかった。  
『背負いたくない』ではなく『背負えない』  
あれはそういう意味だったのか。  
でも。  
「じゃあ、なんでそれ以上言わないでとか言ったの」  
斗貴子さんはとたんに辛そうになる。  
「失うのが怖かったから。…居なくなるとわかっている人に惹かれているのを認めるのが怖かったから。」  
なんて、こと。  
斗貴子さんは俺に惹かれていると言う。失うのが怖いと言ってくれる。  
つまりは両想いだったってこと。  
こんなにうれしいことは無い。  
「じゃあ、昨日考えてわかったことって?」  
野暮なこととは知りつつも、斗貴子さんの口から聞きたかった。  
「わ、私も、カズキのことが好きだ、ってことが」  
斗貴子さんははにかみながらそう答えてくれた。  
幸せだ。  
「改めて言うよ、斗貴子さん。俺、斗貴子さんのことが好きだ。……愛してる」  
「私もカズキのことが、好きだ」  
そうして、やっと。俺たちの想いは一つになった。  

 

「斗貴子さん、抱いて、いい?」  
カズキは唐突に切り出す。  
「いや?」  
そんなことはない。私は首を横に振る。  
「私も、カズキに抱いてほしい」  
そういって、私のほうからキスをした。  
触れるだけのキス。でも、それは。とろけるように甘かった。  
・  
・  
・  
カズキが私の服に手をかける。  
慌ててそれをとめた。  
「その、服を脱ぐのは」  
「恥ずかしい?」  
確かにそれも。  
「それもあるが…」  
言葉に詰まってしまう。  
「傷だらけだから…」  
そう、小声で言った。  
でもカズキは  
「そんなこと関係ないよ。全部ひっくるめて斗貴子さんが好きなんだ」  
そういって抱きしめてきた。  
「だから、そんなことじゃ…  
ううん、なにがあろうと斗貴子さんのこと嫌いになたったりしないよ」  
凄く、嬉しい  

俺と斗貴子さんは服を脱いだ。  
息を、呑む。  
「やっぱり、イヤか…」  
黙り込んでしまった俺の反応を勘違いされてしまった。  
「そうじゃない、あんまり綺麗だから、み、見とれてたんだ」  
あわてて答えたせいでどもってしまった。  
「っ〜〜〜〜〜〜」  
斗貴子さん、真っ赤になっちゃった。  
「それじゃあ、改めて」  
抱きしめてキスをする。  
「んっ!……う……ふぅ」  
最初は驚いたようだけど、すぐにとろんとしてしまう。  
そのまま、頬を、胸を、お腹を。上半身のいろんなところを撫でさする。  
「んぅ…ちゅ…ふっ……んんっ!」  
反応して口を開けた瞬間舌を滑り込ませた。  
歯茎や舌を舐めまわす。  
かまれるかも、なんて心配したけど、斗貴子さんはされるがままだった。  
それどころか、しばらくすると、斗貴子さんのほうからも舌を絡めてきた。  
さすがに苦しくなってどちらかともなく口を離す。  
二人のあいだに糸を引いた唾液の橋が艶かしい。  
「結構積極的なんだね」  
聞くと、  
「馬鹿、カズキだからだ」  
なんて言う。  
嬉しくなってもう一度抱きしめてキスをした。  

カズキは私をゆっくりとベッドに押し倒した。  
「カズキ、きて」  
そういって誘うように手を広げる。  
抱きしめる。またキスをする。  
「斗貴子さん、好きだよ」  
そういってカズキが私に舌を這わせる。  
体中を、特に傷痕を。  
まるで私の怪我を癒すように。  
「ん、気持ち、いい」  
あらかた舐めおえるとカズキの手が私の胸をまさぐる。  
強く弱く、優しく荒く。  
「んあぁ…ふあっ、くすぐったい…」  
だけど肝心のところには触れない。  
「あぁ、カズキ、カ、ズキ」  
もどかしくなって彼の名を呼んでしまう。  
少し強めに乳首をつままれる。  
「くあぁぁぁっ」  
ほんの少し痛いけど、それ以上に気持ちいい。  
カズキの右手がだんだん下のほうへ行く。  
お腹、腰、太腿。  
そのあいだも左手は胸をまさぐる。  
膝辺りまで下がると上に行く。やはり肝心のところには触れない。  
秘所に触れそうになるとまた膝まで下がる。  
「うぁ…はぅ……いやぁ……」  
何度も何度も往復する。  
じらされて、感じてしまう。  

「カズキぃ…それ以上されると変になるぅっ…」  
散々じらしてから大事なところに触れる。  
「…ぁ……ふぁ…あぁっぁぁあ」  
斗貴子さんは歓喜の喘ぎを上げる。  
「…濡れてるね。斗貴子さん」  
つい、意地悪をしてしまう。  
「ばかっ、カズキがっ、さわるから、だっ」  
斗貴子さんは息も絶え絶えに答える。  
羞恥と快感で全身を桃色にしているその姿が艶かしくて。  
「斗貴子さんっ」  
秘所にむしゃぶりついた。  
「ひぁ、ひゃう、うぁぁぁあぁあぁぁぁ」  
いっそう強く喘いでいる。  
突き刺されとばかりに舌を入れる。  
敏感な豆を指で刺激する。  
「ひぅ、いや、だめ、いいっ」  
快感で朦朧としている。  
「カズキばっかりっ、ずるいっ。私もカズキの…」  
いわれて、体勢を変える。いわゆるシックスナインというヤツだ。  
「これが、カズキのっ、なんだ、な」  
体勢を変えているあいだも攻撃はやめない。  
そのせいで斗貴子さんの言葉は切れ切れだ。  
斗貴子さんが俺のソレを握り締める。  
「くあっ!」  
おもわず唸るほどの快感。  
「い、痛かったか?」  
「ちがっ、気持ちよかっただけだからっ」  
心配そうに聞いているけど、手淫は止まっていない。  
それどころか  
「はむっ」  
ナニを咥えられた。  
瞬間、意識が飛びそうなほどの快感に襲われた。  

くわえたソレは、先が少しヌルついて、  
その粘液は生臭くて苦かった。  
きっとこれがカウパー氏腺液というヤツなんだろう。  
あまり美味しくはないけど、これがカズキのだと思うと苦にはならなかった。  
竿に、カリに、先っぽに。ときには袋に。  
いろいろなところに舌を這わせ唾液を絡める。  
「斗貴子さんっ、気持ちよすぎ…」  
カズキが喜んでくれる。  
はりきって奉仕する。  
絡めた唾液と体液を、口をすぼめて音を立てながら啜る。  
カズキも負けじと私の秘所から分泌される愛液を啜る。  
「うあっ、くぁ…じゅ…くおっ…じゅる」  
「ああっ、んっ、ふぁ……じゅぽ……ひぃう…じゅぷ」  
ふたりの喘ぎと水音が部屋の中にこだまする。  

さすがにもう我慢が出来ない。  
「斗貴子さん、挿れたい」  
斗貴子さんも同じだったのか、コクンとうなずいた。  
向き合って正常位で抱き合う。  
肉棒が秘所に触れる。  
斗貴子さんが真っ赤な顔で告白する。  
「は、初めてなんだから、やさしくしてくれよ。」  
もとより、そのつもりだ。  
「わかってる。なるべく痛くないようにするよ」  
ゆっくりと挿入していく。  
「う……ん……」  
斗貴子さんがうめくけど、まだ痛いというわけではなさそうだ。  
しばらくして、ナニの先が何かに触れる。  
これが処女膜かな。  
「ここからは一気に行くからね」  
宣言して、思いっきりつきこんだ。  
「苦ぅ……」  
一言発してそれきり黙ってしまう。  
痛みに耐えて、その小さな肩を震わせている。  
少しでも痛みを紛らわせてあげようと、キスをする。  
そして胸をいじる。  
しばらく続けると、苦悶の表情だった斗貴子さんの顔が、  
だんだん快感に潤んできた。  
同時に膣が活発に蠕動し始める。  
「斗貴子さんのナカ、すごく気持ちいいよ」  
「あんまりエロスな発言を…するな」  
痛みに耐えながらもつっこむあたり、斗貴子さんらしい。  
「動くよ」  
言って、ピストン運動を開始した。  

カズキのモノが私の膣で動いている。  
まだかなり痛いが、その事実のおかげでものすごい充実感がある。  
「カズキ、これがカズキの……」  
そこまで言ったところで敏感な豆を刺激された。  
「ひゃぁう、ひぃ、つ、よすぎ、る」  
言葉に詰まり、喘ぎがもれる。  
キスをされる。  
奪うような強引なキス。だけどそれは今は頭の芯がとろけるほどに気持ちよくて。  
だんだん痛みの感覚が薄れていく。  
反対にどんどん快感が増えていく。  
「う……はぁ……あぅ、はぁん……あぁん、すごく、よくなって、きた」  
「俺も、すごく、気持ちいい」  
だんだんと頭が真っ白になって何も考えられなくなる。  
「うぅ、もう、イきそうだ…」  
カズキが唸る。  
「ナカに…膣(なか)に出してっ……」  
証がほしかった。私がカズキと一つになった証が。  
「イく、斗貴子さん、出すよっ」  
「私も、もう、もうっ…」  
二人の声が切羽詰ってくる。  
「もう、イく、だめ、イっクうぅぅぅっ!!」  
絶頂に達した私の膣が収縮する。  
直後、カズキのものがビクビクと痙攣する。  
「くっ、イくっっ!」  
熱いものが私のナカに広がる。  
入りきらずにあふれた精液がこぽこぽ音を立てて漏れ出してくる。  
私たちはそのまま抱きしめあい、しばらくまどろんでいた。  

二人でゆっくり服を着る。  
うん、幸せだ。  
「斗貴子さん、体、大丈夫?まだ挟まってる感じとかしない?」  
ベシッと音がするくらい頭をはたかれた。  
「な、何て事を言うんだ。エロスもほどほどにしなさい」  
あわてて反論する様子は、図星としか思えない。  
きっと、斗貴子さんと一緒なら残りの日々も楽しく過ごせる。  
「カズキの方こそ、体は大丈夫か?」  
斗貴子さんは本当に心配そうに聞いてくる。上目使いで。  
か、かわいい…  
思わず抱きしめてしまった。  
「大丈夫だから。斗貴子さんは心配しなくてもいい」  
「うん、わかった」  
そう言って抱き返してくれる。  
いい事を思いついた。  
「ねぇ斗貴子さん、デートしよう」  
よく考えればデートなんてしたこと無い。いや、エッチはしちゃったわけだけど。  
「………うん!」  
しばらく唖然としてたけど、飛び切りの笑顔で返してくれた。  
そして斗貴子さんのほうから手を引いて走り出す。  
「じゃあ、早く行こう、カズキ」  
でも、寄宿舎を出ると止まってしまった。。  
すぐそこに、何かが居る。  
そこに居たのは……  
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1、ホムンクルスだった   
 
2、怪しい人だった   
 
3、岡倉だった   

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