防人衛は腕時計をチラチラと見ながら、溜め息をついた。  
「……遅い」  
ここは銀成市の駅前広場。待ち合わせのメッカらしく、周りには恋人を待つ男女の姿が数多く見られた。  
防人の近くにいる若者には次々に相手が現れ、それと入れ替わる様にまた新たな若者が相手を待ち始める。  
彼はもう三十分近くもベンチに一人座っていた。  
「昔はこんなに時間にルーズじゃなかったはずだが…」  
また時計をチラリと見たが、もうこの動作も何十回繰り返したか分からない。  
そんな防人のそばにおずおずと近寄る、整ったショートカットの美しい女性がいた。  
「……さ、防人君、おまたせ…」  
それは錬金の戦士・千歳だった。  
「おお。千歳、遅いぞ。待ち合わせに遅れるのはブラボーじゃないな」  
千歳は防人とは同期で、常に冷静沈着に正確な仕事をする、錬金戦団の中ではエリートともいうべき存在だ。  
普段は冷たさすら感じる美貌なのだが、この時は真っ赤な顔で視線を泳がせていた。  
「……だ、だって。…こんな格好で…来いなんて言うから…」  
口ごもりながら言う千歳が来ていたのはニュートンアップル女学院のセーラー服だった。  
「何を恥ずかしがっている? 任務で何度も着ていただろう」  
「任務だから仕方無く着ていたのよ! ……こんな街中じゃ……そ、それにこれ、サイズが…」  
息苦しそうに言う千歳を包んでいるセーラー服はどう見ても2サイズは小さかった。  
 
 それは事前に防人から渡されたものだった。  
スリムだが三十路前の熟した肢体はきつく締めつけられ、上着の裾からは小さい臍が覗き、申し訳程度の短すぎるスカートからは形の良い太股が露になっている。すこし大きな動作をすれば確実にその中は見えてしまうだろう。  
 美熟女のセーラー服姿に、道行く人達はチラチラと視線を向けている。  
「……は、恥ずかしくて…なかなか家から出られなかったんだから……もう…」  
「だが嬉しいぞ。言う通り着てくれて」  
防人は千歳のセーラー服姿を眺めながら、快活に笑っている。  
それを聞いた千歳は、真っ赤な顔をさらに赤くして消え入りそうな声で呟いた。  
「……さ、防人君のお願いだから…喜んでくれるんだったら……」  
 言葉の終わりの方はほとんど何を言ってるのか聞こえない。  
千歳は視線を泳がせモジモジしながら立っていたが、ベンチに座ったままの防人は彼女の顔を見上げてこう言った。  
「それで、もう一つの約束は?」  
「…!!」  
千歳は外していた視線を防人に戻し、涙で潤み始めた瞳で力無く睨む。  
だが、やがてキュッと下唇を噛んでから答えた。  
「……ま、守ってるわ…」  
「見せるんだ」  
 サラリという防人に対し、千歳はやや気色ばんで拒否した。  
「嫌よ! こんなところでなんて! ……誰かに…見られちゃう…」  
 
意外な反抗を受けた防人は、無言で千歳の顔を見つめた。  
二人が見つめあったまま、音の無い時間が流れる。  
やがて、沈黙に耐えきれなくなった千歳が口を開いた。  
「……そ、その…ここじゃ誰に見られるか分からないし……ちゃんと約束は守ってるから…あ、後で二人きりになったら見せるから………ね?」  
温度の下がりつつあるこの場を取り繕おうと千歳は必死に言葉を紡ぐ。  
しかし、防人はなおも無言で千歳の顔をジッと見つめ続けている。  
「……ど、どうして何も言ってくれないの? …防人君? ……ね、ねえ…」  
その時、防人は立ち上がりながら、千歳に一瞥もくれずに言った。  
「帰るよ」  
「えっ!? な、なんで!?」  
そう聞き返した時には防人はもう駅入り口に向かって歩き始めていた。  
千歳は防人を追い掛けながら、すがりつくように引き留めた。  
「ちょっと待って、防人君! 怒ったの? ねえ、待って! 待ってったら!」  
しかし、防人は全く聞こえていないかのように、真っ直ぐ前を向いたまま歩いている。  
千歳は防人の腕を掴んで、泣きそうな声で言った。  
「お願い、待って! ……分かったから……分かったから、帰っちゃ…だめぇ…」  
防人はその言葉を聞くと立ち止まり、千歳の方に向き直った。  
 千歳は防人の顔を見ずにグイグイと腕を引っ張りながら言った。  
「……こ、こっち来て…こっち…」  
そのまま駅入り口の陰に引っ張ってきて、自分が防人の大きな身体に隠れていることを、千歳は確認した。  
 
そして防人の右手をそっと両手で包むとスカートの中に導いた。  
千歳は下着を身につけていなかった。  
防人の指は、千歳の顔に似合わない濃い陰毛と湿った陰裂を感じていた。  
「……ね? 約束通りでしょ? ……だから…今は…これで許して…。……ね? ……ね?」  
 哀願する千歳の眼からは今にも涙がこぼれ落ちようとしている。  
 そうしている間にも、通りがかる人達はチラチラと二人の方に視線を向けている。  
やがて防人は空いている左手で千歳の頭を優しく撫でて言った。  
「よしよし、千歳はいい子だ。……じゃあ、そろそろ行こうか?」  
千歳は少し安堵したように、  
「……うん」  
と頷いた。  
 
 防人と千歳は駅前広場を出て、デパートやショップの立ち並ぶ大通りを歩いていた。  
千歳は歩きながら、先程覚えた安堵感は大きな間違いだったと痛感していた。  
駅前にいた時の数十倍の視線が、千歳にぶつけられているからだ。  
どうみても、見た目からうかがえる年齢や雰囲気と、セーラー服がアンバランスである。  
しかも、視線だけではなく道行く人達のヒソヒソ声が、嫌でも千歳の耳に入ってくる。  
 
(…うーわ、スカート短っ…)  
(…キモくない?…)  
(…てか、セーラーって…)  
(…見てよ、あのオバサン…)  
(…マジ、エロくね?…)  
(…写メ撮れ、写メ…)  
(…コスプレだべ?…)  
(…怖っ…)  
 
死にたくなるくらいの羞恥の中、心臓は爆発しそうで頭は燃え上がりそうなのに、千歳はなぜか下腹部に痺れるような妙な感覚が走っていた。  
一歩前を行く防人を見ると、千歳には眼もくれず平気な顔をして歩いている。  
知らず知らずの内に千歳は小声で呟いていた。  
「……防人君、……ねえ、防人君。……私を見て、防人君…」  
 誰にも見られたくないのに、見て欲しいという矛盾した欲求が頭の中を駆け巡る。  
しかし、防人には千歳の声は届いていない。  
千歳は熱に浮かされたようにフラフラと歩いていた。  
その時、前方からどこかで聞いたことのある少年の声が響いた。  
「あれ? ブラボーだ! おーい! ブラボー、何してんのー!!」  
 
それに気づいた防人が声のする方に目を向けると、左手を頭の上でブンブンと元気良く振っている武藤カズキと、防人に向かって会釈をする津村斗貴子の姿が確認できた。  
 デートの最中なのだろうか、二人は軽く手を繋いでいた。  
防人は笑顔で手を上げた。  
「おお、戦士・カズキに戦士・斗貴子じゃないか! こんなとこで偶然会うなんてブラボーだな!」  
その声を聞いたカズキは、子犬のような笑顔で斗貴子の手を握ったまま小走りに駆け寄ってきた。  
斗貴子は手を引っ張られながら、顔を赤くしてカズキに一生懸命小声で何事か囁いている。  
 しかし、カズキは聞こえているのかいないのか、どんどん防人達の元に駆け寄っていった。  
千歳はしばらく呆けたようにその光景を眺めていたが、やがて『二人が自分達の元に近づいてくる』ことを認識すると、途端にギョッと顔色を変えた。  
慌てて離れようとする千歳の手首を、防人は素早く掴んだ。  
「逃げちゃ、だめだ」  
「だ、だって、知ってる子達なのよ! それにもしこの事が戦団中に広まったら……私、恥ずかしくて死んじゃう!!」  
防人は無言でニッコリと笑うと、凄まじい力で強引に千歳を引き寄せた。  
千歳の必死の訴えは、虚しい結果しか生まなかったようだ。  
 防人のすぐ側に引き寄せられた千歳は、両腕で自分の身体を抱えてうつ向いてしまった。  
「……やだ…やだ……ど、どうしよう…」  
そうこうしている内にカズキと斗貴子は二人の目の前に来てしまった。  
 
 斗貴子は千歳の方を見ないように、真っ赤にした顔をそむけてモゴモゴと挨拶をした。  
「……こ、こんにちは…」  
 その様子を見ていた千歳は、下腹部を中心にジワジワと熱さが広がっていくのを感じていた。  
(……ああ…私、いやらしい女だと思われてる……頭が変な女だと思われてる…)  
 そう考えると、最前から湿っていた秘裂が急速に潤いを増していくのが自分でも分かった。  
どこまでも鈍いカズキは千歳の服装には気づかず、防人を見つめて楽しそうに話し掛けた。  
「ブラボーがこんなとこにいるなんて珍しいね。なんか買いに来たの?」  
 防人は顎に手を当てて答えた。  
「うむ、ブラボーな壁紙が無いかと思ってな…」  
「ええ〜!? 模様替えでもするの? ますます珍しいよ!」  
それを聞いた防人は顎に手を当てたまま、カズキに顔を近づけて重々しく言った。  
「どこかのな、誰かさんがな、談話室の壁に大穴を開けてくれたおかげでな、俺が応急処置をせにゃならんのだよ」  
「……え〜っと…あはははは、ごめんなさい…」  
カズキは頭を掻きながら、困り果ててしまっている。  
そんな仲の良い兄弟のようなほのぼのとしたやり取りだというのに、斗貴子はソワソワとカズキと防人に視線を行ったり来たりさせている。  
そして、防人に聞こえないように、  
「……なぁ、カズキ。もう行こう…」  
と小声で囁く。  
しかし声が小さすぎてカズキには届いていない。  
 
やがてカズキは千歳の方にも顔を向け、話し掛けた。  
「千歳さん、久しぶりだね。今日はブラ…ボー…と……デー……ト………」  
カズキの横では、斗貴子があ〜あ、とばかりに顔に手を当てている。  
ようやく千歳の格好に気づいたカズキの顔がみるみるうちに強張り、みるみるうちに赤くなっている。  
千歳はそんなカズキの動揺する様を見ているだけで、胸が高鳴り体温が1℃ほど上がったかのような錯覚を覚えてしまう。  
(……武藤君が私の身体を見てる…私のいやらしい格好を見てる……あぁ…)  
カズキのゴクッと喉を鳴らす音にさえ、ピクンと小さく身震いしてしまった。  
 ブラジャーを着けていない胸は、服に擦れて痛いくらい乳首が立ち上がっている。  
カズキはまるで石膏で固められたかのように、口を小さく開けた表情のまま固まっている。  
しかし、その瞳は千歳の痴態を焼き付けんとばかりに、淫美な身体のパーツを求めて細かく動いている。  
涙で潤った切長の瞳…  
上気した艶っぽい肌…  
細かく震えて熱い息を吐き出す唇…  
 短すぎるスカートから伸びた白くて引き締まった太股…  
乳首が浮き出るくらいに、小さめの制服に締めつけられた大人の肢体…  
カズキは凝視という表現では、到底足りないくらいの視線で千歳を射抜いている。  
しかし、そのカズキにも視線を送っている者がいる。  
 
斗貴子だった。  
だらしなく放心しているカズキの横顔を、歯を食いしばりながら激怒に燃えた眼光で睨みつけている。  
しかもさっきからずっと斗貴子の手を握ったままというのが、また癪に障るらしい。  
斗貴子はカズキの手を力いっぱい振りほどくと、大声で怒鳴りつけた。  
「カズキィ!!!!」  
カズキと、それから何故か千歳も、ビクッと飛び上がり我に帰った。  
カズキに向けられた斗貴子の激怒の眼光には、すでに殺意も込められている。  
千歳は先程までの羞恥も興奮も忘れ、ただオロオロと成り行きを見守っている。  
防人は少しも動じずに腕組みをして、ニコニコと成り行きを見守っている。  
カズキは何とか斗貴子の怒りを静めようと、必死にフォローの言葉を考えた。  
「……いや…えと……あの…斗貴子さん…」  
斗貴子は怒りを通り越して、眼には涙が滲んでいる。  
やがてカズキは何か思いついたように口を開いた。  
「……と、斗貴子さん…あ、あの制服……斗貴子さんとお揃△@〆¥め÷☆℃ときこさ$♂l£♯!!」  
カズキが皆まで言い終わらないうちに斗貴子の目潰しが飛んでいた。 しかも、今日はそれだけでは気が収まらないのか、斗貴子は前のめりになったカズキの後頭部、というより延髄に肘打ちを落とした。  
「お、急所」  
 防人がポツリと呟く。  
「!!$♂£…♯△@〆……¥÷☆℃………」  
カズキはうつぶせたまま動かなくなってしまった。  
フーッフーッと荒い息を吐いていた斗貴子は、動かないカズキと呆然としている千歳を交互に睨みつけた。  
「お前とお前は死ね!!」  
 あまりの怒りにそう吐き捨てるように言うと、不機嫌を露にした足取りで振り返りもせず歩き去っていった。  
やはり呆然とする千歳の横で、防人は苦笑いしながら頭を掻いていた。  
 
 
防人と千歳は全く動く気配を見せないカズキの元を離れ、目当てのデパートに向かい大通りを歩いていた。  
先程の一件以降、千歳の表情から羞恥と興奮はやや薄れ、わずかながらいつもの冷静な彼女に戻りつつあるように見える。  
 防人は内心、焦りはじめていた。  
(……まいったな。カズキの前に晒したまでは良かったんだが…。その後の騒動で少し眼が覚めてしまったようだな…)  
「武藤君、大丈夫かしら…」  
千歳は心配そうに呟いた。  
それを聞いた防人は、慌てて事も無げに言い放った。  
「まあ、問題無いだろう。そろそろ救急車も到着する頃だ。それにあいつの頑丈さは何度もこの眼で見ている」  
「そう。それならいいんだけど…」  
こうして喋っている間にも、千歳はどんどん落ち着きを取り戻しているようだ。  
そんな彼女の顔を横目で見つつ、防人は続けた。  
「あー…それにしても何だな、戦士・斗貴子には困ったものだな。いくら怒りで我を忘れたからとはいえ、先輩に対して『お前』呼ばわりだの『死ね』だの…。後でキツく注意しておくよ」  
 千歳は防人の方をチラリと見た。  
「別に気にしてないわ。こうなったのも私達の…特に防人君のせいだしね。だから、防人君が注意しても説得力が無いからやめた方がいいわよ」  
 それを聞いた防人は背中に冷たいものを感じた。  
(氷の女王、完成か…)  
今や千歳の顔は、完全に戦団内で見せる戦士の顔になってしまっている。  
こうなってしまったら、もう駅前広場の時のように主導権を取ったり、弱々しい表情を見ることは難しいだろう。  
(……考えてみればこいつは戦士だものな。自分の格好や周りの反応に対する耐性ができてきたってことか…。俺のシルバースキンと似たようなものだな…。ニュートンアップル女学院の潜入が適任だった訳が分かったよ…)  
 
そんなとりとめも無いことを考えている防人に、千歳が落ち着いた声で尋ねた。  
「防人君、まだ着かないの? どこに向かってるかも分からないし」  
防人は上の空の思案顔で答えた。  
「……ん〜? ああ、もうすぐだ…。伊○丹銀成店な」  
「そう」  
いぶかしげに千歳が見つめる横で、防人は思案を固めつつあった。  
(……ふ〜む、しょうがない。こういうやり方は千歳の気持ちを利用するようで気が進まんのだが…………………………まあ、今までも充分利用したか…。……よし!)  
防人はピタと歩みを止めた。  
「……? どうかしたの? 防人君」  
「……千歳、ちょっと来てくれ!」  
防人は突然千歳の手を引っ張り、足早に歩き始めた。  
「ちょ、ちょっと!? 何!? 防人君、どうしたの!?」  
 あまりに突然のことに千歳は面食らっている。  
 二人は大通りから少し脇に入った道にある立体駐車場の陰に入った。  
 二人が入り込んだ立体駐車場の陰は道からは死角になっており、身体を入れて覗き込まない限り見られることはないだろう。  
そこまで来ると、防人は千歳の方に向き直った。  
「もう、なんなの? こんなとこに連れてきて」  
千歳は非難を含んだ視線で防人を見つめた。  
しかしそれに構わず、防人は千歳の両肩にそっと手を置いて微笑んだ。  
「……千歳」  
 防人は微笑んだまま千歳の瞳を見つめ続けている。  
 突然の防人の優しい態度に、千歳はほのかに頬を染めて軽く動揺した。  
「……え…? な、何…?」  
「……愛してるよ」  
その言葉が耳を通して脳に達した瞬間、千歳の身体は電流を流したようにビクッと震え、顔は見る見るうちに赤くなり視線が泳ぎだした。  
「え…!? ……あ、あの…えっと……うぅ…そ、その……んと…」  
千歳はかわいそうになるくらい激しく動揺し、意味の無い言葉を繰り返している。  
 
 もはやその顔は戦士や女王では無く、恋する少女の顔だった。  
やがて千歳は両肩に置かれた手に自分の手を重ねると、恥ずかしげに防人を見つめ返した。  
「……あ、あの……わ、私も……防人君の…こと……ぁ…あ…愛…してる…」  
それだけ言うと、千歳はギュッと眼をつぶってうつ向いてしまった。  
(……か、可愛いじゃないか…千歳…)  
実年齢よりはるかに幼く可愛らしいその仕草に、防人の中にある千歳への想いが刺激されてしまった。  
頭の中が熱くなってしまった防人は思わず『今日一日、千歳をいぢめ倒して、振りくり回して、この際誰が御主人様か身体で教えてやろう計画』も忘れ、千歳の身体をギュッと抱き締めていた。  
 千歳は小さく声をあげた。  
「……んぅ……苦しいよ…防人君…」  
しかし、その声に非難は含まれておらず、むしろ喜びの色が見え隠れしていた。  
そのうち千歳はモゾモゾと身体を動かしていたかと思うと、防人に負けじと彼の背中に両腕を回し、強く抱き締め返してきた。  
「……さきもりくん…さきもりくん…」  
千歳は防人の名前を呟きながら、彼の胸にすりすりと頬擦りしている。  
「……ち、千歳」  
 
その様子を皮膚で感じていた防人は、腕の力を緩めいったん身体を離すと、右手を千歳の頬に当てた。  
身体を離されてやや不満そうな表情の千歳だったが、やがて防人の意図するところを察したのか、そっと眼を閉じて顎を上げた。  
防人は出来るだけゆっくりと千歳の唇に自分の唇を重ねた。  
「……んん…」  
唇を触れ合わせるだけの軽いキスだが、千歳は声を漏らして身体を震わせた。  
その反応に気分を高められてしまった防人は、千歳の唇を押し割って力強く舌を侵入させた。  
「……むぐぅ!?」  
 千歳は驚いて眼を見開いてしまった。  
しかし、防人はそんな反応を無視して、千歳の口内で舌を暴れさせた。  
「……んむぅ……ぅん……ぁむ……んん……んぁふ……」  
防人の舌が千歳の舌や歯をねぶる度に、彼女の口内からはくぐもった声と水音が響いてくる。  
そうしているうちに千歳の身体からは徐々に力が抜け、両膝はガクガクと細かく震え始めた。  
千歳も必死に防人にしがみつこうとするが、腕にも力が入らないらしく段々と身体が沈んでいく。  
「……ぅん…ん…んぅ……んぅー、んぅー……ぷはっ…。……さ、さきもりく……わた……ち、ちから…はいんな………むぐぅっ…!」  
一度、千歳の様子を見るため唇を離した防人だったが、すぐにまた唇を重ねてしまった。  
身体が倒れ込んでしまわないようにキツく抱き締めたままのそのキスは、千歳が動かない操り人形のようにフラフラになるまで続けられた。  
 
充分に千歳の口内を堪能した防人は、唇を離して彼女の顔を覗き込んだ。  
細められた瞳は涙にうるみ、小さく開けた口からは熱い吐息が漏れており、口の端からは短く涎が垂れている。  
 その顔は先程までの少女の顔でも、ましてや戦士の顔でもなく、防人の愛撫に近いキスで魂を抜かれた、大人のオンナの顔だった。  
防人はまたもや思案した。  
(……ん〜む、どうしたものかな…。まさかここまでフニャフニャになるとは思わなかったが…。…こんなに可愛い千歳は久しぶりだしな……)  
「な、なあ千歳…」  
 話し掛けられた千歳は、明らかに焦点の合ってない眼で防人の顔のある辺りを見る。  
「………にゃ……に……?」  
千歳はすでにマトモな言葉を喋ることができないところに行ってしまっている。  
「あ〜、考えたんだがこんなところじゃなんだしな、その…なんだ…どこか二人きりでゆっくりできるとこに落ち着かないか?」  
言われた言葉が聞こえているのかいないのか千歳はしばらくボーッと防人を見ていたが、やがて力無くコクッコクッと頷いた。  
(……よし、計画変更だ。今からは『今日一日、こんなに可愛い千歳をベッドの中でいぢめ倒して、振りくり(中略)計画』を実行に移そう。……我ながらブラボーな計画だ!)  
 防人は心の中で、グッと力強く親指を立てた。  
 
 防人は心の中で、グッと力強く親指を立てた。  
(……とはいえ、この状態から回復するには少し時間がかかりそうだな。さすがに核鉄でもこういうのは回復させることはできんだろうし…。しょうがない、千歳の魂が帰ってくるまでしばらくこうしているか…)  
防人は地面に腰を降ろし、まるで赤ん坊を抱くような姿勢で千歳を抱きかかえた。  
(……お〜い、早く帰ってこ〜い、千歳〜)  
 
 
 それから20分程、千歳はフワフワとした眼を宙に漂わせていたが、ふと防人の方を見つめた。  
「おっ、帰ってきたか?」  
「……う、うん」  
 曖昧な返事をして、身を起こす千歳。  
 だが、上体がフラフラと揺れており、何とも心もとない。  
 そのうち、グラリと大きく身体が傾いでポテ、と防人の腕の中に倒れた。  
「あ、寝た」  
 千歳はうるんだ眼で防人を見つめて言った。  
「おきれない」  
 ずいぶん声が舌ったらずだ。  
「起きれないって、お前なぁ…」  
「ん〜、おきれなぁ〜い」  
 千歳はピッタリと身を寄せ、グイグイと防人の服を引っ張りながら、子供の様にグズっている。  
「……まったく、帰ってくる時に、年を二十程置き忘れてきたみたいだな。……さて、どうしたものか」  
 グズる千歳を見ながらしばらく考え込んでいた防人だったが、やがて携帯電話を取り出してどこかと通話を始めた。  
「あまり公私混同はしたくないんだがなぁ……………………もしもし、防人戦士長だが…そうだ。悪いが、車を一台回してほしいんだが…。いや、俺が運転する。……すまん、頼んだぞ」  
 防人は電話を切ると、少し眉をしかめて千歳に言った。  
「これでいいか?」  
 千歳は防人の不機嫌な顔は気にせず、ニコニコしている。  
「えへへ、ありがと」  
 その顔を見た防人は思わず苦笑してしまった。  
「……ふふ。今回だけだからな、甘えんぼ千歳」  
「はぁい」  
 
 二人はいい度胸な事に戦団の公用車で手近なラブホテルに向かった。  
 途中、防人は伊○丹に寄り、大きめの紙袋二つを持って車に戻ってきた。  
「さっきカズキに言ってた壁紙だよ。一応、管理人だからな」  
 頭を掻きながら防人は千歳に言った。  
 やがてホテルに到着し、二人は車を降りた。  
「大丈夫か? 歩けるか?」  
 千歳はまだ少しフラついている。  
「……ん、なんとか…」  
 とは言うものの足取りは非常におぼつかない。  
 千歳は防人の身体にしがみつき、防人は千歳の肩を抱き、二人はゆっくりゆっくりと歩いた。  
 そして時間はかかったもののなんとか部屋を選び、二人はエレベーターに乗り込んだ。  
 だがエレベーターが上昇していく中、防人にふとイタズラ心が芽生えた。  
「おい、千歳」  
「なぁに? ……ひゃあっ!?」  
 防人は千歳をヒョイッ、とお姫さまだっこした。  
 それと同時にエレベーターの扉が開く。  
「ちょちょちょ、ちょっと防人君っ! み、見られちゃうよっ!」  
 それは抱えられている姿の事を言ってるのか、下着をはいていないスカートの中の事を言ってるのか。  
 防人はとぼけて言う。  
「あれ? 千歳は見られるのが好きなんじゃなかったのか?」  
「うぅ〜〜〜、意地悪ぅ…」  
 千歳はギュッと腕を防人の首に回し、顔を胸に埋めてしまった。  
「ははは、まあ歩けないんだからちょうどいいだろ?」  
 防人は上機嫌で、千歳を抱えたまま廊下を歩いた。  
 
 その時、目の前の部屋のドアが突然開き、防人の肩をかすめた。  
「おっと、気をつけてくれ………なぁっ!?」  
「ああ、すまねえ………げぇっ!?」  
 開いたドアの中から出てきたのは、防人の同僚、火渡だった。  
 防人は素早く胸の中の千歳に小声で囁いた。  
「千歳、絶対に顔を上げるなよ」  
 千歳は言われるでもなく、声を聞いて状況を把握したのか、防人の胸に固く顔を埋めままでいる。  
 火渡は防人とセーラー服を着た千歳を睨みつけて凄んだ。  
「これはこれは……。防人戦士長様ともあろうお方が、真っ昼間から女子高生と援交かよ。いい御身分だな、あぁ?」  
(……ぷっ、女子高生だって。良かったな、千歳…)  
 だが、そんな火渡に部屋からヒョッコリ出てきた、ガスマスクを着けた小柄な人物が声を掛けた。  
「火渡様ぁ、どうかされました?」  
 火渡は無言で、素早くその人物を部屋の中に蹴り飛ばした。  
「きゃん!」  
 そして、勢いよくドアを閉めた。  
「お、おい、火渡…。今の毒島…」  
「あぁ!!!? なんだぁぁ!!!!?」  
 もはや、火渡は声の大きさだけで、すべて押しきろうとしている。  
 そのうち、顔を伏せている千歳が細かく震えだした。  
 それを見た防人が火渡に言った。  
「火渡、今日はこの辺にしておこう。お互い一人じゃないしな。ましてやこちらは一般市民だ」  
 火渡はしばらく防人を睨みつけていたが、やがて言った。  
「……けっ、援交オヤジが…。防人、てめえ俺と戦争したくなかったら、この事は誰にも言うんじゃねえぞ」  
 防人は、火渡に背中を向けて自分の部屋へ歩き出した。  
「まあ、お互い様だからな…」  
 防人が部屋に入る頃、火渡の怒鳴り声が廊下に響き渡った。  
「オラァ!! 毒島!! さっさと帰んぞ、クソッタレがぁ!!!!」  
 
 部屋に入りドアが閉まると、今まで身を震わせていた千歳が、顔を上げて笑いだした。  
「……ぷぷっ、あははは、あはははは!」  
「なんだ。怖がってたかと思ったら、笑ってたのか」  
「あははは! だ、だって、火渡君ったら! あははははは!」  
 よほど慌てる火渡がツボに入ったのか、千歳は防人に抱えられてまま、なかなか笑い止まなかった。  
「ふふっ。まあ、そう笑うな。アイツも毒島には真剣なんだろうからな」  
 千歳は手で涙をぬぐっている。  
「フフフッ、そうね。でも、いいの? 防人君、援交オジサンにされちゃったわよ?」  
「構わんよ。まあ、弱味を握られたのはアイツも俺もお互い様だしな。それに…」  
 防人は千歳に顔を近づけて言った。  
「……千歳だったら、俺は全財産投げ出したっていい…」  
 千歳は少し頬を赤らめた。  
「……もう。……わ、私も……防人君だったら…お金なんていらないわ…」  
 二人はゆっくり口づけを交した。  
 千歳は先程魂を奪われたのを思い出したせいか、おっかなびっくり舌を絡めてくる。  
「……んぅ…ふぅん…あふ…」  
 防人は千歳を優しくベッドに下ろし、首筋に舌を這わせた。  
「……あっ…んっ……ああ………ね、ちょっと…待って…」  
 千歳は身を捻って、やんわり拒絶する。  
「ん、どうした?」  
「……シャワー、浴びさせて…。私、汗臭いでしょ…?」  
 確かにここに来るまでに色々な汗をかいたせいか、千歳の首筋は塩辛かった。  
 だが防人はフッ、と笑って、再び首筋に舌を這わせた。  
「いいんだ。俺は千歳の匂いが好きなんだよ」  
「……あっ…だめ…だめだったら………ひゃう!?」  
 なおも抵抗する千歳を黙らせる為に、防人は彼女の胸を服越しに強く掴んだ。  
 そして力を緩めずにそのまま胸を強く揉みしだく。  
「ああ!あぐぅ!…ふぅ!…あぁ、そんな……はぁ!」  
 
「……痛いか?」  
 千歳はフルフルと頭を振る。  
「…んぅ!…い、痛くないけど……あう!…あぁ…強すぎ…る…」  
 やがて防人は胸から手を離し、千歳のセーラー服を手荒く脱がせ始めた。  
 セーラー服の下は何一つ身につけていない千歳は、すぐにその裸体を防人に晒す事になった。  
「……あっ、やあぁぁ!だめぇ!」  
 あれよあれよいう間に一糸纏わぬ姿となった千歳は、両手で胸と下腹部を隠して丸くなってしまった。  
「ねえ、暗くして…。恥ずかしいの…」  
 横向きに丸くなった千歳は、顔だけを防人に向けて涙目で哀願した。  
 千歳のその姿に、今まで治まっていた防人の嗜虐心が燃え上がった。  
「このままでいい」  
 防人は冷たく言い放つ。  
「うぅ〜〜〜…」  
 しばらく力無く防人を睨んでいた千歳は、突然素早く身を翻してベッド上部にあるスイッチに手を伸ばした。  
 それは戦士らしい俊敏な動きだったが、防人はそれ以上の反応で千歳の首根っこを押さえ付けた。  
「やう!」  
 うつ伏せでベッドに張り付けられた千歳は、まるで生きたままピンを刺された蝶の様に手足をジタバタさせた。  
「いや!いやぁ!乱暴な防人君なんて嫌いよぉ!」  
 防人は千歳の言葉を無視して、いとも簡単にその身体を仰向けに引っくり返した。  
「きゃあ!」  
 両手を頭の上で押さえ付けられている為、あれ程までに見られるのを拒んでいた裸体が防人の眼に晒されてしまう。  
 千歳はポロポロと涙をこぼして、防人を非難した。  
「……何でいつもこんな意地悪するの…? たまには優しくして欲しいのに…」  
   
 防人はそんな千歳に優しく口づけてから、耳元で囁いた。  
「千歳の方こそ、いつになったら気づいてくれるんだ? お前は本当はこうされる方が好きだって…」  
 千歳は困惑した様に顔をそむけた。  
「……そんな、私は…」  
「いやだ、と言いながらいつも本気で抵抗してない…」  
「ち、違う…」  
「結局、いつも俺の言うがままになってる…」  
「それは……防人君が…強引だから…」  
「じゃあ、いつもおもらしの様に濡らしてるここはなんなんだ…?」  
 防人はそう言うと、片手を千歳の手首から秘裂に伸ばし、いきなり中指を挿入した。  
「んあああぁぁっ!!」  
 突然、敏感な場所に指をねじ込まれ、千歳の身体はビクンと激しく反応した。  
「どうだ? 今まで触れてもいなかったのに、簡単に指が入るくらい濡れてしまってるんだぞ」  
「……あ…あぁ…あ…」  
「それに、もう手は離してる。抵抗したいのならしてもいいんだぞ?」  
「……うぅ…あ…あぁ……い、意地悪…」  
 千歳は自由になった両手を抵抗に使わず、防人の首に回した。  
「……さあ、千歳はどうして欲しいのか、ちゃんとおねだりするんだ…」  
 千歳ははぁはぁと息を荒げながら、防人の耳元で呟いた。  
「……うぅ…も、もっと……もっと、して…」  
「ちゃんとだ」  
 千歳は顔面を紅潮させ、消え入りそうな声で言った。  
「……あうぅ…ア、アソコをもっと…かき回して………あと…胸も、胸にもキスして…」  
 防人は満足気に笑った。  
「ふふ、千歳は欲張りだな…」  
「……だ、だって…」  
 
 防人は一度、秘裂から中指を引き抜くと、今度は人差し指と中指を一気に突っ込んだ。  
「ああああぁぁぁぁ!!」  
 千歳は目を見開き、身体を硬直させ、一際大きな嬌声を響かせた。  
 そして声を絞り尽した後も硬直は解けず、酸欠状態の金魚の様に口をパクパクさせている。  
「おや、もうイッてしまったか」  
 防人は事も無げに呟いた。  
 ようやく硬直から解けた千歳は、荒い息遣いで放心している。  
「まだむこうの世界に行くのは早いぞ、千歳」  
 防人はそう言うと、空いている手で千歳の胸を強く揉みしだき、秘裂に挿入されている二本の指を暴れさせ始めた。  
「……ひぅ!ああ!あっ!あぅ!ま、まって!あぁ!まだ、まだ、あぐぅ!敏感…ああぁ!」  
 達したばかりのところをさらに強くかき回され、千歳の身体は感電してるかの様に硬直と弛緩を繰り返している。  
 それに加え、膣内を強く責めながら防人は千歳の胸にかぶりついた。  
「ああ!……む、胸、あぅ!気持ちい、あぁ!はぁ!もっと、もっとぉ!ふあぁ!あぁん!」  
 我が身に降りかかる快楽に気が狂わんばかりになりながらも、千歳は貪欲に別の快楽を悦び、求め続けた。  
 防人はそれに応じるがごとく、膣の上壁を擦りあげ、乳首に歯を立てる。  
「ひぎぁ!」  
 千歳は身体を強くのけ反らせ、まるで獣の様に叫んだ。  
「ああぁ!うぁあ!いやぁ!だめ、だめ、だめぇ!またイキそう!あぁ!イ、イク、イク!いやあぁ!」  
 しかし、防人は千歳のその反応を見ると、突然胸から口を離し、秘裂から指を抜き取ってしまった。  
 
 その行動に千歳は怒った様に反応し、防人の手首と髪の毛を強く掴み、振り回そうとした。  
「うあぁぁん!だめぇ!やめちゃだめぇ!イカせて!!ちゃんとイカせてぇ!!」  
 女性とはいえ、千歳は錬金の戦士として身体を鍛えあげている。  
 頭と手首にかなりの痛みが走ったが、それでも防人は千歳の顔に自分の顔を近づけて、穏やかに諭した。  
「……俺ももう限界なんだよ。千歳の中に入りたいんだ。それとも、千歳は自分だけがイケればいいと言う我儘な子なのか?」  
 千歳はハッと気づいた様に手を離した。  
「……あ…ご、ごめんなさい…」  
 伏し目がちになり、シュンと落ち込む千歳に、防人はニッコリと微笑んで言った。  
「……千歳、いいか?」  
 千歳もまた微笑み、防人の首に両腕を回して言った。  
「……うん。来て、防人君…」  
 防人はありったけの愛情を込めて、千歳に口づけをした。  
 そして千歳の秘裂に肉棒を当てがうと、一気に奥まで刺し貫いた。  
「!!!!!!」  
 千歳は呼吸も止まってしまう程に全身を反り返らせ、激しく痙攣した。  
「……かっ……はっ……ひっ……っ……」  
 ようやく出た声も、風船から少しずつ空気が抜ける様な音に近かった。  
(……ん?)  
 その時、防人は自分の下腹部に、生暖かい物が広がっていく感覚を覚えた。  
 千歳は待ち望んだ二度目の絶頂に達したショックで、比喩ではなく、本当に漏らしてしまっていた。  
 しかし、当の本人は絶頂感に身を任せていて、そんな事には気がついていない。  
「……悪い子だ」  
 防人は苦笑いすると、そのまま律動を開始した。  
 
「……あぁ…はぁ…んぅ…さ、さきもりく…うぅ…」  
 ギシギシとダブルベッドが軋むくらいの強さで腰を打ちつけても、千歳はさっきまでの様な激しい反応は見せない。  
 どうやらあまりの絶頂感に、遠いところに行ったまま、そこで快楽に身を任せている様だった。  
「……ふぁ…あぅ…んぅ…うぅ…さきもりくん…さきもりく…」  
 しかし、防人の名前を呼んだり、虚ろながらも眼を合わせているのを見ると、意識は何とか繋がっている様だった。  
(……すまん、千歳。今日だけは、俺の好きな様に動かさせてもらうぞ…)  
 そう心の中で詫びると、防人は律動をさらに強く、速くした。  
 あまりの勢いに、脱力している千歳の頭はガクガクと激しく上下に揺れる。  
 ベッドが壊れてしまいそうな軋みと、水溜まりを歩く様な水音の中、防人の荒い吐息と千歳の静かなあえぎが響いていた。  
 やがて、防人は高まってくる感覚に耐えきれなくなってきた。  
 防人は千歳の全身を固く抱き締めて、絞り出す様に言った。  
「……千歳…もう……イクぞ…」  
 それを聞いた千歳も遠い意識の中、防人の身体にノロノロと両腕、両脚を絡ませた。  
 しかし、その一方で矛盾した事も呟いている。  
「……あ…だめ…さきもりく……なかは…だ…め…」  
 しかし、あまりの高ぶりに千歳の言葉は聞こえていない。  
「……ちとせ…ちとせ…………うぅ!!!!」  
 防人は千歳の一番奥深い所に突き立て、そこで爆発させた。  
 
 二人はいつの間にか眠ってしまった。  
 やがてどちらからともなく眼を覚まし、抱き締め合ったままポツリポツリと言葉を交していた。  
「……ねえ、何で私達こんな端にいるの? もっと真ん中で寝ましょうよ」  
「い、いや、汗やら何やらで濡れてるから、行かない方がいい。それにこうしていれば狭くないだろ?」  
 防人は千歳をギュッと抱き締めた。  
 彼は情事が終わった後まで、余計な事を言って千歳をいじめるつもりはなかった。  
「フフッ、そうね。……ちょっと苦しいけど」  
「あ、ああ、すまない…」  
「いいのよ。……ねえ、防人君?」  
「ん? 何だ?」  
「……私、やっぱり火渡君に謝らなきゃ…」  
「どうしたんだ? 藪から棒に」  
「だって……火渡君も毒島さんも、さっきまでこんな幸せな気持ちを味わってたのよね? だから火渡君の慌てる姿を見て笑ったのが、何だか申し訳無くて…。防人君に絡んだのも、照れ臭くて強がってただけなのかも…」  
「じゃあ、本部に行ったら二人でアイツに謝ろうか…?」  
「そうする?」  
「ふふっ…」  
「フフフ…」  
 それから千歳は防人の胸に顔をつけると、また話し掛けた。  
「……あのね……防人君にも謝らなきゃいけないことがあるの…」  
「何だい…?」  
「……着けてって言わなかった私も悪いし、防人君とならって思って、その……あの……」  
 防人には、それに続く言葉が何と無く想像できた。  
「……今日………危ない日……」  
 
 想像がついてたとはいえ、面と向かって言われるとなかなかうまい言葉が出て来なかった。  
 千歳はしばらく防人を見つめると、サッと眼をそらした。  
「……シャワー浴びてくる…」  
 千歳は素早く防人の腕から抜け出ると、フラつきながらシャワールームに向かった。  
 防人はその裸の背中を見ていたが、バスルームのドアが閉まると起き上がり、ベッドの端に腰掛けた。  
 しばらく両手で顔を覆い、考え込んでいたが、やがてロッカーから紙袋と上着のポケットから小さな箱を取り出した。  
 そしてバスルームに入り、籠の中に紙袋を置いた。  
 それと、千歳と会う時はいつもポケットに入れていた、小さな箱も。  
 
 
 しばらくしてバスルームから出てきた千歳は、戸惑った様にベッドにいる防人に話し掛けた。  
「……ねえ、この服どうしたの…?」  
 千歳が着ていたのはセーラー服ではなく、タイトで短目なタンクトップと七分丈のデニムパンツだった。  
「……ああ、壁紙買った時に一緒に買ったんだ。帰りまでセーラー服でもなかろうと思ってな。さすがに下着までは買えなかったから勘弁してくれ」  
「それは別にいいんだけどね…」  
 千歳はしばらくモジモジしてから、左手をかざして聞いた。  
「じゃ、じゃあこの指輪は…? なんか、薬指にピッタリなんだけど……」  
 千歳の左手の薬指にはシルバーのリングがはめられていた。  
「……いや、それは…つまり……そのままの意味だ…………………お、俺も風呂に入ってくる」  
 顔を真っ赤にしながら、足音を荒くしてバスルームに向かう防人を、千歳は呼び止めた。  
 
「……衛君!」  
 防人は思わず振り向いた。  
 千歳に名前で呼ばれたのは初めてだった。  
「な、何だ…?」  
 千歳は涙を浮かべた笑顔で言った。  
「……愛してる」  
「……ああ、俺もな」  
 防人はそれだけ言うと、急いでバスルームに入った。  
 それを見送った千歳はベッドの端に座ると、自分の左手を抱き締め、胸に押し当てていた。  
 そして泣きながら笑うなんて、自分は今どんな顔をしているのだろうと、ふと考えたりもした。  
 
 
 
THE END  
 

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